Chikyu Report
Back to Expedition

泥の中のちいさいヤツラ2012年08月20日

現在、朝の4時です。先のMarcella Purkeyさんのレポートにも少し触れられていましたが、「ちきゅう」船内は24時間活動中で、私たち研究者も0~12時、12~24時と一日二交替制で働いています。ナイトシフト(0~12時)の僕は、しばらく前までは時差ボケ状態でしたが、段々慣れてきて、シフト時間中に眠たくなることも少なくなってきました。

さて、今日のレポートは海底下の微生物についてです。

皆さんは「微生物」というとどんなものを思い浮かべるでしょうか?
ダニ、ミジンコ、ゾウリムシ?・・・この辺りのサイズは0.01ミリメートルから0.1ミリメートルくらい、僕ら微生物学者からするとまだまだ「大きい」生物です。

これくらい「大きい」サイズの生物は、化石以外では海底下からはあまり見つかりません。納豆菌、大腸菌、乳酸菌。彼らのサイズは0.001ミリメートル位で、僕らが研究の対象としている「微生物」達です。

「微生物」というと物が腐ったり、病気をもたらしたり、いわゆる「バイキン」というあまり良くないイメージがありますが、ヨーグルトを作ったり、病院で処方される抗生物質を作ってくれるのも、僕ら人間の腸の中で働いてくれているのも微生物です。微生物なしには、この地球は成り立たないと言っても過言ではありません。


海底下の微生物、緑色に光る点一つ一つが微生物です。
顕微鏡をのぞくと満天の星空のような光景が広がります。


実は海底下というのは、地球上で唯一ともいえる微生物が独占している世界です。最近、「京」というコンピューターが話題になりましたが、1立方センチメートルの中に、数字の桁の京(1兆の1万倍)のさらに100兆倍、10の後ろに29個ゼロが続く数の微生物が、海底下には存在すると考えられています。

1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000!

(8/23追記:1立方センチメートル当たり1000~10億細胞程度の微生物の存在が確認されています。地球全体の海底下に拡大すると1京の100兆倍の細胞が存在しているという推算結果が出ています。Whitman, W. B., Coleman, D. C. & Wiebe, W. J. Prokaryotes: The unseen majority. Proc Natl Acad Sci USA 95, 6578-6583, doi:10.1073/pnas.95.12.6578 (1998))

今回の航海では、これまで科学目的の掘削では得られたことのない、海底下2200mの試料の中の微生物を数えることが僕のミッションの一つです。

そんなに深いところにも微生物は居るのか、実は世界中の誰も知りません。NASAの火星探査機キュリオシティが生命の痕跡を見つけようとミッションをスタートしたように、僕らは地球の中へ向かって生命を探索しようとしています。

微生物は1ミリメートルの1000分の1のサイズしかないので、肉眼で見ることは出来ず、顕微鏡を使わないと見ることが出来ません。これまでは、10年くらい前までの紅白歌合戦のように、左手にカウンターを持ってカチカチと数えていました。目薬が不可欠な重労働です。これだと疲れてきたら小さな微生物を見逃してしまったり、休憩が必要だったり、なかなか正確なデータを続けてとるのは難しいので、僕らはコンピューターにその代りを務めてもらうことにしました。


僕らの強い味方、微生物細胞自動検出&計数装置、ダイス君です


上の写真が、僕らの頼もしい相棒、微生物細胞自動検出計数装置、「DiCE(ダイス)」君です。彼は文句ひとつ言わず、黙々と微生物を探し、見つけたら数を教えてくれます。しかも全部写真を残してくれるので、何か変なものがあれば後で写真判定もできます。海底下に積もっている泥の粒子と微生物の区別も自分でやってくれ、プロも真っ青の正確なデータがどんどん出てきます。

海底下にはどんな種類の微生物がいて、何をしているのか、どれくらい過酷な環境にまで微生物は耐えることが出来るのか?微生物を見つけてその数を数えること。地味な仕事ですが「千里の道も一歩から」です。

▲このページのTOPへ