Chikyu Report
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細かいことですが・・・2012年08月18日

皆さんは、「ちきゅう」の素晴らしさと巨大な設備が、この掘削調査で使われていることは、これまでの記事で読まれていることと思います。実際に、船上には最先端の機器がたくさんあって、本当に息を飲むようです。でも、ちきゅうでは大きい物だけに最先端のテクノロジーが使われているのではありません。小さく、細かいものにも、日常の生活では使わないような、高度なテクノロジーが使われているのです。今回は、天秤についてお話しようと思います(僕の星座も天秤座だし)。

今日は、この航海で使う数百個の小さいガラス瓶の重さを測りました。「ちきゅう」のラボにある天秤の前で何時間も過ごしたので、天秤と相性のよい友達になったような気分です。

おそらく皆さんは、重さを量る作業だなんて退屈だと思っているでしょう。しかーし!船の上の天秤は最先端のテクノロジーなんです!

ゆれる船の上で、普通の天秤を使ってモノの重さを量ることって、意外に難しいのです。「なに?天秤に測る物をのせて、目盛りが止まるのを待って、重さを読めば良いだけでしょ。」と思うかも知れません。ただ、目盛りが止まらなかったら・・・?

地面やまわりの物が、船みたいにずっとゆらゆらと動いていると、ある瞬間は重くなり、そして次の瞬間には軽くなってしまいます。そのような状況でどうやって小さい物の重さを正確に量ることができるのでしょうか?

答えは、実はとても単純です。天秤を2つ使えばいいんです。 すると、コンピューターのソフトが二つを同期してくれます。一つの天秤には「基準となる」おもりを置き、もう片方の天秤に量りたいものを置きます。つぎに、ソフトのスタートボタンを押すと計測が始まり、船の揺れによる重さの時間変化を1分間記録してくれます。二つの天秤のこの記録をコンピューターが自動的にしばらく計測して、ソフトが重さのばらつきを補正してくれます。測定が終わると、画面に高度に正確で精密な値が現れるのです。この方法は、普段の生活ではおそらく考えもつきませんが、「重さを測る」という単純な問題に対する目からウロコの解決法だと思います。

船の上と陸上では様々な事が違い、特別な解決策が必要です。今回の例はその一つにすぎません。細かいことですが・・・「ちきゅう」に不可欠なノウハウなのです。


気流の影響を防ぐためにガラスケースの中にある二つの電子天秤。
天秤のヨコのモニターの前にあるのは、計量待ちのガラス瓶。


(和訳:星野辰彦 微生物学者・海洋研究開発機構)

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