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プレスリリース

2015年 7月 17日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

「ちきゅう」の掘削孔を用いた長期孔内観測データ提供システムの公開を開始
―海溝型地震の発生メカニズム研究を促進へ―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)は、ホームページ上にて長期孔内観測データ提供システムの公開を開始しました。

長期孔内観測データは、東南海地震の想定震源域である紀伊半島沖熊野灘の海底下の掘削孔に設置した長期孔内観測システム(※1図1)によって取得される歪、傾斜、温度、圧力、地震波等の観測データで、同海域において展開・運用している地震・津波観測監視システム(DONET)(※2)を通じてリアルタイムで受信しています。この地域は東南海地震の震源域(固着域)の浅部境界の真上に位置しており、超低周波地震と呼ばれる微小地震活動が観測されることから、長期孔内観測システムは将来の大地震・大津波の発生予測研究に対して重要なデータを提供出来る可能性があります。

DONETで受信した長期孔内観測データは、長期孔内観測データ提供システム(※3)から準リアルタイムでダウンロードできるようになり、DONETデータと併せて広く研究・行政・教育等への利用が期待されます。(図2

2.背景

JAMSTECは、国際深海科学掘削計画(IODP)(※4)による「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(NanTroSEIZE:Nankai Trough Seismogenic Zone Experiments)を紀伊半島沖熊野灘にて実施しています。この計画では、繰り返し発生する南海トラフの巨大地震の震源域を掘削することで、地震発生帯の海底下構造や変動履歴を解明するほか、将来の東南海地震の発生が想定される海底下の断層の近傍での地震・地殻変動の連続的観測・監視の実現も大きな目標としており、掘削孔内にセンサーを埋め込んだ「長期孔内観測システム」の構築に取り組んでいます。

その一環として、平成22年12月、地球深部探査船「ちきゅう」により掘削した紀伊半島沖のC0002地点(水深1938m、図1)において、海底下約1000mに達する掘削孔内の約780-980mの深度に複数のセンサー(歪計、傾斜計、温度計、間隙水圧計、広帯域地震計など)を設置しました。そして平成25年1月にそれらセンサーをDONETに接続し、観測システムで取得したデータ(歪、傾斜、温度、圧力、地震波等)をリアルタイムで受信することに成功しています。地震断層の観測を目的として孔内に設置した地震・地殻変動等のセンサーを海底ケーブル観測網に接続し、リアルタイムでデータを取得する取組は世界初となります(平成25年2月5日既報)。

以降、観測データはDONETにて常時受信していますが、今後、東南海地震震源域で発生することが想定されるゆっくり滑り現象などを含む地震・地殻変動現象の国内外の研究者による速やかな分析検討を促進するために、設置した長期孔内観測システムから得られた観測データをWebを通じ公開することとし、長期孔内観測データ提供システムを構築しました。この提供システムでは、DONETで受信した長期孔内観測データを準リアルタイムでダウンロードすることができます。

3.データの意義

東南海地震の震源域においては、DONETでは海底面に埋設した地震計・水圧計による観測が行われています。これまでの陸上観測よりもはるかに小さな地震活動などが検出されるようになり、震源域の様子が詳しく分かってきました。一方で海底面はほとんどの場所が厚い軟弱な堆積物に覆われており、センサー近傍での水の流れ・温度変動もあるため、観測センサーがその影響を受け、精度の高い地殻変動現象の検出は難しい課題となっていました。

今回データ公開を行う「長期孔内観測システム」は、深部のより安定な地盤にセンサーが固定されるため、海底の水の流れ・温度変動の影響を受けず、人工ノイズが少なく、より地下深部の断層の動きに即した精度の高い地震・地殻変動観測データの取得が可能となります。加えて孔内では、海底で測定することのできない地中の間隙水圧、温度分布を同時に計測しているため、地震・地殻変動と地中の流体の状態や動きとの関係を分析することが可能になると期待されます。海底下の巨大地震を起こす断層の滑り方には、断層付近の流体の状態が大きく影響していますが、本データは、断層付近の地下流体の振る舞いを、地震・地殻変動との対応を含め直接実測しているという点で重要です。

また、長期孔内観測システムでは、孔内の地震計の設置状態が安定しているため、制御震源による地下構造探査を孔内の地震計に対して繰り返し行うことによって、震源域を含む深部の地殻構造の時間的な変化を検出できる可能性があります。これは、地下の断層における地震発生切迫度の変化を反映している可能性があるため、JAMSTECでは長期孔内観測システムとDONETの観測網を使った繰り返しの深部構造探査実験を始めているところです。

長期孔内観測システムから得られたデータをDONETの海底面での観測データと合わせ活用することにより、地震準備過程における微小地震活動や地殻変動、またそれらの地殻活動に伴う地震断層周辺の流体の挙動に関する研究が可能となり、海溝型地震発生メカニズム解明に資する知見の獲得が期待されます。本データを国内外の研究者へ公開することで、そのような研究が一層促進することを期待しています。また研究面での活用に加えて、広く行政・教育等への利用も期待されます。

4.今後の展望

NanTroSEIZEでは、今後、同海域の他地点(C0010地点他、図1)においても長期孔内観測システムを設置することを予定しています。これらの観測システムについてもDONETへの接続を進め、提供システムからデータ提供を行う予定です。

※1 長期孔内観測システム

統合国際深海掘削計画(IODP)第332次研究航海(平成22年10月~12月)において、地球深部探査船「ちきゅう」により掘削した紀伊半島沖のC0002地点(水深1938m)において、海底下約1000mに達する掘削孔内の約780-980mの深度に複数のセンサー(歪計、温度計、間隙水圧計、広帯域地震計)を設置した観測システム。DONETを通じて観測データを受信する。

※2 地震・津波観測監視システム(DONET:Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis)

文部科学省補助事業により、東南海地震の想定震源域である紀伊半島沖熊野灘に設置した海底ネットワーク観測システム。東南海地震を対象としたリアルタイム観測システムの構築及び地震発生予測モデルの高度化等を目的とする。各観測装置から得られるリアルタイムデータは気象庁、防災科学技術研究所等に配信されており、そのうち2つの地震計データは、気象庁の緊急地震速報でも利用されている。

※3 長期孔内観測データ提供システム

任意の期間やセンサー情報を指定し、長期孔内観測システムから得られた各種データをダウンロードすることができるシステム。
URL: http://join-web.jamstec.go.jp/borehole/borehole_top.html

※4 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、日本、米国、欧州(18ヶ国)、中国、韓国、豪州、インド、NZ 、ブラジルの26ヶ国が参加。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。平成15年(2003年)〜平成25年(2013年)までの10年間は、日・米が主導国となって統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)というプロジェクト名称で実施されていた。

図1

図1 DONETでの長期孔内観測システム位置図と長期孔内観測システムのセンサー構成図
長期孔内観測システムは、図中のC0002(尾鷲市から南方90kmの沖合、水深1938mの地点)に設置している。全長約1000mの観測システムで、深度980mの部分の間隙水圧計、深度900mから920mの部分の歪計、広帯域地震計、傾斜計、深度830mから780mの部分の温度計のセンサーから構成されている。

図2

図2 長期孔内観測データ提供システム

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(長期孔内観測システムについて)
地震津波海域観測研究開発センター 企画調整グループ
グループリーダー 満澤 巨彦
地震津波海域観測研究開発センター 海底観測技術開発グループ
グループリーダー代理 荒木 英一郎
(長期孔内観測データ提供システムについて)
地球情報基盤センター 地球情報技術部
部長 坪井 誠司
(報道担当)
広報部 報道課長 松井 宏泰
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