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 コラム海底に“いかり”を下ろし、ゆらゆら揺れる奇妙な生物

 南西諸島海溝の水深7,212m付近で、奇妙な生物の姿が確認された。半透明の胴体から糸のような細い2本の突起物が、海底に向かって伸びている。突起物の長さは1.5〜2.5m。この生物は、船がいかりを下ろして停泊するように、2本の突起物によって海底と自分の体をつなぎ留めているのだ。まるで大空へ放った凧のように、糸の先で半透明の胴体がゆらゆらと揺れていた。さらに、胴体の上部からは、1〜1.5mほどの触手が2本飛び出している。胴体の大きさは、縦10〜20cm、横5〜8cmで、細長い姿。その胴体のなかには「水管」と呼ばれる栄養を循環させるための構造が白く映し出されていた。

 画像を詳細に観察した結果、この生物は体の表面を筋状に取り巻く「櫛板(くしいた)」と呼ばれる組織を持つことから、クシクラゲの一種と同定された。さらに長い触手を持つことや、ほかの特徴から、クシクラゲのなかでもフウセンクラゲの仲間であることが分かった。しかし、これまでに海底へと伸びる突起物を持つフウセンクラゲは発見されていない。新種のクシクラゲの可能性が高い。

 また、2本の側糸のない触手で大型のプランクトンを捕らえて食べるはずだが、7,212mの海底に固定された状態で、十分に餌を取り生き続けられるとすれば、超深海にはこれまで考えられている以上に多くの食べ物が存在するのかもしれない。深海の常識を覆す証拠の一つとなる可能性もある。

 この画像は、2002年に無人探査機「かいこう」の訓練潜航で偶然、撮影されたものだ。採集用の準備をしていなかったので、残念ながらクシクラゲの標本を捕らえることはできなかった。新種と同定するためには、画像からはよく分からない内部の水管構造などをもっと詳しく見る必要がある。発見者の一人であるドゥーグル・リンズィー研究員は、7,000m以深で発見されたこの奇妙な生物を生きたまま捕獲して、研究できる日を心待ちにしている。

(取材協力:ドゥーグル・リンズィー研究員 極限環境生物圏研究センター 海洋生態・環境研究プログラム)

クシクラゲの特徴である8本ある放射状の櫛板のうち、4本が確認できる。2本の長い触手はフウセンクラゲの特徴である。「クラゲ」の名前が付いているが、いわゆるクラゲ類(刺胞動物)とは別のグループ



2002年4月7日、無人探査機「かいこう」が水深7,212mでとらえた新種と考えられるクシクラゲ。海底へ2本の長い突起を伸ばしているのが大きな特徴。
この突起が海底と胴体をつないでいる。胴体の上部から伸びている2本は触手で、ここでプランクトンを捕らえて食べると考えられている


※本ページの内容は、海と地球の情報誌『Blue Earth』2007年7-8月号より抜粋しました。
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※関連リンク
>> プレスリリース:沖縄本島南方の海底で奇妙な形態の深海生物を発見〜新種のクシクラゲの可能性〜 (2007年06月11日掲載)