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プレスリリース

2016年 2月 9日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
日本電信電話株式会社

地球シミュレータとエッジコンピューティングを活用した
階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究に着手
~海洋地球インフォマティクスとエッジコンピューティングで超スマート社会の実現へ~

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)と日本電信電話株式会社(代表取締役社長:鵜浦博夫、以下「NTT」)は、地球シミュレータ(※1)とエッジコンピューティング(※2)を活用した階層・分散ネットワーク型気象予測システムの共同研究を開始します。

本共同研究は、JAMSTECが現在開拓を進めている「海洋地球インフォマティクス」構想およびNTTが開拓を進めている「エッジコンピューティング」構想のコラボレーションにより新しい社会的価値とサービスを創出するための取組みとして位置づけられます。地球シミュレータに代表されるような大規模計算機システム上で培われてきた予測技術とエッジコンピューティング技術からイノベーションを創出し、第5期科学技術基本計画に謳われている「超スマート社会」の実現に貢献するための基礎技術開発を進めます。

2.背景

近年、地球温暖化や都市化に伴うヒートアイランド現象などの影響により、局所的な集中豪雨(いわゆる「ゲリラ豪雨」)や猛暑などの極端な気象現象の頻発傾向や激甚災害の危険にどう対応していくかが社会的に大きな課題となっています。

JAMSTECでは、地球シミュレータ上で大気と海洋を結合した予測シミュレーションモデル(MSSG: Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment、※3、以下「MSSG」)の開発を行ってきました。MSSGは、全球から日本周辺などの領域スケール、さらにはビル等の建物を解像した都市・街区スケールまでの詳細な予測計算を階層的に高速かつ精度よく実施することができます。このことは、局所的な大雨や突風、日照時間などの社会的に要請が高い詳細予測情報を提供できる高いポテンシャルがあることを示しています。

NTTでは、ユーザやスマートフォン、様々なセンサーなどの通信機能を搭載した端末に近いネットワークのエッジに計算資源となるサーバー(エッジサーバー)を分散して配置し、様々なアプリケーションが必要とする処理を高速に行うエッジコンピューティング基盤技術の研究開発を行ってきました。従来のクラウド側や端末だけでは実現できなかった新たな価値の創出を目指しています。IoT(Internet of Things)の加速度的な発達で生じる厖大なデータを発生源近くのエッジサーバーで処理することで効率的に利用することも可能となりました。

両者のコラボレーションは、エッジコンピューティング技術を高度な予測技術と組み合わせることで、予測結果と個人、企業、社会の要求に基づいてIoTを制御し利便性や安心・安全を向上する「超スマート社会」を目指す営みとなります。例えば、ゲリラ豪雨や猛暑が予測される際に交通やエネルギー供給などの都市活動を最適化したり、激甚災害時の防災・耐災のための装置の最適配置や制御を行う、などです。個人に対しては、次の週末のしたいこととお天気情報をミックスして個人にジャストフィットするような予定情報を提供したり、豪雨や突風を回避して安全安心に移動する経路とタイミング情報を提供できるなどの可能性があります。

エッジコンピューティングとスーパーコンピューティングによる階層的な高速処理により、様々な要求によりフィットする解析と予測を提供できる可能性があります。さらには、得られたデータと情報をもとに、センサーの測定方法や測定頻度の変更、センサーの移動や新たなセンサーの追加を行い、測定の密度を修正・強化していくことで、スパイラル的に新たなデータや情報、価値の創出が図れるとも考えています。

3.本共同研究の概要

本共同研究は、双方の強みを活かし、さらに新たな社会的価値を創造するためにスーパーコンピュータ上で鍛えられた予測シミュレーション技術とエッジコンピューティングおよびネットワーク通信技術を融合し新たなイノベーションの創生を目指すものです。

具体的には、各地域に分散配備されたエッジサーバー上において、周辺のセンサー群からのリアルタイム観測データを活かした局所的な気象予測システムの技術開発を行います。このような地域分散型気象予測の精度向上のために、既存の気象観測データに加えて、急速に増加が見込まれるIoTデバイス、たとえば定点カメラ映像や家電が持つセンサーから気象に有用な情報を抽出して利用することも検討します。各エッジサーバーは多様な局所データを取り入れて局所的な予測計算を行い、さらに複数エッジサーバーの結果を解析統合することで、計算ネットワーク上としては異なる階層に属する地球シミュレータなどのスーパーコンピュータ上での広域気象予測の精度向上にも活用する双方向予測情報システムの構築を目指します。

これらのシステムで得られた予測情報は、私たちの身の回りの多様なデバイスへ自動配信することができるようIoTを活用した新しい利用形態の実現やサービスも視野に入れ、新しいデータと情報をヒトやモノに提供し、人々の生活に役立つ新しいイノベーション技術および新しいサービスアイテムを併せて検討します。

本共同研究において開発する、エッジコンピューティングと次世代気象予測の総合システムの有効性を、モデル地域での実証実験を実施することによって検証する予定です。実証実験では、有用なIoTデバイスを持つ様々な組織にコラボレーションを広げて進めていきます。

図1

図1.本共同研究の概要イメージ

4.今後の予定、展開の方向性

今後3年間(平成31年3月末まで)の予定で技術研究開発を進め、最終的にはモデル地域における実証実験を実施し、有効性や可能性を検証してまいります。

政府は、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)において、「超スマート社会」の実現を目指しています。「超スマート社会」とは、「必要なもの・サービスを必要な人に、必要なときに、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢・性別・地域・言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことの出来る社会」のことです。本システムは、気象予測情報を活用した「超スマート社会」のひとつの未来像として、冒頭に述べた気象災害への対応をはじめとして、暮らしに役立つ様々なサービスを提案していきます。

(参考)

本共同研究の詳細は、2016年2月18日~19日に開催するNTT R&Dフォーラム2016において、ご紹介いたします。
「NTT R&Dフォーラム2016」サイト http://labevent.ecl.ntt.co.jp/forum2016/info/

≪用語解説≫

※1 地球シミュレータ(図2
地球シミュレータは2002年3月に、地球温暖化を始めとする気候変動の解析・将来予測、地震や地球内部変動の解明等、世界に類を見ない「人類的課題に挑戦できる世界最速のスーパーコンピュータ」として運用を開始しました。特に気候変動研究分野では、温暖化予測実験に広く利用され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書作成に大きく貢献しました。また、その高い計算能力は、材料開発、輸送機器改良、デバイス開発、医薬品開発など、最先端の産業分野にまで広がり、従来のシミュレーション研究では到達出来なかったレベルの成果が発表されました。
そして、2009年3月の最初の更新を経て2015年3月、地球シミュレータにとって2度目となるシステム更新を行いました。地球科学分野のシミュレーションを行う能力は、これまでの約10 倍となります。
これにより、従来では難しかった複雑なパラメータを扱うシミュレーションや、より大規模なシミュレーションを高速に行うことが可能となり、地球環境問題の解決や地殻変動、地震発生機構の解明や津波被害の予測等への更なる貢献が期待されています。

図2

図2:「地球シミュレータ」

※2 エッジコンピューティング構想(図3
エッジコンピューティング構想は、端末機器のみでデータを処理するのではなく、端末に“近い設備”でデータを処理することにより、端末の負荷を軽減し、リアルタイム性を要求するサービス(ゲーム、交通制御など)やサーバーとの通信の頻度・量が多いデータ処理など、新たな領域のサービスの実現を目指した構想です。本構想に基づき、すでにWebコンテンツの処理をサーバーと端末間で分散処理することでブラウザ性能向上と機能拡充を図る「分散型Web実行プラットフォーム技術」を商用サービスに提供しています(2015年8月27日 報道発表『「ひかりTV」のインターネットブラウザがクラウド対応』)。NTTでは、本構想の実現をめざし、WebやIoTに向けたプラットフォームとして研究開発を推進しています。

図3

図3: エッジコンピューティング構想

※3 大気海洋予測シミュレーションモデル(MSSG)
気象や気候現象は、様々な時空間スケールの現象が複雑に相互作用を及ぼしあって成り立っています。そのため、世界規模、アジアや国程度の地域規模、都市などの局所的な規模に合わせてそれぞれ特有の現象を考えてシミュレーションを実施する必要があります。MSSGは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」上で開発された、異なるスケールを途切れなく扱うことを可能にした最先端の大気海洋予測シミュレーションモデルです(図4)。MSSGを使うことで、局所的な大気の状態をシミュレーションできることから、地上から見た雲の様子を可視化することも可能になります(図5)。

図4

図4:スケールの異なるシミュレーションの概念図
地球規模から、国規模、そして都市内のビルの間を通り抜ける風環境まで、
さまざまな視点からのデータがシミュレーションから得られる。

図5

図5:MSSGモデルにより得られたシミュレーション結果を元に作成した雲画像

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本内容について)
地球情報基盤センター 企画調整室長 園田 朗
(報道担当)
広報部 報道課長 松井 宏泰
日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
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