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プレスリリース

2018年 10月 25日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

深海用8Kスーパーハイビジョンカメラの開発に成功
― 超高精細映像で深海研究に新たな可能性を ―

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海洋工学センター海洋基幹技術研究部の石橋正二郎主任技術研究員らは、日本放送協会(会長 上田 良一、以下「NHK」という。)と共同で、深海用8Kスーパーハイビジョンカメラ(以下「U8K-SHVカメラ: Underwater 8K Super Hi-Vision カメラ」という。)の開発に成功し、深海底熱水域の超高精細映像を取得しました。

これまで深海に適用されてきた海中カメラ技術はハイビジョンカメラが主流でしたが、通常のハイビジョンカメラから得られる画質(解像度)では海底環境や生物あるいは鉱物等の詳細を正確に把握することは限界がありました。一方、映像レベルの高度化には、海中における大容量光伝送技術の高速化に加え、カメラ光学系および海中光学伝搬(照明技術)に至る各海中光学技術に対する最適化が不可欠でした。

そこで上記課題に対して統合的に取り組むことで、ハイビジョンカメラの16倍の超高解像度性能を有する8Kスーパーハイビジョン技術と海中光学技術とを融合させることにより、深海プラットフォームに実装可能な「U8K-SHVカメラ」(図1表1)の開発に成功しました。この「U8K-SHVカメラ」を深海無人探査機「かいこう」(図2表2)に搭載し、小笠原海域(水深約1,300-1,400m)の深海底において性能評価した結果、8Kカメラが備えるべき超高解像度性能を有していることが確認されました。合わせて、「U8K-SHVカメラ」に最適な深海照明を適用することにより、深海における光学的特性が保障され、これまで取得されたことのないマクロからミクロまでの超高精細な深海映像の撮影にも成功しました。

ハイビジョンカメラの16倍もの膨大な情報量が詰められた超高精細映像は、これまで把握することが出来なかった“深海の姿”を視覚認識させます。これにより、例えば生物や鉱物のサンプルを取得することなく、その映像から種別や分布等の詳細な状況が提供され、新種生物の発見や海底資源調査の進展をはじめとする、深海研究各分野の進捗に大きく貢献することが期待されます。

2.背景・目的

従来、深海におけるカメラ技術の主流はハイビジョンカメラであり、これにより取得された映像が “深海の姿”とされてきました。一方、ハイビジョンカメラを使用して広視野映像を撮影した場合、解像度の不十分さから非常に粗い映像とならざるを得なく、そのような映像から被写体の詳細を把握することは困難でした。深海において広視野かつ高解像度化を実現するためには、複数台のハイビジョンカメラを同一のプラットフォームに装備させる必要があり、この場合、システムの複雑化・大規模化による実装が課題でした。そのような中で近年、海底資源やエネルギーまたは海底環境評価に基づく海底可視化技術の需要が高まり、これに起因して、採取が困難な生物や鉱物等の詳細、あるいはその海底環境そのものを、取得した映像から評価することが求められています。つまり、深海の理解をより正確にかつ効率的に進捗させるためには、これまでにない超高精細な新しい海底可視化技術が必要となります。

そこでJAMSTECは2014年より、世界最高解像度(ハイビジョンカメラの16倍の解像度)を提供する8Kカメラ技術を深海仕様として組み込む「U8K-SHVカメラ」の開発をNHKと共同で進めてきました。NHKが世界に先駆け取り組んできた超高解像度性能のカメラ技術を深海環境にて発揮させるために、深海プラットフォームへの実装を可能とし、取得した映像をリアルタイムで船上まで伝送すべく、カメラ光学系・光伝送技術・海中光学伝搬(照明技術)およびこれらを組み合わせた最適な撮影手法を含む各技術項目について統合的に取り組んできました。カメラ光学系においては、撮像素子と被写体間にある各媒質境界(レンズ、空気、耐圧ビューポート、海水)に起因する光軸屈折を評価・保障し、合わせて海中における光学伝搬特性(赤色波長光の減衰)を担保する新たな深海用照明装置(図3表3)の開発にも取り組みました。加えて、「U8K-SHVカメラ」から出力される大容量データを深海から船上まで高速かつ高品質で伝送する光伝送技術(100Gbps光伝送装置:図4表4)についても新たに開発を進めました。

2018年に「U8K-SHVカメラ」を完成させ、その後、水槽試験・プール試験および深海プラットフォームとの結合試験を繰り返し実施してきました。2018年2月に実施した浅海域での基本特性試験を経て、このたび2018年7月に、深海無人探査機「かいこう」に「U8K-SHVカメラ」を搭載し、小笠原海域の深海底において、性能評価試験および海底撮影試験を実施しました。

3.成果

2018年7月24日-26日(3日間)において、深海無人探査機「かいこう」を用いて小笠原海域1,300m-1,400mの深海底に潜航し、「U8K-SHVカメラ」の性能評価試験および海底撮影試験を実施しました。その結果、深海環境において8Kカメラが持つべき超高解像度性能を十分に発揮していることが確認され、定量的に評価することが出来ました(図5)。併せて、マクロからミクロまでの超高精細な深海底映像(図6①-⑦)の取得に成功しました。これは、「U8K-SHVカメラ」と船上とを結ぶ「かいこう」を経由した約10kmにおよぶ長距離光伝送路(図7)において、大容量かつ高品質な高速光通信が確立されたことを意味します。深海環境においてプラットフォームを用いた8K映像の取得は世界初の試みであると同時に、海底熱水域における広角撮影や超大型チムニーの全形撮影、底生生物コロニー等の撮影に成功し、併せてこれら各映像が超高解像度性能を実現していることを深海底(実際の撮影環境)において定量的に評価したことは、深海技術および映像技術の各分野において、大変大きな意義を持つ世界唯一の実績となります。国際的に8Kカメラ技術の深海利用が未だ実現されていないなか、世界を牽引する最高水準の映像技術と深海技術を組み合わせることにより、今後の海底可視化技術に大きな進捗をもたらすと同時に、深海研究分野の研究手法にも新たな可能性を示しました。

4.今後の展望

本成果は今後はじまる超高解像度映像社会に先駆け、現在、最高水準を有する映像技術の深海利用に成功した事例です。これを発展させていくためには、映像の品質を劣化させることなく海中を長距離かつ高速に伝送する光伝送技術、深海システムに大容量情報を効率的に展開するためのデータ圧縮技術および収録技術、加えてより高品質な深海映像を取得するための各光学技術(カメラ光学系・海中光学伝搬)の最適化について、更に厳密に取り組んでいくことが必須です。今後は上記各要素技術に加え、深海利用を考慮した撮像素子そのものの高度化(高性能化・高感度化)を図るとともに、深海環境における超高精細映像の取得から管理までを船上(現場)にて一元的に実施する統合的なシステムの確立を目指します。

「U8K-SHVカメラ」が提供する超高精細な深海映像は、これまでの深海映像技術では映されることのなかった膨大な情報を提供します(図8)。その映像が表現する深海世界は固定概念を変え、深海研究の各分野を新たなステージへと誘うポテンシャルを持っています。我が国が世界に先駆け実現したこの映像技術とその映像そのものを、深海環境における“世界基準”とすべく、今後、深海映像の標準化に対しても取り組んでいく予定です。

【注意】

本稿に掲載する全ての「U8K-SHVカメラ」キャプチャ画像は、紙面に貼り付ける際に画像品質を劣化(圧縮)させております。

図1

図1.U8K-SHVカメラ

表1.U8K-SHVカメラ仕様

寸法 φ300×751mm
気中重量 68kg
水中重量 20kg
最大使用深度 3,000m
電源 DC24V
撮像素子 スーパー35mm単板式COMSセンサ
画素数 3300万画素
アスペクト比 16:9
フレーム周波数 59.94Hzプログレッシブ
フィルタ ND/CC
感度 F8.0@2000lx
通信 光ファイバ通信×2系統
・U8K-SHV(UpLink)×1系統(映像系)
・U8K-SHV(DownLink)×1系統(制御系)
シリアル通信×2系統(光学系制御)
図2

図2.深海無人探査機「かいこう」U8K-SHVカメラ搭載時

表2.「かいこう」仕様

  ランチャー ビークル
寸法 5.2×2.6×3.2m 3.0×2.0×2.6m
気中重量 5.8ton 5.5ton
最大使用深度 11,000m 7,000m
曳航速度 最大1.5knot 0-1.0knot
ペイロード 200kg
観測装置 CTD計
サイドスキャンソナー
サブボトムプロファイラー
TVカメラ×2
デジタルスチルカメラ
HDTVカメラ×2
広角魚眼TVカメラ
小型監視カメラ
CTD計/溶存酸素計
図3

図3.深海用照明装置

表3.深海照明装置仕様

寸法 220×230×370mm (把持部149mm)
気中重量 20kg
水中重量 10kg
最大使用深度 3,000m
電源 Li-ionバッテリ|159.6Wh
制御 タイマー式|調光機能
照明素子 LED(白)24素子(210lm@IF=660mA)×2列
LED(赤)30素子(108lm@IF=660mA)×1列
最大連続点灯時間 30分(全灯点灯)
照度 1860lx@1m(全灯点灯)
図4

図4.100Gbps光伝送装置

表4.100Gbps光伝送装置

寸法 φ175×432mm
気中重量 22kg
水中重量 12kg
最大使用深度 11,000m
電源 DC24V/3A以下
伝送方式 DWDM方式(1550nm波長帯)
伝送チャンネル数 10ch
最大伝送量 100Gbps(10Gbps/ch x 10)
※U8K-SHVカメラは8chを使用
光通信 シリアル通信×1 系統(RS232C)
U8K-SHV(UpLink)×1系統(映像系)
U8K-SHV(DownLink)×1系統(制御系)
かいこうシステム×1系統
図5

図5.性能評価試験結果(解像度チャート)

本紙面に貼り付けする際に画像の品質を劣化(圧縮)させているため、解像度評価チャート(拡大図含む)が粗い画像となっている。この性能評価試験では、当該チャートを正規の約1/2サイズで撮影しているところから、観察された解像度のTV本数の2倍の値が真の解像度となる。試験結果では、深海底において1600TV本以上が分解できていることから、真の解像度は3200TV本以上という8Kカメラならではの超高解像度性能が確認された。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像①

1,400m水深の海底にて熱水噴出孔から吹き出す熱水。熱水による揺らぎと海水中に拡散していく様子が鮮明に確認できる。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像②

熱水噴出域に存在する20m級の大型チムニーの中部。表面に付着する生物(二枚貝とフジツボの仲間)の分布が詳細に把握できる。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像③

湧水域に生息するミミズの仲間のハオリムシ。鰓糸の質感までが詳細に観察できる。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像④

熱水噴出孔とその周囲に棲息する小型生物。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像⑤

湧水域の二枚貝とハオリムシのコロニー周辺を泳ぐ魚(メバルの仲間)。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像⑥

熱水噴出域における二枚貝とこれに付着するバクテリアマット。深海用照明装置を用いることにより、二枚貝のバクテリアマット分布が詳細に把握できる。

図6

図6.U8K-SHVカメラが撮影した8K映像⑦

熱水噴出域における二枚貝とこれに付着するバクテリアマット。二枚貝の大型コロニーの分布状況が把握できる。

図7

図7.U8K-SHV光伝送路

2系統のU8K-SHV信号(UpLink/DownLink)に加え、「かいこう」システムの各信号を光多重することで約10kmにおよぶ長距離光伝送路が確立され、リアルタイムかつ双方向の大容量光ファイバ通信を実現した。

図8

図8.U8K-SHVカメラ映像とハイビジョンカメラ映像との比較例イメージ

ハイビジョン映像と比較してU8K-SHV映像では、ハオリムシの鰓糸の1本1本までが鮮明に確認できる。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海洋工学センター 海洋基幹技術研究部 主任技術研究員 石橋 正二郎
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛 
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