ちきゅうレポート
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「航海は終わったけれど、これが新たな始まり」2011年1月28日

「ちきゅう」の第333次航海はおわり、私たち研究チームは1月11日に新宮港で下船しました。「ちきゅう」はゆっくりと陸へ近づき、暗いうちから少しずつ陸が見えてきました。

朝早く陸地が見えてきたので、待ちきれなくなってヘリデッキから新宮港を眺める二人。
寒いけれどうれしそう。


さらにゆっくり新宮港に近づいていきました。さすがに大きな船なので慎重です。その間に朝日が昇りました。下船を祝ってくれるかのように綺麗な朝日でした。


朝日。ここから見る朝日はこれで最後。最後を祝ってくれたのか、珍しく雲が少なかった。

あの日から少し時間がたちました。みんなはそれぞれ自分のおうちに帰り、もう自分たちのもともとの仕事に戻っている事でしょう。とかいう、私も今回の航海が夢だったのではないか?と思うくらい、乗船する以前の日常(よりも忙しい)に戻っています。おそらく、みんな同じような状況にあるのだろうと想像します。

今回の航海は通常よりも短かったということで、そのためかわかりませんが、作業や研究レポートなどが、あっという間に終わったという感じがあります。だからこそ、夢だったのではないか?と思わされているのかもしれません。けれど、今の私の目の前にある大量のサンプルは、まぎれもなく「ちきゅう」乗船中に採取したもので、これから行う分析作業の大変さと同時に、ここから得られる研究データを早くだしたいという希望とが入り交じったなんとなく複雑な心境です。

里口がサンプルリクエストをだしていたサンプル。私自身が船上でサンプリングしたものも含まれているので、まぎれもなく「ちきゅう」から送られてきた試料。箱一つだけれど、分析するこれからが大変。

おそらく多かれ少なかれ、他の研究者も同じように感じている事でしょう。なので、航海は終わったものの、サンプルリクエストを出していた研究者にとっては、新たな始まりともいえます。

「I'll come back Chikyu again!」

さて、第333次航海のレポートは今回で終わりです。このページで、今回の航海の様子がうまく伝えられたかどうか分かりませんが、少しでもこの航海のおもしろさや重要さなどが伝わっていたら幸いです。 こういった研究航海に興味を持たれた方、とくに若い研究者やこれから研究者を目指そうという方々は、まだまだこういうチャンスがあると思うので、是非トライしてほしいと思います。

では、最後に「ちきゅう」上での集合写真で締めくくりたいと思います。

「ちきゅう」のヘリデッキで撮影した集合写真。天気がいい日が少なくて、集合写真を撮る日に困った。寒かったけれど、みんないい顔しています。

それでは、みなさま、最後までご愛読いただき、どうもありがとうございました。

里口 保文(琵琶湖博物館

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「みんなが一つの目的のために働く」2011年1月8日

こんにちは。お正月休みが過ぎましたがいかがお過ごしでしょうか。「ちきゅう」乗船中の里口です。

さて、今回の航海も大詰めを迎え、もうそろそろ終わろうとしています。それぞれのグループは、降りるまでに書く研究レポートのために、この航海で分かったことをまとめる作業に追われています。研究グループごとの議論や、グループを越えた議論、船を下りてからどういう研究を行うかという議論、など様々な議論があちらこちらで行われていて、乗船者の研究に対する姿勢が見受けられます。

研究グループごとに調査のまとめなどを発表しているところ。
たいていの場合は首席研究者のピエールさんを中心にたくさんの質問が飛び交い議論が行われます。


う〜ん、ちょっとまじめな文章が多すぎて、自分でもなんだかわざとらしく思えてきたぞ。いや、書いていることは事実なのですが、書き方が優等生な書き方だ。それじゃぁ、もっと人間くさく「私の横にいるまだ新婚の研究者は、あと○日だと毎日言っているなぁ、それは早く奥さんに会いたいという事なのかなと思いつつ聞いています」とかそういう事を書いた方がいいのか、なんて考えたりもしてます。

閑話休題...先日ふと思ったのですが、この船は海底掘削船なので、基本的にはそのために運行しているのです。という事は、ボーリングスタッフや私たち研究者はもとより、クリーニングスタッフや食事スタッフなどすべての人が、数千メートル下の海底を掘って調査するという目的のために働いているのですよね。そう思うと船上に上がってくるコアに対する気持ちもちょっと変わってくる...ような気がする。


このタワーで引き上げるボーリングコアのためにみんなが働いていると思うと、ちょっと感慨深いものがあります。

そういうスタッフの中には、研究支援スタッフがいます。分析や採取作業のサポートや、資・試料や保存用ボーリングコアのチェック管理などを主に行います。

ボーリングコアの処理、分析の補助、保存するボーリングコアの管理など殆どの場面でテクニカルスタッフの方が関わっています。保存用と採取用の半分に分ける部屋(左下)、記載前にするボーリングコアの画像撮影(右上)、記載が終わったボーリングコアの整理準備(左上)、保存用ボーリングコアの管理作業(右下)など、その他にもいろいろ。それにしても、右下の人はコア管理作業中だと思うけれど、なぜ床に正座しているのだろう?

彼らなくしては研究者もうまく働けない、と言っていいくらい(というかその通りだ)重要な役割を担っています。しばしば彼らが作業についての激しい議論をしているのが聞こえていました。彼らも熱い想いでこの船にのっているのかな?なんて事を思っていました。

今回の航海はもうすぐ終わりですが、乗船研究者にとっての研究はまだまだこれからです。得られた試料は、それぞれの研究者がその目的別に分けられているので(以前の記述を参考にしてください)、その試料の分析によって専門別の研究が進められます。

さて、得られたボーリングコアは全部が今回の乗船者の分析用試料になってしまうのでしょうか?答えはノーです。テクニカルスタッフによって半分にされたコアの片方と、試料採取後に残ったコアは高知にある専用の施設へ運び込まれ、今後の新しい研究のために保管されます。だから、採取試料ラベルなどの記述の間違いやデータ入力が間違っていたりすると、テクニカルスタッフのコア管理部門の人(キュレーターと言っています)が飛んできて、あくまでもやんわりと間違いなどの修正を指摘されます...。そういった管理の事情は、私が普段働いている博物館でも同じようなことをしているのでよく分かります。同時にそういう保管・管理作業がどれだけ大変かという事も身をもって体験しています。もっとも私の博物館はボーリングコア以外の資料が殆どですけれど。

今回の記事は、先日行われた卓球大会決勝の画像をお見せして締めくくりたいと思います。さて、どちらが勝ったでしょう?どちらも上手で、レベルの高い戦いでした。

激しい応酬という感じではなく、たんたんとすすんでいるような感じがしていたのですが、お互いに使われている技などをじっくり観察すると、レベルの高い戦いだという事がわかった、研究者里口でした。

里口 保文(琵琶湖博物館

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「引き続きだけれど気持ち新たに」2011年1月5日

あけましておめでとうございます。ちきゅう乗船中の里口です。
「ちきゅう」では、お正月でもいつもどおりのシフトで作業が行われています。ちなみに、初日の出をみようと夜シフトの人で見に行きましたが、残念ながら曇っていて、日の出を拝むことはできませんでした。せっかく沖合にいるのに。

「ちきゅう」からみた初日の出時間の空。
残念ながら曇り空なので初日の出は見ることができませんでした。


さて、前回の続きを。あとは地球化学分野だなぁ。個人的な事情をいうと私がもっとも不得意とする分野で、正直なところ大学の時にもこの分野の成績はというと...(他は良かったのか?)。という訳なので、そういうつもりで見て頂ければ。

まずはと...近くで分析作業をしていたMarionさんに「ハーイ、元気ぃ?ちょっと記事ネタに協力してよ」という軽いノリでお願いしました。MarionさんはXRFという分析機械をつかって堆積物の化学成分をはかっています。
堆積物の化学成分が深い場所にいくに従ってどのような変化があるのかを調べているらしい。その事は、地下で起こっている堆積物の変質の状況などとの関係があるそうです。なるほど、堆積物をあつかった研究だからまだ私にも理解できるかな。ただ、分析するための試料をつくるのにとても時間がかかるそうで、それにはとても苦労しているそうだ。確かにねぇ、試料の調整とかつくるのに時間がかかるよね。

じゃぁ、次に乗船前からの知り合いに聞いてみようかな。無機地球化学グループの齋藤さんです。彼はもともと洪水流の堆積学をやっていたはずなのですが、今回の乗船は無機地球化学研究者としてですね。その間にどういう心境の変化があったのかな?それは...おいといて。彼は地下にある堆積物中に含まれている水を絞り出して、その性質を分析しているとのこと。さて、それで何が分かるのでしょうか?


夜シフトの無機地球化学グループのMarionさん(左)と齋藤さん(右)。首席研究者のPierreさんとMarionさんがフランス語会話をしている光景は、まるで映画を見ているよう。写真は分析試料を準備しているところ。齋藤さんは静かな人という印象を持っていましたが、案外そうでもない。写真は泥に含まれている水を絞り出しているところ。

「深海の堆積物は、海にたまるのでその粒子の間には海水が関係しています。その海水成分が地下にいくに従ってどのように変化をしているのか?が、地下での水の動きを理解することに役立ちます。地震を起こすプレートの沈み込み帯ではこの水の動きが重要な役割をもっているのではないかと考えています。」

なるほど...じゃぁ、これまでにおもしろかった事とかはありますか?と聞いたところ、コアが上がってくるときには毎回見に行くそうですが、海底下にある泥は大きな圧力がかかっているので、確認のための小さな穴をあけると、泥がにゅるにゅると出てくるところがおもしろかったらしいです。そっちのおもしろさは何となく想像がつきます。

にゅるにゅる出てくる泥。深海底では高い圧力がかかっているので、上がってくる泥にも高い圧力がかかっています。そのため、写真のように小さな穴からにゅるにゅる出てくることもあります。破裂することもあるとのことなので気をつけないと危ないらしい。

次の人で最後かな。有機地球化学分野の彼に聞いてみよう。インタビューしていいかな?と聞くと、ちょっとはにかんだような「いいよ」という言葉がかえってきました。けれど本当に熱っぽく語ってくれました。彼の本当の興味は、劣悪な環境のはずの地下で活動する微生物についてだそうですが、「ちきゅう」での役割はメタンなどの有機化合物などの分析です。

彼の言うことをまとめると、次のような事だそうです。海には堆積物として粘土や砂がたまりますが、その堆積物中には有機物も含まれています。この有機物は太陽があたる海の表面で、藻類やバクテリアが作ったもので、これらの測定結果は数十万や数百万年前の海の環境、たとえば海流や水温、栄養量などを再現するために必要なものです、とのことです。
じつはこの記事のもとは彼の原稿です。インタビューをしたものの難しいと言っていたら、簡単なものを書いてあげるよと言ってくれた。やさしい。

夜シフトの有機地球化学グループのThorstenさん。Thoddyとよばれている。一見ファッション雑誌などでみかけそうな感じの彼は、非常に熱っぽく研究の事を語ってくれます。こりゃぁファンがいてもおかしくないよな。写真は作業が終わったあとに、分析処理室で撮影したもの。

というわけで、乗船中の研究について取材をしたわけですが、夜シフトのみんな協力ありがとう!!あれっ?よく考えると夜シフトの人しか登場していないっ!まぁ、それは私が夜シフトだからしょうがないということで許して下さい。

さて、お正月ということで、「ちきゅう」乗船中の研究者ほかの人達で書き初め大会をしました。今回は首席研究者のお二人による書き初めで締めくくりたいと思います。

首席のお二人による書き初め。どちらも真剣。
書き初め大会で使った二つのお手本文字「新春」と「ちきゅう」でした。


里口 保文(琵琶湖博物館

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「きいてみよう!」2010年12月31日

こんにちは。波に揺られながら顕微鏡をみていたら、ちょっと・・・となっている里口です。「ちきゅう」はほとんど揺れない船なのですが、ここ数日は波が高くて結構揺れまくっています。揺れる船でみる顕微鏡は、その揺れと連動してピントがずれていく。あぁぁ、こんな体験初めてだ。おぇっ。あぁ言っちゃったよ。

さて、ちきゅう乗船中の話題も、研究の事を中心にというと、私の話では話題が持たないので、今回は一緒に研究をしている人達にいろいろ聞いてきました。同じ地球科学分野だけれどわからない事だらけです。私がみなさんにどれだけ正確に伝えられるのか疑わしいですが、簡単にふれてみます。

それぞれの人に「あなたはどういう事をしているのですか?」と尋ねたところ、熱っぽく語ってくれました。

「私たち(古地磁気グループ)は昔の地磁気の方向をはかっています。」だそうです。あれ?熱っぽくじゃなかったっけ?まぁいいや。もう少しいろいろと聞いてみましょう。

夜シフトの古地磁気グループ。川村さん(左)とBethさん(右)。陽気な研究者グループの中でもとくに陽気なのがBethさん(という私の勝手な印象)。結構早口だ。川村さんはいつもマイペースですね。

地磁気というのは、磁石のN極が北へ向くあれです。現在はN極が北を向いていますが、その向きは長い時間でみると一定ではありません。全く逆の方向、つまりS極が北を向いている時代もあるわけです。それも繰り返し変わっていきます。その変化する年代はこれまでの研究で詳しく調べられています。さぁ、何をしようとしているか分かったかな?昔の地磁気の方向は堆積物に保存されているので、その方向とこれまでの研究とを比較することで地層のできた時代を知ることができる、という訳です。
な〜るほど。簡単に言えば、時代を知るために古地磁気をはかっているという事ですね。これで地層のできた時代が分かるって訳だ。

次は、と...あぁあそこで忙しそうにしている人がいますね。ちょっとじゃまして構造グループの人に聞いてみましょう。

「私は得られたボーリングコアの構造を見ています。」もうちょっと砕いて言うと?「地層の変形している状態などの事です。断層とかそのほかいろいろ」なるほどね。今までにおもしろかった事を聞いてみたところ、今回の成果にかかわるので、もう少し精査しなければならないそうですが、陸上でみられる地層と同じような変形などがみられたのは興味深いと言っていました。変形といってもいろんなものがあります。地層を切る断層もそうですが、水が抜けるときにできる変形や、地層がめちゃくちゃに壊れてへんな方向に向いてしまうとか、生物によって乱されたものなんかも見られるようです。それからCTスキャンで得られる画像も駆使して変形を確認するそうです。CTというと医療用のものを思い浮かべますが、それと同じものを使うことで試料を崩さないで変形の状態が見られる。これは海底を掘る船では「ちきゅう」にしかないらしい。すごいっ!やるやんっ「ちきゅう」!


夜シフトの構造グループの山口さん。といってもシフトでは一人になってしまう。いつもあっちこっち動き回って忙しい印象です。CT画像をみているときはなんだか楽しそう。そういえば、昼シフトの構造グループ員(って一人だけど)も夜シフトでよく見かけます。

物性(物理的性質)グループの人にも聞いてみましょう。「Hi, how are you?」と話しかけて、どんな事をしているのか聞いてみました。物性グループはいろんな事をやっていて、それぞれに担当があります。Hughさんは地層の物理的な強度を測っているようです。別の言い方をすると、地層がどれくらいの力に耐えられるかというような事をはかっているといえばいいのかな。

夜シフトの物性グループ。Hughさん(左)、Gwangsooさん(中央)、松林さん(右)。一口にグループといっても様々な事をやっているのです。Hughさんは笑顔がすてきです。Gwangsooさんはおしゃれな感じです。松林さんはマイペースですね。

Gwangsooさんは主に堆積物の水の量や堆積物の重量を量っています。そうすることで、堆積物の粒のつまり具合がわかります。このことは地下での地震波の伝わり方などを知ることにもつながっている、ようです。本当に熱っぽく語ってくれたのですが、私の理解がこのあたりまでです。申し訳ない。
ちょっと離れたところで熱を測っている人がいますよ。ちょっと尋ねてみましょう。松林さんが言うには、地球の内部は暖かく(高温)、その温度がどう伝わってくるか?という深さと温度の関係が場所によって違うのだそうです。その違いを調べることで地下で何が起こっているかを調べたり、そういう熱が地下にある地層や岩石にどんな影響を与えているのかを知るデータになるとのことです。う〜ん深い。熱をやっているだけあって熱っぽく語ってくれました。

とてもじゃないけれど、全部を紹介しきれない(私の頭がついていかない)ので、今回はこのあたりで、続きは次回(の予定)に。

里口 保文(琵琶湖博物館

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「海面下4000mのそのまた下の世界」2010年12月27日

みなさんは海面下4000mの世界を見たことがありますか?
突然の質問ですいません。こんにちは、「ちきゅう」乗船中の里口です。深い海底を探検した映像を見たことがあるという人が、ひょっとしたらいるかもしれません。私?私はないです。いやいや、海底の世界を見たことはないのですが、さらにその下にあるものを今まさに目にしています。下にあるもの。それは深~~~~~~い海底でできた地層です。

「ちきゅう」は海底の掘削調査をする船です。掘削調査(ボーリング調査ともいいます)では、私たちがなかなか目にすることのできない地下の状態や構成物質などを直接手にとって調べる事ができます。しかし、そういう調査はめったやたらにはできません。今回の航海もそのめったやたらにできない調査の一つで、紀伊半島沖の地点に船を止め、その4000mよりもまだ深い海底を掘って地層や岩石を採取しています。

「ちきゅう」からながめた地球の夕日。
紀伊半島沖といっても、大分沖合にいるので、当然周りはすべてが水平線。


さぁ、想像してみて下さい。4000mという深さを。なかなか難しいですが、逆に上へのばしていくと、富士山の頂上よりもさらに高いところまで届きます。日本で一番高いところよりも、まださらに上へ行くくらい深いところまで掘削の道具をおろしていきます。それだけでもすごい事なのに、そこで海底に到着して、さらにその下を掘るなんてっ!!....掘るなんてっ!!!(驚きを表現するために繰り返させてもらいました)。掘るなんてっ!(しつこいか)なんてすごいんだ、と想像するのは、なかなか難しいかもしれませんね。





夕日に映える掘削やぐら。
日本語にするとなんか野暮ったいですが、海底4000mまでボーリング機材をおろしていくための巨大なものです。

本当ならここで、実際に掘られた現物を皆さんにお見せしたいところですが、調査中のことはきちんとした成果が出るまではお見せできないルールになっているので(編集長チェックが入るでしょうし)、研究が進んでからのおたのしみという事で。今は乗船している私たち研究者だけの楽しみとさせて下さい。海底4000mでたまったもの達にふれている私達の興奮がちょっとでも伝わったら幸いです。

そうやって採取した試料は、主に乗船している研究者がよってたかって採取し、それぞれの目的にそった研究に利用します。得られた試料は大変貴重なものなので、当然ながら研究をするための審査も厳しく行われます。裏庭に蒔きたいからとかそんな理由では困りますからね。私?そりゃあここにいるって事は、審査されて「まぁ、研究をやらしたってもええよ」てな具合で受け入れられたのです(先日の記事で説明しましたね)。

研究者はそれぞれの分析に必要な量の試料を要求します。掘削で得られる試料の量は決まっているので、それぞれの採取部分が競合しないように協議され、試料の分配が行われます。乗船中には、基礎的なデータ(先日書いた地層の記載もその一つです)をとる作業と平行して、交代で試料の採取・分配作業が行われています。

試料採取の風景。同じ人が永遠とやりつづけるのではなくて、時間でくぎった交代制です。
右側にいるのが首席研究者のピエールさん。みんながまじめにやっているか見回りにきたのか?というとそうではなく、全体の状況を把握するためにいろんな所に突然出没します。
先日、私が顕微鏡をのぞいているといつの間にか背後に立っていました。本当にこの研究が好きなのだろうなという熱意が伝わってきます。


研究者は気難しい顔をしてやっている、というイメージとは全く違って、割合に楽しそうにやっています。それは、単に疲れのせいでハイ状態になっているだけなのかもしれません。こういう大切な試料を使うからには、きちんと研究報告書を書き、論文として公表することは当然の義務としてあります。乗船中に提出する報告書もあり、そのために様々な議論やまとめが、調査と平行して行われています。



研究報告書作成中のひとこま。
乗船中はいくつかのグループに分かれて、様々な記載や分析を行い、報告書をまとめます。下船後には科学論文などになっていきます。



里口 保文(琵琶湖博物館

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「ちきゅう」乗船はあこがれだった.....2010年12月20日

ハーイ、コンニチワ。第333次航海中ノ研究者里口(琵琶湖博物館)デス。ケッコー忙シーデス。ココデハ、0時カラ12時(夜シフト)ト、12時カラ0時(午後シフト)ノ2交代デ研究シテイマス。私ハ夜シフトナノデ、時差ボケノタメニ外国ニ来タ気分デス。マワリハミンナ英語デスシ(フランス語モ聞コエテキマスケドネ)。

おほん。さて、前回に研究者の事を紹介すると言ってしまったので、とりあえず私の事を。「ちきゅう」は国際協力で行われている海底掘削プロジェクト(IODP)を日本主導で行う航海をしています。IODPは長い歴史をもつ国際プロジェクトで、私が学生の頃から知っていました。でも、少なくとも私にとってそれは遠い世界のことで、そういう研究をする事はあこがれでもありました。そういう意味でいうと、私は夢を一つかなえつつあるといってもいいかもしれません。

見よ!この歴史の厚みを。ちきゅう船上にある科学掘削計画の研究報告書たち。
向こう側がかすんで見えない。


私は学生の頃から、数百から数十万年前にできた地層中にある火山灰の研究をしています。火山灰は地層中で白っぽい色をしている事が多く、泥や砂に比べるとピカッと光るので見るだけでも楽しいです。そういう綺麗な姿をしているのは、火山灰のほとんどが火山ガラスと呼ばれるものでできているからです。火山ガラスは火山噴火によって天然にできるガラスと思ってもらうといいかもしれません。さぁ想像してみて下さい!粉々のキラキラ光るガラスが、地表にもたらされ、それが地味な地層の中に眠っている姿を...。研究をする時には、顕微鏡で観察をします。その時は、もっと綺麗だぁ、という感想を持つことでしょう。ほ〜ら興味がわいてきたでしょう?

興味が出てきたらそれを調べたくなるでしょう?いや、きっとなるはずだ。さて、火山灰が火山噴火で噴出する事を説明しましたが、そういう光景は今の鹿児島県などでも見ることができます。ただし、私が研究しているのはそういう頻繁に起こっている火山噴火によるものではなく、一回の噴火で数百キロの範囲や、ひょっとしたら日本全体を火山灰が覆ってしまうような規模のものです。

今回、私はそういう広い範囲に広がった火山灰を調べようとしています。たとえば、今の九州は大分県で約90万年前と約100万年前に大規模噴火を起こした火山灰は、現在の掘削地点である紀伊半島沖から北にある大阪平野でも見つかっています。大阪や琵琶湖周辺などの近畿地方では、他にもたくさんの火山灰が知られているので、これらの多くが今回の掘削で見つかるだろうと予想しています。

さて、このような火山灰をみつける意味はなんだ?至極ごもっともな疑問。地層を対象に研究をする私たちにとって、その地層がどういうものでできているか?どういう積み重なりをしているか?いつ頃できたのか?を知ることは非常に重要です。なぜなら、そのデータは、みんなが研究するための最も基礎となるデータの一つだからです。噴火年代が分かっている火山灰を地層中に確認できれば、地層ができた年代を決める事が可能になります。

地震発生帯では、地層中に地震の痕跡が残される事があります。それらがいつ起こったのか?を知る方法として火山灰がその強い味方になります。また、火山灰は同じものが海底にも陸上にもたまるので、海底で起こった過去の出来事と、その同じ頃に陸上でおこった出来事との対応を調べることにも火山灰が威力を発揮する、と私は考えています。

さて、その一方で、私は採取した「堆積物の記載をする」という任務も負っています。堆積物の記載をするチームは全部で6人ですが、昼夜の2つのシフトに分かれるので、私のいる堆積学チーム夜シフトグループは3人です。そこでも役割分担があり、私に与えられた任務は「堆積物をちょこっと採って、それが何でできているかを顕微鏡で調べる役割」です。

どのくらいの作業が待ち構えているのか?火山灰の試料を採るだけではもちろん無いよねぇ?「採るだけ採って帰るっちゅうのは、虫がよすぎるんちゃうかぁ?おぉうっ?」なんて事は言われませんが、ちゃんと昼と夜の勤務シフトに分かれて24時間体制で研究が進んでいます。週末もありません。

地層の肉眼観察なら結構いけるし、まぁ、火山灰の分析で顕微鏡観察はやってきたから。。。えぇっ?微生物の化石とかも全部あわせて量比を調べる?!まぁ、時間がかかっても大まかな分類ならできるし任せなさい。。。えぇぇぇっ!毎日そんなにたくさん観察するの?っていうかそんなに見ないと終わらないの?ホ・ン・ト・ウ・デ・ス・カ???

最初に計画した観察スライドの数は(話し合いで)再検討されて、今はなんとか順調にやってます。とはいえ、殆ど揺れないとは言っても船の上で毎日ずっと顕微鏡を見ながらの作業はちょっと(どころじゃなく)大変です。まぁ、途中で地層試料の採取作業分担もあるのと(これもまた結構大変なのですが)、地層の観察記載をしているJan(ノルウェーからきました)やXRDという分析をしているKoray(アメリカから)のじゃまをしながら、毎日は忙しく過ぎていきます。

ちなみに、研究支援統括のMoeさんに「毎日忙しいですよね」という話をしたら、「乗船研究者が暇な時は、ボーリング作業に問題がある時だから、それは本当に大きな問題。忙しい方がいいよ」との事。全くそのとおりです。

堆積学夜シフトチーム。左からKoray、Jan、私です。
風の強い日に撮影したので顔がこわばっていますが、仲良しです。


里口 保文(琵琶湖博物館

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「ちきゅう」のヘリポートに降り立つ2010年12月17日

みなさん、はじめまして。わたくし、里口(さとぐち)といいます。普段は博物館で働いています。これから約1ヶ月の間、今乗っている「ちきゅう」の状況をお伝えするようにとの任務を首席研究者の金松さんから承りました。せっかくこういう役割をいただいたのだから、私の独断と偏見でお伝えしようかとも思いましたが、ここだけの話、つぶやき編集長のチェックが入るんですよ!なるべくまともな記事を目指しますので、どうかよろしくお願いします。(いや、ココはまともな記事じゃこまります!by編集長)

このページを見ている人であれば、「ちきゅう」がどういう船で、どういう事をしているのか?を説明するのは今更な感じがしますが、簡単に言うと、「国際的に協力し合って地球の謎を解き明かすために海底を掘ったり調査をする船」です。では、「ちきゅう」で地球を至急に穴ぼこだらけにして、何かおもしろい事があるの?と聞かれると、とりあえず説明のページを見て下さい、とか答えてしまいます(科学をわかりやすく伝えようとする学芸員にあるまじき態度だ!とのおしかりのお言葉続出)、それはおいおい、お話の中に入れていきたいと思いますので、今回はご勘弁を。

私や多くの研究者は、12月11日から船に乗り込みましたが、事前ミーティングなどの為に、数日前から外国の研究者も含めて横浜に集合しました。で、いける人だけでウェルカムパーティー(つまり懇親会)が行われました。写真はその時のひとこま。このパブのドアにあったおじさんのイラストが何となく首席研究者のフランス人ピエールさんに似ているような気がしていたのは私だけかもしれない(写真の左側に小さく写っているだけなので見えないでしょうけれど)。


さて今回の乗船は、「ちきゅう」が既に海上にいて私たちを待っているために、ヘリコプターで乗り込みました。遠くから見えた「ちきゅう」は水平線に突き刺さる小さな針のようでした(穴を掘るためのやぐらがそう見えていたのです)。近づくにつれて、どこかでみた模型とそっくりな「ちきゅう」が見えてきました。「そんなに大きいのかな?」と感じたのもつかの間、ヘリポートに降り立ったとき「これが船か?」と思うくらいに大きく、私の頭の中では、12月から公開中の某日本SF映画のテレビアニメ時代の主題歌が流れていました。

コアと呼んでいる掘削地質サンプルが船上に届き始まるまでは、いろいろなミーティングが主体でしたが、コアが上がってきて、分析や記載などの作業が始まった今は、みんなが自分の持ち場で忙しくしています。次回は、そんな研究者の事を紹介したいと思います。

忙しくしています。

里口 保文(琵琶湖博物館

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