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プレスリリース

2021年 1月 25日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

新種の巨大深海魚「ヨコヅナイワシ」を発見
~駿河湾深部に潜むアクティブなトップ・プレデター~

1. 発表のポイント

セキトリイワシ科として最大種となる新種の発見
非常に栄養段階が高く、駿河湾深部のトップ・プレデター
生態系への影響力があり、脆弱で環境変動の影響を受けやすいトップ・プレデターの深海域における多様性と役割の解明が急務

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 深海生物多様性研究グループの藤原義弘 上席研究員及び河戸勝 准研究副主任らは、神奈川県立海洋科学高等学校所属の実習船「湘南丸」を用いた深海調査を駿河湾で実施し(図1)、セキトリイワシ科の新種となるヨコヅナイワシNarcetes shonanmaruae図2)を発見しました。

本種はこれまでに報告されているセキトリイワシ科魚類の中で最大種であり、全長約140 cm、体重25 kgに達します。駿河湾の水深2,171 m以深より採集した4個体をもとに詳細な形態観察を行い、背鰭と臀鰭の位置関係、上下の顎に発達した歯列、比較的小さな頭部と目、大きな口といった特徴や脊椎骨数、鱗列数などの組み合わせから新種であることを示しました。またミトコンドリアゲノム解析により、本種はこれまでに遺伝子配列が登録されているどのセキトリイワシ科魚類とも異なることを示しました。

セキトリイワシ類は一般的に深海性で、ゼラチン質プランクトンを主な餌としますが、胃内容物から魚類の痕跡を検出したことや魚類を餌として釣獲されたことから本種は魚食性であることがわかりました。また、アミノ酸に含まれる窒素の安定同位体分析から、本種はこれまでに駿河湾で知られる最も栄養段階の高い(生態ピラミッド(※1)の最上位に位置する)動物、いわゆる“トップ・プレデター(※2)”であることがわかりました(図3)。更に水深2, 572 mに設置したベイトカメラ(※3)調査により、活発に泳ぐ本種の姿を捉えることに成功しました。魚食性に加え腐肉を食べる能力や大きく開く口が本種の巨大さや栄養段階の高さと関係しているのかもしれません。

本種のようなトップ・プレデターは、乱獲や環境変動に対して非常に脆弱と考えられています。また一般的に生態系に与える影響が大きく、個体数の増減が生態系の構造や機能に大きな変化をもたらします。従って生態系の保全と持続的利用の観点からも、深海域におけるトップ・プレデターの多様性と生態系における役割りを把握することが急務です。

本成果は、英国の科学雑誌「Scientific Reports」に1月25日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:
Discovery of a colossal slickhead (Alepocephaliformes: Alepocephalidae): An active-swimming top predator in the deep waters of Suruga Bay, Japan
<https://www.nature.com/articles/s41598-020-80203-6>
著者名:
藤原義弘1,†,*、河戸勝1,†、Jan Yde Poulsen2、井田齊3、力石嘉人1,4、大河内直彦1、小栗一将1、後藤慎平5、小澤元希1,6、田中彰7、宮正樹8、佐土哲也8、木元克典1、豊福高志1、土田真二1
所属:
1.海洋研究開発機構、2.オーストラリア博物館、3.北里大学、4.北海道大学、5.東京海洋大学、6.株式会社テクノスルガ・ラボ、7.東海大学、8.千葉県立中央博物館
†共同第一著者
*責任著者

3. 背景

人間活動や地球規模の気候変動は海洋環境に大きな影響を及ぼしており、水温上昇や酸性化、低酸素化は深海にも波及しています。このような地球規模の変動の影響は、まず大型の上位捕食者に現れ、徐々に栄養段階の低い生物へと広がることが知られています。従って深海域に暮らす上位捕食者の現状を正しく把握することは喫緊の課題であり、その実施が期待されていました。

そこで研究グループは2014年より駿河湾深部に暮らす上位捕食者を対象とした研究に着手しています。駿河湾は最大水深2,500 mを誇る日本で最も深い湾であり、古くから自然史研究が盛んな海域であるため、生息する生物に関する情報が蓄積されています。また深海漁業が盛んで、底びき網漁や延縄漁、カゴ漁などにより恒常的に上位捕食者が漁獲されているため、人間活動が上位捕食者に与える影響を確認することができる場所でもあります。

2016年2月および11月、深海上位捕食者の多様性と食性を明らかにするために、神奈川県立海洋科学高等学校の協力のもと、駿河湾で深海延縄調査およびベイトカメラ調査を実施しました。この中で我々は非常に巨大なセキトリイワシ科の未同定種を湾口の水深2,171 m以深から4個体採集しました。

この巨大魚について詳細な外部形態観察に加え、X線コンピュータ断層撮影(X線CT)解析、分子系統解析などを実施した結果、本種がセキトリイワシ科の新種であることを明らかにしました。

4. 成果

2016年2月および11月に「湘南丸」を用いて実施した2回の深海延縄調査により、駿河湾湾口の水深2,171〜2,572 mからセキトリイワシ科の既知種と形態的に一致しない4個体(2月および11月の調査で2個体ずつ)を採集しました(図12)。採集個体は全長122〜138 cm、体重14.8〜24.9 kgで、一般的によく知られるセキトリイワシ科魚類(最大標準体長の平均約35 cm)よりも非常に大型でした。

分類学的検討を行った結果、本種はこれまでに知られるどのセキトリイワシ科魚類とも異なる特徴を示したことから、クログチイワシ属の新種「ヨコヅナイワシ」と命名しました(学名:Narcetes shonanmaruae)。本種は以下のような特徴を示します。

  • 背鰭基部が臀鰭基部より前方にあること
  • 前上顎骨、上顎骨、歯骨に複数の歯列があること
  • 近縁種より鱗列数が多いこと
  • 標準体長に比して、頭部や目が小さく,吻(ふん)は短いこと
  • 鰓条骨数が7、上尾骨数が2であり,背鰭条数が15未満、腹椎数が30未満であること

また上記に加えて本種は、濃紫色の体色、頭部から鰓蓋部にかけて青色を呈すること、腹鰭よりわずかに後位に位置する背鰭、表皮と筋肉の間の厚い脂肪層、腹側よりの腹側位に位置する胸鰭、非常に大きい幽門垂といった特徴を備えています(図2)。

本種の種小名「shonanmaruae」は本種を採集した「湘南丸」に献名したものです。また本種はこれまでに報告されているセキトリイワシ科魚類の中で最大種であるため、和名を「ヨコヅナイワシ」としました。

さらに、ミトコンドリアゲノムを解読して得たタンパク質13種のアミノ酸配列を用いてヨコヅナイワシを含めた計74種(ヨコヅナイワシは2個体を解析に使用)の分子系統解析を実施しました。全長3,790アミノ酸残基を用いた系統解析を実施した結果、ヨコヅナイワシは他の73種と遺伝的に異なるものであることが判明しました。

加えて、ヨコヅナイワシの食性を明らかにするために、胃内容物解析を実施しました。調査した2個体の胃の中には少量の消化物が含まれており、その中には直径5ミリメートルほどの魚類の耳石も含まれていましたが、分解が進んでいて耳石から魚種を判別することはできませんでした。そこで消化物のDNA解析を実施した結果、深海性アシロ科魚類の1種であるオオリンフクメンイタチウオBassozetus mozambiquensisと91%の相同性を示す配列を検出しました。これまでに知られるセキトリイワシ科魚類の多くはクラゲなどのゼラチン質プランクトンを餌とすることが知られていますが、本種の胃内容物には魚類の耳石が含まれていたこと、またDNA解析でも深海性魚類と推定する配列が含まれていたことから、ヨコヅナイワシは魚食性である可能性が極めて高いことがわかりました。

ヨコヅナイワシの栄養段階を明らかにするために、特定アミノ酸(グルタミン酸およびフェニルアラニン)の窒素安定同位体比を求めたところ、解析した2個体のヨコヅナイワシの栄養段階はともに4.9でした(図3)。この値はこれまで駿河湾深部で解析された生物の中で最も高く、全海洋中でも非常に高いものであることから、本種は駿河湾深部のトップ・プレデターである可能性が極めて高いことがわかりました。

ヨコヅナイワシの海底での様子を捉えるため、駿河湾の2,000 mを超える地点でベイトカメラ調査を4 回実施しました。その結果、2016年11月26日、水深2,572 mに設置したベイトカメラによりヨコヅナイワシの生きた姿を撮影することに成功しました。ヨコヅナイワシの映像は約12秒間で、本種が画面右側からやってきて、途中で力強く尾鰭を振り、方向を変えて画面の奥へと消えて行く様子を撮影しました。なお映像に写った個体は全長100 cmを超えるものと推定しました。

以上の結果から、次のようなことがわかりました。

  1. 今回採集したセキトリイワシ科魚類は同科最大の新種であること
  2. ゼラチン質プランクトンを餌とする近縁種が多いなかで、本種は魚食性を示すこと
  3. これまでのところ、駿河湾に生息する生物のなかで最も高い栄養段階を示し、駿河湾深部のトップ・プレデターである可能性が高いこと
  4. 本種の巨大さや栄養段階の高さは、腐肉を餌とすることも可能なその食性と口の大きさと関係している可能性があること
  5. 駿河湾のような近海でも、いまだに1mを超える未発見の魚類が生息することを考えると、海洋生物の多様性に関する知見はまだまだ不十分であり、調査手法やその応用方法を精査しなければ真の生物多様性の理解にはつながらないこと

5. 今後の展望

トップ・プレデターは一般的に個体数が少ないと言われています。ヨコヅナイワシも非常に高い栄養段階を示すことから、その個体数はそれほど多くないものと考えます。近年、漁業は大深度化する傾向にあり、遠からずヨコヅナイワシの生息環境にも及ぶ可能性があります。個体数の少ないトップ・プレデターは乱獲に対して非常に脆弱であり、トップ・プレデターの消失に伴う生態系バランスの崩壊が生態系サービスを著しく低下させた例は枚挙に暇がありません。本種の個体群を維持し、駿河湾深部の生態系を保全するためには、生息域や個体数、寿命といったヨコヅナイワシの生物学的な基本情報を正確に把握する必要があります。

本研究で明らかなように、調査研究が進んでいる駿河湾のような海域ですら、その全容は十分に把握されておらず、生態ピラミッドの重要なピースが欠け落ちている状態でした。JAMSTECでは、これまでに実施されている調査方法に加え、迅速かつ簡便に海洋生態系の現状を把握することができる新たな手法の開発に早急に取り組み、地球環境変動が深海生態系に及ぼす影響を正確に評価することのできる研究開発を推進する予定です。

[用語解説]

※1
生態ピラミッド:栄養段階の順に、生物量を図形で表記したもの。多くの生態系では一次生産者からトップ・プレデターにかけて生物量が減少するためピラミッド形となる。
※2
トップ・プレデター:自分自身を捕食するもののいない、生態系の頂点に立つ動物。サバンナのライオンや浅海域のシャチなどが該当する。
※3
ベイトカメラ:自由落下で海底に設置する餌付きカメラシステム。塩分、水温、水深などの環境因子を計測する装置のほか、流向流速計を備え、餌に集まる捕食者や腐肉食者の多様性や生息密度を明らかにすることができる。
図1

図1.調査海域図。:調査地点。

図2

図2. ヨコヅナイワシ。(a) 側面写真、(b) 全身骨格のCT像、(c) 全身側面、(d) 頭部側面、(e) 上顎の歯列、(f)鰓耙、(g)ベイトカメラで撮影した遊泳するヨコヅナイワシ。

図3

図3. 駿河湾より採集した深海魚類の窒素同位体比(δ15Ν)と栄養段階(TP)。●:グルタミン酸の窒素同位体比、○:フェニルアラニンの窒素同位体比、■:グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比より推定した栄養段階。1&2:ラブカ、3&4:オオワニザメ、5:オンデンザメ、6&8:ミツクリザメ、7&9:エドアブラザメ、10&12:カグラザメ、11&14:ユメザメ、13:チヒロザメ、15&16:ヨコヅナイワシ。

新種の巨大深海魚「ヨコヅナイワシ」を発見
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター
藤原義弘 上席研究員
地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター
河戸勝 准研究副主任
地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター
土田真二 准研究主幹
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 広報課
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