調査期間(調査頻度)2013/04/01 - 2014/03/31
毎月1回調査
調査地域・海域
名取川および名取川河口域
調査種別フィールド調査
調査概要1. 名取川河口域におけるアサリの分布密度と漁場環境名取川河口域において、ポンプ採集法により二枚貝を採集し、分布密度を算出した。採集個体の殻長、重量を測定し、有機炭素量、窒素量、及び安定同位体を分析した。漁場の物理環境の特性を明らかにするために、水温塩分分布、底質の粒度組成、含泥率、有機物量の分析を行った。2. 名取川汽水域におけるヤマトシジミの分布密度と漁場環境 名取川汽水域において、ジョレンによる二枚貝採集を行い、分布密度を求めた。採集個体の殻長,重量を測定し、有機炭素量、窒素量、及び安定同位体を分析した。漁場の物理環境の特性を明らかにするために、水温塩分分布、底質の粒度組成、含泥率、有機物量の分析を行った。3. 名取川河口汽水域における二枚貝の現成長実験による生産力の推定現場の生産力を推定するために、ケージ法による成長実験を行った。4.名取川及び広瀬川におけるアユ個体群の資源特性アユ個体群の資源状況を明らかにするために、投網による採集を行い、CPUEを求めた。また、耳石日周輪の解析により、孵化日を推定した。GSI、肥満度を求め、震災前の状態と比較した。
調査結果1.二枚貝の分布密度と環境特性
アサリの資源について
アサリの分布密度は河口に近い下流域の砂質域で高い傾向が見られた。含泥率がたき場所では分布密度が低かった。また、アサリの分布は河川の右岸川にかたよる傾向が見られた。これは、塩分分布が右岸側のほうが高いことと関係があると考えられる。アサリの分ぷ密度は6月では295個体、7月は176個体採集された。9月は4個体、11月は18個体採集された。アサリの殻長組成は、10mm以下の稚貝の割合が高かった。つまり7月までの分布密度からは、再生産、着底までは成功したと考えられる。ところが、9月以降の著しい減少は、アサリの大量死亡が起きたことを示している。 調査時には大量の死貝も採集された。この原因として、夏期の長雨による塩分低下が主な要因と推定された。水温塩分の連続観測計の記録からも、低塩分状態の継続が示されている。7月下旬から8月には降水量が増加していたことに加えて、名取川河口域の地形の変化により、河川水の流出が妨げられ、長期間、淡水が滞留したと予測される。
これらの結果から、アサリ資源の回復に取って、最大の課題は漁場環境の不安定性の解消に向けた対策である。特に今回のアサリの大量へい死を引き起こしたと考えられる低塩分水の滞留メカニズムの解明が重要である。気象、潮汐、地形との関係により規定されているであろう淡水・海水の流入流出特性の解明が求められている。次年度はこの物理環境特性の解明に重点をおきたい。
2.ヤマトシジミ資源について
2014年のヤマトシジミの分布密度は、震災前のレベルかそれ以上にまで回復したことがわかった。ただし、分布域は震災前よりも約1km上流域にシフトした。これは、名取川では地震による地盤沈下により、満潮時の海水の流入範囲が拡大したことによるものと考えられる。地震とそれに伴う津波により、ヤマトシジミの資源量は激減、2年後の調査でも分布密度が低かった。しかし、2年半後の夏期に回復したことは、震災による被害により親貝も激減したが、生き残っていた群の成熟産卵が成功したことによると推測される。3.ヤマトシジミの成長実験について
主な漁場水域でのケージによる成長実験の結果、食物供給条件の違いにより成長速度は著しく異なることがわかった。炭素源としての陸上植物由来の寄与が高い場所において成長速度が高いことが明らかになった。また、室内飼育実験においても微細藻類単独給餌よりも陸上植物と混合給餌のほうが成長は有意に高いことが示され、新たな知見を提示できた。
4.アユ資源について
天然アユ資源の遡上数の指標として,投網一回あたりの採集個体数,CPUEは例年と同様のレベルであった。耳石日周輪から推定した全体の孵化日組成は9月から10月が中心であった。2011年にみられたような早生まれ群の減耗は、2012年以降は確認されなかった。また、成熟過程も例年通りに進行しており、肥満度もむしろ高い傾向が認められている。
これらのことから,早生まれ群の割合の低下は現在はみられず、震災の年に観察された影響が残っている可能性は低いと考えられる。
サンプルの保存:二枚貝類については一部中性ホルマリンによる保存あり,アユについては?30℃冷凍保存サンプルあり