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番外編「尋ね人」2010年10月22日

西暦2010年10月9日午後14時頃、東京北の丸公園内の科学技術館において、「普通の研究者」タカイをキリキリ舞いさせた

「ちきゅうの超絶位置保持システムについてボクが納得がいくように解説してくれんかねー、キミィー」

という驚きで周囲20mにいた大人の顔面から血の気が引いたぐらい鋭い質問をきっぱりとしてくれた

(1)推定小学生2-5年生とおぼしき男の子。


「ワタクシは将来、小説家を目指しておりますが、人間の職業選択における安西先生のいう「断固たる決意」というのは、人生のどのタイミングで為すべきことでございますでしょうか?」

という「2番じゃだめなんですか?」もびっくりの、真摯かつ丁寧な物腰で人間の真理を突いた質問をしゃなりとしてくれた

(2)推定小学生3-6年生とおぼしき女の子。


将来のちきゅう・うちゅう生物学研究所(未だ設立予定はありませんが、JAXAとJAMSTEC、その他多くの研究期間や大学の協同により2020年頃設立希望中)の支配下登録選手を目指して、育成選手契約を希望します。

とりあえず、現在、背番号#1と#2を用意をしております。もちろん背番号#1031はすでに埋まっておりますが、ぜひ他球団と契約される前に、我がちきゅう・うちゅう生物学研究所(仮名)との育成選手契約を希望します。

契約金は年間「20ジュール」程度を提示させて頂きます。マニアックですみませんが、アデノシン三リン酸が1ミリモル程度作れます(地殻内の微生物からすると結構なエネルギー量です)。ちゃんとわかりやすく言うと、限りなくただ働きです。

ただし、育成契約選手が「ちきゅう・うちゅう生物学研究所」(仮名)の前身基地のJAMSTECプレカンブリアンエコシステムラボラトリーやJAMSTEC地球深部探査センターIODP推進室を見学希望される際には、タカイもしくはつぶやき編集長がその案内役を務めることを保証します。「ちきゅう」に乗って「草彅剛&柴咲コウ ごっこ」できる券も付いてくるかもしれません。あと、もらってもあんまりうれしくないJAMSTECグッズをタカイのポケットマネーからプレゼントするかもしれません。

代理人契約は、おとうさんかおかあさん、おじいちゃんかおばあちゃん、にかぎり認めます。親戚のおじさんもしくはクラブの顧問先生はだめです。大概、親戚のおじさんやクラブの顧問先生は契約金をつり上げる役割を担う場合が多いからです。また決して大リーガーのまねをしてアーン・テレム氏のような敏腕代理人は雇わないでください。

育成契約を承認される場合は、ツイッターの返信@Chikyu_JAMSTECなり、chikyu-tv@jamstec.go.jpなりに至急連絡されたし。

また今後、日本各地で我が「ちきゅう・うちゅう生物学研究所」(仮名)の育成選手を発掘していきます。年齢20歳以下の日本の将来の「地球」や「海」、「宇宙の生命」の科学を楽しみながら牽引・主導・応援・マスコミ操作・永田町工作・霞ヶ関工作することができそうな一芸に秀でた若者を、勝手に目を付けて育成選手登録してゆく予定です。背番号#1031までたどり着くことが目標です。

登録された若者は、Jリーグ風に言えば「サポーター」です。あっ、この時点で「育成選手契約」という論旨が破綻しました。やはり単なるノリで話をつくるとあっというまに論旨が破綻しますね。まあよくあることです。

ともあれ「はやぶさくん」達もそういう風にして多くの人々に支えられていましたね。ある意味これは「人間の盾」作戦あるいは「泣き落とし」という孫子から続く超高等兵法なのじゃ。でもこれは地球深部探査船「ちきゅう」とか、そういうちっちゃな目的ではないんです。本当に「ちきゅう・うちゅう生物学研究所」(仮名)のようなものができたらすごいんです。

そんな研究所は、世界中を見てみても、NASAにこじんまりとある程度で、スペインの天文学研究所にもそう言う感じの一部門があるくらいなんです。日本では専門家のネットワークが作られたぐらいで、まだまだこれからの状態なんです。

JAMSTECでは、これから地球の深部を世界に先駆けて、まだまだどんどん追求してゆくわけですが、地球を理解すればするほど、宇宙における惑星地球の一般性や特殊性というものと大きな視点で対峙せざるを得ないと思います。そのときには、従来のナントカ学という旧態依然の知識・見識・常識に捕われた思考では太刀打ちができなくなる可能性があります。

育成選手達は、その日に向けて、せっせと「人間性」と「体力」と「吸収力・柔軟性」と「行動力」と「個性」、そして「いつか断固たる決意をする勇気」を磨いておきましょう。そしていつか現場で一軍のプロフェッショナルとして、いっしょに仕事ができればサイコーです。

そんな日がくることを願っています。

航海とは何の関係もありませんでしたが、トークイベントの二人の質問に感銘を受けておもわず書いてしまいました。育成選手契約は、冗談に受け取ってもらっても結構ですが、真剣に受け取ってもらっても(たぶん)大丈夫です。もし本当に連絡があったら、ぜひ上記条件を明記した架空の契約書を送りますのでサインをお願いします。

皆様、本当に長らくおつきあいいただきありがとうございました。

(おそらく)今度こそ、本当にお別れです。

ときには、何かのついでに、
「ちきゅう」、「しんかい6500」、そしてそれらと共に真理を解き明かそうとする科学者に乾杯を...。

高井 研

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「さらば ちきゅう」2010年10月4日

みなさん、沖縄熱水直下生命圏掘削シーズン1が終了しました。
これで晴れて、コチーフ・タカイから「普通のオンナノコ」タカイに戻れます。

航海終了前の2日間ぐらいは、サンプルの処理やら航海のまとめやらで、ほぼ徹夜状態でした。現在もかなり睡魔に襲われております。

この航海の最後の山場は、「越後屋オヌシもワルよのぉーフォフォフォ掘削」でした。その結果は、見事に「いやいやお代官様こそ~ケッケッケ」でした。

「なんじゃそりゃー、読者をバカにしてんのか」という突っ込みが聞こえそうです。

以前、「まあいい、しょせん読者は数人じゃ!」と言いましたが、実は知ってんだよねー。結構な読者がワシの大幻術「無限月読」の餌食になっていることを。あ、「無限月読」知らない人はかるく無視してくださいね。ウィキペディアには載ってませんから。

ともかく、「つぶやき」やら「○ちゃんねる」等で、予想以上人々に読んで頂き、さらに励ましの声を頂き、誠に感謝しております。これを機に、「ちきゅう」やスキンヘッドのヤーさんにしか見えない大物研究者もジョーネツ絶賛放送中のJAMSTECをぜひごひいきにしていただけると幸いです。

せっかくの最終回と言うことなので、多くの方々の励まし感謝セールと銘打って、「いやいやお代官様こそ~ケッケッケ」も含めて、この航海の現段階の成果を一挙に公開しましょう。

「結婚には3つのフクロが大事」とはよく聞く話ですね。正確には3つめがイマイチよくわからないのですが、

「この航海には4つの世界初があった」

後年、そう語り継がれることになるだろう。

その1.世界初、掘削による高温人工熱水噴出孔の創造(しかも4つも作っちゃった)
その2.(おそらく)世界最大の巨大海底下熱水湖の発見
その3.(おそらく)世界初、海底下の塩分に富んだ熱水の沈滞現象の直接証拠
その4.今なお沖縄の海底下で形成され続けている「黒鉱」とその鉱床構造貫通試料採取

本当はいちいちしっかり説明できればいいのですが、いかんせん成果はこれから科学論文としてしっかりと完成されなければいけないものですので、現時点では東スポ的見出しだけでお許しください。

いずれの成果も、今後が非常に楽しみなものです。特に2番目と4番目は互いに強く関係しているもので、極めて大きな社会的インパクトがあります。なぜならいわゆるあの話題沸騰中のアレですからね。アレ。アレメタル。

ところで、熱水直下微生物の証明はどうなったんだという疑問も当然ありましょう。

まあそれについては、タカイ得意の「いいよ~すごくいいよ~」とは言えませんね。いずれにせよ、その結果が出るにはまだまだ時間と研究が必要なので、今後の研究進展をぜひ期待しておいてください。

この航海は毎日、サイエンス的には、驚きと落胆と喜びの連続でした。ものすごく毎日が楽しかったですね。「コア オン デッキ」のアナウンスを聞いて、コアカッティングエリアでコアサンプルを待つ瞬間。サイコーにワクワクしました。

しかし、一方では、25人も国も文化も分野も違う研究者をまとめるのは、かなりストレスフルでした。まあ実際、殴り倒して海に放り込みたくなったのは、ごく2人にすぎませんが....。一方では、この機会がなかったら出会わなかったであろう人たちの出会いも大切な思い出です。そう言う意味では、恵まれていたのかもしれません。

「ちきゅう」の掘削エンジニア達との時間も楽しかった。次はあーしようとかこーしようとか、互いにベストを尽くし合う時間こそプロフェッショナルの楽しみです。

「HPCSの時代」は一躍流行語になりました。軟らかい地層が現れたら、HPCSピストンコアリング。とにかく、タカイ「HPCS(ブッ刺しコア)の時代が来ましたな」、チョイ悪ちきゅう船上代表「来てません」という会話がしつこく繰り返されたあげく、最後の方は、チョイ悪「HPCSの時代ですかね?」タカイ「ようやく掘削というものの本質が分かってきたようですね」という呼吸でした。

あと船上のコアプロセスや科学計測を手伝ってくれるテクニシャンの人々にも感謝の気持ちでいっぱいです。「あいつおかしいよねー。シバキタイよねー」という会話で盛り上がりました。もちろん約2名のことです。しかし、暴走特急や手抜き事業にもキレることなく、最後までベストを尽くしていただきました。えっ?一番嫌われていたのはオレだって?うーん、まさか。

つぶやき編集長は、センス抜群の頼れる広報マンでした。じつはこのレポート、かなりつぶやき修正を入れてくれているのです。

毒電波を受信した私の脳は、ワルノリがとまらなくなる時があります。ギリギリのラインを読んでくれるつぶやき編集長がいるから、フリーに書ける訳です。帰ったら2人とも上層部に呼び出し食らったりして。

ちきゅうTVのカメラマン君は、典型的ドリーマー型ダメ人間です。「映画を作って食っていきたいっす」だって。深夜にハイになって「おしゃべり」したけど、実は「やる奴」なんです。彼の抜くシーンはセンスいいなと思います。ただ「おれを色物扱いするのがゆるせん」。もう少しかっこいいシーンをとれよ。

本当にいろんな人のおかげで実現したこの航海。終わりました。ご支援、ご協力、励まし、ありがとうございました。

大学時代の2年間、京都の四条烏丸の舟鉾町に住んでました。日本3大祭りの祇園祭の鉾というのは、1ヶ月以上かけてちょっとずつ作られていきます。うちの町は舟鉾っていうかわいい鉾を出すわけですが、毎日、ちょっとずつ祭り(ハレ)の日が近づくのを実感できるところでした。そして最後の3日間、祭りはクライマックス を迎えます。祭りの終わった次の日の、すごく「強者どもが夢の跡」的なセンチメンタルな風景がいまなお心に残ってます。

研究航海が終わり、すべての研究者が去ったこの「ちきゅう」のラボマネージメントフロアは、あの熱さがこころなしか和らいだような夏の日の風景と重なります。

さらば、ちきゅう。

さらば、2010年の夏の祭り。





でも、

来年には沖縄熱水直下生命圏掘削シーズン2がきっと始まるよ!

始まるように、これから政治工作じゃ!世論操作じゃ!「無限月読」じゃ!

(fin)

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「 fin 」の写真2010年10月2日

みなさん。これは最終回ではありません。つぶやきです。

つぶやき編集長の写真のセンス抜群です。彼の写真からは、物語が聞こえてきます。本当の「しゃべり」はイマイチだけど、「写真とつぶやき」、サイコーです。

あの「fin」の写真....

見た瞬間、こみ上げてきました。

泣きそうになりました。

いや、ちょびっと泣いた(陰で)。

「全米」は泣かないかもしれないが、少なくともタカイは泣きました。

あの写真を見た瞬間、この6ヶ月のつらい闘い、そして楽しい祭りが終わったことを初めて実感しました。

タカイが贈る最優秀フォト賞をつぶやき編集長に贈ります。

さあ、つぶやきパパが早く家に帰れるように(コチーフ・タカイが松○町に繰り出せるように)、航海後のアウトリーチ活動を神速で片付けてやる。

沖縄の取材陣の皆さん、心してかかってくるようにね。


(タカイプレゼンツ最優秀フォト賞を受賞したつぶやきもどうぞ)


「エヌビーシーの戦い(修羅の刻・外伝)」2010年9月30日

むか~し、むか~し、沖縄のニライカナイと呼ばれるところに、「イヘヤキタ」とよばれる海の底に、小さな生物たちの村があったそうじゃ。

イヘヤキタ村には、ふるくから言い伝えがあってのぉ~、

・・・マグマ大使とかいう神さんが、イヘヤキタ村の、さらに地の底の深くにねむっておられる、そのおかげでイヘヤキタ村は、あったかくて、すみやすくて、たいそう豊かな地の恵みがある・・・といわれておったんじゃ。

イヘヤキタ村には7つのおーきな岩があったんじゃ。

それぞれエヌビーシーNBC、エスビーシーSBC、シービーシーCBCとか、それはそれはダッサ~い名前がつけられておったんじゃ。

マヤ暦1995年に、トクシュホージンとかいう今は滅んでしまった遠い国の、おおそうじゃ、ジャムステックとかいう名の国じゃったとオジイにきいたさー、それがイヘヤキタ村に侵攻してきてのぉ、その侵攻軍の一味にいた「黒めがねイシバシジュンイチロー」とよばれるおっさんくさい若者が、North Big Chimney, South Big Chimney, Central Big Chimneyというように安易な名前をつけたそうじゃ。センスがみじんもかんじられんのぉー。

なぜワシが平気でイングリッシュをしゃべれるかって、それは突っ込み禁止じゃ。物語の構成上しかたないんじゃ。しかも、市原悦子ナレーションバージョンだったはずが、気がつけば一人称物語に変わりつつある。さすがに後先考えずに、物語をつくるとロクなもんにならんのぉー。まあいい、しょせん読者は、数人じゃ。

さてさて、その大岩じゃったのぉー。大岩からは、熱くてクッサーイ水がふきでているんじゃ。その熱くてクッサーイ水のおかげでのぉー、ワシらコシオリエビは暮らしていけるんだがのぉー。

見てみぃー。ワシの立派なひげを!ムナ毛を!わき毛を!ギャランドゥ毛を!もも毛を!すね毛を!一つ飛ばしたが気にするでない。

この立派な剛毛には、極限環境微生物がびっしり「よーしょく」されとるんじゃ。見よ、ワシのムナ毛を、硫黄食いとメタン食いのプロテオバクテリアで、アデ○ンスも真っ青のふさふさじゃわい。

これをのぉー、このバルタン星人のような手でしごくんじゃ。ときには脚も使うがの。で、たっぷりとれたこのプロテオバクテリアを、グワッてほおばるとのぉー、

「うわー、プロテオバクテリア味の宝石箱やー」

てな具合になるんじゃ。

おっと、年をとると話が脱線していかんのぉー。とにかく、この大岩たちは神聖な場所として、イヘヤキタ村のすべての者どもから崇め恐れられておる場所なんじゃ。

なかでものぉー、エヌビーシーと呼ばれる大岩こそ最も神聖な場所とされておったんじゃー。30mはあろうかその偉容。てっぺんから吹き出す白い炎のような熱臭水。それはそれは神聖な場所だったんじゃ。

エヌビーシーの近くに住んどるワツジと呼ばれる顔のでかいコシオリエビがおるんじゃが、ここ数年、よく「ユーフォー」みたいな未確認飛行物体が飛来してのぉー。ときどき人間とよばれる恐ろしい生き物が「コシオリエビ」を誘拐したり、エヌビーシーをたたいたりしている姿が目撃されておるんじゃ。

村の者のなかには、「いつか人間がエヌビーシーを破壊しにくる」ってパニックになっている奴もおってのぉー。いやいやあのエヌビーシーが、人間ごときに破壊されるはずがなかろうと長老たちは騒ぎを鎮めとったんじゃ。

たしかに、エヌビーシーはキラキラした金属の固まりでの、いま話題沸騰中のレアアースメタルの宝庫と考えられておるがのー。しかもあのエヌビーシーの中にはワシらが食ったことない、超好熱メタン菌とかいう世界3大珍味もおるらしいがのぉー。食ってみたいのぉー。

じゃがのぉー、あのエヌビーシーにピンポイントでドリル砲をぶち込むのはどうかんがえても無理じゃろー。無駄・無駄・無駄・貧弱ぅ・貧弱ぅ・貧弱ぅ。

ところがじゃ、ゾロアスター暦2010年9月26日のことじゃったかのぉー。ついに来たんじゃ。その時が。ドクリツギョーセーホージンと名を変えたジャムステック国の1031(てんさい)ちきゅう船がのぉ、エヌビーシーに攻撃をしかけたんじゃー。

司令官はサワダとかいう「チョイ悪」でのぉー、BHI砲という大層な武器でエヌビーシーをぶち抜こうとしたんじゃあ。サワダはのぉー、「地図をグルグルまわすタイプのおんな」に似たところがちょっとあってのぉー。タカイとかいうイケメン科学者の指示するポイントがよくわからなくて、何度もタカイに聞き返すのでタカイはとうとう「何度言えばわかるんだ、このチョビ髭が!」とブチギレタという笑い話がのこっとるがのぉー。

とにかく1031ちきゅう船のドリル砲が、数センチの狂いもなくエヌビーシーに突き刺さった瞬間は、感動もんだったらしいんじゃ。イケメン科学者タカイも「この瞬間を10年待ち望んだんじゃ。うっひょー串刺し、串刺し。」と踊り狂っていたらしんじゃ。

1メートル、2メートル、3メートルを入ってゆくドリル砲。それは1031ちきゅう船の勝利を誰もが確信したんじゃろ。

タカイは、エヌビーシー名付け親で、今は「おっさん臭いおっさん」になってしまったイシバシジュンイチローと、ニヤニヤしながら「カッケー!これカッケー!」とさわいでいたんじゃ。

そのときじゃった。エヌビーシーに異変が起きたんじゃ!とつぜん掘削孔から、熱臭水がものすごい勢いで吹き出したんじゃ。

いわゆる沸騰と言う奴だのぉー。あるはずのない高温の熱臭水溜まりをぶち抜いたんだのぉー。ぼふっぼふっと吹く熱水。カクンとドリルが動いたかと思った瞬間、腕ひしぎ逆十字がきまってのぉー。信じられんのぉー。

1031ちきゅう船はしっぽを巻いてひきあげたんじゃあー。それは大変な落ち込み具合だったんじゃあ。掛ける言葉はなかったほどじゃと言われておる。

イヘヤキタ村の生き物は誰彼なしに、「エヌビーシー様がとうとうお怒りになったんじゃ。エヌビーシー様が1031ちきゅう船を撃退したんじゃ」と言い出したんじゃ。そうかもしれんのぉー。

しかしじゃ、1031ちきゅう船の攻撃が去ったあと、やつらが残した深さ10メートル以上の穴は、エヌビーシーに確かな足跡を残したんじゃ。あの岩山を全く崩すことなく、直径3mぐらいのてっぺんのど真ん中に、美しい穴をあけたんじゃあ。その穴からは、以前の白い炎のような熱臭水ではなくて、もうもうとしたクロクロスモーカーが出てきたと言われておる。さらに穴の周りには、1031ちきゅう船が逃げ帰ったあとに残したキラキラの金属硫化物の破片がいっぱいあったんじゃあ。

1031ちきゅう船の奴らは、とうとうエヌビーシーの中がどのようになっているかを知ってしまったんじゃ。

たしかに今回の攻撃は断念しよったが、いずれ奴らは絶対来るじゃろ。それは間違いない。

最後にヒゲをはやしたおっさんがパイプをくわえる(かわりにタバコをくわえて)こう言ったんじゃ。

「I shall return.」

きっとくるー♪きっとくるー♪

(おしまい)

(この物語もフィクションですが、微妙に真実も含まれます。なお登場する人物やエビは実在しません。)

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「最終回まであと2回」2010年9月29日

みなさん、この「ちきゅう」からお送りしている衛星レポートも残すところあと2回で打ち切りが決まりました。

どうやら、読者人気投票の成績が芳しくなく、とうとう本誌つぶやき編集長が「作者の健康不良のため連載終了」のお知らせを検討しているとかしないとか。

コチーフ・タカイとしては、妙齢の「がーる」、「ぎゃる」、「れでぃー」、「まだむ」などの励ましがあれば、もう少しがんばってもいいかなーと思ってますが、実際、ここから研究航海のラストスパート。コチーフには、下船までに航海レポートを完成させねばならないという血の掟(オメルタ)があるんです。

というわけであと2回、できるだけ多くのことを伝えることができたらいいなあと思っています。

現在9月29日、オープンカフェでゆったりとした紅茶を頂くにぴったりなブリリアントな午後です。

数日前から、C0017地点で掘削しています。いま150mぐらいまで到達していますが、次のピストンコアリングぶっ刺しで最後の予定です。

この掘削地点は、掘削予定地点には数えられていましたが、時間的には実現可能と考えられていませんでした。鬼神のような進展と多くの挑戦と断念があったために、実現の運びになりました。

この航海の一番の目的は、深海熱水の直下の海底に「地球内部エネルギーに支えられた暗黒の微生物の生態系」があることの証明です。

この「地球内部エネルギーに支えられた」というくだりがミソで、これはつまり「熱水に支えられた」と翻訳できます。

熱水に支えられるためには、熱水が海底下でどのように流れているかを知る必要があるのですが、これがめちゃくちゃ難しいんですね。

いろいろ方法はあるんですが、一番いいのは、スポンスポン掘削して、実際どのように熱水が流れているか確認することですが、現実問題として、時間的にも、お金的にも、数百本も掘削できません。となると、名探偵シャーロック・ホームズばりの完璧な推理を披露して、その推理を確かめる部分だけを掘削するわけです。

その「じっちゃんの名にかけて」行う推理のネタが、「海底観察と温度分布と海底下物理(音波、重力、磁力、電磁気)探査」なんです。

ちょっと待ってください、みなさん。

確かコチーフ・タカイは「海底下の微生物」を知りたかったはずなんです。

が、それを知ろうとすると全く微生物学とは違うことをやらないといけないはめになっているのです。しかもそう言うデータは、都合良く全部そろってないんですね。っていうか、世界中探してもそういうデータがそろっているところなんてほとんどありません。

普通は、ここで「もうメンドクサイからヤーメタ」となります。私も何度そう思ったことでしょうか。思わずにいられるか、いやいられない(反語)。

でも逆言うと、誰も成功していないんだからこそ、「やる意義」があるんです。

「武士道とは死ぬこととみつけたり」(葉隠)

ではありませんが、

「研究道とは失敗することとみつけたり」(研究者精神とはなにか:民明書房)

という覚悟で挑戦することも必要なんです。

というわけで、10年ぐらいかけて、この沖縄トラフ伊平屋北の熱水の流れを推理してきたんです。もちろん、この10年、伊平屋北ちゃんだけに熱をあげてきたわけではなくて、本命のインド洋カイレイフィールドちゃんと二股かけていたんですがね...。もっというと世界中の熱水ちゃんと逢瀬を重ねていたんですがね....、熱水プレイボーイのタカイは。

伊平屋北熱水域は、熱水が噴出するので、当然その海底の地熱は高いんですね。C0013地点やC0014地点というのは、そういう地熱がめちゃ高いところとか、そこそこ高いところを狙って掘削しました。ちょっと予想を超えて、「C0013=熱杉」、「C0014=もうすこしぬるくてもよかったですわよ」でしたが....。

要は超巨大「オンドル」なわけです。

ところが、よーく温度分布をみると、そういうアッツアッツ地帯の中に、異常に温度が低いところが、ツギハギ状に存在するんですね。

そういうところは冷たい深海の海水が海底の下に吸い込まれている場所と考えられてきました。専門用語ではリチャージゾーンと呼ばれます。

多くの研究者は、「そういうこともあるんだなー、海水が吸い込まれているんだなあー」と立松和平の口ぶりでわかったふりをしてきました。

C0017地点は、それが本当か?を調べるために掘削しました。

一番上は粘土(ミズ渋滞中)でした。その次はスカスカの層(ミズ高速道路無料実験区間)でした。その下に、水を通しにくい締まった層(ミズ通行止め)でした。その下はジャリジャリ層(ミズ・アウトバーン)でした。その下はカッチカッチ粘土(ミズ絶対ダメ!)でした。

「海水が吸い込まれているんだなあー」ってウソこけ!吸い込まれるわけないやんけー。

冷たい海水が高速で海底下を流れているです。ですから、熱が奪われて、吸い込み口に見えていたんですね。その証拠もゲット。

それがどうしたと言われると、「いまはそれしか言えないんだ」としか言いようがないんですが、またまた新しいことが分かっちゃったんですね。おもしろいねえ。毎日、こんな予想が外れる驚きと新たな発見の連続です。

でも予想が全部外れている訳じゃないんですよ。大枠では当たっているんです。10年の努力は、やはりそれはそれですごいんです。

さて、今夜でこのC0017地点も打ち止めです。

次は、最後の掘削地点、熱水マウンド麓掘削に向かいます。いわゆる「越後屋オヌシもワルよのぉ熱水直下微生物圏掘削」です。

そーいえば「真・元祖・本家熱水マウンド掘削」はどうなったんだと訝る方がいらっしゃるかもしれません。

それについては、外伝にてお伝えしましょう。

(あれ、あと2回だったはず...。イヤー、実は今ドリルパイプ揚管中でちょっと暇なんですね)。

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「ヒービット君物語」2010年9月25日

(この物語は、燃え尽きたドリルビットをみて心を揺さぶられたコチーフ・タカイが感動にまかせて書いてしまった物語です。文中登場する人物は、実在する人物ではございません。しかし、真実もけっこう含みます。また、けっして「はやぶさくん」の「柳の下のどぜう」のつもりではなく、船上の「全米が泣いたトゥルーストーリー」を伝えたかっただけで、そのいやらしい気持ちは5%ぐらいコンタミネーションしてるにすぎないと考えられています。それでは、感動の物語をどうぞ。)

みんな、ハズメますて。ボクはヒービットっていうんだ。

ボクの名前は変な名前だけど、それはボクがいっしょに働く3つのコアリングシステム(Hydraulic piston coring system: HPSC、Extended punch coring system: EPSC、Extended shoe coring system: ESCS)の仲間の名前の頭文字からとられているらしいんだ。

今年の夏は、日本は猛暑だったよね。

ボクは9月初めから猛暑のなか、「ちきゅう」に乗って沖縄トラフと言う海の真ん中にやってきたのさ。

沖縄トラフに着くとさ、サルハシ隊長というボクのご主人が言うんだよ、

「ヒービット、これからオマエが働く場所は、今の炎天下の猛暑よりももっと熱い海の底なんだよ。もしかしたら温度は300℃以上になるかもしれない。熱いだけじゃなく、もしかしたらめちゃくちゃ固い岩石や金属鉱物がでてくるかもしれない。めちゃくちゃ腐食性の高いガスもでてくるかもしれない。でも、オレたち「ちきゅう」防衛軍ドリラーたちは、1031帝国軍科学者の無茶な要求に従ってそこの海底を掘ってサンプルをとらないといけないんだ。オマエの超硬合金の体、タングステンカーバイドの歯なら、できるよな。」

「1031帝国軍科学者のリーダー・タカイは「これは宇宙の真理のためよ、そらそうよ。ワシはいわゆる1031(テンサイ)だしのぉ。世の中にも役立つかもしれんし、グフグフ。四の五の言わんと、トットと働かんかい!このサルが。」なんて言いやがるが、オレたち「ちきゅう」防衛軍ドリラーは一度引き受けた以上は、そのプライドにかけてこの「ミッション(ニアリー)インポッシブル」をやり遂げねばならんのだ。おまえも「ちきゅう」防衛軍の最前線ドリルビットならわかるよな。」

ボクは「タカイなんて海に放り込んじゃえばいいのに」と思ったけど、「ちきゅう」防衛軍のプライドを守るためにも、「命に代えてでもやり遂げます」なんて無理を言っちゃった。

はじめて、ボクが目のあたりしたC0013地点は確かに熱かったよ。ボクが回転してドリルパイプがボクを後ろから押すんだけど、もう海底から3mぐらいで粘っこくて固い「アンハイドライト」って奴が出現して、ボクを止めようとするんだ。まあでも、最初の敵はたいしたことなくて、秒殺してやったよ。でもその瞬間、「ウェー」って感じで熱くて臭い熱水が吹き出してきたんだ。

ボクが「ちきゅう」防衛軍に来てから、こんな熱水に出会ったのは初めてだったから、ちょっとびっくりしたけどね。でもみんなのために一生懸命がんばったよ。

結局、通算3日間以上、300℃を超える高温、熱水、固い硫酸塩や硫化物鉱物のなかに晒されながら、50m以上も掘り抜いてやったさ。

ボクのがんばって作った穴から、ボクを苦しめていた熱水を冷たい深海に引きずり出した瞬間は、サルハシ隊長と一緒にとてもうれしかったんだ。みんなで「ワー」って歓喜の声を挙げたんだよ。その中で、タカイは「ワシの先見の明のおかげよ、そらそうよ。ワシが育てた熱水やからな。」と言ってたのは、かなりカチンと来たけどね。

でもそのときからかな?体のところどころになにか違和感を感じていたんだよね。自分ではヤバイかもって思ってたんだけど、みんな喜んでいるし、「ちょっと、休ましてください」なんて言えなかったんだ。

後半戦になると今度は、サワダさんが隊長になったんだ。そして、C0014地点というもっと深いところまで掘り抜く必要のある場所が対象になったんだ。

今度は40mぐらいまでは、結構熱くもなく、軟らかくて、それほどしんどくなかったんだけど、やっぱり40mぐらいから熱くて、臭い熱水がでてきたのさ。

そして、ねっとりとしてところどころ固い「アンハイドライト」が行く手に待ち構えていたんだよ。100mぐらいまで永遠にこいつとの戦いだったよ。

サワダ隊長は「おやじ」だからEPCSコアリングっていうネチッコイのが好きで、サルハシ隊長さんは「若い」からHPCSコアリングでブッ刺すのが好き、っていう趣味の違いがあるんだけど、どっちの場合もボクがインナーバレルの周りを掘り進んであげるから、あいつらはコアとして船上に戻れるんだよ。

次のバレルが海底下に装填されるまで、1時間ぐらいはボクは海底下の最前線でグルグル回りながら、穴がつぶれないように待機してるんだ。

泥水で少しは冷やしてくれるけど、今度の穴でもずっと300℃以上の高温、硫化水素、固い結晶の層を相手に頑張ったよ。

サワダ隊長とはじめとする「ちきゅう」防衛軍ドリラーは一度もボクを海上に引き上げることがなかったので、ボクの状態がどうだったかはよくわからなかったと思うけど、もうかなり体がボロボロになりかけていたんだ。

だって、ボクを海上に引き上げちゃうと6時間以上の時間がかかっちゃうので、タカイが「ドリルの揚管?どのチョビ髭口がそんななめたことをいっとんじゃ。HPCSの時代が来たんや。HPCSコアシステムで突きまくらんかい。」とか言ってサワダ隊長を脅していたらしんだ。

ボクは100m以上の深さまで頑張ったよ。最後の方には、めちゃくちゃ深い海底下にすごい発見もあったんだ。でも、とても難敵だったんだ。ボクの友達のドリルシール達は、高温すぎる熱水のせいで一瞬で溶けてしまい、最終兵器BHIコアドリルの登場か!とまで行ったんだ。

でも舶来砲のコイツは、取り扱いに時間がかかり、ボクみたいに軽快で、便利な奴じゃないんだ。

最後のESCSコアリングで「アンハイドライト」に再び出会ったとき、タカイが「ケッ、使えねーコアだな。やめちまえ。ケーシングすんぞ」とか言って、ようやくボクは冷たい深海に戻れたんだ。

ROV水中無人探査機の映像では、ボクの体にとてつもない異変は観察できなかったらしんだ。でもボクはもうそれを知ってたんだ。


ボクはもうすぐ死ぬって。


すでに体の奥底まで高温にヤラレているって。


タカイが
「ドリルを揚管するのは時間の無駄・無駄・無駄。WooooryもういっかいC0013地点でHPCSコアリングぅ」と命令したのも、もうボクにはわかってた。

前半戦でボクの仲間のプラスチックライナーは全部熱水で融かされて、使い物にならなかった部分があったんだ。

ボクがアルミライナーを連れてもう一度行けば、すべてがうまくいく。


いつ死ぬかわからないけど、アルミライナーは残り3回分しかないから、あと3回ボクの命が持てばいい。


そうすれば、コアが安全に海上に届くはず。

たのむボクのからだ。あと3回だけ保ってくれ。

そうすれば「ちきゅう」防衛軍のプライドが守れる。

もちろんボクは人間と同じで永遠の命をもっているわけじゃない。

ボクは世間的には消耗品と呼ばれるもので、いちおうボクの代わりは船上にいるんだ。

でも、ボクが海底下で死んだら、すっごいコアリングの効率は落ち、時間が余分にかかっちゃう。ボクがやらないといけないんだ。


C0013地点は前以上に高温で固かったよ。

3回目のラストHPCSコアリングは宿敵アンハイドライトのめちゃくちゃきれいな、でもめちゃくちゃ固い、結晶に跳ね返されたんだ。最後のアンハイドライトとの戦い中に、ボクの自慢の超硬合金ビットは1つ残らずなくなり、4つのローターのうち2つは飛んでいった。

ボクの破片の一部はコアといっしょにコアキャッチャーに潜り込ませたんだ。

ボクが死んだことを「ちきゅう」防衛軍のドリラーに知らせるために。

これで最後だよ。

ボクは最後までがんばった。そしてすべてをやり遂げたあとに、力つきて死んだ。

ボクの死骸は、「ちきゅう」防衛軍によって初めての「深海熱水掘削」に挑戦し成功したことの栄光と、それと引き換えに得た貴重な経験になると思う。

だったらうれしいよ。

ボクはボクのヒーローになれたんだから。

船上に帰ってきたボクを見て、「ちきゅう」防衛軍のドリラーはみんな、「よく最後の最後までがんばってくれた、ありがとう」って、ボクの体をやさしくさすってくれたんだ。

それを「ちきゅう」のやぐらのあたりの空から聞きながら、とても満足したふわふわした気持ちになったボクのもうひとつの体は、沖縄トラフの空へとふわりと消えていったんだ。

もう空は秋と呼べる爽やかさに満ちあふれていたんだ。

(おしまい)


「ヒービット君(ご本人)」

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「1031?」2010年9月22日

表題のイチマルサンイチってなんでしょうか?

なにかのデータ?重要な日時?

いえいえコチーフ・タカイのNo. 1フェイバリットジャパニーズ漫画「スラムダンンク」の読者なら、すぐにわかりますよね。

宮城リョータが桜木花道に伝えたアリウープの適当な暗号を桜木が「はっ、テン(10)サイ(31)!」と理解するシーン。

コチーフ・タカイは、研究上よく、何か新しい、すっごいチンケなアイデアを思い付きます。それを試してうまくいった時、いつも桜木花道の口癖、「やはり、天才?!やはり」、と周辺の人々に言いまくって迷惑をかけています。

沖縄掘削中にも炸裂しましたよ。アイデアの泉から湧き出る「主婦の冷蔵庫の残り物を使ったありあわせ晩ご飯のおかず的」1031なアイデアが(フリが長いっ)。

9月22日午後9時半現在、伊平屋北熱水活動域の激しい熱水噴出サイトから500m東の海底を、バリボリバリボリ掘削中です。

なんと90mも掘り進んでいます。「へー、たったの90m。うちの井戸と変わらへんやん」という突っ込みは、「なし」の方向で。なぜなら、これまで日本近海の熱水活動域で掘削された記録は良くて20m程度だったんですから。

前半戦の約54mが記録更新だった訳ですが、「続・魁・熱水直下微生物圏掘削」では、そうそうに90mを超えました。

長い深海掘削の歴史上、深海熱水域を数百メートル掘ったことはあります。しかし、それはほぼ「掘っただけ」。つまりコアはほとんど回収されていないんですね。このC0014と名付けられたサイトでは、現時点では70%以上の回収率でコアが上がってきています。

「チョイ悪おやじ」サワダ船上代表率いるCDEX軍団は、「ちきゅうとCDEXの技術力の勝利!」とそこはかとなく恩着せオーラを醸し出していらっしゃいます。

「おっしゃる通り。たしかに奇跡的な回収率でございます。ぐっ じょぶ」

で、何が1031かと言いますと、

世界に誇る「ちきゅうとCDEXの技術力」にも、泣き所がありまして、掘削して到達した海底下の環境の温度が、せいぜい55℃までしか測れないという弱点があるのです。

実はこれは簡単そうに見えて、技術的に結構難しい問題なんです。

今回のC0014では5-10m掘削すると、20-30℃近く温度が上昇します(これは測れる)。これは予想より遥かに高くて、ちょっとびっくりしたんですが、まあそこまではよろしいと。

次の掘削ではもう温度が測れなくなるんです。すくなくとも三つの深度で温度が測定できると、直線的な温度上昇の傾向が出せるんですが、1点ではなかなか予想が難しいと。「これは困った」、という状況でした。

コチーフ・タカイは航海前に、ミヤザキ研究員より温度シールを預かってきました。これは人工熱水が吹き出るパイプの外側に貼付けることで、ROVで観察して、噴出する人工熱水の温度が分かるのではないかというアイデアだったんですが、実際この試みは失敗してました。

ふと見るとその温度シールが余ってたんですね。「キラーン!」。

ドリルパイプの中に入れるコアライナー(前半戦はプラスチックで溶け、後半戦はアルミ製を急遽補充してもらった)と呼ばれるものにそれを貼付けておけば、温度が測れるんじゃないか?

サワダ船上代表は「そんなの無理無理!Wooooory貧弱ぅ貧弱ぅ!」と薄ら笑いしてましたが、とにかく試してみることに。

結果 = 1031の勝ち

47.2mの深さで140℃、50mを超えたところで210℃を振り切りました。

ちなみに地球生命が生育できる最高温度は、122℃(タカイの作った世界記録で、ギネスに申請中)。

大体45m付近に、「生命と非生命の間」があると予想できるのです。

これはちょっと短絡的な考え方なんですが、大枠そういう予想ができるという一つの大きな手がかりになるのです。

「やはり、天才?!やはり」
ちょっと自慢したくなる気持ち、分かってもらえたでしょうか?

「アナタ、基本的にいつも自慢ばかりアルヨ」

今、聞こえないはずの突っ込みの声が聞こえましたよ。しかも多方面から。そらみみ、そらみみ。

あっまたコアが上がったって!

ではでは

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「後半戦開始」2010年9月19日

みなさん、9月19日(日)午後8時、龍馬伝の時間ですが、当然そんなものは見れないタカイ at 「ちきゅう」です。

昨日、昼過ぎ、前半戦の全行程を終了し、荒れ狂う東シナ海を南下して、名護湾に向かいました。

しかし、「ちきゅう」は揺れません。助かるねー。あのものすごいシケで、「ちょっと揺れてるな~」ぐらいしか感じませんでした。

これがうちの「なつしま」クラスの船であれば、まあ間違いなく「ゲロゲロ」で3ラウンド完全TKOでしたね。「よこすか」クラスであれば、「ボディーブローの連発で足カクカク状態」でしょう。

さてさて、なぜ名護湾に来たかと言うと、クルーチェンジです。

我々研究者には、労働と趣味の区別がないので、ロードーキジュンホーの適用が厳格じゃないのかどうかしりませんが、とにかく掘削オペレーションに関わる「働くおじさんたち」は2週間に一度交代するのです。

ヘリコプターで交代することもあるのですが、サプライボートなど船で交代する事が多いようです。今回は、「ちきゅう」自らが、陸に近づきました。これは、決してJAMSTECが「じぎょうしわけ」とかいう国際ネギリストもまっさおのネギリをくらって、財政的に青色吐息になっているからではなくて、船では不便な掘削地点で、ヘリも飛べない海域というのが公式見解です。

タカイが寝ている間に、「ちきゅう」は名護から3kmぐらいの沖合に漂泊し、前半戦、多いにお世話になり、意気投合したサルハシ船上代表などは「酒池肉林」の沖縄本島へ上陸してしまいました。

代わりに「チョイ悪オヤジ」サワダ船上代表など新たな掘削オペレーションチームが乗り込んできました。

このサルハシさんやサワダさんは、「沖縄掘削」が決まりはじめのころから、約6ヶ月間、頻繁に準備を重ねてきた愛すべき仲間です。それまで「へっ、「ちきゅう」なんてお高くとまりやがって!」と食わず嫌いしてきた私が、彼らの「やる気・元気・イワキ」を感じて、「この人たちなら、ワタシ、いっしょにしてもイイ」と心変わりしたのでした。

他には、乗船取材を敢行していた日本放送協会の取材陣も下船していきました。

なにやら、最後のカメラ撮影に、甲子園のPL学園ばりの人文字を、1km先に停泊していたJAMSTEC調査船「なつしま」の研究者に強要し、あげくに、「小さすぎて見えんだてかんて」(名古屋弁?)とか言ってボツにしたようです。

「下船する前にぜひタカイもたたき起して、ヘリデッキで将軍様ダンスのようなもの、をさせろ」と迫ったらしいですが、間一髪、安眠を妨害されずに済みました。

そんなお茶目な日本放送協会の取材陣は、午後3時頃に名護湾を出航した「ちきゅう」を、空から粋な方法で見送ってくれました。

日本人乗船研究者の中には、「俺写るっすかねー?」と言ってやきもきしている人もいるようです。番組期待してるよ!

そんなこんなで後半戦は、新たなメンバーで始まります。すでに名護も後にしました。

前半戦は、「ちきゅう」のつぶやきシローさんがまとめていますね。よーくまとまってます。つけくわえること、なしです。

最近、つぶやきシローさんの沖縄熱水直下微生物圏研究の理解の深さは「ちょーハンパない」んです。やばいんです。ひそかにオレのポジションを狙っているな?

そうです。後半戦は「続・魁・熱水直下微生物圏掘削」(熱水からかなり離れた温度勾配の緩やかな海底下)を行います。さらに、「真・元祖・本家・熱水直下微生物圏掘削」と「越後屋おぬしも悪よのォフォフォフォ・熱水直下微生物圏掘削」に挑戦します。

巨大な熱水マウンドを串刺しにして、その中の微生物共を「全解明じゃあ」というのが「真・元祖・本家・熱水直下微生物圏掘削」です。またその近傍にマウンドからどっしり根が生えた金属硫化物の固まりがドカンとあるはずなんですが、それをぶち抜くのが「越後屋おぬしも悪よのォフォフォフォ・熱水直下微生物圏掘削」です。なぜ越後屋なのか?それは、下心があるからなんですね~。とてもこんなところで記録には残せないですね~。ぜひ、「ちきゅう」トークイベントなんかで聞いてください。あっけなくポロッとしゃべりますから。

これは成功率が極めて低いと考えられてきた禁断の掘削なのです。なので、最後の最後に予定しています。

さあ泣いても笑っても、あと半分。阪神は息切れですが、我々はまだまだ「やる気・元気・イワキ」でいきまっせ~。

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「一本目終了」2010年9月16日

みなさん現在9月16日、午前0時、タカイ at 「ちきゅう」です。

どうもこのレポート、「ちきゅう」のつぶやきシローに比べて、写真はないし、時系列が遅れてしまう、という欠点があるのですが、赤裸々な心情をお伝えできればと思ってます。

さてさて9月15日、「ちきゅう」は一本目の孔を完全に終了いたしました。

最終的には、55mぐらいまで掘り、40mぐらいまでを特注ステンレスパイプでケーシングしました。ケーシングしたあと、ウェルヘッドキャップという蓋をみっちりと閉め、一番真ん中の直径10cmぐらいのパイプだけを海中にむき出しにしてあります。

キャップを締めた後の光景は、それはもう、「歓喜」と呼ぶにふさわしいものでした。レーザービームのような熱水が「コォー」と音を立てながら(そんな音はしていないとみんな言い張りますが、私の耳には聞こえるのです)、吹き出しています。

私の気持ちは、まるで石油を掘り当てたジェームス・ディーンのような気持ちでしょうか。例えが古い!

とにかく「人工熱水はじめました」。

でもちょっと予想以上の噴きぶりかも....。

このあとあのパイプに特注の孔内採水器や孔内現場培養器というものを、ハイパードルフィンによる「かわぐち」探検隊が設置にくるのですが、アツアツすぎて、萌えてしまう、いや燃えてしまう、かもしれません。

とにかく、9月15日、我々はまず最初の掘削孔での作業を終了しました。

この掘削孔からは、予想を覆すような結果がたくさん得られています。しかしそれは、けっして想像を超えるものでありません。

どういう意味かと言うと、「私の想像力の勝利!勝利!ガハハハ」。

唯一の難点は、どうやら予想以上に高温すぎて「熱水噴出孔直下微生物圏」を証明するデータを船上ではとれないかもしれないということです。それって一番まずい事やん、と突っ込みが入りそうですね。
「うん、そうかも...」。

二兎追うものは一兎を得ず、というように、全部を一発で解明するのは強欲杉。つぎ。つぎ。

いまから向かう場所は、最初の掘削孔から400m程度離れた場所です。すでに熱水の中心からは500mも離れた場所ですから、さすがにここではもう少し温度が低い熱水が、かなり深いところにあると予想してます。

しかし、この伊平屋熱水活動のことですから、またもや、モクモクでてくるかもしれません。それはそれで、すごいことなのでコアがあがってくるのを楽しみに待ちましょう。

本日「人工熱水」を完成させた猿橋船上代表(コチーフ・タカイの一学年下なので、ワシのコーハイですねコーハイ)が気の抜いた瞬間ふと漏らした本音。

「アレはワシが作ったんや!ワシが作った人工熱水、壊すなよ!」

すぐに私も言い返しました。

「いーや、あれはワシが育てたんや!ワシの熱水や!」

なんと小さいオトコたち.....(笑)。

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「なが~い1日」2010年9月11日

さてみなさん、現在9/11、午後9時です。

コチーフ・タカイ。ようやく一息つきました。

この24時間は,,,,長かった。いろいろありました。

まず進捗状況ですが、コチーフ・タカイのここ一番の得意の台詞、「いいよぉ~、すごくいいよぉ~」を解禁してもいいような状況です。

ちょうど24時間前、イクステンデッド・パンチング・コアという方法で、最初の掘削地点の掘削を始めました(その前の水圧コアと言う方法が失敗したことはあくまで黙っておこう)。ROVで観察していると、ズブズブとパンチがめり込んでいくのがよくわかり、研究者サロンにいた研究者は徐々にハイになっていきました。

とりあえず9mほどドリルの先端をソーニューできたので、コアを引き上げることに。

初めてコアがとれると言うことで、みんな妙にハイ状態です。

今回の「ちきゅう」では、さる理由により、最初にコアに近づける研究者は、選ばれし者共だけです。25人のなかでも、石橋純一郎殿、クリス・イェーツ殿、笑瓶兄さん(ショウイェ・ヤンさんの呼び名byタカイ)、ステファン・ボウデン君だけが許される至高の権利なのです。別名、「人間カナリア」、「実験動物」とも呼ばれますが....。

9/11の朝1時30分、最初のコアが上がってきました。コアカッティングエリアには、石橋殿、笑瓶兄さん、ステファンがガスマスクを付けて待機です。タカイ、クリス・ハウス、ようやく「地蔵」と「ヒキコモリ」から脱した西澤マナブ君もうれしがってコアを待ちます。この30分ぐらいの待機中は、最高に興奮した変なおっさんのあつまり状態でした。

結局、ワーワー騒いだあげく、1.4 mぐらいしかコアは入ってなかったんですが、それは海底から1.3 mぐらいのところにカッチカッチの層があるからんですね。実は、それはすばらしい兆候なのです。「カッチカッチやで~」層というのは、ギョーカイではキャップロックと言いまして、その下にはいいもの(今回は熱水)が閉じ込められている場合が多いのです。

最初のコアでは、キャップロックで跳ね返されましたが、逆に言えば、こいつを抜いてしまえば、「アッツアッツやで~」が出てくると考えられます。掘削前からそう予想してましたが、まさしくどうやらそのようだと考えられました。

次は、そのカッチカッチ層を3mぐらい掘り抜けば、水圧コアでとれると予想して、そのような計画を立て、朝3時に、最初のコアがX線CTスキャンに入るのを見届けて、コチーフ・タカイは、マイクさんと交代でしばしの休息に入りました。

朝10時に起きてくると、いつの間にやら、約20mも掘り進んでました。しかし、何やら現場が混乱しています。どうも海底下熱水を掘り当てたようです。そのためいろいろそこらじゅうで問題が起きていたのです。事態の収拾のため、わやわやと駆け回り、落ち着きを取り戻したのは午後3時ぐらいでした。

結局いろいろ問題は起きましたが、要は大成功なのです。「地下熱水微生物圏・・・・あるで!」と言って、半分「アルアル詐欺」のような手口で研究を推進して始まったこの航海。つまり「地下熱水があること」、「その部分のコア」を間違いなく回収できたのですから。あとはそこに「微生物・・・・わんさかいるで!」が証明できればいいのです。

午後8時には、海底下30mぐらいに2回目のカッチカッチ層がでてきました。これは、つまり、さらにその下にもアッツアッツがあるかも....です。

まだまだこれから深く掘っていきますが、このようなカッチカッチ層-アッツアッツ層の繰り返しが続くと思います。それは、熱水直下微生物圏の証明に大きく近づくことを意味しているのです。そして、アッツアッツ層が真っ黒な硫化物に溢れ出すようになれば、もう、「ムフフ、うふふ、アフーン」なのです。

なんのこっちゃーと言われそうですが、また研究が進めば追々レポートしていきます。

「レポートなげーよ」という突っ込みが聞こえてきそうですが、とにかく今は順調っす。

研究者紹介?そんなことワスレタ。

ではでは。

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「さあいよいよコアリング!」2010年9月9日

現在、9月9日午後8時30分、もうすぐ最初のコアリングが始まります。うっひょー。いよいよです。あまりのしんどさでかなりハイです。

「ちきゅう」に乗船してから1週間以上たってますが、コチーフはとにかく忙しいです。すべての事柄を、二人のコチーフとEPMの3人で合意しないとだめという建前があり、これが時間かかるんですよね。しかもマイクさんはかなり偉い先生なので、やはりコチーフ・タカイのような勢いと情熱だけコミュニケーションでは、なかなか 「うんいいよ」とは言ってくれません。今日は朝4時から、コアリングの方法を3時間かけて議論し、ようやくタカイ案が認められました。「最初からそういうてるやん~」と何遍も心でつぶやいてましたが、喉元過ぎれば...というやつで愚痴るまい。

次は、共通のデーターを取るためのサンプリングの方法です。これも2時間ほど議論した上で、ようやく全員の研究者の合意を得ました。会議中には、25人もいる研究者やら、船上技術員、キューレーター、書き物監視係、泣く子も黙る「サルハシ」船上代表などが入れ替わり立ち替わり何かとやってきます。もう何が何やらわからなくなるような忙しさです。

ランチ後はすぐさまROVで掘削ポイントをチェックです。最初の孔は半径40mの範囲で申請されており、その範囲内で最適の場所をみつけないといけません。3年前ぐらいから考えていた場所ですが、もっといいところがないかと探します。いいところを見つけて、まるで花見の席とりのようにROVを座らせます。しかーし、まるで アメリカンフットボールのファーストダウンの計測のように、わずかに範囲から出ていて2回もアウト。結局、最初から考えていた場所に落ち着きました。

いまは、ガイドベースというドリルを通すための「まあご立派!」的な建造物をドリルビットの代わりに先端につり下げて設置する作業中です。

これが終わるといよいよ、最初のコアですぅ。そうなんですぅ。

ROVの観察では、このサイトの北、西、南はすべて20m以内に100度程度の熱水が噴いています。バリバリの熱水地帯です。こりゃ、「地下熱水....あるで!」

いまブリッジから呼ばれました。行かないと。

ではでは。 

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「明日出航です」2010年9月4日

さて9月1日に乗船したIODP Expedition 331研究者チームですが、いまだ清水港に張り付いています。

「いったい清水で何やってんの?」と訝る方多し、だと思いますが、私もそう思います。たしかにそうですよね。普通の航海ではあんまりないことです。

しかしコチーフ・タカイには結構、この時間があって助かったと思います。

この間、研究者チームはたくさんミーティングをしています。まずは互いをよく知ること、航海の概要を知ること、航海のスケジュールを知ること、研究室の機器を立ち上げること、サンプリングの準備をすること、などです。その他、コチーフにはなんやかんやいろいろ雑用などがあったりします。

これが乗船して、すぐ出港、すぐ掘削開始となるともうてんてこ舞いになってパニックになります。それでなくても「瞬間湯沸かし機」と呼ばれる私のことですから、あんまり忙しくなると何回も「ブチ切れ」モードになって、雰囲気を壊しかねません。IODPの航海というのは、普段からよく知っている研究者同士がチームを組んで 一枚岩で研究を遂行するのではなくて、各ファンディングカントリー・リージョンから推薦された研究者が船上で顔を合わせてから、初めてチームを組んで研究を推進するのです。ですからいわゆる「出会い系」研究ですね。「出会い系」で「いい出会い」が難しいのと同じように(そう書いてますが、そんなことまったく知りませ ん...)、これがなかなか難しいのよ。人間というのは。わかります?みなさん。

というわけで、この無駄な(CDEXの皆さんごめんなさい。でも率直な意見としては反論できまい)時間は、出会ったもの同士が互いに理解するのに非常に重要な時間になりました。

今日は、各研究グループ(例えば、微生物、化学、堆積物)で何を最重要項目とするかをじっくり話し合いました。実は、みんなそれを話し合わねばならないことはよくわかっているのですが、やはりそれが一番コンフリクト(意見の違いや利害の対立)になるのはわかっているので、結構おそるおそるようやく今日になって始まりました。「そういうのって、国際の場ではいきなり自己主張するんじゃないの?」と思っている方は多いかもしれません。実はそんなことはないのです。良識ある科学者というのは、そんな落合信彦の国際政治ノンフィクション作品に出てくるような「ヘイ、ノビー。リビアの情勢はどうだ」「ヘイ、リック。ソイツはそう簡単には 教えられねえな。そっちのインテリジェンスとバーターだな」「ヘッ。しっかりしてやがるぜ。じゃあ、とっておきのヤツと交換だ」というような限りなく嘘くさいやり取りはしないものです。徐々に核心に迫っていくものなのです。その第1関門が過ぎて、ようやくみんな心から打ち解けてきたみたいで、今夜は、ほとんどの研究者が外出して「最後の晩餐」ならぬ「最後のアルコール」を楽しんでいるようです。コチーフ・タカイは、マイクさんもサイモンもいない首席部屋で寂しく仕事してます。うぅ寂しい。

そうなんです。実は孤高なんです。寂しげなんです。哀愁なんです。母性本能をくすぐるタイプなんです。

明日は朝早く出港のようです。出港したら、研究者は船上技術員の助けを借りて、分析の準備にかかります。「ちきゅう」にはめちゃくちゃいろんな計測機器があります。自分がしたことがない分析も、船上では役割があたったらやらないといけません。そういうわけでこれから地獄の特訓が始まるのです。

ちなみに皆さん船上研究者の紹介ページ見ました?このレポートでは、ホームページでフィーチャーされていない船上研究者の紹介などもしていこうと思ってます。最初は、レディーファーストということで、正木裕香さんとリア・ブラントさんでいきましょう。

正木さんは、高知大学の博士課程の3年生で、沖縄熱水域の熱流量(温度)分布から、海底下の熱水の流れを再現しようとする研究を行っています。私とは、熱水研究を共にする彼女の修士学生の頃からのいわば「腐れ縁」です。この掘削研究の実現に一役買っているのです。彼女は、ものすごく元気があって、積極的で、外国人に 対しても物怖じせずにどんどん英語をしゃべってがんばってます。びっくりするほどです。この航海で、すごく見直しました。研究者チーム唯一の地球物理学専門なので、大変だと思うのですが、逆にそれが彼女の自覚を強くしているようで非常に頼もしいです。地蔵と化している日本人研究者もいるなかで立派立派。あとは「アンジェリーナジョリーを目指している」とはたわけたことを言ってるので、とりあえず「汝自身をよく知りなさい」とキリスト風にやんわり諭しておきましたが、さすが都合の悪いことは耳に入らないようですね。図に乗んな!

リア・ブラントちゃんは、IODP Expedition 331日本人研究者チームのアイドルです。ペンシルバニア州立大学の学生さんですが、先生のクリス・ハウスと一緒に乗船してます。いわば、「宇宙生物学者の卵」ですね。ずっと卵でいてほしい。あの可愛らしい笑顔は癒しです。できれば、おっそろしいアメリカ女性にはなってほしくないものです 。おじさんは。でもまだまだ、難しい話にはついてきてないようですが。がんがれ。

研究者紹介今回だけで終わったりして...。

ではでは。

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乗船前夜:クルーズブルー?2010年8月31日

思えば遠くにきたもんだ。
という台詞がありますが、今の私は「思えばとうとう来たもんだ」という感じです。

今年の3月に、航海が内定し、それからドトーのように「オキナワクッサク」「オキナワクッサク」の波にのまれ、この半年は胃がキリキリするような毎日でした。

プロポーサルは書いたものの、そのプロポーサルは何とか上位にランキングされたものの、「ケッ、どうせオキナワクッサクなんかしねーんだろ」とやさぐれていた8年半の日々は、ある意味責任がなくて、万年野党のような気楽な立場でした。

それが急遽、航海が決まって以来、会う人、会う人に、「念願がかないましたなー、クックック」とか、「いやー期待してますよー、ゲフゲフ」と言われると結構、逆にずどーんと気持ちが重くなることもしばしば。
いわゆるマリッジブルーのような気持ち?
もちろん結婚する前にはぜんぜんそんな気持ちにはなりませんでしたが...。
今日清水に向かう電車の中では、そんなことをつらつらと考えてました。

ホテルにチェックインしたあと、研究者チームとEPM(Expedition Project Manager: 要するに航海のジェネラルマネージャー)のSimon Nielsen(サイモン)を交えて、決起集会(飲み会)をしました。
この航海の研究者チームは平均年齢が結構若くて、一番の重鎮は共同首席研究者のMike Mottlさん(マイク)。
大人は自分も含めてあんがいシャイなものですが、若い連中は気楽でいいねえ。
そういう連中としゃべってたら、なんだか重ーい気持ちが晴れていきました。

初めてのIODP航海に参加する彼らは、「よくわからんが、楽しみっ!!」て感じで、こちらもなんとなく「オウ楽しみっ!」って言う気分になります。
そうそう、首席研究者という立場では「コアがとれなかったらどうしよう」とか「台風が来たらどうしよう」とか「サンプリングプランで対立したらどうしよう」とか結構ネガティブ思考しがちなんですが、よく考えたら、もともと「ケッ、どうせオキナワクッサクなんかしねーんだろ」と考えていたものなんですから、「なんかしらんけどラッキー」と思わないといけませんよね。
というわけで、今はかなり前向きになってきました。

あとは、沖縄近海に集合中の台風と低気圧がどっか行ってくれるだけ。
しばらく清水港に張り付いてますから、その間にきれいさっぱり消・え・て・クレ。

最初のレポートにしては、ネガティブなトーンでしたが、実際、航海前っていうのはこんな感じです。
実はネガなんです。ナイーブなんです。センシティブなんです。哀愁なんです。母性本能くすぐるタイプなんです。コチーフ・タカイは。

ではでは、
航海が進むにつれ、レポートが狂ったようにハイになることを願いつつ......アディオス。

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