私たちの生活に欠かせない「プラスチック」。プラスチックの生産量は年率およそ5%の勢いで爆発的に増えています。それに伴い海洋へ流出するプラスチックの量は増加の一途をたどっており、一説によれば、1年間に115万〜241万トンのプラスチックごみが世界の主要な河川から海洋へ流出しています(※1)。陸から海洋へ流出するプラスチックごみの大部分は、いわゆる「管理できていない」プラスチックごみで、廃棄物の回収・処理がきちんとなされていないごみやポイ捨てされたごみが原因です。研究によれば世界の「管理できていない」プラスチックごみは1年間に6,000万〜9,900万トンあると推定されていますが、その6割以上はアジア諸国から発生しています(2015年)(※2)。
海へ流出したプラスチックは、まず海洋生物へ大きな影響を与えます。ビニール袋などの使い捨てプラスチックやプラスチック製の漁網に絡まり傷つく海洋生物は少なくとも350種に上ります(※3)。
様々な海洋生物が漁具を代表するプラスチックごみに絡まり命を落とす、行動が制限されるといった事態が生じています。
さらに少なくとも700種類の海洋生物がプラスチックを誤食しており、中には誤食が原因で命を落とす生物もいます(※3)。特に、紫外線や摩耗などの影響で細かくなった「マイクロプラスチック」(大きさが5mm以下のプラスチック粒子)は、小さいが故に様々な生物に誤食されています。
プラスチックには、さまざまな機能を付与するために添加剤が使われています。しかし、こうした添加剤の中には、一部の臭素系の難燃剤やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤のように、生物にとって有害とされる物質も含まれます(※4)。生物がプラスチックを体内に取り込むことでこれらの有害化学物質が体内に蓄積し、発がん性や生殖機能への影響などが懸念されています。
またプラスチックは海中の有機汚染物質や重金属等の有害物質をスポンジのように吸収する性質があるため、もともとプラスチックに含まれていた有害物質も併せて、有害化学物質を含んだまま海流に乗って、海のあらゆる場所へ流れていきます。そのため、プラスチックは有害物質の「運び屋」と呼ばれます。有害化学物質だけでなく、海を漂うプラスチックが外来種や病原菌を運び、生態系に影響を与えることも懸念されています。
プラスチックは海洋へ流出し、海洋生物や環境だけでなく海洋関連の経済・社会へ影響を与えています。大量のプラスチックごみがビーチへ流れ着き、清掃を余儀なくされることがほとんどです。観光地では景観が汚され、収益や雇用の減少にも結び付いています。海中に捨てられたプラスチック製の漁具は、海を漂いながら漁業資源を絡め取っており、資源の減少が懸念されています。海洋プラスチックごみが観光業・漁業・養殖業に与える経済損失は、清掃コストも含めると、年間60億〜190億ドル(約7000億〜2兆2400億円)に達したと推定されています(2018年時点)(※5)。
海洋プラスチックは海洋生物たちを直接傷つけるだけではなく、「海」そのものを汚染する深刻な地球環境問題でもあります。国連や首脳会議でも大きく取り上げられており、国連が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」では、2025年までに海洋プラスチックを含め、「あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」ことが目標の一つとされています。2022年3月に開かれた第5回の国連環境総会では、日本を含む175ヶ国により、プラスチック汚染の軽減のために法的に拘束力のある国際ルール作りに向けた決議が承認されました(※6)。2024年を目指して国際ルール作り・合意を目指して活動が開始されます。