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2016年 12月 8日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

上部マントルの底付近で横たわるスラブが下部マントルへ突き抜ける前兆
―2015年5月30日小笠原諸島西方沖深発地震が示唆すること―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球深部ダイナミクス研究分野の大林政行主任研究員らは、2015年5月30日小笠原諸島西方沖で深さ約680kmという異常に深い震源で発生したマグニチュード7.9の地震(小笠原超深発地震)を

地震波トモグラフィー(※1)モデルが示す沈み込んだ太平洋プレート(スラブ、※2)の形状変化と小笠原超深発地震の位置関係
小笠原超深発地震とその余震の分布と地震から推定される地震発生時に働いた力の関係
過去のスラブ内深発地震が引き起こした周囲の変形がスラブに与える影響

の観点から解析し、深さ660kmで上部マントル-下部マントル境界の上にほぼ水平に折れ曲がっている太平洋スラブは折れ曲がり部分から下部マントルへ突き抜け、小笠原超深発地震はその突き抜け開始を告げる号砲と考えられることを示しました。今後、小笠原付近では、沈み込むスラブから小笠原超深発地震を結ぶほぼ垂直な深発地震面が発達していくことが予想されます。

この成果は、ほぼ水平に横たわるスラブがどのように下部マントルへ突き抜けを開始するか示したもので、プレートの全地球規模の運動を考える上で重要な鍵となります。

本研究は、JSPS科研費JP25287116、JP25247074の助成を受けて実施されたものです。

なお、本成果は、英科学誌「Earth and Planetary Science Letters」電子版に12月5日付けで掲載されました。

タイトル:Unusually deep Bonin earthquake of 30 May 2015: a precursory signal to slab penetration?
著者:大林 政行1、深尾 良夫2、吉光 淳子1
1.JAMSTEC地球深部ダイナミクス研究分野、2.JAMSTEC地震津波海域観測研究開発センター

2.背景

日本付近で沈み込む太平洋プレートは深さ660 kmの上部マントル-下部マントル境界の上でほぼ水平に横たわっている(スタグナント(滞留)スラブと呼ぶ)ことが過去の地震波トモグラフィーによる研究から分かっています。上部マントル-下部マントル境界はマントルを構成する岩石の相構造が変化する境界(※3)で、この相変化がスラブを下部マントルへ沈み込むのを妨げるバリアとして働いていると考えられています。一方で環太平洋の沈み込み帯で沈み込んだスラブを調べるとマリアナなどスラブが下部マントルへ突き抜けて下部マントルの最上部深さ1000km付近で滞留している場合があることも分かっています。日本付近で見られる上部マントル-下部マントル境界上のスタグナントスラブは最終的には下部マントルへ突き抜けると考えられていますが、どのように突き抜けが開始されるかは分かっていません。

2015年5月30日20時24分頃、小笠原諸島西方沖、深さ約680kmを震源とするマグニチュード7.9の地震が起きました。この地震は過去の深発地震面から東へ深く離れた場所に位置する珍しい地震でした。小笠原スラブ内の過去の深発地震(図1白丸)は高速異常スラブのほぼ中心、最も冷たい部分に沿って起きています。小笠原スラブは水平に横たわっていますが、その折れ曲がりに対応して深発地震の分布もカーブしています。今回の小笠原超深発地震(図1赤丸)は、過去の震源のラインから大きく外れて深く、ブーツのように見えるスラブ断面で「かかと」部分に位置しています。なぜこのような過去の地震分布から外れた深い地震が起きたかを調べるため小笠原超深発地震の解析を行いました。

3.成果

大林政行主任研究員らが求めたP波速度トモグラフィーモデルGAP_P4を基に沈み込んだ太平洋プレートの形状変化を調べると(図2)、小笠原超深発地震が起きた南小笠原(E-H)はスラブが横たわっている北小笠原(A−D)とスラブが下部マントルへと突き抜けている北マリアナ(I-H)との間の遷移的な位置にあり、南小笠原では横たわるスラブの「かかと」部分が北から南へ次第に深くなっています。小笠原深発地震はほぼ鉛直な圧縮軸を持つ震源メカニズムを持ちますが、本研究の解析で最大余震も同様な震源メカニズムを示し、本震と余震はこの圧縮軸に平行でほぼ鉛直に分布していることが分かりました(図3)。これは、これらの地震がほぼ鉛直な圧縮力が成長した結果発生したことを示します。過去の深発地震が引き起こす周囲の変形を計算した結果、変形はスタグナントスラブの「かかと」部分を「土踏まず」部分に比べ押し下げ、「かかと」部分がより深く成長するのに一役買っていることが分かりました。過去の深発地震が示す圧縮軸の傾きは小笠原超深発地震のすぐ北から南へなだらかな角度(赤)からほぼ鉛直な急角度(グレー)へ急激に変化していて、急角度の圧縮軸の延長線上に小笠原超深発地震が位置しています(図4)。図5は圧縮軸方向の変化をイラストで示したものです。北小笠原ではスラブは横たわり、それに伴い圧縮軸の方向も緩やかな角度へとカーブします。南小笠原南部は「かかと」部分が下部マントルへ突き抜けていて、圧縮軸がほぼ垂直に「かかと」部分へと向かう方向を示します。南小笠原北部はこれら緩やかな角度へとカーブする圧縮軸とほぼ垂直方向の圧縮軸が共存する場所でした。小笠原超深発地震は垂直方向の圧縮軸がより深くへと成長し、「かかと」部分にほぼ鉛直な圧縮力が蓄積された結果、発生したと考えられます。ここでは沈み込むスラブ内に働く力が横たわるスラブには伝わらず、「かかと」部分に伝わり始めたことが示唆され、小笠原超深発地震はスラブが下部マントルへ突き抜ける前兆と考えることができます。

本研究は、スタグナントスラブが「かかと」部分から下部マントルへと突き抜ける前兆と考えられる地震を示した、世界で初めての研究結果です。スタグナントスラブから下部マントルに突き抜けるスラブへの転換は表層の海洋プレート運動に大きな影響を与えると考えられます。本研究結果は海洋プレート運動や地球内部のダイナミクス、そして地球46億年の歴史の解読へとつながることが期待されます。

4.今後の展望

今後、全世界でトモグラフィーによるスラブの形状と地震のメカニズムを比較することでスラブ深部の運動の変化の発見につながることが期待されます。そのためにはグローバル、特に海洋域で長期海底地震観測によるトモグラフィー解像度向上が必要です。また今回の解析結果を踏まえたスラブ沈み込みプロセスに関するシミュレーションによる検証が期待されます。

※1 地震波トモグラフィー
地震波の到達時間や波形から、地球内部の3次元地震波速度構造を求める手法。

※2 スラブ
沈み込んだ海洋プレートはスラブと呼ばれる。

※3 マントルを構成する岩石の相構造が変化する境界
深さ660 kmで上部マントル物質はより密度の高く硬い下部マントル物質へ相変化する。この相変化は温度の低いスラブ内ではより深くで起こる。小笠原超深発地震の深さは約680kmであるが、スラブ内で深くなった相境界より浅い、上部マントル物質のスラブで起きたと考えられる。スラブが下部マントル物質へ相変化した時を「スラブが下部マントルへ突き抜ける」と定義される。

図1

図1  (A) P波トモグラフィーモデルGAP_P4の東西方向断面(Bの赤実線)。P波伝搬速度の等深平均からのズレを色で表示し、青、赤はそれぞれ高速異常、低速異常を表す。赤丸は、小笠原超深発地震の位置。白丸は断面から50km 以内の地震(出典EHB Bulletin)を投影したもの。小笠原超深発地震とその後6月23日に起きた通常の深発地震の震源メカニズムを示してある。(B) 小笠原超深発地震の地理上の位置(赤丸)。400kmより深い地震をカラーで示している。破線は図4の断面位置。

図2

図2  北小笠原(A-D)、南小笠原(E-H)、北マリアナ(I-L)に沿った連続的なGAP_P4モデルの断面。断面Eは図1と同じ断面で小笠原超深発地震は赤丸で示してある。深さ410、660、1000 kmを各断面に実線で示してある。

図3

図3  小笠原超深発地震とその余震の分布。左は水平面に投影したもの、右は図1の断面に投影したもので、地震の起きた時間順に番号付けられている(1~6)。米国USGS-NEIC、気象庁、本研究で示された震源位置をそれぞれ黒、青、赤で示してある。地震1と5は本震と最大余震で、本研究の解析で最大余震は本震と同様な震源メカニズムを示すことが明らかになった。白抜き丸は20以下の観測点データから震源決定された地震2(気象庁では報告されていない)で、それ以外は60以上の観測点データにより高精度で決定されている。ビーチボール型震源メカニズは白い場所に内へ縮む圧縮力が働いたことを示すが、震源メカニズムが示す圧縮軸(図4参照)方向に本震、余震(地震2を除く)が分布している。

図4

図4  GAP_P4モデルの図1B破線に沿った断面。断面から北100km内の地震と震源メカニズムから推定される圧縮軸の方向をグレー、断面から南100km内の地震と震源メカニズムから推定される圧縮軸の方向を赤で示してある。

図5

図5  北小笠原—南小笠原におけるスラブの形状変化と深発地震が示すスラブ内部の圧縮の主軸方向(点線)。黒点は震源を表し、青は横たわるスラブへ力が伝わる圧縮軸の並び、赤はほぼ鉛直方向に「かかと」へ力が伝わる圧縮軸の並びを表す。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球深部ダイナミクス研究分野
主任研究員 大林 政行
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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