調査期間(調査頻度)2014/04/01 - 2015/03/31
2014年7月、10月
調査地域・海域
調査種別フィールド調査
調査概要女川湾内に設定した7つの調査地点で、海図水深0 mを基点とし沖に向かって長さ100mあるいは深さ10 mに至るまでの調査ラインを設置し、水深1mごとの各水深に1m×1mの方形枠を10枠設置する。枠内のキタムラサキウニの密度と殻径組成調査および年齢査定用のサンプル採集を10月に行い、ライン近傍でホンダワラ類葉上動物サンプルの採集を7月に行う。また、このうち地点Aでは、7月に枠内の海藻被度調査と小型巻貝類サンプルの採集も行う。7月、10月ともに生物調査時に水質の鉛直分布の計測と、砂泥の堆積している地点では分析用砂泥の採取を行う。
調査地域・海域の座標一覧
位置情報(点) | 名称 | St. A |
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備考 | ライン基点 |
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名称 | St. B |
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備考 | ライン基点 |
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名称 | St. C |
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備考 | ライン基点 |
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名称 | St. D |
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備考 | ライン基点 |
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名称 | St. E |
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備考 | ライン基点 |
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名称 | St. F |
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備考 | ライン基点 |
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名称 | St. G |
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備考 | ライン基点 |
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調査結果①キタムラサキウニの個体群動態と海藻相の変化:
キタムラサキウニは2014年10月にはほとんどの地点で殻径5cm前後にモードをもつ個体が優占していた。地点平均密度(個体 / m2)について昨年度までのデータとあわせて経時変化を調べたところ、地点Aでは2011年級群が出現した2012年9月以降に著しく増加して2014年には約17~18個体となった。しかし、他の地点でそれほど著しい増加は見られず、2014年10月時点で多くても約5個体であった。地点Aにおける水深別の密度は、水深0~4mの浅所において経時的に著しく増加し、2012年2月には0.8個体(地点平均値)だったのに対し、2014年には約15~35個体を記録した。日本各地における本種の生息密度に関する既存の知見でも30個体以上は極めてまれであり、本地点での劇的な密度増加が明らかになった。
さらに、地点Aにおける2012年9月・2013年7月・2014年7月の海藻相のデータを解析したところ、タクサの数はすべての水深で、多様度指数H’は水深0m以外で、2012年より2013年・2014年が低かった。また、20タクサを用いた主成分分析の結果、2012年にはすべての水深でエゾノネジモクやアラメなどの大型褐藻を含む葉状海藻群落の植生を有していたが、2013年には水深2m以深、2014年には水深1m以深で無節サンゴモからなる荒地の植生を強めたことが示された。このうちエゾノネジモクは、2012年9月には水深8mまで生育が認められていたが、その後分布水深が浅所へと著しく縮小し、2014年7月には水深0mにのみ生育した。これらのことから、地点Aでは震災後に大量に加入したキタムラサキウニの摂食活動により藻場が崩壊していると考えられる。
②葉上動物:
女川湾で2012年3月・9月・12月、2013年3月・7月・2014年7月に得られた葉上動物サンプルの群集組成の解析から、震災後初めての加入となった2012年春以降の葉上動物群集の変遷過程を明らかにすることができた。葉上動物の春期の加入密度は、震災後1年目に比べて2年目に増大した。多様度が夏期に上昇するパターンは各年に共通であった。震災後の女川湾葉上動物群集データを震災後の志津川湾データと併せて、震災前の環境省全国調査データと比較してみると、震災後の群集の方が密度は高く多様度は低い傾向があった。この傾向は、震災によって密度低下の影響を受けた葉上動物群集が回復過程にあって、日和見種の早期加入によって生じたものであると考えられる。海水温の上昇に伴って多様度の増大する全体的な傾向は、遷移過程を通じて多様度が上昇することを示しており、これはホンダワラ類の葉上動物群集における一般的特性かもしれない。