平成29年度活動報告

平成29年度の観測航海活動について

1. 西部北太平洋亜熱帯海域

(1)BlueFin航海(2017/7/13-7/18)

NOAA KEOブイの設置・回収(栄養塩供給メカニズムの解明)

(2)白鳳丸航海(KH1-17-05: 2017/11/14-11/30)

KEOセジメントトラップの回収・再設置(栄養塩供給メカニズムの解明)

(3)よこすか航海(YK17-E01: 2017/12/17-12/25)

“漂流中”NOAA KEOブイの緊急回収・再設置(栄養塩供給メカニズムの解明)

2. 日本海

(1)長崎丸航海(458次航海:2017/5/16-5/19)

基礎生産力観測(温暖化に伴う物質循環変化の検出)

(2)おしょろ丸航海(C040-Leg.1: 2017/6/5-6/10)

基礎生産力観測(温暖化に伴う物質循環変化の検出)

3. 東インド用熱帯域

(1)みらい航海(MR17-08-Leg.1: 2017/11/21-2018/1/4)

基礎生産力測定(東インド洋湧昇域における大気海洋相互作用の解明)

トピックス

(1)西部北太平洋亜熱帯海域における栄養塩の供給メカニズム

西部北太平洋亜熱帯海域は見かけ上一年中栄養塩濃度が低く海の砂漠と呼ばれている。しかし基礎生産力が高いことが近年の観測(K2S1 project: Honda et al. 2017)で明らかになった。そこで高い基礎生産力を維持する栄養塩供給のメカニズムを研究するために、2014年から米国海洋大気庁(NOAA)と協力して観測定点KEOで表層ブイ、セジメントトラップを用いた観測研究を実施している。現在までに以下のメカニズムが有力視されている。

a. 中規模渦:低気圧性渦の通過と沈降粒子の増加

人工衛星で観測された海面高度から2014年7月末および11月、低気圧性渦がKEOを通過し、その際に栄養塩豊富な中層水が水深100m以浅まで湧昇していたことが観測された。一方、これらの通過1-2ヶ月後に水深5000mの沈降粒子フラックスが増加していた。数値シミュレーションの結果、低気圧性渦によって表層有光層にもたらされた栄養塩により基礎生産力が増加し、ひいては沈降粒子が増加したと推測された。

b. 台風:近慣性内部波の発生と拡散フラックス

2014年9月8日、台風T1414がKEOを通過後、栄養塩躍層のある水深約50m付近に近慣性内部波が約10日間にわたって発生していたことが観測された。数値シミュレーションの結果、これにより亜表層の栄養分がより浅く日射量が多い水深に供給され基礎生産力が増加したことが推測された。ただし低気圧性渦に比べるとその影響度は小さいものと考えられた。

(Honda et al. submitted to PEPPS)



(2)東インド洋熱帯域における降雨に伴う基礎生産力の変化

東インド洋熱帯域は表層では栄養塩が枯渇している貧栄養海域であるが、インド洋屈指の多降水域でもある。海洋生態系への降雨の影響を調査するため、 2017年12月に実施された「みらい」インド洋観測において表層の基礎生産力測定実験を行った。降雨に伴う水塊構造の変化やエアロゾルの湿性沈着によって基礎生産力が大きく変動することを捉えており、海洋生態系は直接的にエアロゾルの影響を受けていることを示唆している。

鉛直混合している水塊に比べると、降雨による塩分の低下によって成層し、安定した水塊では光合成速度が高く、基礎生産力が大きく向上した。成層化による光環境の改善および、エアロゾル栄養塩の供給による影響が示唆される。一方で、降雨中に採取した海表面の基礎生産力は顕著に低下していた。エアロゾルの湿性沈着により植物プランクトンの増殖を抑制する成分が高濃度に混入した可能性が考えられる。

(3)ベンガル湾におけるダスト沈着の植物プランクトンへの影響評価

ベンガル湾の沿岸域ではガンジス川ーブラマプトラ川から植物プランクトンの生息に必要な栄養塩が大量に供給されている。一方、低塩分・高水温による強い成層化ゆえ海洋内部からの湧昇による栄養塩供給は極めて少ないと考えられた。さらに、この海域ではダスト沈着が栄養塩の潜在的供給源の可能性があった。そこで数値シミュレーションと人工衛星データ解析によりベンガル湾におけるダスト沈着および湧昇による栄養塩供給の植物プランクトンへの影響を解析した。

モデル「SPRINTARS」によるベンガル湾へのダスト沈着量は、1月(Jan)に低く(a)、7月に高い結果となった(b)。7月(Jul)の高いダスト沈着域は熱帯域まで広がっていることが推定された。

ダスト沈着による栄養塩供給(DD)および湧昇による海洋内部からの栄養塩供給(SSTを指標)の植物プランクトンへの影響度を評価するために、植物プランクトン(Chl-a)、DD、SSTの重回帰分析を実施した。その結果、Chl-a vs DDとの相対的相関係数(βDD: c)およびChl-a vs SSTとの相対的相関係数(βSST: d)の水平分布が得られた。

βSST の結果(d)からベンガル湾熱帯域や西部では海洋内部からの栄養塩供給が植物プランクトンの生息に効いていることが示唆された。一方、 βDD の水平分布から(c)ベンガル湾の中央部ではダスト沈着による栄養塩供給が植物プランクトンの生息に効いていることが示唆された