Chikyu Report
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メタンと微生物、そして火星2012年08月24日

現在の地球の大気にはメタンは高濃度で存在していません。しかし、10億年以上も昔は太陽の光が今よりも弱く、メタンのおかげで地球が凍らずにすんでいた時期もありました。現在は、太陽の光が強いため、大気中のメタンが温暖化物質として問題になっています。

今回の航海での私の研究は、海底下でメタンを食べる微生物を探すことです。微生物は光や酸素がなく、栄養源(食べ物)が著しく欠乏している環境でも生きられるように適応した特殊な能力を有しています。例えば、私が研究しているバクテリアとアーキアという微生物たちは、それぞれが人間と微生物くらい違った生き物であるにもかかわらず、お互いが協力することで生活をしています。しかも彼らは単細胞生物なのに!


「ちきゅう」の微生物ラボに設置されている嫌気グローブボックス。
この中には酸素が存在しないため、海底下深部の微生物にとって好ましい状態で作業が出来ます。


今までの研究から、これらの微生物たちは、一緒に生活して役割を分担することで、メタンを栄養源として生きられるように進化したことが分かっています。しかし、どのように彼らがそれを実行しているのかは、未だ大きな謎に包まれています。

私は、今回の航海で、メタンを好む微生物が存在していると考えられる地層から試料を採取したいと思っています。その試料を研究室に持ち帰り、微生物たちが好みそうな温度、食べ物を与え、ペットのように大事に育ててメタンを食べる微生物を探します。

微生物はとても小さく、食べ物となるメタンも目に見えないので、メタンを食べた微生物を探すために、追跡可能な特別なメタンを使います。この特別なメタンが微生物に食べられて、細胞の一部として取り込まれたら、細胞を構成する原子を少しずつ剥がして、どこにそれが取り込まれたのかを探します(NanoSIMSという装置を使います)。

これら微生物たちは、非常に栄養に乏しい環境に住んでいます。研究室でも、とてもゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと育ちます。ということは、実験がうまくいっているか、それが分かるようになるまで、数か月、ひょっとしたら数年かかってしまうかもしれません。

酸素が無く、栄養源も乏しい環境で、どうやって微生物がメタンを食べるのか。この疑問は地球外の生命を研究している科学者も注目しています。私たち乗船研究者も火星探査車キュリオシティによる調査の進展にも注目しています。キュリオシティによる探査の大きな目的は、火星に生命が存在していた(もしかしたら今も存在しているかも!!)痕跡を探すことです。私の所属しているカリフォルニア工科大学のたくさんの友達や同僚がこのミッションに関わっていて、探査車が火星へ無事に着陸し、地球に送られてきた映像を見て、とても感動しました。

私たちが海底下で生命存在の限界を探すことは、地球外の惑星で、どんな生命の可能性があるのかを推測するのにも役立ちます。この航海でどんなものが見つかるのか、どんな結果をお見せできるのか、とても楽しみにしています。


夜シフト勤務の昼ごはん前に見た美しい日の出


(和訳:諸野祐樹 微生物学者・海洋研究開発機構)

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