調査期間(調査頻度)2016/04/01 - 2017/03/31
毎月1回
調査地域・海域
宮城県名取川河口域
調査種別フィールド調査
調査概要震災後の名取川河口域における内水面漁業の資源生物(アサリ、ヤマトシジミ、アユ)の資源状態の把握と漁場環境特性を解明し、漁業の立て直しをサポートする
1. 漁場の物理環境特性(水深、水温、塩分)解明のためのモニタリングを実施する
2.アサリ個体群の資源状態(分布密度、加入状況、サイズ組成)の解析と生態的特性の解明
3.ヤマトシジミ個体群の資源状態(分布密度、加入状況、サイズ組成)の解析と生態的特性の解明
4.天然アユの遡上状態のモニタリングと生態的特性の解明
調査結果1. 物理環境について
河口の地形は震災2年後くらいから海砂の河道への侵入が顕著になり、河口の狭隘化が進行していたが、2015年6月からの砂州の掘削工事により、8月以降には河口部の地形が震災前の状態に近づいてきた。
底質の含泥率は、2014年より2015年の方が低くなり、2016年にはさらに低下傾向が確認され、高含泥率の範囲が減少した。塩分については、潮汐に対応した塩分の変化が認められるようになり、満潮時においても海水流入がなかった期間は、2016年は最長3日間程度であった。砂州掘削前の2014年には河川流量の増大に伴い1週間程度持続していた低塩分状態は見られなくなった。
このように、2015年に実施された砂嘴の掘削、導流堤の修復等により海水の定常的な流入が維持されるようになり、アサリにとって良好な環境条件を取り戻しつつあると考えられる。
2. アサリ資源について
アサリの採集個体数が最近3年間で最も多くなり、分布範囲も拡大した。昨年までのアサリの分布密度の10倍以上であった。しかし、2016年11月・12月の採集調査ではアサリの分布密度が低下した。ただし、昨年11月の結果と比較するとアサリの分布密度は高く、殻長20mm以上のアサリ成貝も多数確認され、下流域についてはアサリの生息に適した環境に回復している可能性が示唆された。
名取川河口汽水域に生息する主な二枚貝の多くは懸濁物食者である。ヤマトシジミ、アサリ、イソシジミ3種の炭素・窒素安定同位体比解析の結果、ほとんど重なりがなく、これら3種の食物は異なっていると考えられ、食物をめぐる競争関係は弱いと考えられた。
3. 天然アユ資源について
天然アユの遡上状況は例年とほぼ同じレべルであった。孵化月は全期間を通して9月から10月の個体が多かった。
日齢と体長は弱い正の相関が確認できたが、同じ地点、同じ日齢の個体間で最大60mmの差異が見られた。したがってアユ個体群の体サイズは河川の遡上にともなって成長しているが、個体間でその差異が大きいことが明らかになり、広瀬川におけるこれまでの研究結果と同様の現象が認められた。
採集日ごとの各地点のアユの炭素・窒素安定同位体比から、合流点ではδ13C の値が低く、上流側でのδ13C の値は高い傾向が見られた。これは、河川付着藻類の炭素安定同位体比が海産微細藻より高いことを反映している。
同じ場所で同じ調査日に採取された同一日齢の個体間でδ13Cの値を比較すると、体長の大きいものほどδ13C が高い傾向が認められた。
以上の結果から、遡上の早い段階で食性を河川の付着藻類へ切り替えるほど成長に有利に働いていると考えられた。