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プレスリリース

2016年 5月 20日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

数値シミュレーションで2011年東北地方太平洋沖地震前後の観測を再現
―宮城県沖地震の再来間隔が短くなる可能性を示唆―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)地震津波海域観測研究開発センターの中田令子特任技術研究員らは、2011年東北地方太平洋沖地震(マグニチュード(M)9.0)と、その前後の大地震(M 7前後)を対象とした日本海溝域における地震発生サイクルの数値シミュレーションを行いました。その結果、東北地方太平洋沖地震前後の観測をある程度再現する121のシナリオを見出しました。それらのシナリオにもとづくと、M9クラスの地震が発生してからM7クラスの宮城県沖地震が発生するまでの時間間隔は、M9クラスの地震発生前の宮城県沖地震の平均再来間隔の半分より短くなる場合が多いことを指摘しました。

本研究では、3次元のプレート形状を用いて、M9クラスの地震だけでなくM7クラスの地震(前震・最大余震 を含む)や余効すべり(※1)を半定量的に再現可能であることを示し、多様な地震発生シナリオを検討するうえで重要な知見となると考えられます。

本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に5月10日付け(日本時間)で掲載されました。

なお、本研究のシミュレーション結果は、文部科学省による委託業務「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として、JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を利用して得られたものです。

タイトル:Possible scenarios for occurrence of M~7 interplate earthquakes prior to and following the 2011 Tohoku-Oki earthquake based on numerical simulation
著者:中田令子1、堀高峰1、兵藤守1、有吉慶介1
1. 海洋研究開発機構

2.背景

宮城県沖では、1978年宮城県沖地震(M7.4)のような地震が30~40年の再来間隔で繰り返し発生しています。2011年1月の時点では、地震調査研究推進本部によるM7.5前後の30年以内の地震発生確率は99%でした。観測データの解析結果から、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震時に、宮城県沖地震の震源域で、過去の宮城県沖地震時よりも大きなすべりがあったことがわかっています。過去の宮城県沖地震震源域内のすべり量の収支だけに着目すると、少なくともこれまでの再来間隔と同程度の年数が経過するまでは、同規模の地震は発生しないと考えられます。しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震時には、過去の宮城県沖地震震源域を含めた広い領域で大きくすべっているため、単純な問題ではない可能性も考えられ、今後どのように応力(※2)の蓄積・解放過程が進むのかはわかっていません。したがって、2016年1月の時点では、地震調査研究推進本部は宮城県沖で今後30年以内にM7.4前後の地震が起こる確率を「不明」としています。

3.成果

そこで、研究グループでは、宮城県沖でのM7クラスの地震発生準備過程として、M9クラスの地震が発生した後どのように応力の蓄積・解放が進むかを明らかにするため、地震発生サイクルの数値シミュレーションを実施しました。日本海溝での構造探査にもとづいて設定された3次元のプレート境界面上に、過去のM7クラスの地震の震源域を円で単純化したモデル(図1)を仮定し、JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って大規模計算を実施したところ、日本海溝域におけるM7クラスとM9クラスの地震発生の繰り返しを半定量的に再現することができました(図2図3)。このモデルの場合、宮城県沖におけるM7.1~7.4の地震の平均再来間隔は約54年、M9.1の地震の再来間隔は約770年でした。この他にも多数のモデルを仮定して計算し、得られたシナリオを詳しく解析したところ、同様の特徴をある程度再現できた121シナリオのうち60%以上のシナリオで、M9クラスの地震が発生してから次の宮城県沖地震が発生するまでの時間間隔は、M9クラスの地震発生前の平均再来間隔の半分よりも短いことがわかりました(図4)。これらは、M9クラスの地震の余効すべりによって宮城県沖での応力蓄積が速まったためと考えられます(図5)。

4.今後の展望

本成果では、3次元のプレート形状を用いて、多数のモデルで日本海溝域におけるM7クラスとM9クラスの地震発生の繰り返しを半定量的に再現しました。こうして得られた多数のシナリオでは、2011年東北地方太平洋沖地震によって宮城県沖地震の発生が早まる可能性が指摘されています。さらに、本成果による知見を踏まえて、地震発生準備過程の特徴を理解し今後の推移を予測するためには、すでに固着している領域があるか、応力がどの程度蓄積しているかなどを海域観測から把握することも必要であると言えます。また、防災・減災の観点から、宮城県沖だけでなく、余効すべりが生じている領域でのM7 クラスの地震の発生可能性について想定に入れておく必要もあると考えます。

研究グループでは今後、日本海溝や南海トラフなど、海域で発生する地震に対する防災・減災に向けて、数値シミュレーションによる過去の事象の再現の高度化を進め、様々なモデルで多様な地震発生シナリオの検討を続けていきたいと考えています。

※1 余効すべり
地震直後に生じるゆっくりとしたすべり。

※2 応力
プレート境界面に作用する単位面積当たりの力。震源域の応力が破壊強度より高くなったときに地震が発生すると考えられている。

図1

図1 計算に用いた摩擦パラメタの分布例。(a)A-B (MPa)。(b)特徴的すべり量L。A-B < 0(青)やLが小さい(橙~白)場所では地震性の高速なすべりを起こしやすく、A-B > 0(赤)やLが大きい(黄緑~青)場所ではゆっくりしたすべりが起きやすい。5つの円形パッチでM7クラスの地震の震源域をモデル化し、地震が起きやすい摩擦条件を仮定している。黒い点線で囲った部分は、M9クラスの地震を再現するために、周囲よりはやや不安定な摩擦条件を仮定した。円や黒い点線部分の面積、A-B < 0の部分の値、Lの小さい部分の値などを少しずつ変化させて、121モデルを作成した。

図2

図2 数値シミュレーションで得られたM9.1の地震によるすべり分布(暖色)と、それによる約3年間の余効すべりの分布(青線)。

図3

図3 数値シミュレーションで得られたM9.1の地震前後のすべり速度分布。(a)M9.1の地震が発生する13日前。赤色の部分でM7.4の地震(前震)が発生している。(b) M9.1の地震が発生する12日前。前震の余効すべり(黄緑色)が南に伝播している。(c)M9.1の地震の破壊開始のころ。(d)M9.1の地震による破壊が宮城県沖まで到達したころ。(e)M9.1の地震による破壊が福島県沖まで到達したころ。(f)M9.1の地震の最大余震(M7.0)が茨城県沖で発生。(g)M9.1の地震の3.5年後。緑色の部分が余効すべり、青色の部分が固着している状態を示している。

図4

図4 121モデルから得られたシナリオにもとづいた、次の宮城県沖地震発生時期。横軸はM9クラスの地震が発生した後に宮城県沖でM7クラスの地震が起きるまでの時間間隔(T1)と、M9クラスの地震が起きる前の200年間に起きたM7クラスの宮城県沖地震の平均再来間隔(T2)との比(T1/T2)。左の縦軸とヒストグラムで、T1/T2=0.1毎のモデルの数を示す。右の縦軸と折れ線グラフで、累積のモデル数を%で示す。ヒストグラムの赤色と白色、折れ線グラフの赤色と灰色は、数値シミュレーションの際に仮定した条件の1つ(地震波の放射によるエネルギーの減衰を近似するダンピング係数)が異なることを意味している。多くのモデルにおいて、宮城県沖地震の発生がM9クラスの地震によって早まることを示すシミュレーション結果が得られた。

図5

図5 (a)数値シミュレーションで得られたM9.1の地震発生後から3年間の、宮城県沖地震震源域における応力、強度、すべり速度の時間変化。(b)M7.3の宮城県沖地震発生後から3年間の、宮城県沖地震震源域における応力、強度、すべり速度の時間変化。(c)(a)で示したM9.1の地震発生から1年後のすべり速度の空間分布。緑色の部分では余効すべりが起きていて、青色の部分は固着していることを示している。赤い×印は(a)の時間変化を示した点。(d)(b)で示したM7.3の宮城県沖地震発生から1年後のすべり速度の空間分布。

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
地震津波海域観測研究開発センター 特任技術研究員 中田令子
地震津波海域観測研究開発センター グループリーダー 堀高峰
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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