プロジェクトストーリー海底広域研究船「かいめい」開発プロジェクト
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プロジェクトストーリー
Project01
海底広域研究船「かいめい」は
どのように開発されたか。

JAMSTECの海洋科学研究を支える、さまざまなプロジェクト。
どのように挑戦を成し遂げたのか?
プロジェクトに関わったスタッフの声で、そのストーリーをお伝えします。
全長約100m、総トン数5747トン。
あらゆる調査に対応できる研究船「かいめい」。
JAMSTECは、多くの研究船を所有しており、さまざまな研究調査を行っている。
その中でも2016年3月以降に就航する、海底広域研究船「かいめい」は、最新鋭の装備・機能を持つ、まさに「JAMSTECのフラッグシップ」と言える船だ。
「かいめいは一回の航海において同時に複数の機器を運用可能であることや、搭載する大型機器を入れ替えることで、多様な研究・調査に対応できる。これにより、調査効率を飛躍的にアップできることが期待されている。
全長約100m、総トン数5747トン。多様な地震探査システムや海底掘削装置を搭載した、他に類を見ないハイスペックな研究船「かいめい」は、いかにして、完成に至ったのか?そのプロジェクトに迫る。
プロジェクトメンバー
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松永 祐
経営企画部企画課
研究者や関係部署にヒアリングを行い、新船建造のアイデアをまとめる。文部科学省や財務省との交渉を行い、建造予算を獲得した。 -
内山 正康
経理部契約第1課
「かいめい」の企画提案公募(企画競争)から契約先候補者決定のための審査委員会の運営、契約締結までの手続き(相手方との交渉を含む)を行った。 -
山本 富士夫
海洋工学センター
海洋研究船建造室研究者の意見を取りまとめ、船や観測機器の仕様に反映させた。
「外国製の観測機器の仕様・性能を確認するため、海外のエンジニアと接することができたのはいい経験でした」 -
吉村 悟
海洋工学センター
海洋研究船建造室造船所やコンサルティング会社との連絡窓口やスケジュール管理、委員会の運営、図面管理など、船の建造に関わる事務全般を取り仕切る。 -
前田 洋作
海洋工学センター
海洋研究船建造室研究者の意見を取りまとめ、船の建造に反映させた。「『かいめい』の建造を通して、さまざまな技術を学ぶことができました」 -
吉澤 理
広報部広報課
命名・進水式の広報を担当。広報部では、船名の公募キャンペーンの開催や、進水式へのメディア取材案内などを通じて、国民に広く「かいめい」を紹介するための裏方を担った。 -
野村 陽
総務部総務課
宮内庁との調整を行い、佳子内親王殿下の進水式ご臨席の手配を担当。宮内庁だけでなく、山口県や下関市等との調整も行った。 -
樋口 陽彦
海洋工学センター
運航管理部「かいめい」の運航管理を担当。主に運航委託業者との調整や契約業務を行っている。 -
柳谷 昌信
海洋工学センター
運航管理部
運航・工務グループ「かいめい」の運航管理を担当。「研究者の要望に最大限に応えるためにはどうすればいいか。試行錯誤しながら、探っていきたい」

2011年6月~2013年9月
今までにない大型・多機能の研究船を造る。
その「建造に至る」まで遠い道のり。
海底広域研究船「かいめい」を造るための挑戦は、2011年6月から始まった。
公的機関であるJAMSTECが新たな船を造るためには、国の承認を受けなければならない。
当時、一度は国への申請をしたものの、「かいめい」建造の予算は承認されなかった。
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経営企画部:松永
- 新しい船を造ることによって「どんなメリットがあるのか?」。
それがあいまいだったことが原因でしょうね。
東日本大震災が起きた2011年。地震探査のニーズは高いが、国の政策としては海底資源の開発も求められている。それを見据えて松永さんは、「船を造ることによる利益」と「実現するための裏付け」を整理するために動き出した。
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経営企画部:松永
- 新しい船を造ることによって何ができるのか? 研究者や関連部署と話をするうちに、見えてきたんです。それを文部科学省や財務省に認めてもらうためには、省庁をはじめ国民にメリットを明確にイメージしてもらうことが重要。そのためには、JAMSTECの研究によって実現できる未来が伝わるような申請文書を書かなければならない。大変な仕事ではありましたが、未来を予想するというワクワク感もありましたね。
翌2012年の提案で「かいめい」は承認を受け、プロジェクトが本格的にスタートした。
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経理部:内山
- JAMSTECは公的機関のため、契約相手先の決定については透明性が求められることから入札等の競争により発注先を決めるのが基本です。今回「かいめい」は造船所からの提案を受け、その内容で契約先候補者を選ぶ「企画提案公募方式」を採用しました。
JAMSTECから企画提案公募への参加を希望する造船所に「船主要求事項」を提示。造船所からの提案を、JAMSTEC内外の研究者や有識者が審査し、「契約先候補者」が選ばれた。
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建造室:山本
- 「船主要求事項」は、船の大きさ、速力、設計目標や搭載する観測機器など、大まかな情報だけ。そこから契約までには、建造仕様を詰めていかなければなりません。
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建造室:前田
- 研究者からの意見をヒアリングし、観測機器の配置や研究室の位置を検討していきます。でも「かいめい」は幅広い研究分野に対応した機能を持つため、調整が難しくて。意見をまとめるのは大変でした。
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経理部:内山
- JAMSTECは公的機関ですから、契約に当たってはあらゆる面で適正性を求められます。まず建造仕様が決まったら、その見積り金額を査定しなければなりません。仕様の検討に時間をかけて、誰もが納得のいくものにして欲しいと思う反面、契約の期日は絶対に守らなければならない。かなりプレッシャーを感じましたね。
2013年9月27日、「かいめい」の造船所が決定し、契約は締結された。

2013年10月~2015年6月
2015年6月7日の命名・進水式に向けて、
JAMSTECの複数の部署が動き出す。
いよいよ「かいめい」の建造が本格的にスタートした。
建造仕様の内容を詳細図面にしていく。そのための意思疎通や調整のため、造船所との多数の打ち合わせを研究者と共に行う。さらに造船所から届く図面の確認や造船所での監督業務、スケジュール管理、JAMSTEC内外の研究者や有識者で組織される委員会の調整など、まだまだやることは山積みだ。多忙を極める建造の現場では、より効率よく動くことが重要となる。
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建造室:吉村
- JAMSTEC内の関連部署や造船所、各委員会の連絡窓口は、私が担当しました。「かいめい」に関する情報を関係部署に伝えて要望を集約し、それを造船所へ返すやりとりを調整する仕事ですね。図面の数も膨大ですし、やりとりも煩雑。それをいかにスムーズに進めるかが重要なんです。
その頃、管理部門のスタッフも、2015年6月7日の命名・進水式に向けて動いていた。
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広報部:吉澤
- 2014年4月から船名を公募するキャンペーンを実施。これが、まだ名前がついていなかった「海底広域研究船」を紹介する最初の企画になりました。
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総務部:野村
- 宮内庁に連絡をとり、皇室の方にぜひ「かいめい」の進水式にご臨席いただきたいとお伝えしたのは、進水式の1年以上前ですね。
宮内庁での調整により、進水式には佳子内親王殿下にご臨席いただけることが直前に決まった。本来、進水式は造船所主導で行われる。しかし、宮内庁との調整はJAMSTECが主導した。
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総務部:野村
- 宮内庁だけでなく、造船所がある山口県や下関市の他、山口県警や海上保安庁の方たちとも調整が必要だったので、本当に大変でしたね。
JAMSTECから企画提案公募への参加を希望する造船所に「船主要求事項」を提示。造船所からの提案を、JAMSTEC内外の研究者や有識者が審査し、「契約先候補者」が選ばれた。
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広報部:吉澤
- 命名・進水式を取材いただいたメディアは、新聞・テレビ・雑誌を含めて26社。これはJAMSTECが開催する地方のイベントとしては、異例の多さでしたね。注目度の高いイベントを通じて、「かいめい」やJAMSTECの行う科学研究について国民の皆様に知っていただけたと思います。

2015年7月~
艤装工事、海上公試を経て、運用へ。
海洋科学の最前線で「かいめい」の活動が始まる。
命名・進水式が終わっても、まだ建造は終わりではない。
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建造室:山本
- 進水式の時点では、「船」というカタチはできているものの、内部はほぼからっぽの状態。ここから艤装(ぎそう)工事(各種装備取付・内装工事)を行い、研究船を完成させていきます。
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建造室:前田
- 船内の研究室には、観測目的に合わせた特別な環境が必要です。でも、それがなかなか現場に伝わらなくて…。そこは苦労しましたね。
2015年10月からは、実際に海に出て船や観測機器の性能を確認する海上公試が始まった。
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建造室:山本
- 私たちも研究者や乗組員と一緒に乗船。もし、改善事項があった場合は造船所と協議し、変更してもらわなければなりません。
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造船室:前田
- 洋上で動かしてみないと出てこない不具合もあります。海上公試は、それを見落としてはいけないという緊張感がありますね。
海上公試を経て、2016年3月末、いよいよ「かいめい」がJAMSTECに引き渡され、本格的な研究航海が始まる。
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運航管理部:樋口
- 「かいめい」は、今までの研究船数隻分の調査観測機器を装備する多機能な船。今までにない研究船ですから、まずは1年間の慣熟航海で「かいめい」の可能性を探りたいと思っています。
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運航管理部:柳谷
- 新しい調査機器を搭載している「かいめい」は、研究者の期待も大きい。1年間の慣熟航海を通じて、研究者の要望に応えられるよう運航管理に努めることで、新たな発見につながればと思っています。
海洋科学の新しい時代を切り拓くため「かいめいプロジェクト」は続いていく。
※インタビュー内容は2016年1月18日時点のものです。
※所属部署は当時のものです。