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プレスリリース

2021年 3月 30日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

房総半島沖の水深6,000m付近の海底から大量のプラスチックごみを発見
―行方不明プラスチックを探しに深海へ―

1. 発表のポイント

深海底に沈むプラスチックごみの実態はほとんど知られていない。
房総半島から約500km沖、水深6,000m付近の海底をプラスチックごみの集積地と見込み調査した結果、ポリ袋や食品包装等の使い捨てプラスチックが大量に見つかった。
房総半島沖の大深度の海底に広がるプラスチックごみの密度(平均4,561 個 km-2)は、過去に記録された大深度の海底におけるプラスチックごみと比べて2桁も高く、海溝や海底谷など、ごみなどが集まりやすいと考えられる窪地と比較しても高い値を示した。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 海洋プラスチック動態研究グループの中嶋亮太副主任研究員らは、房総半島から約500km沖、水深6,000m付近の深海平原(※1)において、2019年9月に有人潜水調査船「しんかい6500」を使って調査を実施し、当該海底に大量のプラスチックごみが集積していることを初めて明らかにしました。

プラスチックは生物に分解されないことから生態系への影響が懸念されており、世界各国が海洋ごみ汚染の実態把握や排出防止に向けて動いています。毎年1,000万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流入し続けていますが、実際に海面に浮かぶ量はわずか44万トンに過ぎません。残りの大部分は表層から姿を消し行方不明であり、深海底がプラスチックごみの最終的な集積地と考えられていますが、その実態はよくわかっていませんでした。

そこで本研究では、日本近海で大量のプラスチックごみが集積されていると予想されている海域の1つ、房総半島沖の「黒潮続流・再循環域」を調査しました。その結果、調査海域直下の海底(水深5,718−5,813m)において、同様の水深帯では記録がないほど高い密度でプラスチックごみ、特にポリ袋等の使い捨てプラスチックが見つかりました。また昭和59年製造の食品包装がほとんど無傷の状態で見つかるなど、水温の低い深海ではプラスチックの劣化が極めて進みにくいこともわかりました。

本成果は、「Marine Pollution Bulletin誌」に3月30日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:
Massive occurrence of benthic plastic debris at the abyssal seafloor beneath the Kuroshio Extension, the North West Pacific
<https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2021.112188>
著者:
中嶋亮太1、土屋正史1、矢吹彬憲1、増田周平1、北橋倫1、長野由梨子1、生田哲朗1、磯部紀之1、中田晴彦2、Heather Ritchie1、小栗一将3、長船哲史1、川村喜一郎4、鈴川真季4、山内拓也2、飯島耕一1、吉田尊雄1、千葉早苗1、藤倉克則1
所属:
1.海洋研究開発機構、2.熊本大学、3.南デンマーク大学、4.山口大学

3. 背景

1950年代から大量生産が始まったプラスチックの生産量は、2016年までに合計83億トンにも達します。そのうち63億トンが廃棄され、うち8割近くは埋め立てられたか一部は環境中に流出しています。毎年海洋に流入するプラスチックごみの量は約1,000万トンを超えるとされていますが、観測によると海面に浮かぶプラスチックごみの全球的な総量は44万トンにすぎず、大部分の行方が不明です。軽いプラスチックでも、生物付着が生じると沈降することは知られています。そのため大部分は深海に沈んだと考えられていますが、研究例が少なく、深海ごみの実態はほとんど明らかとなっていません。特に、大深度の海底におけるプラスチックごみの情報は世界的にみても極めて乏しく、実態の解明が急務となっています。

毎年海洋に流入する膨大な量のプラスチックごみのうち、約半分は東アジア・東南アジア諸国から漏出しています。これら大量排出域から漏出したごみの一部は黒潮に乗り、日本近海を北上します(図1)。そのため日本近海の表層に浮かぶマイクロプラスチック(※2)量は他の海域に比べて多いことが先行研究(Isobe et al. 2015)で明らかとなっており、日本周辺の深海底には極めて多量のプラスチックごみが集積していると予想されていました。

日本近海には、少なくとも2つの巨大な深海ごみの集積場所が予想されています。1つは四国沖の「黒潮・再循環域」の海底、そしてもう1つは本研究で対象とした房総半島沖の「黒潮続流・再循環域」の海底です(図2)。「黒潮・再循環域」および「黒潮続流・再循環域」の表層では、海流が大きく渦を巻いて循環しており、我々の事前予測から黒潮によって日本を含む東アジアから運ばれてきたプラスチックごみが渦に巻き込まれて集積・沈降し、その海底下には巨大なごみだまりが形成されていると予想されていました。

4. 成果

そこで本研究チームは、2019年9月に有人潜水調査船「しんかい6500」を使って、房総半島から500kmほどの沖合にある「黒潮続流・再循環域」の直下の深海平原(水深5,718−5,813m)においてマクロプラスチックごみ(※3)の調査を実施しました(図2)。「黒潮続流・再循環域」は、東アジア域から流入するプラスチックごみが黒潮に乗って北上し、東太平洋に向かう際の主要な経由地点です。

有人潜水調査船「しんかい6500」にて目視観察及び撮影した映像をもとに、単位面積当たりのプラスチックごみの存在量を算出した結果、「黒潮続流・再循環域」の直下の海底でプラスチック含む大量のごみを確認し、水深6,000m付近の大深度の海底においても、プラスチックごみの汚染は広がっていることが明らかとなりました。

見つかったごみの大部分(8割以上)はポリ袋や食品包装などの「使い捨てプラスチック」でした(図3)。昭和59年(1984年)製造と記された35年以上前の食品包装がほとんど無傷かつ印刷も鮮明なまま見つかり、水温の低い深海ではプラスチックがほとんど劣化しないことがわかりました。当該海域の深海底に到達したプラスチックは、極めて長い時間残り続けると考えられます。

「黒潮続流・再循環域」の深海平原に広がるプラスチックごみの密度(平均4,561 個 km-2)は、過去に記録された深海平原におけるプラスチックごみと比べて2桁も高く、海溝や海底谷など、ごみなどが集まりやすいと考えられる窪地と比較しても高い値を示しました(図4)。このことは、黒潮によって運ばれる大量のごみの一部は沈降して日本周辺海域の深海底に堆積していること、そして「黒潮続流・再循環域」の深海底がプラスチックごみの主要な溜まり場の1つになっていることを示唆しています。

表層で沈み込むプラスチックごみは、1週間以内に水深4,000-6,000mの海底まで到達すると推定されています。JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」で計算した海中の流れ場を用いて沈降の様子をシミュレーションした結果、「黒潮続流・再循環域」の深海底で見つかったごみは、どこか遠くの海底から運ばれてきたものが集積したというよりは、真上の海面から鉛直方向に沈降してきたものが残留している可能性が高いこともわかりました。

5. 今後の展望

今回、房総半島沖の「黒潮続流・再循環域」の海底に大量のプラスチックごみが集積していることは明らかとなりましたが、四国沖の「黒潮・再循環域」の海底については未解明です。東アジアの大量排出域や日本南方から黒潮にのって運ばれるごみは、四国沖の「黒潮・再循環域」にもトラップされ、その表層に長時間滞留する可能性が想定されます。ここでは時計回りの巨大渦の形成が通年安定しているため、その表層ではこれまでに類を見ない高濃度のごみが集積している可能性が高く、また、その直下には表層から供給されたごみが大量に溜まり続け、局所的に巨大なごみ溜まりを形成していることも想定されており、今後調査を実施していく予定です。

また、海洋の表層ではごみに特異的な微生物群集やごみの増大により生息域を広げる生物など、ごみ生命圏の存在が明らかとなっています。深海底で大量にごみが集積する場所が見つかれば、深海ごみに特異的な生物群集が見つかる可能性もあります。黒潮がプラスチックごみを運び、海底へと輸送するメカニズム、さらに輸送されるごみの量、日本周辺の深海底に広がるプラスチックの存在量を明らかにし、行方不明プラスチックの隠れ場、ひいてはプラスチックごみ生命圏の実体を明らかにしていく予定です。

【用語解説】

※1
深海平原:勾配の緩やかな深海底のこと。海底は陸上と同じように山や谷等の様々な地形が存在するものの、大深度においては平らな地形(特に4000m-6000m)が大部分を占める。
※2
マイクロプラスチック:大きさが5ミリメートル以下のプラスチック粒子。
※3
マクロプラスチックごみ:ポリ袋など、我々が日常手にするサイズのプラスチックごみ。
図1

図1 大量排出域から漏出したごみの一部は黒潮に乗り、日本近海を北上する。
UNEP and GRID-Arendal, 2016. Marine Litter Vital Graphics. United Nations Environment Programme and GRID-Arendal. Nairobi and Arendal.を改変。

図2

図2 調査概要
(a)日本列島の東側を流れる黒潮。色は流速(m/s)を示す。(b)黒潮、黒潮続流、黒潮続流再循環域。色の濃淡は2018年の平均海面高度(m)を示す。(c)調査地点。St.8と9が「黒潮続流・再循環域」直下の海底(水深5,718−5,813m)、st.10が黒潮続流の海底(水深5,707m)、St.6.5は明神海丘(水深1,400m)、St. 2は相模湾(水深1,400m)。

図3

図3 見つかったごみの写真の例
St.8:(a) ポリ袋、(b)ポリ袋、(c)化繊の衣服と化繊の網。
St.9:(d)ポリ袋、(e)ポリ袋、(f)アルミ蒸着タイプの風船。アルミは腐食して内側のプラスチックフィルムが残っている。
St.10 (g)チキンハンバーグの袋、(h)製造年月日には昭和59年9月と印字されている、(i)歯みがき粉。パッケージデザインから14−15年前と推定された。
St.2:(j)ビール缶、(k)インスタントヌードルの袋、(l)梱包のひも。

図4

図4 世界の海底地形ごとのプラスチックごみ数の比較。これまでに報告された深海平原のプラスチックごみ数よりも黒潮続流域直下の深海平原の数は桁違いに多い。また他の海洋地形と比べても、黒潮続流直下の深海平原のごみ数は多い方であることがわかる。箱の中の横線は中央値、×は平均値を示す。○は外れ値。箱の上下は、それぞれ第3四分位数、第1四分位数を示す。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境部門海洋生物環境影響研究センター 海洋プラスチック動態研究グループ
副主任研究員 中嶋亮太
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 広報課
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