調査期間(調査頻度)2013/04/01 - 2014/03/31
毎月1回
調査地域・海域
主に女川湾、そのほか宮城県沿岸
調査種別フィールド調査
調査概要女川湾では東日本大震災後、微生物環構成生物の現存量が減少しており、海洋生態系が大きく変化した可能性がある。そこで栄養塩濃度、植物プランクトン種組成、動物プランクトン種組成を調査する。さらに女川湾のSt.1では一次生産の測定に加えて、動物プランクトンで卓越するカイアシ類の二次生産、三次生産を測定する。以上の調査より、低次生産層の変化とその原因を究明する。また高次生産に移行する物質量を推定する。女川湾以外の宮城県沿岸域でも栄養塩濃度とプランクトン種組成を調査する。以上の知見から宮城県沿岸域の生態系の回復過程をモニタリングする。
調査地域・海域の座標一覧
位置情報(点) | 名称 | 1 |
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座標値 | 38.44123,141.4586 |
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名称 | 12 |
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座標値 | 38.41193,141.48242 |
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名称 | 16 |
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座標値 | 38.43588,141.4777 |
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名称 | 17 |
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座標値 | 38.43543,141.48842 |
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名称 | 3 |
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座標値 | 38.4295,141.4788 |
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名称 | 6 |
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座標値 | 38.4237,141.52158 |
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名称 | 8 |
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座標値 | 38.42397,141.56317 |
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名称 | 11 |
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座標値 | 38.40182,141.4749 |
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調査地点図・航跡図・座標リスト
調査結果①女川湾
外洋水の流入状況に関しては、4月に親潮水が湾奥まで流入したが以後には観察されなかった。津軽暖流水の流入は6月に湾口まで、8月と翌年2月に湾口の底層に流入しているのが観察された。
DIN(溶存態無機窒素、硝酸+亜硝酸+アンモニア)は4月にやや低濃度で、その後やや回復し7月に各測点とも5 μMを超える濃度となり、8・9月には2 μM以下になる測点も多く見られた。11月には減少し、St. 1を除いて2 μM以下となった。リン酸濃度は4月に最も高く、春のブルームを経て減少し、5?9月までは0.1 μM以下の測点も見られた。10、11月には鉛直混合により下層からリン酸が補給され0.1 μM以下の測点はなくなった。ケイ酸濃度は春季に低く、特に5月に最低であり、全測点で5 μM以下の値であった。これは4月の植物プランクトンのブルームが生じたためだと考えられる。その後回復し7月に最大値を示した。8月以降は全ての測点で5 μM以下になることはなかった。
クロロフィル a濃度はどの測点でも4月と11月にピークがあった。5月と7月を除くと、湾奥から湾口にかけてクロロフィルa濃度は減少する傾向が見られた。
湾奥のSt. 1での一次生産量は表層で高い値を示し、春と夏から秋にかけてピークが観察された。水柱積算値は0.04?0.58 gC m-2 d-1であり、年間では72.7 gC m-2と見積もられた。この値は他の日本沿岸域の値に比べて決して高い値ではなかった。
出現した植物プランクトンの種類は4月のブルーム時にはChaetoceros radicans、C. debilis、C. compressum、Thalassiosira nordenskioeldiiなど典型的な春季ブルーム構成種が優占した。夏季の7月には種不明鞭毛藻、クリプト藻が最も多く、珪藻ではSkeletonema costatum complex、Pseudo-nitzschia sp.、Chaetoceros sp.などが優占していた。11月の増殖時にはChaetoceros debilis、Asterionellopsis glacialis、種不明鞭毛藻、Skeletonema costatum complexなどが優占していた。
震災後、湾奥のSt. 1における繊毛虫類の現存量が低下していたが、2013年になって現存量が回復してきた。
全動物プランクトン現存量は2012年に比較して増加していた。4月から増加し始め、5月には現存量はピークに達し、4測点で100,000 ind. m-3を超えていた。7月までほぼ全測点で高い現存量が観察されたが8月になると湾奥のSt. 1を除いて減少した。11月にSt. 1を中心に増加した後、12月には再び減少した。4月の高い現存量は主にカイアシ類ノープリウス幼生によるもので、他にはPseudocalanus sp.のコペポダイト期、Oithona sp.のコペポダイト期、Oithona similisの現存量が多かった。5月・6月にはカイアシ類ノープリウス幼生が最も多く、有鐘繊毛虫のParafavella denticulata、Calanoidaのコペポダイト期、Clausocalanidaeのコペポダイト期、Oithona spp.などが多かった。11月の増加は主にカイアシ類ノープリウス幼生の増加によるものであった。
カイアシ類による二次生産量は0.02?3.81 mgC m-3 d-1であり、平均値は1.1 mgC m-3 d-1で、相模湾と同様の値だった。カイアシ類の生産量は春?夏の間、一次生産量の増加に続いて増加する傾向が見られた。一次生産量からカイアシ類の生産量への転送効率は0.2%から47.2%の間で変動し、年間の転送効率は11.3%であった。
②女川湾以外の海域
女川湾より北の追波湾、長面浦、雄勝湾では9月の調査時点で、栄養塩濃度は十分あったが、雄勝湾ではDINが2 μM以下であった。女川湾より南の鮫浦でもやはりDINが2 μM以下であった。クロロフィルa 濃度は長面浦で最も高く、9 μg L-1を超える測点もあったが、他の湾では2 μg L-1以下であった。植物プランクトンの優占種はどの湾においても、女川湾と同様にSkeletonema costatum complex、Chaetoceros sp.、Pseudo-nitzschia sp.であった。
全動物プランクトン現存量は越波湾、雄勝湾が最も多く、平均15,000 ind. m-3であった。種組成はカイアシ類ノープリウス幼生、Oithona sp.のコペポダイト期、Calanoidaカイアシ類のコペポダイト期、Paracalanidaeのコペポダイト期が優占していた。
今後も同様の調査を続ける予定である。