調査期間(調査頻度)2013/04/01 - 2014/03/31
プランクトン調査:2013年4月~2014年3月(12回/年)、休眠胞子調査:2013年9月、10月(2回/年)、珪藻調査(年6回)
調査地域・海域
岩手県大船渡湾、越喜来湾、大槌湾
調査種別フィールド調査
調査概要・有毒・有害渦鞭毛藻について大船渡湾、越喜来湾の各2定点において月1回の半定期的な栄養細胞のモニタリングを行った。 ・大船渡湾の15定点において、表層底泥中の麻ひ性貝毒原因渦鞭毛藻休眠胞子の存在量を調べるとともに、存在量の高かった1定点においてその垂直分布を調査した。これらの調査は、岩手県水産技術センターおよび長崎大学の協力を得て行った。 ・大船渡湾と越喜来湾計7定点において、記憶喪失性貝毒生産珪藻の出現および二枚貝の毒性をモニターし、両湾のASP発生ポテンシャルを推定した。 ・震災後分布が確認されていない東日本沿岸7河口域の記憶喪失性貝毒生産Nitzschia navis-varingicaについて、その再出現を調査し、同種の分布拡大機構と関連付けながらその危険性を考察した。
調査地点図・航跡図・座標リスト
調査結果①有毒有害渦鞭毛藻調査
・有毒有害渦鞭毛藻栄養細胞のモニタリングを行った結果、大船渡湾では麻ひ性貝毒及び下痢性貝毒原因渦鞭毛藻、越喜来湾では下痢性貝毒原因渦鞭毛藻の発生を確認した。大船渡湾における麻ひ性貝毒原因種Alexandrium tamarenseの高密度発生を除き、これらの発生時期や分布は震災前とほぼ同様であった。
・シストの水平分布調査では2012年から2013年にかけて底泥表層におけるAlexandrium属の減少傾向が認められた。これには発生した栄養細胞群集が新たなシスト加入に繋がりにくかったこと、あるいは工事等の人為的影響などの関与が考えられた。次に、柱状底泥の含水率等を調べた結果、表層から20 cm程度が津波により攪乱、再沈積した層であると推定された。Alexandrium属のシストはこの層準以浅で高密度に産出した。一方、撹乱層におけるシストの分布は一様でなく、震災後のブルームによる加入群を含む表層だけでなく、複数の算出ピークが認められた。このような現象には複雑な機構の関与が予想されるが、少なくとも津波によって水中に拡散したシストは表層のみに再堆積したのではないことが明らかとなった。
②記憶喪失性貝毒原因珪藻調査
・大船渡湾2定点のネットサンプルから海水1L当たり20-170pg(9, 10月)、越喜来湾5定点のネットサンプルから8-31pg(6, 9, 10月)のDAが検出された。また大船渡湾10月試料からは震災後初めてP. multiseriesを3株分離した。同種の毒生産特性として、定常期後期の急激なDA生産が知られているが、今回分離した株はそれ以前に死滅するため毒生産能は平均0.64±0.38pg/cell(DA100%)と低かった。そのためか、同種の発生が小規模なためかは不明であるが、大船渡湾垂下のホタテガイ(6, 9, 10, 2月)および越喜来湾垂下のホタテガイ、ムラサキイガイ(11, 12, 1, 2月)からDAは検出されなかった。
・N. navis-varingicaの分布調査の結果、昨年同種が確認された大槌河口からは多数の株が分離された。震災後同種が見つかっていなかった河口のうち大船渡盛河口では、震災以前より約1km上流で同種が分離された。地盤沈下により汽水域が上流に移動した結果と考えられた。さらに、昨年出現が確認されなかった日立、市原河口からも同種が分離され培養実験で毒生産が確認された。毒組成は、震災前と同様DA-少量IB(高毒性)タイプであった。これらの来源としては、1)津波で流出しなかった株が増加、2)外洋から流入、3)底泥中のシストの発芽などが考えられるが、今後検討が必要である。