突撃!
隣の研究室

第3回 野崎達生(のざき たつお)さん
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
海洋機能利用部門海底資源センター

海の底に眠る貴重な資源をつかえるようにしたい!

夢は地球環境問題を解決する科学者になること

野崎さんは小学生のとき、どんな子どもでしたか?
ゲームも大好きでしたけど、週末は両親と一緒に海で釣りをしたり、春は山菜採りをしたり、秋には山芋掘りをしたり、自然を相手に遊んでいましたね。
研究の道に進んだきっかけのようなものはあったのですか?
小学5年生の国語の教科書で、オゾン層破壊についての文章を読んだのがきっかけです。オゾン層は地球の上空数十キロにあるオゾンという気体の多い層のことで、太陽の紫外線から生物を守っています。このままだとそれが壊れてしまうかもしれないという内容で、地球環境問題の大切さに初めて気づきました。自分ではあまり覚えてないんですけど、そのころ書いた作文に「科学者になりたい」と書いたようです。

地球の歴史と、これから資源が見つかりそうなところが、石からわかる

今、取り組んでいる研究について教えてください。
ぼくの専門は鉱床学(こうしょうがく)です。かんたんにいえば、ぼくたちの生活に欠かせないさまざまな資源がどのようにできるのかを知る学問で、最終的には、人類が必要とする資源を手に入れやすくすることを目指しています。今、世界中の人が心配している地球温暖化問題や環境汚染の問題も、エネルギーなどの資源を上手く見つけて、つかえるようになれば、解決に近づくはずです。そう考えて、この研究をするようになりました。
すごい!子どものころの夢を叶えたんですね。
ありがとうございます。目標はとても大きいんですけれど、やっていることはじつはすごく地味なんですよ。海や山に野外調査に行って、採ってきた石を切って表面を削って顕微鏡で見たり、粉にした石を溶かして化学的な性質・濃度を調べたり、同位体(注1)の割合(比)を調べたりしています。
そうした分析で何がわかるんですか?
みなさんご存知のように、資源はその種類によってたくさん集まっている地層(=鉱床こうしょう)が違います。資源がたくさん集まることを濃集(のうしゅう)というのですが、たとえばマンガンという元素は、今から約23億年前にできた地層からその多くが見つかっています。これは、この時代に地球上の大気酸素濃度が高くなったために、それまで水に溶けていたマンガンが酸化物になって海の底に沈んでたまったからなんです。このように資源の濃集を知ることで、地球の長い歴史・営みを知ることができます。また、その鉱床にどんな資源がどのくらい入っているか、どれくらいの大きさなのかもわかりますし、次にどこをどんなふうに探せばいいのかという手がかりも得られるんです。
石を調べると、いつできたかもわかるんですか?
はい。ちょっと難しくなりますが、ぼくが専門にしている方法の1つがレニウム−オスミウム年代決定法(注2)というものです。この元素にはいくつかの同位体があって、レニウムの同位体の1つは、放射線を出しながら長い年月をかけてオスミウムの同位体に変わる放射壊変(ほうしゃかいへん)を起こす性質があります。ですから、これが含まれている石なら、それぞれの同位体の割合(比)をていねいに調べることで、いつできたかわかるんです。
鉱床学研究のすごいところをもっと教えてください。
たくさんありますよ。たとえば、細かさ。大きな船と潜水艇をつかって採ってきた石を顕微鏡で見るときは、数マイクロメートル(0・001ミリ)まで見ます。ぼくの専門であるオスミウムは石に含まれる量がものすごく少ない希少金属で、濃度はだいたいpptという単位で調べるんです。pptは1兆分の1という意味で、1トンの食塩水に0.000001グラムの食塩が入っているくらいの薄さです。他のものが混ざったりしないように注意しながら、いつも分析、実験はおこなっています。
そこまで小さなところまで調べるから、いろいろなことがわかるんですね。
ええ。2014年に海洋地球研究船「みらい」が南鳥島周辺で海洋資源の調査したときは、オスミウムが異常に多い層があるのを見つけました。オスミウムは地球の表面には少なくて、地球の中心に近いコアとかマントルに多い。それと宇宙から飛んでくる隕石(いんせき)にもいっぱい入っているんです。それで詳しく調べて、約1160万年前に巨大な隕石が落ちたのではないかと発表しました。恐竜絶滅よりだいぶ若い時代ですが、この時代にも多くの生物が絶滅したと考えられているので、この天体衝突が原因かもしれないと考えています。鉱床学からは、こんなこともわかるんです。

挑戦と失敗を繰り返ながら突き詰めていくことが大切

これからの目標について教えてください。
海底に眠っている鉱物資源が必要になったとき、すぐ開発が始められるように準備をしておくことです。今のところ、ぼくたちが身近に使っている資源のほとんどは、陸上の鉱山から採っています。でも鉱山は無限ではありませんし、すでに採るのが難しくなっている場所もあります。ですから、いずれは海底の資源の出番がくるはず。でも鉱山の開発は探査から開発まで、短くても15年はかかりますから、誰かが準備をしておかなくちゃいけません。それは日本の未来にとっても、世界の資源利用にとってもプラスになるはずだと考えています。
とても大切な研究だということがよくわかりました。最後に子どもたちへのメッセージをお願いします。
自然を相手にたくさん遊んでください。そうするともっと知りたいことや、疑問がわいてくるでしょう。わいてきたら、それを突き詰めてください。たとえば釣りをすると、釣れるときと釣れないときがありますよね。そこから仕掛けやエサを工夫したり、場所や時間を変えたりするような挑戦と失敗を繰り返して欲しい。じつは研究の世界も同じで、挑戦と失敗の繰り返しなんです。いっしょうけんめい論文を書いても、実際に役に立つのは何十年後かわかりません。それでも粘り強く突き詰めていくことが大切だと思います。
(注1) 同位体(どういたい)
 世の中にあるすべての物質は「原子」からできています。原子をそれぞれの性質で分けた種類のことを「元素」と呼びます。元素は現在までに118種類見つかっていて、水素、酸素、鉄、マンガン、オスミウムなどはみな元素です。  1つの元素には、いくつかの原子があります。じつは原子をつくっている陽子、電子、中性子のうち、中性子だけは電気を帯びていません。そのため中性子の数が違っても、原子の性質はだいたい同じになるということが起こるのです。こうした中性子のぶんの重さ(質量数)だけが違っている元素を同位体と呼びます。  同位体のなかには不安定なものがあり、長い年月をかけて別の元素や同位体に変わる(放射壊変する)ことがあります。その変化の様子を詳しく調べることで、年代値を計算することができます。
(注2) レニウム−オスミウム年代決定法
日本列島最古の鉱床年代決定につかわれたときのレニウム−オスミウム年代決定法解説記事
http://www.jamstec.go.jp/j/kids/press_release/20140903/
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