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プレスリリース

2016年 12月 19日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による
「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅲ」について(航海終了報告)

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:※1)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究に基づく調査海域の絞り込み手法の開発」の一環として沖縄海域での科学掘削調査を実施しました。

1.実施内容

海底熱水鉱床の成因モデル構築と調査海域の絞り込み手法実証のため、沖縄本島の北西、中部沖縄トラフに位置する伊是名海穴Hakureiサイト(以下、Hakureiサイト:平成25年3月27日、平成28年5月26日JOGMECニュースリリース、図1)において、海底下鉱体、マウンド鉱体、その周辺の海底下地層構造の把握を目的とした地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削調査「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅲ」を行いました。

本調査航海では、既存情報が存在し、潜頭性熱水鉱床(※2)の探査指針確立に適したフィールドを対象とし、系統的なコア試料採取(図2)、船上分析、孔内物理検層(※3)を行いました。また、前回航海(沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅱ:平成28年3月18日既報)による伊平屋小海嶺南麓野甫サイト(以下、野甫サイト)の熱水噴出が認められた箇所において、鉱石沈殿プロセスや熱水活動の基礎物性パラメーターの長期計測を目的とした改良型モニタリング装置を掘削孔へ設置しました(図3)。

本研究航海は、熊谷 英憲(JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット主任技術研究員)、野崎 達生(同ユニット研究員)、石橋 純一郎(九州大学大学院理学研究院准教授)の3名が共同首席研究者を務めJAMSTEC、九州大学および国立研究開発法人産業技術総合研究所に組織された研究チームを中心としたメンバーが乗船しました(航海期間:平成28年11月16日~12月15日)。

2.結果概要

Hakureiサイトには、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(理事長 黒木 啓介、以下「JOGMEC」)によるこれまでの調査によって、硫化物マウンド周辺に海底下鉱体が広く分布していることが知られています(平成25年3月27日、平成28年5月26日JOGMECニュースリリース)。したがって、このサイトは潜頭性鉱床の成因モデル構築や効率的な物理探査手法開発に向けた地質試料の物性情報取得や、海底下地層構造の把握に適した熱水サイトです。JOGMECからのサイトの情報提供に基づき掘削計画を策定し、地球深部探査船「ちきゅう」により9地点、総掘削長1034.5 mの科学掘削を行いました。今回の調査により、海底下鉱体とその上方の堆積物・軽石互層の境界が連続的に採取されたことから(図2)、海底下鉱体の成因モデルの構築に向けて大きな成果が得られました。また、コア試料取得後の掘削孔において、孔内物理検層を実施し、連続的な自然ガンマ線データによって、海底下鉱体の詳細な分布を把握できる見込みが立ちました。加えて、伊平屋小海嶺野甫サイトにおいては、熱水の物理パラメーター(温度・圧力・流量)の長期観測や鉱物沈殿プロセスを観察するためのモニタリング装置を設置しました(図3)。これらの調査結果や今後のデータ取得は、モデル構築や効率的な探査機器開発に寄与することが期待されます。

(1)海底下鉱体の成因モデル構築に向けて -コア試料の船上分析結果より-

海底熱水鉱床の海底下鉱体の成因モデルには、①硫化物マウンドやマウンド上に生成したチムニー(※4)の崩落物が堆積して生成したという説と②海底下に存在する地層が置換されて生成したという説の大きく分けて2つの仮説が提案されています。本調査航海では、北部マウンド周辺に分布する海底下鉱体を貫くコア試料採取を実施し、堆積物・軽石互層(鉱床上盤)、海底下鉱体と上記上盤の境界層(遷移層)、下部鉱体およびその下方のコア試料採取に成功しました(図2)。これまでの沖縄トラフにおける調査では、熱水の流れを水平方向に規制するキャップ層の存在が鉱化作用・変質作用を支配する重要な鍵であることが明らかにされていましたが、本調査航海で海底下鉱体を貫くコア試料が採取されたことにより、海底下鉱体がキャップ層の間に挟在して存在することが明らかにされました。さらに、孔内物理検層を実施し、その結果をコア試料と対比したところ、海底下鉱体は単純・一様な塊状鉱体ではなく、非変質な堆積層との互層であることが明らかになりました。加えて、船上における海底下鉱体の観察・記載により、海底下に存在する地層が置換されて生成されたという説が支持されるデータが取得され、今後の詳細分析による裏付けが待たれます。

今回の掘削調査により、従来から提案されていた成因モデルの仮説のうち②が支持されたことに伴い、今後の資源探査指針および有望海域絞り込み指針の方向性が定まることが期待されます。

(2)効率的な探査機器開発への寄与-安価・簡便・確実な手法の提案-

採取したコア試料に対しては、船上において成分分析や物理パラメーター取得等が即座に実施されました。さらに、コア試料採取後の掘削孔においては孔内物理検層を実施しました。

その結果、特にコア試料と孔内物理検層による自然ガンマ線強度の比較により、これまで陸上の地熱井に対して用いられてきた計測機器の活用、海底熱水鉱床への応用とデータ取得を初めて成功させました。加えて、塊状鉱石試料を含む各種岩相を網羅するインピーダンスデータにより、電気・電磁探査や高解像度深海地震波探査の調査結果等と比較検証を進めて、海底下鉱体の分布域および海底下構造の把握を深めることができます。

このように、コア試料と照合できる物理探査データおよび測定機器が増加したことに伴い、より簡便かつ安価に海底熱水鉱床の海底下での分布を探査できる見込みが立ちました。

(3)鉱物の沈殿プロセスの把握に向けて-長期観測のためのモニタリング装置設置-

熱水鉱床の成因モデルをより高度化するためには、熱水噴出孔から噴出される物質の量(フラックス)の把握も重要となります。しかし、これまで熱水噴出孔からのフラックスの計測は、深海底での目視や画像解析以外の手段に乏しく極めて困難でした。

そこで、前回航海の掘削後に盛んな熱水噴出が観察された野甫サイトにおいて、熱水物理パラメーターの長期観測やチムニー・マウンドを構成する鉱物の沈澱プロセス観察を目的としたモニタリング装置を設置しました(図3)。モニタリング装置には熱水を導入し鉱物を沈殿させる容器、熱水の温度・圧力・流量をモニターするセンサーとデータ記憶部、および鉱物沈殿量を容器重量の経時変化としてモニターする装置が取り付けられています。容器内に沈澱した鉱物を回収し観察することによって、極めて初期の海底熱水鉱床生成プロセスを観察できると予想されます。これらの容器および記録装置は、平成29年度の調査航海において回収される予定です。

3.今後の予定

今後は、SIP次世代海洋資源調査技術の下、今回の調査で得られたコア試料および物理パラメーター等は、各種既存情報、並びに直前に実施された一般社団法人海洋調査協会(JAMSA)および次世代海洋資源調査技術組合(J-MARES)による観測データとの比較検証を進めます。具体的には、JAMSAによる電気・電磁探査での自然電位異常範囲や海底下比抵抗分布との比較、J-MARESによる深海曳航型高解像度地震波探査での反射面分布等との比較によって、海底下鉱体の分布域および海底下構造の把握をより深めます。このような成因モデル構築を通じ、鉱床の兆候を示す指標を明らかにして、海底熱水鉱床の有機的な調査システム開発(調査技術プロトコル)に必要なセンサー類、探査手法の確立と精緻化を行います。

上記のプロセスを通じ、SIP次世代海洋資源調査技術の目標である「海洋鉱物資源を低コストかつ高効率で調査する技術」、および「潜頭性鉱床を発見する技術」の実現に向けて着実に前進させていきます。

なお、本航海に関する具体的な研究成果については、論文等としてまとまった段階で公表するとともに、12月19日開催の「第3回次世代海洋資源調査技術シンポジウム」等で最新情報を発信します。

<用語解説>

※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために平成26年度より5カ年の計画で新たに創設したプログラム。CSTIにより選定された11課題のうち、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)ではJAMSTECが管理法人を務めており、海洋資源の成因に関する科学的研究、海洋資源調査技術の開発、生態系の実態調査と長期監視技術の開発を実施し、民間企業へ技術移転する計画となっている。

※2 潜頭性鉱床

熱水活動を過去に終了し、堆積物に覆われていて現在は海底面上に露出していない鉱床。

※3 孔内物理検層

掘削孔内の温度や圧力、比抵抗、ガンマ線量などの物理パラメーターを取得するためのオペレーション。コア試料採取は回収率100%で行うことが困難であるのに対し、連続的なデータを得られるのが強み。本調査では、コアリング後の掘削孔内の温度・圧力・自然ガンマ線強度のデータを取得した。

※4 チムニー

海底の熱水活動によって供給された金属元素が、海底面上で硫化鉱物、酸化鉱物、珪酸塩鉱物、硫酸塩鉱物などとして沈殿し、熱水噴出孔の周囲に形成される煙突状の鉱体。

※5 掘削同時検層

地質の特性や断層を把握するため、ドリルパイプの先端近くに物理計測センサーを搭載し、掘削と同時に孔内で各種計測を行うこと。

図1

図1 (A)Hakureiサイトの掘削地点と東西断面(右図)。黄色はコア採取と検層を行った地点、ピンク色はコア採取のみの地点。(B)野甫サイトにおけるモニタリング装置設置地点。

図2

図2  Hakureiサイトの掘削孔C9026Aのコア試料の断面スキャン画像。左から順に、鉱床上盤軽石層、鉱床上盤と下部鉱体の遷移層(キャップ層)を含むコア試料、下部鉱体上部、下部鉱体中部、下部鉱体の下盤(熱水変質帯)から採取された磁硫鉄鉱(Fe1-xS)・キューバ鉱(CuFe2S3)の脈を含むコア試料。

図3

図3 Hole C9017A(野甫サイト)における (左)モニタリング装置設置直前の様子(人工熱水噴出孔へ設置したガイドベースから熱水が噴出している様子)と(右)ガイドベース上へ設置したモニタリング装置から熱水が噴出している様子。


地球深部探査船「ちきゅう」による「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅲ」について(航海終了報告)
(コア試料採取およびモニタリング装置設置について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット
    主任技術研究員   熊谷 英憲
    研究員       野崎 達生
地球深部探査センター技術部長  許 正憲
九州大学大学院理学研究院准教授  石橋 純一郎
(地熱検層ツールについて)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット
    主任技術研究員   熊谷 英憲
    研究員       野崎 達生
海洋掘削科学研究開発センター
    研究開発センター長 山田 泰広
(「ちきゅう」について)
地球深部探査センター 企画調整室長  花田 晶公
(報道担当)
広報部 報道課長 野口  剛
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