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2023年 9月20日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
東京大学地震研究所
高知大学
東京大学大気海洋研究所

プレート境界断層スロー地震発生域から海底面までつながる流体経路を発見
―沈み込む海嶺が作る上盤プレート破砕帯のイメージングに成功―

1. 発表のポイント

プレート境界における流体の挙動は、地震の発生や泥火山(※1)の形成に影響を与えていると考えられているが、流体に係る上盤プレートの構造を裏付けるデータは限られており、スロー地震(※2)発生域における震源断層の物理特性は十分にわかっていなかった。
日向灘で取得した地震探査データを解析した結果、上盤プレート内に海底面からプレート境界まで鉛直方向につながる幅数kmの低速度体を発見した。この低速度体は九州パラオ海嶺が沈み込むことで生じた破砕帯と解釈され、流体を豊富に含むスロー地震の発生領域と連結していることがわかった。
発見した破砕帯はプレート境界からの流体の上昇経路となっており、その一部には流体の出口となる海底面に泥火山を生じていると解釈される。
今回の研究成果に、今後、周辺の地震探査データを加えて解析を行うことで、プレート沈み込み帯における流体循環や巨大地震やスロー地震の発生機構の理解が進み、海域で発生する地震・津波に対する防災・減災に貢献することが期待される。

【用語解説】

※1
泥火山:地下由来の泥や岩石が噴出することで形成される地形。多くは円錐形の山体を持つ。火山地帯に限らず、プレート沈み込み帯にも分布することが知られている。主に地殻内で生じた流体が表面まで上昇してくることで生じる。
※2
スロー地震:断層でのずれが通常の地震より遅いタイプの地震の総称。数Hzの地震波の成分が卓越する低周波地震や0.1Hz以下の成分が卓越する超低周波地震、さらに地震波を出さずに数日から数か月・数年かけてゆっくり断層がすべるスロースリップイベントなど、ずれの速度によっていくつかの種類に分類される。また低周波地震が連続的に発生して長時間にわたって地震波が放出される現象を低周波微動と呼ぶ。

【参考】プレート沈み込み帯の概念図

【参考】プレート沈み込み帯の概念図

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門の新井隆太副主任研究員らは、南海トラフ最西端に位置する日向灘において屈折法地震探査(※3)および反射法地震探査(※4)を実施し、それらの地震波データを解析しました。その結果、海底面からプレート境界(深さ10-13km)まで鉛直方向につながる幅数kmの低速度体が上盤プレート内に複数存在することを発見しました。これらの低速度体は、南東側から沈み込む九州パラオ海嶺(起伏に富んだ海山群)によって上盤プレートが強く破砕された場所であると解釈されます。また、この破砕帯は流体を豊富に含むスロー地震の発生領域と連結していることを明らかにしました。上盤内の破砕帯はプレート境界等の地殻深部から上昇してくる流体の経路となっており、その一部は海底面に泥火山を生じていると考えられます。

本研究における地震波データの詳細な解析を通じて、九州パラオ海嶺が沈み込むことで生じる上盤プレート内およびプレート境界周辺の複雑な地殻構造が明らかとなりました。これらの成果は、プレート沈み込み帯における流体循環および巨大地震やスロー地震の発生機構を理解するうえで重要な知見となると考えられます。

本研究は、日本学術振興会科研費(課題番号:16H06475, 19H04629, 21H05202, 22K03789)の支援により行われたものです。本成果は、英科学誌「Nature Communications」に9月20日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:
Upper-plate conduits linked to plate boundary that hosts slow earthquakes
著者:
新井隆太1、三浦誠一1、中村恭之1、藤江剛1、小平秀一1、海宝由佳1、望月公廣2、仲田理映2,3、木下正高2、橋本善孝4、濱田洋平5、沖野郷子6
所属:
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門
2. 東京大学地震研究所
3. Lawrence Berkeley National Laboratory
4. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 高知コア研究所
5. 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門
6. 東京大学大気海洋研究所
DOI:
10.1038/s41467-023-40762-4

【用語解説】

※3
屈折法地震探査:海域における屈折法地震探査では、海面の近くに曳航したエアガンから音響波を海中に放出し、海底に一定の間隔で展開した海底地震計でその音響波と海底下から屈折してきた地震波を記録する。記録された地震波のうち、海底地震計にもっとも早く到達するP波(初動)の伝播時間と後続の波を含む波形情報から、海底下のP波速度を推定する。
※4
反射法地震探査:海域における反射法地震探査では、海面の近くに曳航したエアガンから音響波を海中に放出し、速度と密度が変化する海底下の境界面で反射して、再び海面近くに戻ってきた波を受振器を備えたストリーマケーブルで捉える。捉えられた反射波の到達時間と振幅を処理・解析することで、海底下の地質構造形態が明らかとなる。

3. 背景

南海トラフの最西端に位置する日向灘では、過去にマグニチュード7クラスのプレート境界地震が複数発生しています。最近の海底地震観測から、それらの地震の震源域より浅い領域において、低周波微動や超低周波地震といったスロー地震が発生していることがわかってきました。これらプレート境界地震およびスロー地震の発生領域には南東側から九州パラオ海嶺が沈み込んでいることから、海底面の起伏が大きい海山の沈み込みと地震活動に関連があることが示唆されてきました。しかし、その詳細は依然としてわかっておりません。また、日向灘の海底には多数の泥火山が分布していることが知られています。先行研究によって、上盤プレートの地殻内に存在する粘土鉱物の脱水反応がこれらの泥火山の形成に寄与していることが指摘されていますが、流体そのものの起源や流体が上昇してくる経路については不明な点が多く残されています。

調査海域である日向灘は南海トラフで1946年に発生したプレート境界型の巨大地震(南海地震)の震源域とも隣接しています。上記のような地殻深部での流体分布と巨大地震・スロー地震との関連を明らかにすることは、将来発生が危惧される南海トラフ巨大地震へ備えるためにも重要です。こうした背景を踏まえ、JAMSTEC・東京大学地震研究所・高知大学・東京大学大気海洋研究所からなる研究グループは、浅部スロー地震発生域を南海トラフと平行な方向に横断する測線において調査を行いました。調査では、海底下を屈折してくる地震波からプレートの地震波速度を推定する屈折法地震探査と、地層境界等から反射してきた波を重ね合わせて反射面の位置や形状を推定する反射法地震探査を実施しました。

4. 成果

2020年8月から9月にかけて海底広域研究船「かいめい」を用いて地震波探査を実施しました。屈折法地震探査用に海底地震計50台を測線上に2km間隔で展開し(図1)、エアガンから発せられる地震波を記録しました。また、同じ測線において反射法地震探査を実施しました。取得された海底地震計のデータに波形インバージョン解析(※5)を適用した結果、海底面からプレート境界(深さ10-13km)までつながる幅数kmの低速度体が上盤プレート内に複数存在することを発見しました(図2a、2b)。反射法データからは、この測線の中央部に沈み込む九州パラオ海嶺の形状を確認することができます(図2c)。つまり、これらの低速度体は沈み込む海山の直上と周囲に発達しており、起伏に富んだ海山群によって上盤プレートが強く破砕された場所であると解釈されます。さらに反射法データを詳細にみると、低速度体の浅部では堆積層がドーム状に変形していることもわかりました(図2d-m)。

図1

図1.日向灘のテクトニクス(プレートの沈み込みと地震活動の位置関係)。(a) 広域の海底地形図。黒太線(HYU01測線)上に海底地震計50台を2km間隔で設置し、エアガン発振(容量10600立方インチ)によって屈折法データを取得するとともに、黒細線上で約6km長のストリーマケーブル(チャンネル数444)を曳航し、反射法データを取得した。紫色、青色、緑色の領域はそれぞれ1946年、1968年、1996年に発生したプレート境界型地震の震源域を表す。オレンジ色の領域はスロースリップの発生域、白点は低周波微動、黄色四角は繰り返し地震、赤三角は泥火山の位置、白矢印はフィリピン海プレートのアムールプレートに対する運動を表す。黒四方向角はパネルbの範囲。 (b) 屈折法地震探査および反射法地震探査のレイアウト。背景は歪除去後の磁気異常データ。黄色丸は屈折法地震探査の海底地震計の位置、黒線が反射法地震探査の測線(パネルaの黒細線)を表す。

図2

図2. HYU01測線でのプレート構造。海底地震計が設置された100kmの区間(図1パネルaの黒太線)の構造を示す。 (a) 波形インバージョン解析によるP波速度構造。黒矢印の箇所に鉛直方向につづく低速度体が存在する。(b) P波速度の深さ平均からのずれ。 (c) 重合前深度マイグレーション処理による反射断面図。 (d–h) 低速度体の詳細。 (i–m) 低速度体の浅部に見られる堆積層がドーム状に変形した構造。

次に、こうした地下構造と海底地形を比較したところ、破砕帯の周囲には線上につづく急勾配の地形や円形の海丘を多数確認することができます(図3)。特に、円形の海丘の一部は海底面に泥火山を形成している可能性があります。こうした一連の特徴から、上盤プレート内の破砕帯はプレート境界等の地殻深部から上昇してくる流体の経路となっていると考えられます。

図3

図3.低速度体と海底地形の比較。(a) 海底面深度と (b) 海底面の勾配。泥火山と考えられる円形の海丘(青色矢印)や海山(白および黄色の磁気異常コンター線)から放射状にのびる断層崖(ピンク矢印)が確認できる。黒および赤の太線は上盤プレート内の低速度体の位置。

波形インバージョン解析で得られた速度構造モデルをさらに分析したところ、上盤プレート内とプレート境界周辺で、深さ方向に速度が逆転している箇所が存在することがわかりました(図4)。また、スロー地震が発生する場所では、プレート境界の反射効率が高くなっています(図2c図5)。いずれのデータも、上盤プレート内やプレート境界に低速度媒質として流体が存在することを示唆します。日向灘で発生するスロー地震の正確な深度はわかっていませんが、この結果は流体分布とスロー地震が密接に関連していることを支持するものです。

図4

図4.P波速度構造の深さ方向の勾配。複数の深度で速度逆転(赤色)が確認できる。BSRはBottom simulating reflector。

図5

図5.プレート沈み込み構造と地震活動の比較。(a) 上盤プレートおよびプレート境界周辺構造の解釈図。背景のP波速度は図2aで示したもの。スラブモホはP波速度7.5km/sのコンター線で近似している。(b) 微動と超低周波地震の発生個数。測線から5km以内に発生したものを投影している。線の色はパネルcで示したそれぞれのエピソードに対応。(c) 微動と超低周波地震の分布(それぞれの色の丸)。赤三角は泥火山、黒実線はHYU01測線の位置。

本研究では、地震波データの詳細な解析を通じて、九州パラオ海嶺が沈み込むことで生じる上盤プレート内およびプレート境界周辺の複雑な地殻構造を明らかにするとともに、それらの地殻構造がプレート内を流れる流体や地震の分布を規定する重要な要因となっていることを示しました。これらの成果はプレート沈み込み帯における流体循環およびスロー地震の発生機構を理解するうえで重要です。また、スロー地震と通常の地震が発生するそれぞれの場所の上盤プレートとプレート境界の構造が示されたことで、スロー地震と巨大地震の関連性など将来発生する巨大地震の広がりを考えるうえで重要な知見が得られたと考えられます。

【用語解説】

※5
波形インバージョン解析:地震波速度モデルを求める解析手法の一つで、屈折法地震探査において海底地震計で取得した地震波形データを逆解析に用いる。従来の走時データ(伝播時間)を用いる手法と比べて、波形の振幅や位相といった情報を加えることで、解析の分解能を劇的に向上させることができる。

5. 今後の展望

本成果では、日向灘において大規模な地震波探査を実施し、九州パラオ海嶺の沈み込みに関連する複雑な地殻構造を明らかにしました。

JAMSTEC 海域地震火山部門では2021年度にも、今回の調査海域の東側にあたり1946年の巨大地震の震源域を含む足摺沖において同様の屈折法地震探査・反射法地震探査を実施しております。一連の探査データを統合した解析を現在進めており、東部(足摺沖)の南海トラフ巨大地震の発生域からスロー地震が卓越して発生する西部(日向灘)にかけて、プレート構造にどのような違いがあるのかを明らかにする予定です。また日向灘では、南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)が間もなく開通する見込みであるとともに、掘削船を用いた地殻物質の採取および掘削孔内での地球物理観測網の構築が計画されるなど、複数の研究プロジェクトが現在進行しています。これらの新しい観測により、地震現象やそれを規定するプレート構造の要因に関してさらなる知見が得られると期待されます。

我々の研究グループは今後も日向灘を含む南海トラフ域において地震波探査を主軸とする調査を継続し、観測データに基づいて地震発生帯の構造・物性およびそこで発生する地震現象の理解を深めることで、海域で発生する地震・津波に対する防災・減災に貢献していきます。

(本研究について)
海洋研究開発機構
海域地震火山部門 地震発生帯研究センター
副主任研究員 新井隆太
東京大学地震研究所
地震予知研究センター
教授 望月公廣
高知大学自然科学系理工学部門
教授 橋本善孝
東京大学大気海洋研究所
海洋底科学部門
教授 沖野郷子
(報道担当)
海洋研究開発機構 海洋科学技術戦略部 報道室
東京大学地震研究所 広報アウトリーチ室
高知大学総務部総務課広報室
東京大学大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター 広報戦略室
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