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プレスリリース

2014年 1月 30日
独立行政法人海洋研究開発機構

次世代カメラシステムによる超深海映像の撮影に成功

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)、海洋工学センター海洋技術開発部の小栗一将、後藤慎平、ならびに海洋・極限環境生命圏領域の布浦拓郎主任研究員らは、大深度用小型無人探査機「ABISMO」を用いたマリアナ海溝での調査において、世界で初めてとなる水深7900mでの4K(※1)カメラ映像の撮影に成功しました(図1)。

今回の撮影は、高い画質が特徴の4Kカメラと制御回路などを、水深8000mの圧力に耐える国産小型ガラス球(※2)内に収めた新たなマルチ4Kカメラシステムを開発することで実現しました。本システムは、制御回路との通信を無線通信(Wi-Fi)により行うことで、コネクターなどによる探査機との接続が不要な独立したシステムとなっており、自律型無人探査機(AUV)や海底地震計(OBS)をはじめとするさまざまな探査機や観測装置に取り付けることができます。これまで専用探査機でしか行えなかった映像撮影が手軽に行えるようになり、調査機会を格段に増やすことが可能です。また、撮影のタイミングや間隔をプログラムにより制御することで、海底に設置して深海生物や沈降粒子(マリンスノー)などの日周期変化や季節変化を長期的に観測するなど、目的にあわせた多様な撮影を行うことができます。

本システムにより鮮明な深海生物の映像を撮影することで、これまで明らかにされていなかった深海生物の生態を解明することが期待されます。また、詳細な海底地形の映像は、震源地の調査にも貢献すると考えられることから、今後はさらなる性能向上に取り組んでいく予定です。

2.背景

数千メートルを超える深海の調査では、限られた潜航時間の中でできるだけ多くの情報を取得する必要があります。特に、深海生物の生態や生息環境、複雑な海底地形などの状態を詳しく知るには、より高精細な映像・画像による観察が重要です。現在の探査機による水中での映像観察はハイビジョン(画素数1920×1080)が主流であり、詳細な生物の画像撮影にはスチルカメラが多く用いられてきました。しかし、静止画像だけでは生物の微細な動きを把握することは難しく、一方でハイビジョン映像ではスチルカメラに比べ画質が約1/10であり鮮明な映像が撮影できないという問題がありました。また、ハイビジョン映像はデータ量が大きくケーブル通信が必要であることから、システム全体が大型化し搭載できる機器にも制限がありました。このことから、高精細な深海映像を撮影ができる小型で利便性の高いシステムの開発が望まれてきました。

3.成果と今後の展望

今回JAMSTECでは、ハイビジョン映像の4倍の画質を有する4Kカメラ(画素数3840×2160、比較画像は図1参照)による海底観察を可能とするマルチ4Kカメラシステムを開発しました(図2)。

このシステムは、水深8000mの圧力にも耐える国産13インチガラス球の内部に市販4Kカメラ、制御基板、電源用バッテリーを搭載しており、外部からの電源供給や複雑な制御を必要としない独立したシステムです。撮影開始時刻の設定などはガラス球越しにWi-Fi通信で行われます。

2014年1月、このシステムを大深度用小型無人探査機「ABISMO」のランチャー、及びビークルに取り付けマリアナ海溝で稼働試験を行ったところ(図3)、水深7900mで高精細映像を取得することに成功しました。4Kカメラが超深海の様子を捉えたのは今回が世界初となります。また、水深7600mでは底生生物が活動する様子の撮影にも成功したほか(図4)、外部からの電源供給を必要としないことから、これでまで困難だった探査機の投入から揚収までの高精細映像の取得にも成功しました。

本システムは、ガラス球にコネクター等を接続する必要がないため、通信ケーブルやマニピュレータを持たないAUVなどの探査機のほか、特定の観測に特化してきたOBSやマルチプルコアラ―などの観測装置などあらゆるタイプの探査機や観測装置に容易に取り付けることができます(図5)。また、撮影された映像はカメラ自身に記録されるため、船舶側に光ファイバー通信設備など特別な受信設備を持つ必要がなく、これまで以上に水中での撮影機会を増やすことができます。さらに、撮影開始のタイミングや撮影間隔などの設定を変更すれば、海底環境の日周期変化や季節変化などの長期観測撮影にも対応することが可能です。

本システムの開発により、さまざまな場面においてより高精細な映像を取得できるようになり、まだ明らかにされていない深海生物の生態解明や海底地形の調査に大きく寄与することが期待されています。今後はガラス球以外の小型容器等にも格納できるよう、システムのさらなる小型化を図り、カメラ機能拡張による性能向上を目指して研究開発に取り組んでいく予定です。

※1 4K:ハイビジョン映像の4倍の画質を有する次世代高画質映像規格。

※2 国産小型ガラス球:フリーフォール型深海探査シャトルビークル「江戸っ子1号」にも使用された岡本硝子㈱のガラス球。「江戸っ子1号」はJAMSTECが協力、東京の中小企業が中心となって開発したもので、平成25年11月に実海域試験を実施し、世界初となる超深海での3D映像の撮影に成功した。

図1
図1 4Kカメラ映像のキャプチャ画像(写真左)と画質の比較(写真右)
(カメラシステムを取り付けた「ABISMO」着水の瞬間。右は船体文字の拡大画像)
図2
図2 4Kカメラと制御基板等を組み込んだガラス球(封入前)
図3
図3 「ABISMO」ビークルに取り付けられた4Kカメラシステム
(黄色の球体)
図4
図4 水深7600mにて撮影された深海生物(画面キャプチャ)。
(上)ミズムシの仲間(等脚類)、(下)ゼノフィオフォア(有孔虫の仲間)。
図5

図5 マルチ4Kカメラシステムの搭載可能機器。Wi-Fi通信による独立したシステムのため、さまざまなタイプの探査機・観測機器に搭載可能。

【参考映像】次世代カメラシステムによる超深海映像の撮影に成功

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海洋工学センター 海洋技術開発部
先進計測技術グループ 小栗 一将
海洋基盤技術グループ 後藤 慎平
海洋・極限環境生命圏領域 深海・地殻内生物圏研究プログラム
深海・地殻内生命圏システム研究チーム
布浦 拓郎
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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