地球表面の約7割を占め、その8割近くが3,000m以上の水深を有する海洋は、地球の水や熱、物質循環に重要な役割を果たしており、陸域の気候や気象にも大きな影響を与えています。海はまた、生命の源でもあり、地球上の多様な生物の存立を支える礎ともなっています。
四方を海に囲まれた日本にとっては、海を正しく理解し、上手に利活用することがとりわけ重要です。地球規模の環境変動が顕在化してきた昨今では、海洋の観測を通じて気候変動や海洋環境変化の実態と将来像を把握することが特に重要となっています。さらには、海底資源の分布や成り立ち、地震・火山現象の発生メカニズムなどを解き明かすことは、経済安全保障、海洋状況把握(MDA)能力の強化および防災・減災の観点等から、極めて重要な国家課題でもあります。
私たちJAMSTECは、前身の時代から50年以上の歳月をかけ、海洋に関する基盤的な研究開発を積み重ねるとともに、国内外の学術界と強固に連携し、日本のみならず世界の海洋科学技術の水準向上に貢献してまいりました。しかしながら、広大で深遠な海洋には、我々人類が知らない未知の世界がまだまだ残されており、地球最後のフロンティアの一つとも言えます。
JAMSTECは、この半世紀以上の歩みで獲得してきた経験と知見、技術をもとに、国際社会が地球の未来を左右する重大な岐路に立っている今、新たな中長期計画のもとで次なる挑戦へと舵を切りました。
現在JAMSTECには、文部科学大臣から示された第5期中長期目標(「JAMSTECが達成すべき業務運営に関する目標」)のもと、国内外の状況変化や新たな課題を踏まえつつ、研究船や探査機等を活用した海洋調査・観測及び多様な研究開発を一層推進する役割が求められています。また、研究成果の普及・展開や国内外の関係機関との連携強化を通じて、引き続き我が国の海洋科学技術の向上と学術研究の発展をけん引することも我々の重要な使命です。
それらの使命を果たしていくため、「科学研究」「技術開発」「研究ファシリティの運用」「アドミニストレーション」の4つの機能を有機的に連携させて様々な活動を行っていきます。これらの弛まぬ改革を通じて、研究開発における創発を推進し、世界をリードする海洋研究開発機関であり続けることを目指します。
また、今後は次世代の海洋プラットフォームの整備と先端的な海洋エンジニアリング研究・システム開発を引き続き強化し、世界最高水準の研究成果の創出に努めます。同時に、膨大な観測データと大型計算機による大規模シミュレーションを融合し、デジタル空間上に地球システムを再現する「海洋地球デジタルツイン」を構築します。これにより、気候変動や海洋生態系の動態、さらには地震・火山・津波の発生メカニズムの解明といった複雑な現象を高精度に予測し、防災・減災などの社会課題解決に直結する付加価値情報を創生・発信することに全力を傾注してまいります。
こうした研究成果を広く社会に展開するため、JAMSTECをハブとして産業界、大学、研究機関、省庁、地方公共団体等との連携・共創を深めてまいります。加えて、これまで蓄積してきた多種多様な科学的データを公開するオープンサイエンスを推進し、我が国のみならず世界の科学の発展に尽力いたします。ここで得られた知的基盤や知見をもって、我が国の海洋関連政策や国際条約、合意文書の策定にも大きく貢献していく考えです。
同時に、研究活動を通して得られたワクワクするような知見や映像を教材として活かし、国民の皆様の海洋に関する理解増進を図るとともに、「海洋STEAM教育」を通じて、海洋科学技術の未来を担う次の世代を育んでまいります。
JAMSTECの研究成果を広く社会に発信することで、それが社会の課題発見を促し、再び私たちの研究へと還流する――。私たちはこの「共創・循環システム」の構築を進めていきたいと考えています。
JAMSTECはこれからも、世界中の皆様に海からの感動と安心を届ける活動を続けていきます。国民の皆様に誇りに思っていただける存在となれるよう、不退転の決意で未知なる領域へ挑み続けます。海洋の未来を拓く挑戦には、皆様の共感と応援が何よりの原動力です。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
国立研究開発法人海洋研究開発機構 理事長
河村 知彦