岩手県南部海域の岩礁域・護岸壁の生物相モニタリング

実施年度

2015

タイトル

岩手県南部海域の岩礁域・護岸壁の生物相モニタリング

課題・テーマ

課題1 漁場環境の変化プロセスの解明
代表機関:東北大学
テーマ5 岩手県南部海域における海洋環境の現状調査
代表者加戸 隆介
所属機関北里大学
所属部署海洋生命科学部

調査内容

調査期間(調査頻度)
2015/04/01 - 2016/03/31
吉浜湾の岩礁域では年1回目視調査、 越喜来湾の崎浜岸壁および大船渡湾の上平岸壁では年3回、水中カメラ調査を実施。
調査地域・海域
吉浜湾舟作海岸、越喜来湾崎浜第2防波堤、大船渡湾上平岸壁、大船渡湾清水岸壁
調査種別
フィールド調査
調査概要
本調査は、東日本大震災が潮間帯植物、動物の生物相に与えた影響とその後の回復過程を把握することを目的として、吉浜湾の岩礁域では年1回目視調査、大船渡湾の港湾桟橋壁面では隔月で水中カメラ調査を実施する。

調査実施内容

調査地域・海域の座標一覧
位置情報(点)
名称吉浜湾舟作海岸
座標値39.116607,141.873105
名称越喜来湾崎浜第2防波堤
座標値39.098891,141.859768
名称大船渡湾上平岸壁
座標値39.04535,141.724442
名称大船渡湾清水岸壁
座標値39.039608,141.735933
調査結果
1. 吉浜湾舟作海岸における潮間帯生物相の変化 吉浜湾の舟作海岸における震災後の潮間帯生物相について海産植物は2014年6、8月、海産無脊椎動物は4〜7月に調査を実施した。調べた生物相について過去の生物相情報と比較した結果、 1)植物相では、震災前の出現種38種に対して、震災後1年目は14種、2年目は17種、3年目は23種、4年目の2015年では20種となり、震災後に著しく減少した植物種数はその後増加しつづけたが、震災前の半数に留まっている。 2)動物相では、カニ類を除く潮間帯中・上位の頻出種についてみると、震災前(1998-2008年)では25種であったのに対し、震災後1年後は22種、2年目は20種、3年目は20種、4年目は24種となり、ほぼ震災前まで回復をみせた(表1)。 表1 岩手県吉浜湾の潮間帯に出現する動植物種数の震災前後の比較 (植物は潮間帯全域の全種数、動物は潮間帯中・上部の頻出種数)         震災前          震災後              2012   2013   2014   2015 海産植物        38種     14種   17種   23種   20種      2001-2005年  (6月)  (6月) (6月) (6月) 海産無脊椎動物        25種     22種   20種   20種   24種      1998-2008年   (4-8月)(4-8月)(4-7月) (4-7月) 2. 防波堤壁面における潮間帯生物相 人工壁面上での群集の遷移過程は場所により大きく相違した。湾の閉鎖性が高く、露出度が低く、岸壁付着生物群集の多様性が元々低かった大船渡湾(上平)の場合、震災前の潮間帯は外来種のキタアメリカフジツボによる寡占状態であった。震災と津波により湾口防波堤の倒壊したことにより、地盤沈下(約90cm)後の岸壁面に元の群集構成種(キタアメリカフジツボ>>シロスジフジツボ)に加え、湾外の群集構成種が加入した群集が震災3年後には形成され、その後ほとんど変化していない。但し、キタアメリカフジツボの一種優占状態は震災後も変わっていないと判断された。 これに対して、閉鎖度の低い露出度の高い防波堤(越喜来湾崎浜)では、津波によるキタムラサキウニの密度低下により、チシマフジツボを開拓種とする潮間帯生物相が4月以降に形成されはじめ、この種の上に加入したムラサキイガイの2種を優占種とする多層の潮間帯生物群集が2年後には形成され、むしろ震災以前の多様性の乏しい「ウニ平原」状態から脱した。しかし、キタムラサキウニ密度のその後の増加により、徐々に群集多様性は減少し、2015年には震災以前よりもむしろ低い多様性に変化した。ほとんどの種が減少する中、震災後に現れた外来種のP. perforatus(ナンオウフジツボ)は潮間帯下部から潮下帯上部に定着し、増加傾向が認められた。 3. 外来種ナンオウフジツボの分布および生活史  震災後に太平洋岸に現れた外来種ナンオウフジツボについて東北北部において分布調査を実施した。その結果、秋田県沿岸にはごく普通に出現した。しかし、青森県津軽海峡の陸奥湾沿岸には少数出現したが、青森県の太平洋側ではほとんど発見できなかった。また、北海道の函館港、江差の観音寺漁港では低密度ながら生息が確認された。一方、大槌湾、越喜来湾には青森県太平洋岸に比べて出現頻度は高かった。これまでの分布状況を考慮すると、本種は日本海側から自然分散によって太平洋側に分布拡大しているとは言えず、台船のようなベクターが太平洋側への分布拡大に関与していると考えられた。 中間評価  岩礁潮間帯域の生態系は海藻相に関しては、まだ震災の影響を残しているが、動物相においては種数の回復をみせた。 一方、内湾域の潮間帯生物相に関しては、湾口防波堤の存在した閉鎖性の高い大船渡湾と露出度の高い越喜来湾では様相が異なった。湾口防波堤が倒壊した大船渡湾では、優占種は変わらないものの港外の種の加入がわずかにみられた。湾口防波堤は2016年度には完成を迎えることから、今後の生物相変化に注目する必要がある。露出度の高い越喜来湾に関しては、震災後に一旦増加した多様性と生物量が震災3年目以降、減少し続けている。ウニ密度の増加、肉食性腹足類の増加が疑われるが、ムラサキイガイに覆われていたチシマフジツボの生残状況が確認できていないため、チシマフジツボを付着基質とする群集の脱落原因は定かではない。その中で、震災後2年目に潮間帯下部に侵入した外来種のナンオウフジツボだけが微増し続けている。他種が減少する中、本種が生き残れる理由についても明らかにする必要がある。加えて、この種は元々地中海に広く分布する種であることから温帯から亜熱帯種とされており、冷温帯域である東北太平洋岸でも定着を果たしていることを考えると、復興工事に携わっていた日本全国から東北太平洋岸の被災地域に派遣されてきた台船およびタグポートに船体付着した本種がいた場合には、復興工事後の母港への帰港時に、寄港地において幼生を放出することで国内分散する可能性も否定できない。今後、日本全国の港湾において、本種の出現に十分注意を払う必要があると考える。

調査項目と取得データ

調査項目取得データ・サンプル
吉浜湾舟作海岸の植物相・動物相調査潮間帯動・植物の種組成リスト
越喜来湾の岸壁生物相の遷移調査越喜来湾崎浜第2防波堤での水中ビデオ画像、主要種の分布密度vs水深
大船渡湾の岸壁生物相の遷移調査大船渡湾上平岸壁での水中ビデオ画像、主要種の分布密度vs水深
水質調査(大船渡湾)水温、塩分、DO (大船渡湾:上平&清水)

関連情報

実施(調査)窓口担当者

担当者名加戸隆介
所属機関北里大学
所属部署海洋生命科学部

キーワード

実施年度2015
機関北里大学
調査種別フィールド調査
海域区分三陸南部
分野海洋物理 -> 水温
海洋物理 -> 塩分
海洋化学 -> 溶存酸素
海洋生物・生態系 -> 生物分類
海洋生物・生態系 -> 生態
海洋生物・生態系 -> 対象生物:海藻
海洋生物・生態系 -> 対象生物:節足動物
海洋生物・生態系 -> 対象生物:軟体動物