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プレスリリース

2016年 11月 30日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人鹿児島大学
国立大学法人京都大学

昭和東南海地震以降初めての中規模プレート境界地震発生過程をとらえた
-リアルタイム観測網の統合的データ解析-

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地震津波海域観測研究開発センターの荒木英一郎主任技術研究員、鹿児島大学大学院理工学研究科の小林励司准教授、京都大学防災研究所地震予知研究センターの木下千裕博士課程大学院生らは、テキサス大学、ペンシルバニア州立大学等と共同で、2016年4月1日に三重県南東沖で発生したマグニチュード(Mw)6.0の地震発生プロセスの解析を行い、南海トラフの東南海地震想定震源域としては72年ぶりに発生したM6以上のプレート境界地震であることを明らかにしました。これは、地震発生域近傍で地震・津波観測監視システム(※1、以下、「DONET」という。)と、長期孔内観測装置(※2)が展開されており、得られた地震・地殻変動・津波の連続観測データと、これまでの海底下構造探査の結果を合わせた統合解析を行ったことによるものです。

DONETの海底観測網と長期孔内観測を統合した高精度観測網によって、今回初めて、南海トラフの海底下プレート境界での地震発生・海底地殻変動と津波発生の複雑な過程をとらえることができました。今回の地震がプレート境界で発生したことは、この地域で1944年の東南海地震後、歪蓄積が進行していることを示しており、震源域近傍での海底地殻変動を高精度で注意深く監視する必要性を示しています。

今後、DONETの海底観測網と長期孔内観測などによるリアルタイムの海底観測技術をさらに発展させ、掘削や構造探査による高度なプレート境界震源断層構造の理解と合わせることによって、海底地殻変動や地震活動の状態と推移を把握し、東南海地震をはじめとする南海トラフの地震の発生メカニズムや予測研究の高度化に貢献していきたいと考えています。

本研究成果は、科学誌「Journal of Geophysical Research」に11月18日付けで掲載されました。

タイトル:Near-field observations of an offshore Mw 6.0 earthquake from an integrated seafloor and sub-seafloor monitoring network at the Nankai Trough, southwest Japan
著者:L.M. Wallace1, E. Araki2, D. Saffer3, X. Wang4, A. Roesner5, A. Kopf5, A. Nakanishi 2, W.4 Power4, R. Kobayashi6, C. Kinoshita7, S. Toczko2, IODP Expedition 365 Science party

1 Institute for Geophysics, University of Texas, Austin, Texas, USA
2 海洋研究開発機構
3 Department of Geology, Pennsylvania State University, USA
4 GNS Science, Lower Hutt, New Zealand
5 MARUM, University of Bremen, Germany
6 鹿児島大学
7 京都大学防災研究所

2. 背景

南海トラフ沿いでは、M8クラスの巨大地震が歴史的には100年から150年の間隔で起きています。直近では1944年に東南海地震、1946年に南海地震が発生し、約70年が経過しています。政府の地震調査研究推進本部では、南海トラフでM8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率を60~70%としており、現在は次の巨大地震が起こる前段階にあるものと考えられています。このような状況の中、南海トラフで繰り返し起こる巨大地震がどのようなメカニズムで発生しているのか、そして現在はどのような状況にあるのかを知るために、南海トラフ巨大地震の想定震源域で、JAMSTECをはじめ国内外の各機関、研究組織は共同して(1)震源域の構造・状態を明らかにするための地殻構造探査(2)震源域の物質・状態を明らかにするための掘削調査(コアリング・ロギング)(3)震源域の物質・状態・構造の時間変化を明らかにするための海底観測網および掘削孔内観測装置の開発・設置の取り組みを進めてきました。

そういった状況の中、2016年4月1日(11時39分)に三重県南東沖においてMw6.0の地震が発生しました。

3.成果

2016年4月1日の地震は、三重県南東沖約50kmの海底下約10km(図1及び図2)で発生しました。この地震の震源の上を覆うように、DONETが展開されており、また、震央から南東方向へ25-35kmの場所では、国際深海科学掘削計画(※3、以下、「IODP」という。)南海トラフ地震発生帯掘削計画(NantroSEIZE)の一環として地球深部探査船「ちきゅう」によって設置された、2か所(C0002及びC0010)の掘削孔内観測装置による観測が行われていました(図1)。これらにより、地震発生時とその前後の期間の震源域近傍での様々な海底観測データ(DONETによる地震・海底水圧)、掘削孔内観測による海底下の間隙水圧データが得られました。なお、C0002の掘削孔内観測データは、孔内に設置した長期孔内観測装置が2013年からDONETに接続されているため(2013年2月5日既報)、地震発生時にリアルタイムで取得されたものです。一方、C0010の掘削孔内観測データは、2010年から設置されていた(DONETには未接続)簡易型孔内観測装置を、この地震の発生直後のIODP 第365次掘削航海実施中に回収して取得したものです。

震源域から離れた陸上での観測結果に基づく解析だけでは、この地震がプレート境界で起こったのか、そうでないのかが明らかでないことから、海底および掘削孔内で得られた近接観測データに、これまでJAMSTECが中心となって実施してきた海底下地殻構造探査の成果も加えて統合的な解析を実施しました。その結果、

1)
4月1日のMw6.0地震前後を含む一連の地震の詳細かつ精密な活動状況(震源分布)をDONETの海底地震計のデータと海底下構造探査から得られた高精度な構造モデルに基づき決定しました。その結果、プレート境界面近傍に地震活動が集中していることが明らかとなりました(図2)。
2)
DONETの水圧計によって、地震によって海底面の震央近傍で1.7 cm程度の沈降、沖合で数mmの隆起をしていることがわかりました。また、震源域の沖合の2ヵ所のIODP掘削孔内観測で得られた海底下の間隙水圧上昇の変動観測結果から、地震によって地殻が、C0002で0.37μ(100万分の0.37)、C0010で0.15μ(100万分の0.15)ずつ、それぞれ圧縮されていることが明らかになりました(図3)。これらの観測結果を複数の地震滑りのモデルと比較検討した結果、本震では、震源分布で見られたのと同様にプレート境界面の地震滑りをしていると判断すべきであることが分かりました。
3)
DONETの水圧計では、地震直後に震央付近で高さ2cm程度の小さな津波が発生し、津波が周囲に伝わっていく様子が明らかになりました。この津波もまた、プレート境界面で地震滑りをした場合の予測と合致する観測結果でした。
4)
掘削孔内の間隙水圧は、本震時に2kPa急上昇し、その後も2日間にわたってさらに30%程度、上昇を続けました。これは本震後も滑りが継続したことを意味しています。また、本震後に遅れて、震源から10km程度離れた場所の余震活動が活発化したことは、本震後周囲のプレート境界面がゆっくりと滑っている可能性を示唆しています。このことは、本震震源がゆっくり滑りを起こす領域と深部の固着域の間の遷移域で発生したことを示しているものと考えられます(図4)。1944年東南海地震では数mの大きな滑りが発生している領域でもあることから、更なる詳細な観測が必要です。

4. 今後の展開について

今回、東南海地震の震源域のプレート境界面で中規模な地震が発生したことは、この地域では1944年の東南海地震後に歪蓄積が進行していることを示しています。今回の複雑な地震の発生経過は、震源域近傍での海底地殻変動の状況を高精度で注意深く監視する必要性を示しています。また、その実態にDONETの海底観測網と長期孔内観測を結合した高精度観測網からのデータによって迫りうることが示されました。来る巨大地震発生前の経過を見逃さず、監視することが強く求められます。

東南海地震の想定震源域においては、本年3-4月に実施した地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第365次航海によって長期孔内観測装置の2基目が設置され、同6月には、DONETへ接続されました。これによりリアルタイムの掘削孔内での地殻変動観測を続けており、今回の成果は、海底と掘削孔内での観測の重要性を示したものといえます(2016年7月7日既報)。

JAMSTECでは、今後、本研究結果から得られた知見も踏まえ、東南海地震をはじめとする南海トラフの地震の理解と発生予測の高度化に貢献するため、下記のような取り組みを進めていきます。

1)
地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画(NantroSEIZE)を通じ、地震発生プロセスの科学的理解と地震津波減災に貢献していきます。これは、国際的にも重要な取り組みと考えられており、IODPにおいても全会一致で奨励されています。
2)
既設のDONETの海底観測網や長期孔内観測装置による東南海地震想定震源域とその周辺での地震・地殻変動の観測と解析を継続するとともに、南海トラフの地震発生帯広域での、掘削孔内の観測やその他の手法によるリアルタイム海底地殻変動観測の高度化に取り組んでいきます。得られる現場の地殻変動データと、南海トラフの海底下の震源断層の高精度探査による海底下のより詳細な構造と合わせた地震発生のモデルを構築していくことによって、南海トラフ等での巨大地震発生過程の理解に大きく貢献していきたいと考えています。

※1 地震・津波観測監視システム(DONET)

海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、JAMSTECが開発し南海トラフ周辺の深海底に設置した地震・津波観測監視システム。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400mの海底に設置した「DONET1」は2011年に運用を開始している。また、紀伊水道から四国沖の水深1,100~3,600mの海底に設置した「DONET2」は2016年3月末に整備を終了した。各観測点には強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン、精密温度計が設置され、地殻変動のようなゆっくりした動きから大きな地震動まで様々な海底の動きを観測することができる。

DONETは、DONET2の完成をもって2016年4月に国立研究開発法人防災科学技術研究所へ移管された。DONETで取得したデータは、気象庁等にリアルタイムで配信され、緊急地震速報や津波警報にも活用されている。

※2 長期孔内観測装置(Long Term Borehole Monitoring System)

IODPの掘削孔において、地震断層の直接モニタリングを実施し、巨大地震発生過程の解明、地震発生時におけるリアルタイム情報提供に資することを目的とした観測システム。複数センサー(温度センサー、歪計、広帯域地震計、傾斜計、高感度地震計、強震計、圧力ポート)を設置固定したもの。

1基目であるC0002地点の長期孔内観測装置は、2013年1月に海洋調査船「かいよう」による研究航海においてDONETに接続し、現在リアルタイムでデータを取得している(2013年2月5日既報)。2016年4月に地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第365次研究航海において、紀伊半島沖のC0010地点の海底下651m に達する孔内に、2基目の長期孔内観測装置を設置した(2016年4月28日既報)。
http://www.jamstec.go.jp/cdex/j/developtec/holeobserb/ltbms/

※3 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

2013年10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、海底下生命圏等の解明を目的とした研究を行う。なお、本プロジェクトは2003年10月から2013年まで実施された統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)から引き継いでいる。

図1

図1 (右上)調査海域図。黒線は、1944年の昭和東南海地震(黒い星が本震)の滑り量を0.5m間隔で示した[Kikuchi et al., 2003]。赤い星とビーチボールは2016年4月1日三重県南東沖の地震の震央とそのメカニズム解を示す。赤い破線で囲まれた領域は、超低周波地震が観測された領域[Ito and Obara, 2006]。(左下) 1944年昭和東南海地震震源域におけるDONETの観測点配置。C0002とC0010(紫色の三角)はIODPにより長期孔内観測装置が設置された掘削孔。赤色の円は、2016年4月1日の三重県南東沖の地震(Mw6.0)を含む前後の地震で、円の大きさの違いはマグニチュードの大きさの違いを表す。破線に沿った地下の断面図を図2に示す。

図2

図2 2016年4月1日の三重県南東沖地震とその余震分布をP波速度構造断面に重ねた図
(上段)および本震発生後からの地震活動経過図(下段)
(上段)構造断面の位置は図1の破線部分に対応。縦軸は海水面からの深さ(km)を表す。
緑色の三角はDONET観測点の投影位置を示す。数値はP波速度を示し、0.5km/秒間隔に等速度線を示す。黒線は断面近傍の反射法地震探査記録断面から解釈されたプレート境界面をここに示す速度構造で深さに変換した位置を示す。円は三重県南東沖の地震(Mw6.0)を含む前後の地震で、円の大きさの違いはマグニチュードの大きさの違いを表す。
(下段)構造断面の測線の北西端から30kmまでの距離範囲における地震活動。縦軸は本震の発生時刻からの経過時間を示す。

図3

図3 2016年4月1日の三重県南東沖地震前後の孔内間隙水圧変化
(A)地震前後約2日間の掘削孔C0002の水圧変化、(B)(A)のグレー領域を拡大した図。赤線は掘削孔C0002での圧力変化、青線は掘削孔C0010での圧力変化を示す。 なお、C0010の簡易型孔内観測装置は、地震の数時間後に回収されたため、上段の図(A)には示していない。

図4

図4 南海トラフ域の沈み込むフィリピン海プレート境界面の性質を表す模式図
2016年4月1日の三重県南東沖の地震は、M8級巨大地震発生域の上限付近で、中規模の不安定すべり領域を破壊したものと考えられる。言い換えれば、浅部低周波地震現象が特徴的に見られる条件付き安定領域の下限付近で発生していると考えられる。安定から不安定すべり領域の遷移域で、今回の2016年4月1日のようなM6規模の地震を起こす領域が存在していることが示唆される。


昭和東南海地震以降初めての中規模プレート境界地震発生過程をとらえた
-リアルタイム観測網の統合的データ解析-
(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター
海底観測技術開発グループ
主任技術研究員 荒木 英一郎
国立大学法人鹿児島大学大学院理工学研究科
准教授 小林励司
国立大学法人京都大学防災研究所 地震予知研究センター
大学院博士課程3年 木下千裕
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 野口 剛
国立大学法人鹿児島大学
広報センター 係長 中馬 秀治
国立大学法人京都大学
企画・情報部広報課 国際広報室 菊地 乃依瑠
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