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プレスリリース

2019年 3月29日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海
「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」
の終了について

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、地球深部探査船「ちきゅう」を用いたIODP第358次研究航海を昨年10月7日から実施しておりました(平成30年9月27日既報)。この度、平成31年3月31日に「ちきゅう」は静岡県清水港に入港し、本研究航海を終了する予定です。

1.実施内容

本研究航海では、紀伊半島沖熊野灘に位置するC0002地点において、世界初の挑戦としてプレート境界断層(巨大地震発生時の震源断層)及びその上部の地層を伝わる弾性波速度が高速になる層(巨大地震を引き起こすひずみエネルギーの一部が蓄積されていると考えられる領域)を目指すライザー掘削(※2)に取組みました。当初計画より浅い深度でライザー掘削を終了しましたが(平成31年3月1日既報)、その後、平成31年3月3日にC0002地点から移動し、南海トラフの海溝軸付近に位置するC0024地点(掘削提案時の名称:NT1-03C地点)及び熊野海盆北縁のC0025地点(掘削提案時の名称:KB-01C地点)において、本研究航海の予備プランとして、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(※3)でこれまでに得られた科学成果を補完・補強するライザーレス掘削を行いました(図1)。

2.結果概要(表1)

本研究航海においてC0002地点では、掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)(※4)による地層物性データの取得及びカッティングス(※5)(写真13)の採取を行いながら海洋科学掘削として世界最深となる海底下深度3,262.5m(水深1,939m)まで到達するとともに、海洋科学掘削として世界最深となる海底下深度2,836.5 mから2,848.5 mの区間で計約2.5 mのコア試料(柱状の地質試料)を採取しました(写真4)。これらのデータ及び試料は、南海トラフにおける巨大地震・津波の発生メカニズムの研究に用いられます。

予備プランのC0024地点では、プレート沈み込み帯浅部において掘削同時検層によりプレート境界断層を貫く海底下深度869 mまでの地層の物性・状態のデータを取得するとともに、上盤プレート先端部(海底下深度319.5 mまで)のコア試料を計約247.7 m、より深部(海底下深度510 m~621.5 m)のコア試料を計約52 m採取しました。上盤プレート先端部とプレート境界断層の性質が明らかになることで、巨大地震発生時の挙動とスロー地震との関係を理解することが期待されます。また、C0025地点では400 mから580.5 mの区間で計約123 mのコア試料を採取しました。採取したコア試料を用いて南海トラフにおける付加体(※6)の形成史を確かめることにより、プレートの沈み込みに伴う南海トラフ地震発生帯の形成プロセスの解明を目指します。

今後、本研究航海にて得られたデータ及び試料を用いた研究と、これまで「南海トラフ地震発生帯掘削計画」で得られた科学成果を統合することにより、世界をリードする巨大地震発生帯の掘削科学を推進していきます。

※1
国際深海科学掘削計画(IODP):2013年10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行っている。
※2
ライザー掘削:海底に設置した噴出防止装置(BOP)と船上とをライザーパイプでつなぎ、その中にドリルパイプを降ろして掘削する方法。船上からドリルパイプを通して、掘削孔内に特殊な掘削流体(泥水(でいすい))を送り込み、ライザーパイプを通して船上まで循環させながら掘進する。一方、ライザーレス掘削は、ライザーパイプを用いず、海底にドリルパイプを直接降ろして掘削する方法。
※3
南海トラフ地震発生帯掘削計画:南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムを解明することを目的とする研究計画。2007年に開始。プレート沈み込み帯の浅部から深部までの複数地点で掘削を行い、地質試料の採取・分析、掘削孔を用いた岩石物性・状態の現場計測(検層)及び地殻変動等の観測(モニタリング)により、断層の地震性滑りを決定づける物理化学条件等を明らかにすることを目指す。
※4
掘削同時検層(LWD):ドリルパイプの先端近くにセンサーを搭載し、掘削と同時に孔内で各種計測を行うこと。
※5
カッティングス:ドリルビットによる掘進に伴い生じる岩石の破片。ライザー掘削ではカッティングスを船上にて回収する。
※6
付加体:海洋プレートが陸側プレートの下に沈み込む際に、海洋底堆積物がはぎ取られて陸側に押しつけられ、断層や褶曲を伴いながら地層が厚く発達している場所。
図1

図1 IODP第358次研究航海の掘削地点
C0002地点:ライザー掘削(北緯33度18分、東経136度38.2分)
C0024地点:ライザーレス掘削(北緯33度02分、東経136度47分)
C0025地点:ライザーレス掘削(北緯33度24.1分、東経136度20.2分)

掘削地点:C0002地点(和歌山県新宮市から南東約75kmの海域)
掘削孔名 水深
(海面下)
掘削深度
(海底下)
コア採取深度
(海底下)
LWD取得深度
(海底下)
概要
Q 1,939 m 3,262.5 m   2,887.5 m~
3,262.5 m
海洋科学掘削として世界最深となる海底下深度に到達。地層物性データを取得及びカッティングスを採取。
T 1,939 m 2,848.5 m 2,836.5 m~2,848.5 m   海洋科学掘削として世界最深となる海底下深度から3本、計約2.5 mのコア試料を採取。
掘削地点:C0024地点(掘削提案時の名称:NT1-03C地点)(和歌山県新宮市から南東約100kmの海域)
掘削孔名 水深
(海面下)
掘削深度
(海底下)
コア採取深度
(海底下)
LWD取得深度
(海底下)
概要
A 3841.5 m 869 m   0 m~869 m プレート沈み込み帯先端部においてプレート境界断層を貫く地層の物性・状態データを取得。
B,C,D 3843.5 m 128 m 0 m~128 m   上盤プレート先端部のコア試料を16本、計約107 m採取。
G 3843.0 m 319.5 m 100m~
319.5 m
  上盤プレート先端部のコア試料を24本、計約140.7 m採取。
E 3843.5 m 621.5 m 510 m~
621.5 m
  より深部のコア試料を12本、計約51.5 m採取。
掘削地点:C0025地点(掘削提案時の名称:KB-01C地点)(和歌山県新宮市から南東約45kmの海域)
掘削孔名 水深
(海面下)
掘削深度
(海底下)
コア採取深度
(海底下)
LWD取得深度
(海底下)
概要
A 2011 m 580.5 m 400 m~580.5 m   コア試料を8本、計約55.6 m採取。

表1 掘削結果概要

写真1
写真1
C0002地点Q孔にて採取されたカッティングスのクローズアップ(海底下深度3252.5 m~3257.5 m)
写真2
写真2
C0002地点Q孔にて採取された大きさ1-4mmのカッティングスを深度順に並べた画像(海底下深度2907.5 m~3257.5 m)
写真3
写真3
C0002地点Q孔にて採取された大きさ4mm以上のカッティングスを深度順に並べた画像(海底下深度2907.5 m~3257.5 m)
写真4
写真4
C0002地点において海洋科学掘削として世界最深となる海底下深度から採取されたコア試料

(2019年4月3日 確定情報へ更新しました(赤字部分)。 更新一覧(PDF))

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海について)
地球深部探査センター 企画調整室長 矢野 健彦
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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