平成18年7月27日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京工業大学

太平洋プレートの屈曲に伴う新しいタイプの火山の発見

1.概要
   海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部変動研究センター(IFREE:センター長 深尾良夫)、東京工業大学(学長 相澤 益男)等の共同研究グループは、平成16年6月、海洋調査船「かいれい」による北西太平洋域における調査(図1)において、三陸東方沖約800km、水深6,000mの海底火山の岩石試料を採取しました。その後、平成17年5月にも調査航海を行い、これらにより採取した試料およびデータから考察した結果、この海底火山は、太平洋プレートが屈曲することによってできた亀裂に沿ってマグマが浸み出すことにより形成された新しいタイプの火山であると考えられました。
    この結果は、7月27日(米国:日本時間28日)に米国科学誌サイエンス電子版に掲載されます。

2.背景
    地球上の火山活動は、主に次の3つのタイプに分類されると考えられてきました。1)太平洋中央海膨や大西洋中央海嶺におけるプレート※1形成域火山活動、2)日本列島等の島弧沈み込み帯域におけるプレート収束域火山活動、3)ハワイ、ポリネシア等のホットスポット※2におけるプレート内火山活動。
    今回発見された海底火山は、日本海溝に沈み込むことにより太平洋プレートが僅かに屈曲するために、プレート下に広がるアセノスフェア※3から少量のマグマが噴出したものと考えられ、上記の3つのどのタイプにも属さない新しいタイプの火山と考えられます。類似の深海底火山はハワイホットスポット周辺のプレート屈曲部で発見されていますが、これまでホットスポット活動の一部と考えられてきました。

3.発見に至る経緯と成果
    平成9年11月、海洋調査船「かいれい」および無人探査機「かいこう」による調査において、一億三千万年前に形成された太平洋プレート上に約6百万年前に噴出した新しい溶岩(玄武岩試料)を発見しました。
    上記の発見を元に、平成15年6月より、同海域での総合調査を実施しました。これは、太平洋プレートの動きを6百万年分元に戻した地点において、現在も噴火活動が続いていることを予測して調査を実施したもので、小規模な火山群を確認し、平成16年6月には、その内一つの火山から新しい火山岩を採取することに成功しました。
    平成17年5月には「しんかい6500」潜航調査により岩石試料の採取および火山の観察を行いました(写真A、B)。さらに、「かいれい」によるシングルチャンネル反射法音響探査※4によって海底堆積物に貫入した溶岩の様子を確認しました(図3)。
    上記調査で採取した岩石試料の解析および調査航海によって得られたデータを元に、この火山の形成要因を考察した結果、日本列島の下に沈み込む太平洋プレートが、プレートの沈み込む速度がプレートの移動速度より遅くなるために、日本海溝から約600km沖合で屈曲することによって上部に細かい亀裂ができ、その結果、太平洋プレートの下のマントルから少量のマグマが浸み出されることにより噴火したものと考えられます(図4)。

4.意義と今後の発展
    プレートテクトニクス説ではアセノスフェアは海洋プレートの下に地球的規模で広がる部分融解帯とされて来ましたが、最近の学説ではアセノスフェアが部分融解状態にあることが疑問視されています。既知の3つのタイプの火山のうち、今回発見された火山と同様にプレート内の火山活動であるホットスポットでは、マントルが地球深部からの上昇に伴い減圧されることによってマントル物質が融解しマグマを発生すると考えられ、1ヶ所に大規模な火山が形成されます。しかし、今回発見された火山では、太平洋プレートの屈曲部の幅400kmにわたり小規模な火山群が形成されています。これは、ホットスポットとは異なり、マントル上昇流は伴わず太平洋プレートが屈曲することによってできた亀裂に沿って、アセノスフェアから少量のマグマが浸み出すことにより形成された新しいタイプの火山であると考えられます。これは、アセノスフェアが部分融解していることを示すものとして極めて注目されます。また、本調査海域はこれまで火山や地震などの活動が起こっていない静穏な場所と考えられていたため、このような場所で新しいタイプの火山を発見したことは、世界の他の海域においても同様の火山が見つかる可能性を示唆しています。さらに、同火山の溶岩は、太平洋プレート深部(下部地殻からマントルまで)の岩石断片を捕獲岩※5として包有している(写真C)ことから、古い海洋プレートの構造・発達史を理解する上でも重要です。加えて、水深6,000mの深海底調査は困難を伴うことから、今回の成果は、日本の高い海洋調査技術水準を示すものとしても極めて貴重な発見と言えます。
    今後は、採取した岩石試料の分析・解析を更に進め、海洋プレートの構造を明らかにすると共に、平成17年に実施した海底電位磁力計によるマントル深部構造の解析を急ぎ、来年度以降も引き続き地殻熱流量測定等の調査航海を実施し、プレートモデルの検証を行う予定です。

※1 プレート:地球表層を覆う堅い岩盤のことで、海洋プレートは、上部約5kmの厚さの地殻とその下のマントルの最上層から構成されており、数十kmから100kmの厚さをもつ。ほぼ同義語としてリソスフェア(岩石圏)と呼ぶこともある。
※2 ホットスポット:マントル深部に固定した高温の熱源部分。そこから生じる高温のマントル上昇流がマグマを形成し、真上のプレートに火山活動が生じるといわれている。
※3 アセノスフェア:プレートの直下で粘性の低いマントル部分を指す。固体の岩石であるにも関わらず、粘性が低いために流動性があり、ゆっくりとプレートを乗せて動いていると考えられる。
※4 シングルチャンネル反射法音響探査:エアガンにより発信した音波(地震波)が比較的浅い海底や地層境界で反射され、海面に戻った音波を調査船から曳航している受信ケーブルで受信し、その記録を解析することにより海底下の構造を調査する方法。
※5 捕獲岩:火山岩中に取り込まれている別種の岩石。マグマが地下深部から上昇する際に火道壁を崩して取り込んだものと考えられる。

お問い合わせ先:

(本発表文について)
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地球内部構造研究プログラム
海洋底観測研究グループ 研究員 阿部なつ江 電話:046-867-9329
研究推進室
室長 楢木 暢雄   電話046-867-9590
東京工業大学
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東京都目黒区大岡山2−12−11 電話03-5734-2338
*現住所:IGPP, Scripps Institution of Oceanography
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