2018年8月9日 ニホン,タダイマ。は,すでにとうの昔。

  • 8月。日本は暑い日が続きますね。おしょろ丸の北極航海は…ええと……

  • 去る7月15日,ダッチハーバーに向け濃霧のベーリング海を航行すると,海鳥の群れに遭遇しました。あるときは,流れる川のように延々と東から西へと飛び続ける群れ,またあるときは,海に頭を突っ込んで餌を食べている群れに出会いました。とにかくものすごい数。

  • が,濃霧。広角でたくさんの海鳥がいる様子を撮ると,昔のテレビの砂嵐みたいに何が映っているか分かりません。写真で何が写っているのか分かるように収まってくれたのは小さな群れでした。海鳥の専門家の北大・西澤さんに伺ったところ,ハシボソミズナギドリとフルマカモメがほとんどのようです。彼らの主な餌はオキアミなどの動物プランクトンです。プランクトンがささえる海の生態系の豊かさには,10年以上,海の専門家をしてるつもりの筆者でも未だに驚かされます!(この凄味,伝われ~~!)

  • 船が近づくと索・摂餌中の海鳥たちは飛び立ちます。その時,羽が海面をたたく音で「ざぁぁぁ~~」と海が鳴ります。何も無いはずの大海原に突如わき上がる大歓声のような音。少し鳥肌が立ちました。

  • …という様な記事を書こうと思ってたのですが,ダッチハーバーの港(City Dock)はすぐ裏が山のせいか,インターネットが繋がらず。でさ,翌日,7月16日にダッチハーバーから飛行機で日本に帰国(18日)してさ。溜まりに溜まった陸での仕事をじゃんじゃんばりばりじゃんじゃんばりばりしてさ。そうこうしていたら,おしょろ丸は先々週末の7月27日に東京台場ライナー埠頭に到着してさ。荷下ろししてさ。JAMSTECの横須賀本部で荷受けしてさ。片付けしてさ。ね。ね。ちっとも記事が書けなかった事をお察し頂ければ幸いです。

  • 台場ライナー埠頭に着岸したのはちょっとしたトラブルが原因で,そこでの荷下ろしが終了した後,おしょろ丸は月島埠頭にシフトしていきました。動画は離岸してタグボートに引っ張られながら方向転換をするおしょろ丸。タグボート,パワー強いし,小回り利くし,船速もすぐ上がるし,すごいなぁ,と感心。

  • さて,さしあたり2018年の北極航海の記事はこれにでおしまいです。
    次がいつになるのかは不透明ですが,私の航海日誌を楽しみにしている方も,そうでない方も,また会う日まで。さようなら。

ハシボソミズナギドリとフルマカモメ
飛び立つときに海が鳴る

2018年7月11日 観測再開!

  • 7月8日の0時ごろ,荒天により北緯65度58分の観測点がスキップされてから風が収まるのを待つこと60時間。7月10日の正午からようやく観測ができるようになりました。うねりに対してじわーっと北上し続けたおしょろ丸は66度33分の北極圏を越え,北緯67度まで来てしまいました。南下しながら観測再開です。

  • 荒天後の大観測点は,北緯66度43分,西経168度58分です。北極圏内での大観測は最初で最後になってしまいましたが,出来てよかった!私も採水して,下船日ぎりぎりまで,北極海の温暖化と海洋酸性化がプランクトン群集に与える影響について調べるための培養実験を行います。実験中に自撮りをする余裕はないので,私の実験風景はございませんので悪しからず。

  • 大観測点で魚を捕ったりしていることは前の航海日誌でお伝えした通りです。今回は,泥を採って研究をする方々を写真に収めてまいりました。マルチプルコアラ―という採泥器で,海底に筒を挿して,筒の上下に蓋がされた後に船の上に上がってきます。この泥は,化学組成を分析したり,中にいる生物(対象は植物プランクトン)を調査するためのものです。

  • このあたりの海は水深50 m前後と浅い(海の平均水深は約3,500 mです)ため,海底と上に乗っている海水とは密接な関係があって,お互いが影響を及ぼし合っているはずです。サンプルを採ってから分析して,解析して。。。ととても時間がかかるのですが,そのうち面白い成果が出てくるはずなので,楽しみにしております。

  • さて,調査は残すところあと2日。ラストスパートです。
    あ,おしょろ丸の実験室の風景を撮ってみました。分析装置やろ過装置,顕微鏡,超低温冷凍庫などなど。調査に必要なものが所狭しと並べられております。右端に見切れている北大の学部4年生は,ほぼ寝る間もなくろ過し続けている,実験室の番人です。

マルチプルコアラ―で海底の泥を採取中
実験室の様子

2018年7月8日 観測中断

  • 7月8日,天気,やや暴風。

  • 7月7日から日付が変わろうとするころ,平均すると風速15 m/sほど,瞬間最大で20 m/sの風が吹き始めました。今航海で初の時化です。風が吹き始めて数時間で大きくうなる海の波高は4 m。これじゃぁ観測ができません。とりあえず寝ました。

  • 今朝,起きてみても状況は全く変わらず,現在位置の北緯66度,西経168度50分あたりでは,コンスタントに風速15 m/sをたたき出しています。あと2日近く続くかもしれないとのこと。予定していた観測が減ってしまいそうです。

  • ブリッジに上がって船員さんとお話ししながら時化の様子を撮影してきました。写真,暗めですが,濃厚な曇天下の午後10時です。この季節,ほぼ日が沈まない緯度帯まで来ました。船員さん曰く,時化の時はうねり,または風に対して船を立てる(波が向かってくる方に進行する)のだそうです。北から来るうねりに対して,船は1ノット(時速1.852 km)前後でゆっくりと北上しています。

  • ゆっくりと走る船。正面からうねりを受けても,そうそう“ばしゃーん!”と波しぶきが立つものではありません。シャッターチャンスを待ちながら,

  • 筆者「うねりに突っ込んでばしっゃーん!ってしないんですか?」
    操舵員「やって良いならやるんだけど,エンジン(機関部員)に怒られっから」
    筆者「へぇ。何でですか?」
    操舵員 「ペラ(スクリュー)なりシャフトなり船体が痛むんだと」
    筆者「そうなんですね。」
    操舵員 「100円で1ノット速度上げよっか?(←もちろん冗談です)」
    筆者「1,000円出すから10ノット!したら“北極海で大時化なうに使って良いよ”がSNSで拡散できる!」
    操舵員 「そりゃさすがに無理だわ!」

  • なんてしょうもない会話をしながらも,安全第一の航行をしてくださる船員さんには感謝しかありません。

  • さて,いつから観測が再開できるんでしょうか。。。
    ゆっくり北上する船。特に観測することなく,時化から逃げてる隙にいつの間にやら北極圏(北緯66度33分より北)に突入してしまいそうです。。。

これまでの観測点と時化に遭遇した今
時化ばしゃーん

2018年7月5日 ついに快晴

  • 今航海は,ずーっと穏やかな海況で,凪~べた凪ぎの状況が続いております。しかし,本日まではずっと曇天もしくは濃霧。100 m先が見えないほどに。

  • そして,北緯64.5度,西経168度から166度付近を,東に向かって観測していた7月5日。18番目の観測点からようやく空が見えました。陽の光はありがたいものだ,と実感させてくれます。

  • 一番東の観測点では,アラスカの港町,ノーム周辺の陸がみえました。北アメリカ大陸。山々の頂にはまだ雪が残っています。この辺りの海の表面の水温は12度。これまでの観測点の中では突出して暖かい。世の中が異常気象まみれで,何が正常かも分からなくなって久しいですが,7月でこの暖かさは。。。

  • 変わりゆく北極海のイマを観測しているという感覚。我々,観測している研究員や,本航海日誌の読者のみなさまは歴史の一証人になるかもしれませんね。

  • そんなぽかぽか陽気のノーム沖での観測風景は,ボンゴネットです。船を2.5ノットで走らせながら曳網し,通常のプランクトンネットでは捕らえにくい,より遊泳力がある小さなオキアミや稚仔魚をとることができます。写真中央やや左でワイヤーの角度(x)を測りながら,繰り出したワイヤーの長さから,sin(x)で深さが分かるという仕組み。数学,大事だわ。

  • この好天,いつまで続くのか!?
    つづく。

快晴。遠くに見えるのはアラスカの港町,ノーム。
快晴のなかのボンゴネット

2018年7月2日 大観測点

  • 本航海では,おおよそ1日に1回,大観測点とよんでいる,集中観測が行われております。
    大観測点では,通常の水温,塩分,深度などのセンサーとともに鉛直的に採水をする観測に加えて,ボンゴネット,MOHT(ネットの種類),プランクトンネット,ソリネット,カイトトロールと様々な網を使って動物(プランクトン,ベントス(底生生物),魚など)を採取しております。これぞ北大水産学部の航海といった感じ。

  • どのネット観測が,それぞれ何の用途なのか,何度か聞いたのですがすぐ忘れてしまいました。プランクトンを採るボンゴ,MOHT,プランクトンネットと,海底にいて,大きな生き物を採取するソリネット,カイトトロールという感じ。門外漢としては,捕れた魚やカニなどがわさわさ動いているのを見に行くだけで楽しいものです。そして圧倒的な量のクモヒトデ。かご一杯に入ったソレの脚が動いているのは見てて気持ちの良いものではございません。

  • 写真は,7月2日午後,北緯63度,西経173度付近で行われたものです。
    海況にも恵まれ,観測は全て予定通り!順調です。

ソリネット
スケソウダラ。手前にはエイ。
ズワイガニの仲間も。天ぷらサイズ?

2018年7月1日 Leg.2, 最初の観測点

  • 6月。。。7月になってましたね。船内時間で7月1日の20時過ぎ,Leg. 2の最初の観測点に到着しました。北緯61.5度,西経177度です。ベーリング海の北の方。

  • ダッチハーバーを出てから北北西に向けて航走するなか,水温は8度前後から,今の観測点に到着する頃には9.1度にまで上昇していました。去年,一昨年と8月末にもこの辺りに来て水温の高さに違和感を覚えてましたが,その時でも約10度。今年はあと2ヶ月したらどこまで水温が上がるんでしょう。過去の資料をひもとくと,ちょうど10年前の2008年の航海のデータが見つかり,その時は今年と同じ季節で5度前後。4度の昇温。。。

  • 温暖化が進行すると,今世紀末には地球全体の平均ですが,約4度上昇すると予測されています。ベーリング海では世界平均の10倍で温暖化が進行している計算になります。ほんの断片的なデータだけなので信頼性は全くないのですが,北方海域の生態系はどうなっているのか気になるところです。

  • 初の観測点では,テレビ朝日の取材クルーもカメラ撮影しておりました。観測機器の種類や採水の様子などをつぶさに取材されており,とても熱心です。採水器とセンサー類を沈めているときに見えるデータを眺めながら私と本航海の主席研究員平譯先生(北大水産)が議論している最中にもカメラを向けられちゃったり。水温9度の表面のクロロフィルは0.2 μg/Lしかないのに,水温5度くらいの水深約30 mにあった亜表層クロロフィル極大のクロロフィルは5 μg/Lもあるんだもん。そりゃみんな絶対盛り上がるよね!(伝われぇ~笑)いい番組になると良いなぁ。

  • これからは,数時間移動しては観測,という怒濤の日々です。まだ行っていない,魚の調査など,楽しい様子が見つかり次第ご報告いたします。それでは。

採水器にセンサーを取り付け中。
奥に見えるカメラはTV朝日。
研究者はときおり取材を受けながらの観測です。

2018年6月30日 おしょろ丸北極航海Leg.2スタート

  • 現地時間で6月29日10時。おしょろ丸は北極海に向けてダッチハーバーをでました。
    うぅ,3日間も入港して身体が陸モードに戻ったせいか,出港直後のパソコン作業は酔いそう。波高50 cmしかないのに。まぁ風が10 m/s前後と強めで横から吹いてきてるからかな。

  • 港を使わせて頂いたユニシーの方がお見送りにまで来てくださいました。ダッチハーバーでの滞在では,いろいろな面でおしょろ丸の航海をサポートして頂き,ありがとうございました。そうそう,昨日はユニシーの食堂で食事を振る舞って頂いたんです。ごちそうさまでした。

  • 港を出てすぐのゆっくり航走する中,ハクトウワシが船首のマストに留まって羽を休めておりました。雲の切れ間に差す光が山と海を照らし出したとき,シャッターチャンスはここざんす!と方言(どこ?)が抜けきらないハクトウワシが飛び立ってくれました。さよなら,ダッチハーバー。2週間後にまた来るけどな。

  • もうちょっと望遠気味で撮影すれば良いというご意見が聞こえてきそうですが,あいにく,今航海は超広角の12 mmのレンズと8 mmの魚眼レンズしか持ち合わせておりません。ええ,標準ズームレンズを持ってくるのを忘れました。でも,ワシを中心に切り出してもちゃんとフォーカスしてくれていました。さすが,SONYはα6500にZEISSのレンズ。そんなこんなで,今更ではありますが,今航海はやたら視野の広い感じの風景が多くなることをご承知ください。

  • 他方では,Leg. 2から乗船してきたテレビ朝日の撮影クルーが出航の様子を撮っていました。水先案内人の小型ボートで海面付近から,おしょろ丸からも,そして空からはドローンがおしょろ丸を撮っています。一通り撮影が終了し,あとはドローンを船に戻す作業。ときどき風にあおられて腹側がちらっと見えるドローン。走る船にもう少しで追いつきそう…しかしまた離される…が,がんばれドローーン!

  • そして船内に流れるアナウンス。
    「ドローンが回収できませんので,船速を落としてください」
    だよねー。

    船は構造物が多いし,今日は風もあるので,船速を落としても戻すだけでも大変そうです。最終的には柱に当たって甲板に墜落したものの,無事回収できました。めでたしめでたし。

  • さて,Leg. 2 は 2週間と短めですが,調査は濃密です。事故無く調査を成功させるために集中して参ります。
    それではまた。

お見送りをしてくれたユニシーの方々といったんお別れ
出航。センターマストから飛び立つハクトウワシ!
ワシ,切り出し
ドローン,無事帰還

2018年6月26日 ダッチハーバー入港

  • さて,前回の記事では東経におりましたが,その後,北東に向けて航走したおしょろ丸は,アリューシャン列島のアッツ島の東の海峡を抜けてベーリング海に入りました。その後,北緯54度付近から東に航路を変え,いつの間にやら日付変更線を越え,さらに東に走ること3日間,6月26日に最初の寄港地,ダッチハーバーに入港しました。毎度のことになりつつありますが,激曇天です。

  • ダッチハーバーは北緯53度40分,西経166度30分にあります。アリューシャン列島の東端,アラスカの西の果て。初めて来たのが12年前,先代のおしょろ丸IV世(今はV世)での入港でした。めったに来られない土地に足を踏み入れることに,わくわくしながら初めて到着したのはとうの昔のことで,今回で7回目の入港です。12年間で同じところに7回となると,おそらく,実家の次によく訪れる場所。。。うわぁ。。。

  • さて,ここでは,東京から乗ってきた2名の北大の研究者(教員)とお別れし,新たに10人もの人が乗船してきます。北大の研究者以外にも,アメリカ人の調査員,水族館,テレビ局の人など,多種多様な仕事人と乗船します。その模様をお伝えできると良いのですが,激務が予想されるので,あまり期待しないで頂ければと存じます。

  • 気温7度くらい。夏至に長時間降りそそぐ陽の光を待ち望んでいた花々が咲きみだれる春真っ盛りのダッチハーバーより。

ダッチハーバー入港
安定の曇天

2018年6月21日 今航海,最初で最後の“北太平洋”での観測点

  • おしょろ丸は東京港を出てひたすら北東に航走し,本日6月21日朝8:00に北緯49度17分,東経165度40分のあたりで停船しました。日本から最初の入港地,アラスカの果てのダッチハーバーに到着するまでの間の唯一の採水器をつかった観測です。この観測点,私の実験のためだけに設けられたものです。あぁ,責任重大。

  • 北緯40~45 度より北の太平洋のほとんどエリアに生息する植物プランクトンは,鉄不足によって増えにくい状態にあることが知られています。これは,「ほうれん草に鉄分が多い」,と似たような理由で,光合成をする葉緑体の中の酵素などに鉄が多量に必要だからで,植物プランクトンも例外ではないということです。しかし,鉄が少ないとはいえ,植物プランクトンが消滅することはなく,みゃくみゃくと,あるいは,虎視眈々と生産し続けていて,豊かな北の海の生態系を作り出しているはずなのです。JAMSTECは,豊かな北の海を支えるメカニズムを把握し,さらに,迫り来る気候変化によってこの生態系がどのように変わるのかを知ることを重要な責務と考えております。

  • では,どのようなメカニズムで鉄不足の植物プランクトンは生きながらえているのだろう。筆者は,今回の観測点でその謎に迫ろうと意気込んでおります。しかし,海で鉄のことを調査するのは至難の業で,実験室内ではすぐに高濃度の鉄に”汚染”されてしまいます。空気中に漂うチリやホコリ,船に限らず人間が住んでいる建物にはふんだんに鉄が使われているからです。そのため,実験室内にチリを含まない空気で満たされた専用のブースをつくり,そのブースの外に出している実験機材には,内側の海水が汚染されないように吸気するところにはフィルターを取り付けて。。。気づかいだけでぐったりする仕事です。本当にそんなに気づかいしないといけないのでしょうか。

  • さて,「鉄が少ない」というのは,どの程度か。この辺りの海域に溶けている鉄の濃度は,1リットルに0.1 ナノモルほどです。あ,「モル,きらい。ナノってなに?」という声が聞こえてきました。グラムで表すと,0.0000000055 g。1円玉が1 gなので,それを5000万等分した重さ。あ,貨幣を切り刻むのは違法なのであしからず。とにかく,目では見えないごく微量なんです。見えないチリとホコリとの戦いなのです。この戦いを制した後に光明を見いだすことはできるのだろうか。最善を尽くしてはいますが,結果を出すまで期待と不安で一杯の実験です。

  • 最後に,長々と最後まで読んでくださった皆さま,読んで頂いただけで大変ありがたいのですが,加えて勝手なお願いです。私めの実験の成功を祈って頂ければと存じます。

ニスキン採水器による採水
実験室でのクリーン作業

2018年6月18日 千島列島沿いを北上中

  • 6月17日ごろに北海道の東を抜け,ひたすら曇天の千島列島沿いを北東方向に航行中のおしょろ丸。北から流れてくる親潮の海域を抜け,西部亜寒帯循環と呼ばれる海域に入って参りました。水温は5度前後。外気は水温よりやや高いものの,高くて7度。
    もう外はかなり寒い。この海域,1~2ヶ月後には水温10度を超えるので,今まさに春から夏に変わりゆく最中という感じです。

  • 外海には花を咲かせる顕花植物は存在しないのですが,植物プランクトンはたくさん居ます。水温が上昇する中で適した環境になると大増殖(ブルーム)します。温帯域では春頃に見られるので,一般的に春の大増殖,スプリングブルームと呼びます。このスプリングブルームは,桜前線と同様に季節を追って北上するもので,ここらの海域ではちょうど今時期です。一面のお花畑…ではなく,海の色がちょっと茶色くなっているだけですけども。

  • 増えた植物プランクトンは動物プランクトンの格好の餌です。その動物プランクトンを求め,あるいは動物プランクトンを食べた魚やイカを求めて大型ほ乳類や海鳥がやってきます。それを逃してなるものかと,北海道大学の教員と大学院生が,船の一番上のデッキの先頭で鯨などの海洋動物と海鳥の目視調査を行っております。いやぁ,寒い中,日の出から日の入り近くまで外で観測。交代しながらとはいえ,大変な作業です。みなさんコタツが欲しいとのこと。

  • さて,筆者はというと,21日から始まるであろう実験のための準備です。甲板に設置した水槽のセットアップも終了しました。増えゆく亜寒帯の植物プランクトンが何故増えられるのか,綿密な調査を予定しております。どーかうまくいきますように。
    それでは今日はこのへんで。

曇天を航行中
目視観測の風景
水槽の設定完了

2018年6月16日 海に浮かぶゴミの調査

  • 月島埠頭から出航した翌日の6月15日から17日までの3日間,北東に航路をとりながら日本近海に漂うゴミの調査を行っておりました。環境省の委託事業に学生・大学院生がボランティアでかり出されて目視調査を行いながら,1日3度のニューストンネットという網を使って海に浮かんでいるゴミ採集しました。ちなみに,ニューストン(neuston)は海の水面に生活する生物の呼び名で,浮遊生物のプランクトン(plankton),遊泳生物のネクトン(nekton),底生生物のベントス(benthos)などと同様の,生物の遊泳能力や生息環境で区別するための学術用語です。

  • 出航直後で身体が慣れていないことに加えて,揺れる船上で双眼鏡をのぞく作業。弱い人はあっという間に船酔いに。かわいそうに。ある船酔いしやすい学生が食事中に,

    「ぼくたちは,朝起きたら,ゴミを見て,ご飯を食べ,寝て,ゴミを見て,寝て,ご飯を食べて,ゴミを見たら寝る」

    とつぶやいておりました。壮絶です。

  • 房総沖で行ったニューストンネットには細かなプラスチックの破片が沢山入っていたし,その他にも漁網や浮きなどは頻繁に海に漂っていたそうです。網が絡まって死にゆく鯨やウミガメが居ることは知られていますが,それ以外のゴミが海の生態系にどのような影響を与えるのかはほとんど分かっていません。 危険性が明るみに出てからの対処では遅いでしょうし, また,普通に考えれば,ごみまみれの海に囲まれて過ごしたくはないものです。

  • 周辺国だけが悪い訳では無く,我々日本人にも責任はあります。 ゴミを必要以上に増やさない,その辺に捨てない。 多くの人が当たり前と思っていることが,全ての人の当たり前になりますように。

ニューストンネット

2018年6月14日 2018年の北極に向かう航海がはじまりました

  • 全世界70億人近くの内,ウン十人ほどの読者の皆さま,お待たせいたしました。JAMSTECの研究員が乗船する2018年の北極航海が6月14日からはじまりましたので,時折航海日誌をしたためさせて頂きます。楽しみにされている方,あるいはそうでない方もちらっとご覧になってください。

  • さて,今年度はいつも乗船しているJAMSTEC所有の「みらい」ではなく,北海道大学水産学部付属の練習船「おしょろ丸」に乗船しております。筆者,去る11年前に先代の「おしょろ丸IV世」に乗船したのですが,2014年に造船
    された「おしょろ丸 V世」には初の乗船です。

  • 6月14日13時,本船は東京の月島埠頭から北極海へ向けて出港しました。これまでは8月下旬から9月に掛けての航海でしたが、今年は7月上旬。何か違いはあるのでしょうか。ほぼ白夜で日が沈まない6、7月の高緯度帯。オーロラは見られない。。。

  • 出航時には乗船する北大学生・大学院生さんたちの親御さんや指導教員がお見送りをしてくれました。ありがとうございます!では,いってまいります。

お見送りありがとうございます!
月島埠頭からのぞむレインボーブリッジ
いってきまーす!