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太陽活動とシンクロする海面高度変動 ―11年周期の太陽サイクルに合わせて、海と陸の間で水が動いていた―

2025.05.16
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人京都大学

1. 発表のポイント

  • 全球平均海面高度は太陽活動の11年周期変動に同期して変動することが知られていましたがそのメカニズムは未解明でした。
  • 本研究では過去の長期地球観測データなどを緻密に再検証し、その原因が海陸間の淡水の移動にあることを突きとめました。太陽活動が活発な時期には、陸にある水が海洋により多く排出されることで海面高度が上昇します。
  • この淡水循環の変化は、太陽と上層大気の相互作用が熱帯対流圏の季節内変動に影響を及ぼし、それが全球的な降水のパターンをつかさどるエルニーニョ南方振動現象(ENSO)※1 の活発度を変化させることで現れます。
用語解説
※1

エルニーニョ南方振動(ENSO)現象
熱帯の大気海洋相互作用によって現出する地球規模の気候変動現象。数年の時間スケールで変動し、全球的な陸水の変化と密接に関係していることが知られている。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)地球環境変動部門の増田 周平上席研究員らは、Environmental Satellite ApplicationsのJ.P. Matthews氏(京都大学名誉教授)や京都大学大学院総合生存学館の山敷 庸亮教授と連携し、太陽サイクルの11年周期による全球平均海面高度変動に関する新たな研究成果を発表しました。本研究では、これまでそのメカニズムが明らかにされなかった全球平均海面高度に見られる太陽活動11年周期と同期した変動成分の起源を解明することを目的に、近年整備が進んできた精密な衛星高度計をはじめとする過去の地球観測データセットの再評価を行いました。

太陽活動が活発な時期(太陽表面の黒点数が多くなるフェーズ)に、全球平均でみた海面高度は上昇する傾向があります。これは太陽放射の全波長のエネルギー(全放射フラックス)変動の変化による海水の熱膨張では量的に説明できないことが知られており、そのメカニズムはわかっていませんでした。著者らは利用可能な長期の地球観測データを調べ、パーマー干ばつ深刻度指数(PDSI)と呼ばれる陸水の多寡に関する指数が同じく11年の周期の太陽活動と同期していることを見つけました。このことから、観測される太陽周期の海面変動は、海洋と陸域の水の移動によって引き起こされていることが示唆されます。太陽活動が活発な時期には陸上の水が海洋により多く流れ込んでいるということになります(図1)。この定性的な変動特性を約30年間の精密な衛星観測データ(高度計のデータ、および重力場測定衛星による、陸域の水分貯蔵量のデータ)で確認したところ、定量的にも整合的な結果が得られました。

これらの水の移動が太陽活動の変化とどう関係しているかを約160年間の歴史的データセットを用いて調べたところ、エルニーニョ南方振動(ENSO)の振る舞いが太陽活動の活発さに依存していることがわかりました。ENSO現象は全球的な降水ひいては陸上の水分貯蔵量の変動に数年の時間スケールでは支配的な役割を果たしていることが知られています。具体的には、太陽活動が、大気上層の風の逆転現象を示す準2年周期振動(QBO)※2 を通じて、赤道域の季節内変動(マッデンジュリアン振動)を変化させ、それがエルニーニョ南方振動(ENSO)に影響を与え、その結果、降水パターンに変動をもたらし、陸上の水分貯蔵量に影響を与えることが統合的な解析により確認されました。

これにより、太陽活動の周期変動が地球の水循環に明確な影響を与えていることが理解され、海面変動のメカニズムに新たな視点が加わりました。この研究成果は、過去および未来の全球平均海面の変動に関する動態の理解を深める重要な一歩となります。また、気候変動や海面上昇、さらには水資源管理における重要な情報を提供するものです。JAMSTECは今後も引き続き、地球規模の環境変動のメカニズム解明に向けた研究を進めていきます。

用語解説
※2

準2年周期振動(QBD)
QBDは赤道下部成層圏(高度約16~30 km)の平均東西風が28か月程度をかけて次第に交代する準周期的な振動現象。

図1

図1.全球平均した陸域の貯水量と平均海面水位との関係の模式図。 11年周期の太陽活動変動にともない、活動が活発な時には陸域の降水量が少なく(海洋から陸域への水蒸気輸送が相対的に少なく)、陸域の貯水量が減少し、全球平均海面水位が上昇する(A、B)。太陽活動が減退している時期は逆の挙動を示す(C、D)。

なお、本研究は、文部科学省科学研究費助成事業「学術変革領域研究 (A)」マクロ沿岸海洋学-JP15H05817/JP15H05819」の支援を受けたものです。

本成果は、「Scientific Reports」誌に5月16日付け(日本時間)で掲載されました。

論文情報
タイトル

Origin of the Solar-Cycle Imprint on Global Sea Level Change

著者
増田 周平1*、 John Philip Matthews2, and 山敷 庸亮3
所属
  1. JAMSTEC地球環境部門
  2. Environmental Satellite Applications, U.K.
  3. 京都大学大学院総合生存学館

3. 背景

全球平均海面高度は気温の温暖化等に伴う陸域の氷の融解、海水の熱膨張などの影響により数十年スケールでみると単調に上昇を続けており、人間を含む陸上生物の活動にとって注目すべき変数の一つです。一方、太陽活動は地球環境の形成を支え、気候を決める大きな外的要因ですが、その年々変化については比較的安定しており、海洋を含む対流圏以下の環境にドラスティックな変化をもたらすことは稀です。そのようななかで、全球平均海面高度には太陽活動の11年周期変動に同期する明確なフットプリントがあることが知られていました(図2)。太陽活動が活発な時期(太陽表面の黒点数が多くなるフェーズ)には全球平均でみた海面高度は上昇する傾向にあり、不活発な時期は下降する傾向にあります。これは単純な太陽放射の熱的変化による海水の熱膨張では量的に説明できないことが指摘されており、そのメカニズムはこれまでわかっていませんでした。本研究では、近年の高精度衛星観測データを含む、気候変動に関連する様々なデータセットを再検証し、この問題にアプローチしてみました。

図2

図2.Frederikseらが提供した、1900年以降の全球平均海面高度(灰色の曲線)。エラーバーは90%信頼区間を示す。同じデータから得られた海面変動率を赤で示す。太陽の黒点数は青で示されている。全球平均海面高度はこの100年ほぼ単調に増加を続けているが、その中に含まれる10年スケールの時間変化(赤)は太陽活動の11年周期変動と同期を見せる。

4. 成果

長期の地球観測データのうち、パーマー干ばつ深刻度指数(PDSI)と呼ばれる陸水の多寡に関する指数の時間変化を計算すると、11年の周期の太陽活動と同期している変動が含まれていることを見つけました(図3)。PDSIは降水や土壌のデータから計算される指数ですが、過去には1900年台まで遡れ、長期の陸上の水分貯蔵量の動態を知るヒントになるものです。

この同期から、太陽活動が活発な時期には全球的に陸域が乾燥傾向にあることがわかりますが、地球上の水の総量が大きく変化しないことを考えると、ここで失われた陸の水分が海に移動していたことが予想されます。このことを定量的に知るには衛星観測が有効です。高度計(アルチメータ)は全球の海面高度を正確に測定でき、地球の重力場を測定するGRACE衛星の観測からは陸域の水分貯蔵量を推定することができます。この結果、海面高度の変化と陸域水分貯蔵量の変化がちょうど逆の位相で量的にも同程度の値を持っていることがわかりました(図4)。このことから、観測される太陽周期の全球海面高度変動は、海洋と陸域の水の移動によって引き起こされていることが明らかになりました。太陽活動が活発な時期には陸上の水が海洋により多く流れ込んでいるということになります。

図3

図3.PDSIの時間変化の太陽活動への依存性。全球平均パーマー干ばつ深刻度指数の変化率の3年移動平均(赤線)と太陽黒点数(青線)の比較(1908~2005年)。いくつかの例外的なピークはあるものの統計的に有意な相関が認められる。太陽活動が活発な時期には全球的に陸域が乾燥傾向にある。

図4

図4.高度計による全球平均海面高度の時間変化率と、太陽活動、陸域水分貯蔵量との関係。季節変動を除去した高度計データから得られた、線形トレンドを除去した全球平均海面高度変化率(緑色の曲線)と陸域の貯水量の変化率(赤)を示す。どちらも3年間の移動平均値プロットしている。太陽活動の指標として、フィンランド・オウルでの銀河宇宙線のデータを青で示す。緑と赤・青のデータの相関は99.9%以上のレベルで有意であり、緑と赤の線はどちらも全球海面高度への寄与率として同じ単位を持っている。11年周期変動に関しては陸水の変化が海面高度の変化を支配的に決めていることがわかる。

最後に、これらの水の移動はどのようなメカニズムでおこっているのかを大気・海洋の歴史的データセットを用いて調べました。図5はENSOの振る舞い(発達の速さ)を横軸に、銀河宇宙線(太陽活動の指標)の値を縦軸にして、大気上層の風の逆転現象を示すQBOが西風フェーズの時には水色で東風フェーズの時には赤色でプロットしたものです。ここではENSOの発達の速さがマイナスのもの(ラニーニャ傾向の時間変化のケース)だけを示しています。太陽活動が活発なときと、活発でないときを比べると、QBOが東風フェーズのとき(赤)に明確な差が見られます。活発でないときに負の発達速度が非常に大きくなっていることがわかります。QBOが西風フェーズの時にはそのような差は見られません(水色)。ENSO現象は全球的な降水ひいては陸上の水分貯蔵量の変動に数年の時間スケールでは支配的な役割を果たしていることが知られていますので、このENSO現象の太陽活動への選択的な応答は、太陽活動と海面高度変化をリンクする役割を持ち得ます。

選択的な応答の可能性については2023年の先行研究でHood博士らが、ENSO現象のトリガーに係ることが指摘されている赤道域の季節内変動(マッデンジュリアン振動-MJO※3)がQBO東風フェーズの太陽活動が活発でない期間に明確にその振幅を増加させることを発表しています。今回の結果はMJOの変化がさらにENSOの統計的なふるまいに影響を与え、それら一連の現象のフットプリントとして、海面高度変化に太陽との同期現象が現れたものと考えることができます。

図5

図5.ENSO現象の発達速度と太陽活動との関係のQBO位相依存性。1965~2020 年のNINO34 海面水温(ENSO現象の指標)の変化率(ただし負のケースだけ)と太陽活動度の散布図。水色の点は QBO 西風フェーズ、赤色の点は QBO 東風フェーズを表す。赤の点のみが太陽活動に大きく依存することがわかる。

用語解説
※3

マッデンジュリアン振動(MJO)
MJOは、主にインド洋で発⽣する⽔平規模が数千㎞にも及ぶ巨⼤な積乱雲群が⾚道に沿って東進する、周期が30〜60⽇の⼤気変動。

5. 今後の展望

今回の研究成果により、太陽活動が地球の水循環に明確な影響を与えていることが明らかになり、全球海面高度変動のメカニズムに新たな視点が加わりました。このようなこの研究成果は、過去および未来の全球平均海面高度の変動に関する理解を深める重要な一歩となります。また、気候変動や海面上昇、さらには水資源管理における重要な情報を提供するものです。

科学的には全球的、あるいは地域的な現象として、断片的に研究が進んでいる現象、ENSO、QBO、MJOが絡み合い、海面平均高度に太陽活動のフットプリントが見られるというストーリーはそれぞれの現象が地球上の環境をどのように整えているのか、どのような機能を持っているのかを考える上で非常に興味深いとことです(図6)。

JAMSTECは今後も引き続き、地球規模の環境変動のメカニズム解明に向けた研究を進めていきます。

図6

図6.明らかになった太陽活動と全球海面水位変動とのリンクの概念図。

本研究のお問い合わせ先

海洋研究開発機構
地球環境部門 部門長 増田 周平

報道担当

海洋研究開発機構 海洋科学技術戦略部 報道室
京都大学 広報室 国際広報班