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プレスリリース

2016年 12月 20日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人京都大学
防衛大学校
埼玉工業大学
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

海洋性細菌の酵素で木材成分のリグニンから機能性化学品を創る
~ホワイトバイオテクノロジーの新展開~

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、 以下「JAMSTEC」という)海洋生命理工学研究開発センターの大田ゆかりグループリーダー代理は、国立大学法人京都大学生存圏研究所の渡辺隆司教授、防衛大学校の小泉俊雄教授、埼玉工業大学の秦田勇二教授らと共同で、海洋から分離した細菌のもつ特異な酵素を組み合わせて利用し、木材から分離した天然リグニンから、さまざまなバイオプラスチックにも変換できる機能性化学品を生産する方法を見いだしました。

近年、温室効果ガス排出の低減を目指して、バイオマスなどの再生可能資源を有効活用するためのさまざまな研究が精力的に行われています。なかでも、木材をはじめとする非可食のバイオマスに多量に含まれるリグニンは、化石資源に替わる新しい化学品原料として大きな期待を集めています。今回研究グループが天然リグニンから酵素生産することに初めて成功した化合物は、フェニルプロパノンモノマーと呼ばれる物質で、これまでその活用法についてほとんど検討されていませんでした。本研究では、天然リグニンから酵素でこの化合物を生産する手法に加えて、簡便な化学的手法によりバイオプラスチックや医薬・化粧品などの機能性化学品に変換できることを示しました。これらの成果は、酵素や微生物などの生体触媒の機能を化学産業に活用する異分野融合新技術(ホワイトバイオテクノロジー)に新しい展開をもたらすことが期待されます。

また本研究の一部はJST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)、京都大学生存圏ミッション研究、JSPS科研費JP15K00649の一環として行われました。

本成果は、 ドイツの科学誌「ChemSusChem」電子版に12月16日付けで掲載されました。

DOI: 10.1002/cssc.201601235

タイトル:Enzymatic specific production and chemical functionalization of phenylpropanone platform monomers from lignin

著者名: Yukari Ohta1、 Ryoichi Hasegawa1、 Kanako Kurosawa1、 Allyn H. Maeda1、 Toshio Koizumi2、 Hiroshi Nishimura3、 Hitomi Okada3、 Chen Qu3、 Kaori Saito3、 Takashi Watanabe3、 Yuji Hatada4

所属:1.海洋研究開発機構・海洋生命理工学研究開発センター、 2. 防衛大学校・応用科学群応用化学科、 3. 京都大学生存圏研究所・バイオマス変換分野、4. 埼玉工業大学・工学部・生命環境化学科

2.背景

地球温暖化と化石資源の枯渇問題を背景として、再生産可能なバイオマスから燃料アルコールや化学品などを作り出す統合的バイオリファイナリー(※1)の構築は急務の課題です。とりわけ、食糧と直接競合しないバイオマスを持続的に利用し、高付加価値物を生産する技術の開発は、炭素循環に大きな負荷をかけない持続的社会の創生にとって極めて重要です。

リグニンはほとんどの地上植物の主要成分の1つで、その存在量ではセルロースに次いで2番目に位置します。また、リグニンは植物に物理的強度を与えるほか、外敵からの生物学的攻撃を防ぐ難分解性の物質として重要な役割を果たしている物質です。その基本構造がナフサなどの石油成分にも類似していることから、化石資源に代わる化学品原料として期待され、その利用技術の研究開発が精力的に行われています。その中で、温和な条件で機能を発揮する生体触媒「酵素」を用いる試みは、環境に優しい新技術の1つとして注目を集めています。

研究グループでは、リグニンやリグニンから派生する物質の有効利用を目的として、これらを代謝する微生物や酵素を海洋から探索してきました。これまでに、駿河湾に沈んだ木片から分離した海洋性細菌ノボスフィンゴビウム MBES04株の遺伝子を使って作成した組換え酵素を組み合わせて用いることで、 リグニンを模して合成した低分子化合物(リグニンモデル化合物)を酵素切断できることを報告しています。これまでにスフィンゴモナドと呼ばれるグループの細菌からリグニン内主要結合の選択的切断反応に関わる酵素が発見されていますが、これらの酵素は限られたサイズや形の低分子化合物しか反応対象とできないことが報告されています。そのため、さまざまな部分構造を持つ天然リグニンには作用せず、リグニンを分解して高機能な化学品原料へと変換するためのツールとすることは難しいと考えられてきました。本研究グループで近年取得した酵素群に関しても、天然リグニンへの作用はこれまで分かっていませんでした。

  

3.成果

本研究では、上述のMBES04株由来の5つの酵素を組み合わせて利用した一連の反応(図1)を用いて、天然リグニンを原料として特定のフェニルプロパノンモノマーを生産することに成功しました(図2)。リグニンの内部構造は多様で複雑な構造であるため、リグニンを過激な条件で分解して得られる物質は複雑な混合物となってしまうことが多く、高機能な化学品原料としての活用が遅れていました。本研究で行った温和な酵素反応では、針葉樹(スギ)から単離したリグニンを原料とした場合には1種類(図1、GHP:グアヤシルヒドロキシプロパノン)、広葉樹(ユーカリ)の場合には2種類(図1、GHPとSHP/シリンギルヒドロキシプロパノン)のフェニルプロパノンモノマーを選択的に得ることができました。

これらの酵素群が天然リグニン中のどのような分子構造に対してその性能を発揮するのか、そのメカニズム解明のため、反応過程で生じる中間産物を詳細に解析しました。その結果、炭素数10~30個の天然リグニン部分構造を持つ物質が反応中間産物として検出されました。これらの酵素群が、従来考えられていたよりも幅広い分子サイズや形を持つリグニン内部構造を酵素変換反応の対象とすることにより、天然リグニンにおいても酵素反応を進められることが明らかになりました。

続いて、得られたGHPに対してシンプルな有機化学反応を行い、新規なビスフェノール類、ビニルモノマーとその重合物、工業原料として有用なアルコール類などのさまざまな誘導体が得られることを示しました(図3)。この誘導体は新たなバイオプラスチック、例えば、 ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどの原料、医薬品や機能性食品原料として活用されることが期待されます。

本研究は、天然リグニンから機能性化学品を生産するツールとしての酵素の有用性を示すとともに、これまで注目されていなかった化合物が基幹化合物(※2)として、多大な再生可能資源であるリグニンの有効利用に寄与できる可能性を示しています。

4.今後の展望

研究グループでは、京都大学生存圏研究所(西村裕志助教)、エネルギー理工学研究所(片平正人教授)、化学研究所(中村正治教授)と共同で、上述のリグニン変化酵素の反応メカニズム解明と実用性の向上を目指した更なる研究を進めています。

海底堆積物に生息する微生物の多くは、海洋表層や陸域の森林土壌などで分解されずに残った有機物に依存しており、 地球表層の生態系では分解が困難な物質をなんらかの形で効率的に利用する優れた代謝機能を有していると考えられます。多様な海洋環境に生息する微生物がもつ代謝機能の理解を深め、その知見を基盤とするバイオマス活用技術開発を進め、持続可能な社会の構築へ向けた新たなイノベーションの創出に繋げて行きます。

[用語解説]

※1 統合的バイオリファイナリー:原油などの化石燃料を原料とするオイルリファイナリーに対し、 再生可能資源であるバイオマスを原料にバイオ燃料や化学品などを統合的に製造する技術。

※2 基幹化合物:各種化学品に誘導することが可能なプラットフォームとして重要な化合物。

図1

図1.リグニンモデル2量体から基幹化合物(GHP、SHP)を生産するための酵素反応カスケード SDR, ショートチェーンデヒドロゲナーゼ/レダクターゼ; GST, グルタチオン-S-転移酵素; NAD+, 酸化型ニコチンアミド; GSH, 還元型グルタチオン; GSSG, 酸化型グルタチオン。

図2

図2.単離リグニンからのフェニルプロパノン化合物のワンポット酵素生産のイメージ図

図3

図3.フェニルプロパノン化合物(GHP)を基幹とするバイオプラスチックへの展開

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 海洋生命理工学研究開発センター 深海バイオ応用研究開発グループ
グループリーダー代理 大田ゆかり
国立大学法人京都大学生存圏研究所 生存圏診断統御研究系 バイオマス変換分野
教授・研究所長 渡辺 隆司
防衛大学校 応用化学科
教授 小泉 俊雄
埼玉工業大学 工学部 生命環境化学科
教授 秦田 勇二
国立研究開発法人科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部ALCAグループ
吉田 秀紀
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 野口 剛
国立大学法人京都大学
企画・情報部広報課国際広報室
防衛大学校
総務部総務課 社会連携推進室
埼玉工業大学
企画広報課長 神山 宜也
国立研究開発法人科学技術振興機構 広報課
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