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プレスリリース

2017年 7月 5日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

北方ユーラシア林野火災による気候や環境への影響は想定以上か
―耕作地の焼失面積は87%が未評価―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球環境観測研究開発センターの朱春茂ポストドクトラル研究員らは、地球温暖化に影響するブラックカーボン粒子の主要発生源の一つである、北方ユーラシア(ロシア及びカザフスタン)の林野火災に関する焼失面積を精密に評価したところ、耕作地で大幅な過小評価となっていることを見出しました。これにより、北方ユーラシアの林野火災による気候や環境への影響は、現在の想定以上である可能性を指摘しました。

今回の解析では、北極海の夏の海氷面積が歴史的に最小となった2012年について、北方ユーラシアの6つの植生タイプ、12地域について初めて網羅的に検証しました。その際、超高解像度(解像度2-5 m程度)の3種類の商用衛星からの画像を初めて本格的に真値(評価基準データ)として取り入れて、従来用いられてきた中解像度(解像度500 m)のMODIS衛星センサでの焼失面積を精密に評価しました。その結果、従来法では100 ha以下の小規模火災を検出できていない場合が多く、とくに耕作地では真値の焼失面積の13%しか検出できておらず、87%の焼失地域が未評価であることが明らかとなりました。

本研究の成果は、焼失面積やブラックカーボン等の汚染物質排出量に大幅な上方修正が必要であることを指摘するとともに、今後、この成果を地球温暖化モデルシミュレーション等にも反映することが求められます。また、我が国がオブザーバー国となっている北極評議会や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などでの議論にも新たな知見を提供するものです。

なお、本研究は環境省「環境研究総合推進費(課題番号2-1505)」の一環として実施したものです。

本成果は、「Scientific Reports」に7月5日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Size-dependent validation of MODIS MCD64A1 burned area over six vegetation types in boreal Eurasia: Large underestimation in croplands
著者:Chunmao Zhu1、小林秀樹1,2、金谷有剛1,2、齋藤正彦1
1. JAMSTEC地球環境観測研究開発センター
2. JAMSTEC北極環境変動総合研究センター

2.背景

北方ユーラシアの林野火災は、海氷などに沈着して地球温暖化を促すブラックカーボン(※1)の主要発生源の1つと考えられています。また、今後の地球温暖化とともに火災発生頻度が増すことがIPCC第5次評価報告書などでも指摘されており、火災と地球温暖化との間の正のフィードバック効果によって気候や環境への影響がより顕著となることが、将来の懸念ともなっています。また、我が国との関係では、ロシア極東の林野火災が北日本のPM2.5濃度の増加や視程を悪化させた事例もあり、林野火災から排出される大気汚染物質や二酸化炭素の量を正確に把握することが求められています。

これまで林野火災からの排出量把握の基本となってきたのは、米国NASAの中解像度MODIS衛星センサ(※2)による全球火災焼失面積データ(MCD64A1)であり、大気汚染物質の排出量データベースGFED(Global Fire Emissions Database)もこうした焼失面積データに基づいて整備され、地球温暖化モデルシミュレーションなどにも取り入れられるのが一般的でした。しかしながら解像度が500 mと粗いため、小規模火災を見落としている可能性が指摘されてきたものの、これまで適切な評価手段がなく、未検証のままでした。

3.成果

研究グループは、超高解像度(解像度2-5 m程度)の3種類の商用衛星(RapidEye、WorldView-2、GeoEye-1)(※2)からの画像を初めて本格的に取り入れて、従来用いられてきた解像度500 mでの焼失面積を精密に評価しました。また、高解像度(解像度30 m)のLandsat 7号衛星(※2)の画像も合わせて用い、北方ユーラシアで代表的な6つの植生区分(耕作地・草地・混合林・落葉針葉林など)、12の地域に関して評価を網羅的に行いました(図1)。今回の研究では、3種類の超高解像度商用衛星や高解像度Landsat 7号衛星の画像から火災焼失地域の真値を作成する際に、対象地域ごとに火災の判定条件を最適化することで、従来法よりも高精度な評価が可能になりました。解析には夏の海氷面積が歴史的に最小となり、北方ユーラシアでの火災も多く発生した2012年を選びました。

その結果、従来法では、100 ha以下の小規模火災を検出できていない場合が多く、とくに耕作地では真値の焼失面積の13%しか検出できていなかったことが明らかとなりました(図2)。これは耕作地の火災の大部分は人為的な野焼きが原因であり、個々の火災が小規模であるという特徴から、中解像度MODIS衛星センサでは検出されにくいことが原因です(図3)。このことから、焼失面積やブラックカーボン等の汚染物質排出量を大幅に上方修正する必要があることを指摘しました。

100 ha以下の火災を検出できない傾向は、草地・混合林・落葉針葉樹林などでも共通にみられました。しかしながら、検出率が高い500 ha以上の大規模火災の割合が相対的に高いため、耕作地以外では全体の焼失面積にはこれほどの過小評価はみられませんでした。中解像度MODIS衛星センサに基づく火災焼失域の分布を、超高解像度商用衛星などによる真値の分布と比較したところ、面積の一致度は高いものの、面積の重なりが必ずしも十分でない事例もみつかるなど、衛星観測の高解像度化や火災焼失地域の検出手法の高度化が今後必要であることも指摘されました。今回の全検証地域での結果を総合すると、従来の焼失面積は16% 程度上方修正が必要であると算定するとともに(図2)、ブラックカーボン等の大気汚染物質の排出量についても、同様に上方修正が必要であることを示しました。すなわち、北方ユーラシアの林野火災が地球温暖化などの気候・環境へもたらす影響は現在の想定以上である可能性を示唆したものです。

4.今後の展望

今後は、北方ユーラシア地方における大気汚染物質の排出量データベースGFEDでの値について、本研究から得られた焼失面積の再評価結果を取り入れて補正し、北極や地球温暖化評価のためのモデリングへと反映していく予定です。とくに耕作地での汚染物質排出が北極方面へ運ばれる事例などを精査し、温暖化への影響を再評価していくことが重要です。ブラックカーボンの発生源には、林野火災のほかに、ディーゼル排気など人間活動に基づくものもあり、起源の正確な把握は今後の対策を検討するための重要な基盤となります。今回の成果は、我が国がオブザーバー国となっている北極評議会やIPCCなどでの議論にも新たな知見を提供するものです。

※1 ブラックカーボン粒子:化石燃料や植物燃料などの燃焼の際に、不完全燃焼で発生する黒色のエアロゾル粒子で、PM2.5の成分の1つ。

※2 本研究では下記の表に示した衛星データを利用した。

種類 名称 解像度 摘要
超高解像度商用衛星 RapidEye
WorldView-2
GeoEye-1
5 m
2 m
2 m
従来法を検証するための
真値データを提供
高解像度衛星 Landsat 7号 30 m
中解像度衛星センサ MODIS 500 m 従来法
図1

図1 米国NASAの地球観測衛星の全球火災焼失域データ(MCD64A1)の検証サイト(計12エリア、1~12)の分布。黒い文字番号の検証エリアでは、高解像度衛星Landsat 7号を火災焼失域精度検証データとして利用した。また、赤い文字番号の検証エリアでは、超高解像度商用衛星(RapidEye、WorldView-2、GeoEye-1)を入手して火災焼失域精度検証データとして利用した。

図2

図2 2012年北方ユーラシアの代表的な植生地域での従来法(MODIS)での焼失面積の検出率。真値として、超高解像度商用衛星(RapidEye、WorldView-2、GeoEye-1)・高解像度衛星Landsat 7号の焼失面積を用いた。耕作地について従来法では真値の焼失面積の13%しか検出できていなかった。検証地域全体では、従来法による焼失面積を16% 程度上方修正する必要があることが明らかとなった。

図3

図3 中解像度MODIS衛星センサ及び高解像度衛星Landsat 7号によってとらえられた耕作地火災の焼失面積の比較例。拡大図はロシア南西部、図1中の地域1の一部に相当する。高解像度衛星Landsat 7号による火災の焼失地域の一部しか中解像度MODIS衛星センサは検出できなかったことが示されている。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境観測研究開発センター地球表層物質循環研究グループ
主任研究員 小林 秀樹
ポストドクトラル研究員 朱 春茂(Chunmao Zhu)
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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