1.炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル


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1—1.陸域炭素循環モデル

担当機関:地球環境フロンティア研究センター

研究者名:伊藤 昭彦 (生態系変動予測研究プログラム)
加藤 知道 (生態系変動予測研究プログラム)
田中 克典 (水循環変動予測研究プログラム)
及川 武久 (生態系変動予測研究プログラム・筑波大学 生物科学系)

a. 要約

人為的温室効果ガス排出による地球環境変動予測モデルを構築する上で、陸域生態系による炭素循環をシミュレートするモデルを構築し、当課題で構築する地球システム統合モデルに組み込み、温暖化予測を行うことが当サブグループの目標である。平成17年度は、(1) 陸域炭素循環-気候結合モデル(Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCM)による20世紀中の炭素循環の再現、(2) 観測データによる陸域炭素循環モデル(Sim-CYCLE)の高度化の2点について作業を行った。
その結果、(1)開発した結合モデルは、20世紀の炭素循環をうまく表現することができ、モデルの利用可能性は高いと考えられた。(2) MODIS衛星観測データを利用した、パラメータ値の最適化によって、将来予測性のあるデータ同化の手法開発を行い、陸域モデルの推定精度向上に寄与する可能性があることが示された。

b. 研究目的

現在の地球の炭素収支においては、人為的(化石燃料消費・土地利用変化等)に排出された二酸化炭素(1980年代で約7PgC/年)のうち、約半分が大気中に残留し、残り半分が海洋・陸域に吸収されている。陸域生態系は、グローバルな観点からも地球の炭素収支に重要な役割を果たしている。しかし、現在の炭素循環研究において、陸域生態系の炭素収支は未解決の問題が多く、さらに、温室効果ガス排出による将来の地球環境変動予測においても予測の不確定性を大きくする要因の一つと考えられている。地球システム統合モデルを用いたいくつかの研究を比較すると、将来の二酸化炭素濃度や気候変動予測は、モデル間によって大きく異なり(例えばFriedlingstein et al. 2003)、陸域生態系の地球環境変動に対する炭素収支の応答の違いが一つの大きな要因と考えられている。

本サブグループの目的は、(1)陸域生態系炭素循環をより高精度で推定するモデルを構築し、(2)当課題において構築される地球システム統合モデルに組み込むことである。

大気と陸域植生間の炭素収支としては、植物による光合成と植物と土壌生物による呼吸が主であるが、長期の生態系を再現するために、生態系内部における複雑多様な過程を考慮する必要がある。それらの生理生態学性質に関して解明されていることは少なく、一般的モデルの導出は困難であることから、経験的な部分を残しつつも誤差の少ないパラメタリゼーションを目指す必要がある。そのために、共生第3 (陸域生態系)などの観測プロジェクトと連携を深めつつモデル化を進める。 地球システム統合モデルへの組み込みに当たっては、現在の大気―海洋結合大循環モデル(AOGCM)に対して、陸域炭素循環モデルを結合させることにより、気候と炭素循環の相互作用を考慮した、より信頼性の高いシミュレーションが可能となる。例えば、温暖化によって寒冷地での植生生長期間が伸び、植生がCO2をより多く吸収し、CO2濃度上昇を緩和する方向に働くこともあれば、温暖化によって、土壌有機物分解速度が加速し、CO2濃度上昇を促進させることもある。こういった気候と炭素循環のリンクを考慮したシミュレーションが可能となる。

c. 研究計画・方法・スケジュール

・平成14〜16年度:陸域モデルの単体評価

地球システム統合モデルの構築に際しては、個々のコンポーネントが十分に検証されている必要がある。モデルの検証については、(1)共生第3 (陸域)の地上観測グループや、環境省総合研究推進費S1のフラックスグループなどによる大気―陸域間の水・熱・二酸化炭素交換の継続観測データを用いた小面積ベースの検証、(2)共生第3 (陸域)の衛星観測グループなどによる広域的な植生活動の衛星観測データ(LAI, 光合成有効放射の吸収率, 植生の光合成生産量)とモデル推定値の比較、などを行う。

上記のモデルの検証と並行して、モデルのオフライン評価を行う。過去〜現在のグローバルスケールでの炭素収支を再現し、将来の二酸化炭素濃度・気候変動シナリオ条件下での陸域炭素循環の変動をシミュレートする。種々の温室効果ガス排出シナリオ条件下で再現された気候シナリオを用いて、現在の統合モデル研究における将来予測の不確定性の要因について、オフラインシミュレーションによる解明を進める。

・平成14〜16年度:陸域統合モデルの構築と大気大循環モデルへの結合

陸域統合モデルの構築に当たって、当グループでは、炭素循環を再現するSim-CYCLEモデル(Ito and Oikawa, 2002)と、熱・水循環を再現するMATSIROモデル(Takata et al., 2003)の双モデルを結合することで、最も効率よく達成される。大気―陸域の相互作用について、Sim-CYCLEによるLAIに基づいてMATSIROが熱・水交換と光合成速度を計算する。そのMATSIROによる光合成量に基づいて、Sim-CYCLEが植生の各部への分配、呼吸や枯死による消費、土壌中での分解といった生態系内部の諸過程を計算する。つまりMATSIROは大気から陸域へのCO2吸収、Sim-CYCLEは陸域からのCO2放出を推定することで合計として正味の交換量を得るという相補的な関係にある。

・平成15年〜17年度:統合モデル相互比較プロジェクト参加のためのモデル拡張

国際的には、当プロジェクト以外にも統合モデルへの試みはいくつか存在する。その背景から、より総合的な評価を行うために、地球システム統合モデルの国際比較プロジェクト(Coupled Climate Carbon Cycle Model Intercomparison Project: C4MIP; 気候―炭素循環結合モデル相互比較プロジェクト)が平成15年度に提示された。現在、各研究機関が比較のためのモデルシミュレーションを行っている。当課題でも、このプロジェクトに参加することが国際的な競争を行う上での必須条件と考え、取り組みを進める。第一段階として、20世紀のCO2濃度や土地利用変化データをモデルの入力として与え、陸域炭素循環モデルと大気大循環モデルの相互作用の評価を行うこととなっており、実験の手順書(プロトコル)も提示されている。この対応を行う。

・平成16〜18年度

次の段階として、陸域生態系の構造的変化を考慮するための拡張が行われる。当課題の陸域動態サブグループが開発する動的植生分布モデルとリンクすることで、生態系を構成する植物タイプ(常緑広葉樹、低木、草地など)の組成変化を考慮した、より現実に近い予測実験を行う。MATSIROとSim-CYCLE、植生動態モデルをリンクした陸域に関する統合的なモデルに収束させる。最終的に、水熱収支―炭素収支―植生構造の変化が気候システムに与える影響を導入した統合モデルによる予測実験が実施される。

d. 平成17年度研究計画

本年度は、(1) Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCMの結合モデルによる20世紀中の炭素循環の再現、(2) 観測データによるSim-CYCLEの高度化の2点を行う。詳細は以下の通り。

(1) Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCMの結合モデルによる20世紀中の炭素循環の再現

昨年度までに、気候―陸域炭素循環結合モデルのコードの整備やパラメータチューニングがほぼ完了した。しかしながら、このモデルを用いて将来予測をするためには、十分な精度の検証が必要である。そこで、今年度は20世紀中の炭素循環を再現し、モデルの妥当性を検証すると共に、20世紀の炭素動態の詳細把握を試みた。

(2) 観測データによるSim-CYCLEの高度化:共生3-陸域課題との協力

陸域生態系炭素循環モデルによるシミュレーションには大きな不確実性が残されていることが、モデルの相互比較実験や観測データとの比較検証から示唆されている。共生第3-陸域課題では衛星観測、野外観測、実験を通じて陸域生態系に関するデータ収集を行っており、そのデータを用いた陸域生態系モデル(例えば共生第2課題の地球システム統合モデルで使用されている炭素循環モデルSim-CYCLE)の高度化が今後の重要な課題となっている。そこで本年度は、共生第3-陸域課題と連携を取りつつ、陸域生態系モデルに含まれる生理生態パラメータの高度化について、特に衛星データを利用した手法について検討を行う。

e. 平成17年度研究成果

研究計画に則り、(1) Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCMの結合モデルによる20世紀中の炭素循環の再現、(2) 観測データによるSim-CYCLEの高度化の2点を行った。詳細を以下に示す。

e.1.Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCMの結合モデルによる20世紀中の炭素循環の再現
1. はじめに

昨年度に完成した気候−陸域炭素循環結合モデル(Sim-CYCLE-MATSIRO-AGCM)を用いて、20世紀中の全球炭素動態と土地利用変化による炭素放出量との関係を調べた。

Forcingデータとして、英国Hadley Centreで作成された海表面温度SSTと大気放射過程にCO2濃度の年々変化を与えた。また、我々のモデルでは、土地利用変化による炭素動態変化プロセス(Houghton et al., 1983)を導入しており、その入力値として、ウィスコンシン大学SAGEグループによって作成された、土地利用変化のデータを与えた。このデータは、0.5oの空間分解能で作成されていたが、モデルの分解能に合うように内挿し利用した。

陸域炭素プールについて、安定した初期値を作成するために、次のような手順でスピンナップランを行った。@各グリッドの炭素プールに、ごく小さな値(0.001 Mg C/ha)を代入し、Sim-CYCLE単体にて、1000年間実行する。入力する気候データとしては、結合モデルによってあらかじめ作成された1875-1899年までのシミュレーション結果を、40回繰り返し利用した。A作成された炭素プールデータを初期値として、結合モデルを1875年から1899年までの25年間について、3回繰り返し計算させた。これによって、1900年1月1日の、結合状態において安定した炭素プールの初期値が作成された。

2.陸域炭素動態の変化

全球積算した純一次生産量(NPP)と従属栄養生物呼吸(HR)は、100年間に徐々に増加し、1990年代の平均値は1900年代のものよりNPPで6.7% 、HRで4.7%増加していた (図1.上図) 。一方で、それらの差し引きである生態系純生産(NEP: NPP-HR)は、±2.0 Pg C yr-1の幅で変動しており、20世紀前半では平均的に見て中立的であったが、20世紀後半はおおよそ正の値を示しており、陸域生態系が大気CO2のシンクであったことを示している(図1.下図黒線)。しかしながら、土地利用変化による炭素の放出量(LUCefflux)を考慮した場合、しばしば陸域の正味炭素吸収量が負になることがわかった(NEP-LUCefflux; 図1.下図赤線)。このLUCeffluxは、東南アジアや南米で特に大きく、100年間の全球の総計は、44.4 Pg Cにものぼり、全球の炭素循環に及ぼす影響はとても大きいということがわかった。

図1: 陸域生態系における全球炭素動態
図1: 陸域生態系における全球炭素動態

次に、NPPとHRの増加の原因を調べるために、SSTのみを1900年で固定したコントロール実験(SST-ctrl)とCO2濃度のみを1900年で固定したコントロール実験(CO2-ctrl)を行った(図2)。その結果、NPPについて、SST-ctrlの値は基準値(Normal)と近い動きを示したが、CO2-ctrlはNormalよりも大幅に下回った。このことから、20世紀中のNPPの増加は、温暖化よりもむしろCO2濃度増加による光合成速度の上昇によってもたらされた可能性が示唆された。

一方で、HRはCO2-ctrlがNPPと同様にほとんど変化しなかったのに対して、SST-ctrlでは値が増加したが、その度合はNormalとCO2-ctrlの中間的なものであった。このことから、20世紀中のHRの増加は、温暖化による微生物活動の活発化と、CO2濃度増加によるNPP上昇に伴ったリターや土壌バイオマス等の呼吸基質の増加という二つのプロセスが原因であることが示唆された。

図2: 陸域生態系における(a)NPPと(b)HRの推移
図2: 陸域生態系における(a)NPPと(b)HRの推移
(Normal: 図1上図と同等, SST-ctrl: SSTのみを1900年で固定したコントロールラン, CO2-ctrl: CO2濃度のみを1900年で固定したコントロールラン)

3.全球炭素収支 1959年より大気輸送モデルを利用し、大気CO2濃度の変化を調べた(図3)。その結果、推定された全球平均の大気CO2濃度は、マウナロアと南極の地上ステーションで観測された大気CO2濃度の重み付け平均値と同様の年々変化・季節変化を示した。また、1980年代の陸域の平均炭素吸収量は、NEPが+0.62 Pg C yr-1、LUCeffluxが-0.51 Pg C yr-1と、同様の土地利用変化プロセスを取り 入れた非結合型の陸域モデルによる推測値(それぞれ+2.3 〜 +1.1、0.6 〜 1.0 Pg C yr-1; McGuire et al., 2001)とは比較的近い値をとったが、インベントリーデータからの計算値(それぞれ+2.40, -2.00 Pg C yr-1; Houghton, 2003)と比べて絶対値が大幅に小さくなった(表1)。しかしながら、結果として全球の大気CO2濃度は、観測値と非常に良く合致しており、開発した結合モデルは20世紀の炭素循環をうまく表現することができたと考えられる。
図3: 大気CO<sub>2</sub>濃度の変化
図3: 大気CO2濃度の変化。観測値(Observation)は、南極とマウナロアの観測値を0.25と0.75を掛けて足したものを採用している。

表1: 1980年代における平均全球炭素収支(単位: Pg C yr-1)。
 本研究McGuire et al. (2001)Houghton (2003)
化石燃料による放出* 5.4  5.4 ± 0.3
海洋による吸収* † -2.2 -1.7 ± 0.6
陸域による吸収 †
※分割された値(下二行)
-0.1-1.5 〜 -0.3-0.4 ± 0.7
土地利用変化に伴う放出
(LUCefflux)
0.50.6 〜 1.0 2.0 ± 0.8
陸域生態系による吸収 †
(-NEP)
-0.6-2.3 〜 -1.1-2.4 ± 1.1
大気CO2濃度の増加分3.3 3.3 ± 0.1
* 本研究ではあらかじめ用意したデータを利用。 † 負の値は”吸収”を示す。


e.2.観測データによるSim-CYCLEの高度化:共生3-陸域課題との協力
1. 共生第3-陸域課題との情報交換:観測研究の概要

共生第3課題「陸域生態系モデル作成のためのパラメタリゼーションに関する研究」は、総括機関である東京大学生産技術研究所(代表:安岡善文)および、北海道大学と森林総合研究所が主要な参画機関となっている。当プロジェクトの主目的は、陸域生態系の炭素循環に関する各種観測データを取得し、それを用いてモデルSim-CYCLE(Ito and Oikawa, 2002)に含まれるパラメタリゼーションの高精度化を図ることである。このような課題の設立が必要となった背景には、現在の陸域生態系モデルによる推定・予測には大きな不確実性が残されており、地球システム統合モデルを用いた将来の温暖化予測の信頼性を高めるには、その不確実性を低減することが不可欠という事情がある。2005年6月30日に共生第3-陸域課題の運営委員会に参加し、当課題で行われている主要4テーマの概要と状況を把握した。

  • 衛星リモートセンシングによる広域スケールでの陸域植生モニタリング
    東大生産研および森林総研により、MODISなどによる全球陸域植生における葉面積指数(LAI)や光合成有効放射吸収率(fAPAR)の観測に関するアルゴリズム開発、検証、モデルでの利用に関する研究が行われている。

  • 東シベリアカラマツ林における火災が炭素収支に与える影響の観測
    東シベリアのヤクーツク近郊において、カラマツ林を対象としたCO2収支のフラックス観測および土壌呼吸などの調査が行われている。そこでは森林火災が炭素収支に与える影響に焦点が当てられており、火災後の熱水収支の変化が永久凍土の融解を引き起こすなどの地域特有な現象解明が試みられている。

  • 札幌羊が丘サイトにおけるCO2フラックスおよび炭素循環要素の観測
    札幌市羊が丘の森林総合研究所構内の冷温帯落葉広葉樹林において、渦相関法によるCO2フラックス観測および土壌呼吸や個葉特性などの調査が実施されている。このサイトは2004年秋に台風により森林と観測タワーは甚大な被害を受けたが、観測設備が再建され、森林倒壊後の回復過程における炭素収支の変化に関する観測が行われている。

  • 北海道大学構内における高CO2濃度への植物暴露実験
    将来の高CO2濃度環境が植物の生理過程および動態に与える影響について、樹木を対象とした研究はほとんど行われていなかった。本研究ではFree-Air CO2 Enrichment(FACE)システムを用いて稚樹を高CO2濃度環境で成育させる実験を行い、栄養条件の差による施肥効果の程度の違いなどについて検討が行われている。
2. 観測データを用いたSim-CYCLEの高度化の試み

モデルにおいて観測データを利用する方法には、入力、較正、検証などいくつかの方法がある。共生3-陸域課題ではパラメタリゼーションの高度化を目指しており、既存モデルで使用しているパラメータ値の検証と再較正だけでなく、最終的にはデータ同化による逐次的なパラメータ修正と予測システムへの発展をも視野に入れている。実際、前年度までにMODISによる全球スケールのLAIおよびfAPARデータを用いた、ナッジング法による光合成生産量推定の高度化が実施された(Hazarika et al., 2005)。また、東シベリアにおける観測データは、景観スケールの火災様式-炭素循環結合モデル(Ito, 2005)で利用されている。

一方、ナッジング法ではパラメータ値の補正は行われないため、将来予測に対する精度向上は見込めない。そのため、今年度は同様にMODISによるLAIおよびfAPARを用いるが、パラメータ値の最適化による将来予測性のあるデータ同化の手法開発を試みた(東大生産研との共同研究)。データの利用可能性やモデル中での重要性に関する検討の末、個葉の形態パラメータである比葉面積(SLA、Specific Leaf Area)を対象パラメータとした。従来の地球システムモデルなどで使用されている陸域モデルのSLAは植生タイプごとの定数であり、季節変化や空間変化は考慮されていない。一方、SLAは葉の炭素重量と表面積を関係付ける重要なパラメータと考えられている。ここでは、モデルから炭素収支式で推定された葉重量と、衛星観測によるLAIを関係付けるようSLA値の最適化を行った。その結果、SLAには顕著な植生タイプ内での空間変動および季節変動が生じていることが示唆され、ここで得られたSLAを将来予測に用いることでモデルシミュレーションの精度向上に寄与する可能性があることが示された。

f.考察

f.1.Sim-CYCLE+MATSIRO+AGCMの結合モデルによる20世紀中の炭素循環の再現

今年度は、結合モデルの推定可能性を検証するために、20世紀における炭素循環の再現を中心に行ってきた。その結果、開発した結合モデルは、20世紀の炭素循環をうまく表現することができ、モデルの利用可能性は高いと考えられた。次年度は、この結合モデルを用いて将来予測実験を行うとともに植生変化の機能を取り入れるための改良を行う予定である。具体的には、Sim-CYCLE−MATSIRO−AGCM結合モデルを用いた21世紀中の気候−炭素動態相互作用変化の予測と、当課題の陸域動態サブグループが開発する動的植生分布モデルSEIB−DGVMの導入を行う予定である。

f.2.観測データによるSim-CYCLEの高度化:共生3-陸域課題との協力

陸域生態系モデルによるデータ同化は、最近の重要テーマの一つであり、すでに欧州で行われているCarboEuroではCCDAS(Carbon Cycle Data Assimilation System)、米国ではLDAS(Land Data Assimilation System)やEcoCastといったプロジェクトが進行中である。そこではいずれも、フラックス観測などの地上データと、衛星観測による広域データ、時には大気CO2濃度の観測データが取得され、陸域モデルの高度化へと集約されようとしている。このような流れの中、共生3-陸域課題において同様な試みを開始したことは非常に重要な進展と見ることができる。今後は衛星観測以外の取得データ(例:フラックス観測、生態系調査、FACE実験)を利用したモデル高度化に着手し、陸域モデルの不確実性の低減をさらに加速させることが重要と考えられる。

g.引用文献

Friedlingstein, P., Dufresne, J. L., Cox, P. and Rayner, P. 2003. How positive the feedback between climate change and the carbon cycle. Tellus 55B, 692-700.

Hazarika, M., Y. Yasuoka, A. Ito, and D. G. Dye. 2005. Estimation of net primary productivity by integrating remote sensing with an ecosystem model. Remote Sensing of Environment 94:298-310.

Houghton, R.A., Hobbie, J.E., Melillo, J.M., Moore, B., Peterson, B.J., Shaver, G.R., and Woodwell, G.M. (1983) Changes in the carbon content of terrestrial biota and soils between 1860 and 1980: A net release of CO2 to the atmosphere, Ecological Monographs., 53, 235-262.

Houghton, R. A. 2003. Revised estimates of the annual net flux of carbon to the atmosphere from changes in land use and land management. Tellus 55B, 378-390.

Ito, A. 2005. Modelling of carbon cycle and fire regime in an east Siberian larch forest. Ecological Modelling 187:121-139.

Ito, A., and T. Oikawa. 2002. A simulation model of the carbon cycle in land ecosystems (Sim-CYCLE): A description based on dry-matter production theory and plot-scale validation. Ecological Modelling 151:147-179.

McGuire, A. D., Sitch, S., Clein, J. S., Dargaville, R., Esser, G., Foley, J., Heimann, M., Joos, F., Kaplan, J., Kicklighter, D. W., Meier, R. A., Melillo, J. M., Moore III, B., Prentice, I. C., Ramankutty, N., Reichenau, T., Schloss, A., Tian, H., Williams, L. J. and Wittenberg, U. 2001. Carbon balance of the terrestrial biosphere in the twentieth century: Analysis of CO2, climate and land use effects with four process-based ecosystem models. Global Biogeochem. Cycles 15, 183-206.

h.成果の発表

<学会発表>
加藤知道、伊藤昭彦.気候―陸域炭素循環結合モデルの開発.日本気象学会2005年度春季大会,東京都文京区,2005年5月16日.

Kato, T., Ito, A. Development of the coupled climate-terrestrial carbon cycle model. ESA 90th Annual Meeting, to be held jointly with the INTECOL IX International Congress of Ecology, Montreal, Canada, 2005年8月10日.

Kato, T., Ito, A. Development of the coupled climate-terrestrial carbon cycle model. Seventh International Carbon Dioxide Conference, Broomfield, USA, 2005年9月26日.

Ito, A., Kato, T., Sato, H., Yoshikawa, C., Kawamiya, M., and Matsuno, T. (2006) Development of the Frontier Research Center for Global Change coupled climate and carbon cycle model. American Association for the Advancement of Science (AAAS), 2006年2月20日,米国ミズーリ州セントルイス.

加藤知道. -Earth Simulatorを用いた将来予測-.公募シンポジウム「陸域生態系の炭素動態と地球温暖化」.日本生態学会第53回大会, 新潟市, 2006年3月28日.

<論文発表>
Friedlingstein, P., Cox, P., Betts, R., Bopp, L., von Bloh, W., Brovkin, V., Cadule, P., Doney, S., Eby, M., Fung, I., Govindasamy, B., John, J., Jones, C., Joos, F., Kato, T., Kawamiya, M., Knorr, W., Lindsay, K., Matthews, H. D., Raddatz, T., Rayner, P., Reick, C., Roeckner, E., Schnitzler, K.-G., Schnur, R., Strassmann, K., Weaver, A.J., Yoshikawa, C., and Zeng, N., 2006. Climate-carbon cycle feedback analysis, results from the C4MIP model intercomparison, Journal of Climate, in press.

Gu, S., Tang, Y., Cui, X., Kato, T., Du, M., Li, Y., Zhao, X., 2005. Energy exchange between the atmosphere and a meadow ecosystem on the Qinghai-Tibetan Plateau. Agric. For. Meteorol. 129(3-4), 175-185.

Hirota, M., Tang, Y., Hu, Q., Hirata, S., Kato, T., Mo, W., Cao, G., Mariko, S., 2006. Carbon Dioxide Dynamics and Controls in a Deep-water Wetland on the Qinghai-Tibetan Plateau. Ecosystems, in press.

Hirota, M., Tang, Y., Hu, Q., Kato, T., Hirata, S., Mo, W., Cao, G., Mariko, S., 2005. The potential importance of grazing to the fluxes of carbon dioxide and methane in an alpine wetland on the Qinghai-Tibetan Plateau. Atmospheric Environment 39, 5255-5259.

Ito, A. 2005. Climate-related uncertainties in projections of the 21st century terrestrial carbon budget: off-line model experiments using IPCC greenhouse gas scenarios and AOGCM climate projections. Climate Dynamics 24: 435-448.

Ito, A. 2005. Regional variability in the terrestrial carbon-cycle response to global warming in the 21st century: simulation analysis with AOGCM-based climate projections. Journal of the Meteorological Society of Japan 83: 251-259.

Kato, T., Tang, Y., Gu, S., Hirota, M., Du, M., Li, Y., Zhao, X., 2006. Temperature and biomass influences on interannual changes in CO2 exchange in an alpine meadow on the Qinghai-Tibetan Plateau. Global Change Biology, in press.

Kato, T., Kamichika, M., 2006. Determination of a crop coefficient for evapotranspiration in a sparse sorghum field. Irrigation and Drainage, 55(2), 165-175.

Kato, T., Hirota, M., Tang, Y., Cui, X., Li, Y., Zhao, X., Oikawa, T., 2005. Strong temperature dependence and no moss photosynthesis in winter CO2 flux for a Kobresia meadow on the Qinghai-Tibetan Plateau. Short communication, Soil Biol. Biochem. 37(10), 1966-1969.

Kawamiya, M, C. Yoshikawa, T. Kato, H. Sato, K. Sudo, S. Watanabe, T. Matsuno, 2006. Development of an Integrated Earth System Model on the Earth Simulator, Journal of Earth Simulator, 4, 18-30.


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