海洋地球研究船「みらい」大航海

約半年をかけて大きく太平洋を横断した観測航海「SORA2009」は、2009年7月4日に北九州市門司港に入港し、無事にその長い航海を終えました。
海洋地球研究船「みらい」赤嶺船長の航海を終えてのコメントと、「SORA2009」に参加したメンバーの写真をご紹介します。

■SORA2009  海洋地球研究船「みらい」大航海

2008年夏には北極海を観測航海した「みらい」は、2009年1月15日より、約半年をかけて日本〜南米チリ〜オーストラリア〜日本と、大きく太平洋を横断する観測航海「SORA2009」に旅立ちました。全てを終え日本に戻るのは、2009年7月頃を予定しています。
ここでは、SORA2009で航海中の「みらい」の様子や、乗船している研究員などから届けられるレポート等をご紹介していきます。

※2009年7月3日、「みらい」は観測航海「SORA2009」を終了し、北九州市の門司港に寄港しました。

更新履歴

2009/08/13
船長のコメントメンバーの写真を公開しました。
2009/07/16
Google Earth版「SORA2009」レポート公開しました。
2009/07/01
SORAレポート更新しました。
2009/06/26
SORAレポート更新しました。
2009/06/19
SORAレポート更新しました。
2009/06/11
SORAレポート更新しました。
2009/06/05
SORAレポート更新しました。
2009/06/01
SORAレポート更新しました。
2009/05/21
SORAレポート更新しました。
2009/05/15
SORAレポート更新しました。
2009/05/08
SORAレポート更新しました。
2009/04/28
SORAレポート更新しました。
2009/04/21
SORAレポート更新しました。
2009/04/17
SORAレポート更新しました。
2009/04/16
質問コーナー質問と回答を公開しました。
2009/04/13
SORAレポート更新しました。
2009/04/08
SORAレポート更新しました。
2009/04/03
SORAレポート更新しました。
2009/03/31
SORAレポート更新しました。
2009/03/27
SORAレポート更新しました。
2009/03/24
質問コーナー受け付けはじめました。
2009/03/18
SORAレポート更新しました。
2009/03/17
SORAレポート更新しました。
2009/03/13
赤嶺船長「本航海に臨んで」公開しました。
2009/03/10
SORAレポート更新しました。
2009/03/09
SORAレポート更新しました。
2009/02/25
SORAレポート公開しました。
2009/02/16
「みらい」大航海 SORA2009公開しました。

【測線図】

海洋地球研究船「みらい」大航海

SORA2009について

SORA2009
South Pacific Ocean Research Activity 2009

2008年夏には北極海を観測航海した「みらい」は、2009年1月15日、新たな観測航海に旅立ちました。
「SORA2009」(South Pacific Ocean Research Activity 2009)と名付けられたこの航海では、日本から南米チリ、チリからオーストラリア、オーストラリアから日本へ、約半年をかけて観測航海し、日本に戻るのは2009年7月頃を予定しています。
SORA2009は2つの研究課題(MR08-06・MR09-01)からなり、それぞれ3つのLegに分かれます。
MR08-06では、Leg1は東太平洋海膨およびその周辺の南太平洋海域で地質学的・地球物理学的観測を行います。Leg2・Leg3はチリ沖における古海洋環境変動復元研究のための試料採取や観測を行います。
MR09-01では、南太平洋のほぼ南緯17度線に沿った観測ラインで大陸間横断観測を行います。
【MR08-06】
「南太平洋及び沈み込み帯における地質学・地球物理学的研究ならびにチリ沖における古海洋環境変動復元研究」
 Leg1:2009年1月中旬〜2009年3月中旬

(1)
観測海域: 東太平洋海膨(主にチリ沖三重会合点)
およびその周辺の南太平洋海域
観測内容: 地質学的・地球物理学的観測
目    的:
  • 海洋プレート構造と海洋底ダイナミクス(マントル上昇流から海洋地殻形成およびプレート進化過程)の解明
  • 大陸地殻形成・進化メカニズム(海嶺衝突帯付近のマグマティズムと沈み込み堆積物フラックス)の解明
(2)
観測海域: ポリネシア周辺海域
観測内容: 広帯域海底地震および海底電磁気観測
目    的:
  • ホットスポットの成因やスーパープルームと呼ばれるマントル上昇流の存在を探る
  • 南半球における過去200万年にわたる地球磁場強度の変動の復元
 Leg2・Leg3:2009年3月中旬〜2009年4月上旬

観測海域: チリ周辺海域からさらに高緯度域(フィヨルド内およびマゼラン海峡内を含む)
観測内容: 海底堆積物の採取
目    的:
  • 北半球で確認されているダンスガードオシュガーサイクル(数十年から数百年スケールで変動する急激な気候変動)が南半球ではどのように生じていたのか調査する
  • 古環境復元の代替指標の高精度化ならびに現代の水柱における物質循環解明のための調査
【測線図】

【MR09-01】
「海洋大循環による熱・物質輸送とその変動についての研究」
 Leg1〜3:2009年4月中旬〜2009年7月上旬

観測海域: 南太平洋のほぼ南緯17度線に沿った観測ライン
観測内容: 水温、塩分、栄養塩、溶存酸素等の項目を高精度で測定(大陸間横断観測を実施)
目    的: 海洋内部での熱や人為起源CO2の蓄積量を把握するとともに、10年スケール以上の海洋循環の変動について明らかにする
【測線図】

海洋地球研究船「みらい」大航海

航海日誌

「SORA2009」大航海を終えて   船長:赤嶺 正治

「SORA2009」大航海を終えて

2009年7月3日、海洋地球研究船「みらい」は、梅雨晴れの夏の日差しが強く感じられる日本に、海洋観測史上に残る多くの貴重な研究成果を満載して無事に帰港しました。

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「SORA2009」に参加したメンバーの写真

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SORAレポート

2009年6月28日

MR09-01 地球の磁場を計る

Leg3乗船研究者:乗船観測技術員

SORA2009は、主要な観測を終え、日本へ帰る途中です。しかし航行しながらの連続観測は続けられています。その1つである、プロトン磁力計について紹介します。その名の通り地球磁場の強さを計測するための装置で、海の中に投入して観測します。写真は、海中に投入する前の準備をしている様子です。

ケーブルドラムの下にある黒い円筒部分がセンサーです。海の中で姿勢が安定するように羽根を取り付けています。センサーを海に投入したところです。

船体からの磁気の影響を避けるため、この後ケーブルを繰り出して、500m離して曳航しながら観測します。誰の目にも触れることなく地道に計測しています。


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2009年6月18日

MR09-01 塩分測定

Leg2乗船研究者:塩分チーム

「海水は塩辛い」。このことをみなさんも体験されたことがあるでしょう。塩分は一般的にこの塩辛さを指しますが、海洋科学における「塩分」の定義は少し異なっています。海水には塩化物イオンやナトリウムイオンをはじめ約80種類の物質が溶存しており、この海水1kg中に含まれる溶存物質の重量を千分率 (パーミル; ‰) であらわすのが「絶対塩分」です。 海水では一般的に約35 ‰ (3.5%) となりますが、溶存物質の重量を直接しかも正確に計測することは困難です。代わって、溶存物質が増加すれば電気伝導度も高くなることを利用した値として、「実用塩分」が用いられます。本航海においてもこの実用塩分の定義に基づいて塩分測定を行っています。 塩分測定用の試料は、CTD採水システムによって任意の深度で採水された海水を、船上で塩分測定用のビンに採水して得ます。採水は、目的以外の水が混入しないよう慎重に、かつ蒸発などによる塩分の変化を防ぐため、素早く行います。

この試料海水を、塩分測定装置(AUTOSAL)を用いて基準となる物質 (標準海水) との電気伝導度比を測定することにより、塩分値を算出します。測定精度は、非常に高く、採水用のビンにわずかでも目的以外の水が入れば値が変化してしまうほどです。 また、電気伝導度に影響を与える要因として温度がありますが、「みらい」には塩分測定専用の分析室 (オートサル室) が設けられており、徹底した室温管理下で測定を実施しています。1日の測定時間は最大で約20時間、測定試料数は200本を超えることもあり、本航海中に8,500本以上の測定を行います。

こうした高精度測定の結果は、細かな塩分の変化をとらえ、海水の状態や特性を調べるデータとして用いられます。また、航海中長期にわたって使用し続けているCTDセンサーのずれの補正や、目的の深度で正しく採水が行われているかの監視にも使用されています。


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2009年6月17日

MR09-01 CTD/採水観測

Leg2乗船研究者:CTDチーム

この航海の観測の主役はCTD/採水観測です。海水の電気伝導度(Conductivity)、水温(Temperature)、および、測器の深度(Depth)を計測するセンサー(CTD)と、海水を採取してくる採水システムで構成されています。

観測前にニスキンボトルを採水装置にセットします。ニスキンボトルの上下の蓋を開口し、それを蓋に取り付けたテグスを用いて引っ張り、採水装置のトリガーに掛けます。船上装置から採水装置に信号を送るとトリガーが作動しテグスが外れ、ニスキンボトルの上下蓋が閉まり海水をニスキンボトルに取り込むことができます。
この航海で使用している採水装置には36本のニスキンボトル(12リッター)を取り付けていますので,36層の任意の深さから海水を採取することが可能です。最も浅い層は10m、深い層は「海底直上10m」の深さの海水を取ってきます。

「海底直上10m」は、CTD採水システムに取り付けた高度計(Altimeter)のデータから判断します。高度計は海底に向けて発信した音波が海底で反射して戻ってくるまでの時間から海底までの距離を求めるものです(海水中の音波伝播速度は約1500m/s)。
この高度計を使えば簡単に「海底直上10m」まで到達できるように思えますが、海底の状態は目で見ることはできません。特に、海山の斜面上で観測している場合は、高度計からの反応も不安定になり、時折感知するデータを確認しながら慎重に慎重にCTD採水器を降下させ「海底直上10m」を目指します。常に海底に衝突するのでは無いかという想いを胸に…。そして、これはCTDオペレーションで最も緊張する場面で、回りにいる人も固唾を呑んで見守ります。このように緊張を強いられるCTDオペーレーションチームには、チリからの研究者も参加しており、流暢な(?)日本語でオペレーションを担当しています。

この航海で使用しているCTDには、電気伝導度センサーと水温センサーが2セット搭載されています。それぞれのセンサーの出力値を比べることでセンサーの調子をモニターしています。また、どちらかのセンサーにクラゲの付着などによる異常(よくあります)が見られても、もう一方のセンサーで得られたデータを使用すれば観測をやり直す必要が無いので効率的です。これらの水温センサーを補正するために、非常に高精度な基準水温センサーも搭載しています(過去5年間の経時変化の大きさは0.0005℃以下)。応答速度が遅いので採水層でのデータしか利用できませんが、この基準センサーを使うことで、CTDの水温センサーを0.001℃の不確かさで補正することができます。
この航海の観測線は、南極周辺で冷やされて海底まで沈み込みトンガ−ケルマデック海嶺の東側に沿って北太平洋へ向かって北上する底層水を捉えています。今回観測された最も冷たい海水は6400m深の約0.6℃でしたが、15年前の観測結果に比べて約0.03℃も暖かくなっていました。変化の原因を詳しく調べる必要がありますが、苦労して取得したデータは、6000mを超える深海でも確実に変化が起こっていることを私たちに教えてくれます。


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2009年6月13日

MR09-01 流速を測る

Leg2乗船研究者:吊り下げ式ADCPチーム


採水と同時に超音波を利用した流速の観測を行っています。写真の黄色い機器が流速を観測するもので、手前が本体、奥の横ながのがバッテリーです。このように、採水ボトルと一緒にフレームに取り付けられた状態で観測地点の海面から海底までを往復します。そのあいだ、「ヤッホー」と叫んでは "こだま" を聞き取って記録するような作業を自動的に行います。
この "こだま" を解析すると流速を知ることができるというしくみです。観測中のデータは本体内部のメモリーにどんどん蓄えていきます。そして船上に戻ったところでパソコンにつないで観測のスイッチを切り、蓄えたデータを取り出します。

バッテリーは数回ほど深海まで行ってきた後で充電済みのものと交換します。海の中でバッテリー切れを起こさないように管理するのも重要な仕事です。任務の終わったバッテリーは充電に入り、次の出番を待ちます。

さあ観測準備が整い、これから深い海へと出発です。このときすでに、「ヤッホー」と叫んでは "こだま" を聞き取る作業を開始しています。ではいってらっしゃい! Leg1とLeg2 合わせると260近くの観測地点で、海面から海底付近までの流速の分布が貴重なデータとして得られる予定です。途中で故障者リスト入りしてしまった本体もありますが、いまは予備機が元気に働き続けています。このまま順調に頑張ってくれることを願っています。

また、吊り下げ式ADCPチームでは、測点情報ファイルと呼ばれるものを作成・管理しています。テレビモニター、ローカル・エリア・ネットワーク、トランシーバーで流れている情報を収集し、いつ、どこで、どんな観測が行われたかを全て記録に残しています。


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2009年6月12日

MR09-01 二酸化炭素の動態を調べる(その2)

Leg2乗船研究者:アルカリ度/pHチーム

5月13日のレポートでは全炭酸について紹介しました。全炭酸は海水の二酸化炭素の動態を調べる4つの観測項目(全炭酸、pH、アルカリ度、二酸化炭素分圧)のひとつです。今回はpHとアルカリ度について紹介いたします。
海が人為起源の二酸化炭素を吸収することで、徐々に海が酸性化することがわかっています。そこで、近年、酸性化は海の生態系などにどのような影響を及ぼすか、といった研究が盛んに行われています。そんな酸性化の指標になるのがpHです。過去に同じ海域で調査したpH値と、現在のpH値を比べることで、酸性化の進行具合を知ることが出来ます。
pH測定では、採取した海水試料に指示薬を加えます。指示薬を加えた後の色は海水のpHに依存します。その色を測定し、pHを算出しています。空気に触れるとpHはすぐに変化しますので、採水時や測定時は空気になるべく触れないように細心の注意を払っています。また、測定し直すことが出来ないので、測定は一発勝負!常に良い状態で試料を測定できるよう、装置を万全の状態にしています。


装置のメンテナンスをしている様子と試料を装置にセットしている様子です。
さて、海水は酸性でしょうか?アルカリ性でしょうか?
正解はアルカリ性です。このアルカリ性の度合いを定量的に表した値をアルカリ度といいます。アルカリ度は、酸とアルカリの中和反応を利用し求めています。簡単に説明すると、中和までに使用した塩酸の量をアルカリ度としています。1試料の測定時間は約13分。今航海では約5,000試料を測定しますので、観測が始まると装置は休むことなく常に稼動しています。

アルカリ度を測定している様子です。pHとアルカリ度、さらに全炭酸と二酸化炭素分圧のうち2つの値がわかれば、直接測定することの出来ない溶存物質量(溶存二酸化炭素、炭酸水素イオン、炭酸イオン)を計算で求めることができます。 海水の二酸化炭素の動態に注目したこれらの測定は地球温暖化の予測に不可欠です。


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2009年6月11日

MR09-01 窒素固定に関する研究

Leg2乗船研究者:東大院農グループ

東京大学大学院農学生命科学研究科のグループは、植物プランクトンの生態、とくに窒素固定に関する研究をしています。植物プランクトンは、肉眼では見えないほど小さいですが、おびただしい数が海洋表層に分布し、海洋の主要な一次生産者として、そこでの物質循環の駆動者としての役割を果たしています。現在、「みらい」で観測している亜熱帯海域表層では窒素やリンなどの栄養塩類濃度が低く、生物活動の律速要因となっています。
しかし、このような貧栄養海域には窒素ガスを固定して利用する、すなわち窒素固定能をもつ生物が存在し、その多くは植物プランクトンとして光合成も行いますが、最近、光合成を行わない従属栄養性の窒素固定者も存在する可能性が分かってきました。写真に示したのは窒素固定能をもつ植物プランクトンですが、最近の研究から、多様な窒素固定者が亜熱帯海域に広く分布していることが明らかになってきました。


本航海にて東大院農グループが撮影

窒素が枯渇した亜熱帯海域では、窒素固定者は他の植物プランクトンに比べて有利になり、リン酸塩を使って増殖します。このため、海域のリン酸塩が著しく低い濃度に低下するなど、表層の栄養塩環境は窒素固定の有無で大きな影響を受けます。
窒素固定活性の測定にはアセチレン還元法と重窒素法があり、我々は両者を用いています。前者は船内で迅速に結果が得られるので、現場での観測を柔軟に進めることができます。後者は、精度の高い分析を可能にします。
重窒素法では、表面からバケツで汲上げた海水をPCボトルに採り、これに重窒素ガスを注入します。その後、甲板上に設置した水槽内で培養し、24時間後に、懸濁粒子をガラスフィルター上に濾過捕集します。これを凍結保存して持ち帰り、質量分析器を用いて、培養前との重窒素を含む粒子量の差を測定し、窒素固定量を求めます。



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2009年6月9日

MR09-01 採水の仕事

Leg2乗船研究者:採水チーム

【1】 サンプル瓶の準備
分析項目ごとに違うサンプル瓶をその測点に必要な数だけ用意し、それぞれにどの深さからとってきた海水試料かが分かるようにラベル付けを行います。

次に用意したサンプル瓶を、取水するニスキンボトル毎にまとめます。この航海では分析項目が最大22項目になります。さらに1回のキャスト(後述のニスキン採水器を海中に降ろすこと)で36層の深さから海水試料を得ることが出来るため、採水すべきサンプル瓶が全て揃うと壮観です。


【2】 採水作業(ニスキンボトルからの取水)
採水作業は、採水班長と呼ばれる進行役がいて、この採水班長の指示のもと作業を進めます。1回の採水作業は長い時で1時間半近くかかります。ここでの作業が各分析項目のデータ精度に直結するため、採水する順番、採水する方法が明確に定められています。採水されたサンプル瓶は各分析者のもとへ配送されます。



【3】 サンプル瓶の洗浄
採水観測は1日24時間休むことなく続けられているので、各サンプル瓶も分析が終了した物から洗浄を行います。洗浄は清水洗い→洗剤漬け→清水によるすすぎ→純水(不純物の少ない水)によるすすぎ→乾燥の手順で実施され、その所要時間は6〜8時間ちかくになります。

1つの分析項目で1日に160本近いサンプル瓶が必要となるため、洗浄も採水観測同様休むことなく続けられています。洗浄が終わったサンプル瓶は、またラベル付けを行い、次の採水に備えます。


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2009年6月7日

MR09-01 海水中のフロンを測定する

Leg2乗船研究者:CFCチーム

今日は海水に溶け込んでいるクロロフルオロカーボン類(フロン類)について紹介します。 フロン類は、1900年代に入ってから製造された人工化合物で、産業面や生活面など多方面において利用されてきました。その利便性から、「夢の物質」とさえ形容されていたこともあります。しかし、成層圏オゾン層を破壊し、地球環境に重大な影響を及ぼす原因になることが分かり、現在では、全世界的にフロン類の製造が禁止されるなど国際的な対策が取られています。 大気に放出されたフロン類は、大気と海洋表面水との気体交換で海水に溶け込みます。
フロン類の多くは、生物化学的に安定(つまり、生物代謝や化学反応による消滅過程が存在しない)で、海水の動きによって広がっていくので、海洋循環を追うトレーサとして利用することができます。染料を垂らして水槽の中の水の動きを可視化するのに似ています。 この航海では、海水中のフロン類を測定し、15年前の観測結果と比較することで、海洋がどのように循環してきたのかを調べようとしています。
それではフロン類の分析について紹介します。海水中に溶けているフロン類の濃度は、非常に微量で、ppq(1千兆分の1)のオーダーになります。その為、採水、分析の随所に精密にフロン類を測定する為の工夫がなされています。

写真は、フロン類の採水瓶です。ガラス瓶に金属製の特殊な部品をを取り付け、2つのコックで大気と瓶の中を遮断しています。海水に比べて大気の方が圧倒的にフロン類の濃度が高いため、大気からの汚染を防ぐ必要があるからです。

採水瓶の中には採水前に予め、高純度窒素ガスを封入しています。


分析システムの写真です。脱気装置(拡大写真)で、採取した海水を窒素ガスでバブリングして溶け込んでいるフロン類をガス化して抽出します。濃縮装置で、上記で追い出されたフロン類を捕まえます。それをガスクロマトグラフに送り、目的のフロン成分を分離して検出します。最後に検出したデータをコンピュータで解析します。 脱気装置と濃縮装置は、私たちが開発した手作りの装置です。分析システムは自動制御になっていて、装置に試料を導入すれば、分析データが得られるようになっています。極微量の成分を分析するため、メンテナンスをこまめに実施して、連続観測に対応しています。


SORAレポート

2009年6月3日

MR09-01 海水中の温室効果ガスを調べる

Leg2乗船研究者:東京工業大学・酪農学園大学グループ

温室効果ガスとしてCO2(二酸化炭素)はよく知られていますが、CH4やN2O(一酸化二窒素)も、濃度は少ないものの18世紀の産業革命以降増加していて、CO2に次いで重要な温室効果気体です。CH4やN2Oは天然には主に微生物の働きで作られますが、家畜、化学肥料などの人間活動が微生物の働きを促進したり、化石燃料の燃焼でも発生したりするので、なぜ濃度が増加しているのか、まだよくわかっていません。
海洋にも微生物はいるので、CH4やN2Oが作られており、発生源の一つであることはわかっていますが、年間どれくらいの量が大気中へ放出されているのか、海のどんな場所でどんな物質から作られているのかを観測により詳しく調べる必要があります。
この航海では、南太平洋の東の端から西の端までの約30箇所で、表面から海底までの海水を採取して実験室に持ち帰り、CH4やN2Oの濃度と安定同位体比を調べます。安定同位体比とは13Cと12C、15Nと14Nなどのように質量数がわずかに異なる原子の存在比のことで、微生物がCH4やN2Oを作るときの原料物質が何であるか、どんな反応プロセスでCH4やN2Oを作っているか、など濃度だけではわからない質的な情報を与えてくれます。

水を採取するガラスびんです。30mLから600mLまでいろいろな大きさのびんを使いますが、これは測りたいものの存在度がさまざまであるためです。水分子100億個につきおよそ2個のCH4やN2O分子が溶けていますが13C、15Nは0.02個、2H(重水素)は0.01個の割合しかありません。

採水の準備をしているところです。黄色いかごの中に、塩分、溶存酸素など基本分析用のびんに加えてCH4やN2O分析用のびんが入っています。

バケツで汲み上げた表面の海水から採水しているところです。

大気中のCH4やN2Oも調べることで、海から大気への放出量を推定できます。大気を採取するための、真空引きしたステンレスやガラスの容器です。


SORAレポート

2009年6月2日

MR09-01 海の乱流を調べるXMP

Leg2乗船研究者:海洋研究開発機構 勝又 勝郎

海水の中は電波が伝わらないので、海の中の観測はその場で行う現場観測が主なものになります。そのため海洋のいろいろなデータは圧倒的に不足しています。しかし日進月歩の技術はつぎつぎと新しい観測を可能にしています。そのような近年可能になった観測項目の1つが海洋中の乱流拡散と呼ばれる現象です。

二十四時間体制で行われる観測中にはコーヒーが欠かせないものになります。コーヒーに静かにミルクを垂らしただけではあまり混ざりませんが、おもむろにスプーンでかき回すとすぐに混ざります。このかき混ぜが乱流拡散です、海流の力学には重要な量ですが、今までは観測の難しい量でした。 本航海では XMP(eXpendable Microstructure Profiler)という機器を用いて乱流拡散を観測します。


この機器は水中をまっすぐ静かに降りていく必要があるため、お尻にブラシを装着しています。写真でははっきり見えませんが、船上とのデータのやりとりは蜘蛛の糸のような極細の光ファイバーを用います。

この日は 2000 m 強までの乱流を観測しました。ちゃんとデータは取れているでしょうか。それではタヒチ産のコーヒーを一服して、データ処理に取りかかることにしましょう。


SORAレポート

2009年5月27日

MR09-01 Leg2の始まり タヒチ出港

Leg2首席研究者:海洋研究開発機構 内田 裕

いよいよLeg2航海の始まりです。Leg2では43名の研究者・観測技術員が乗船しますが、約半数はレグ1からの連続乗船、残りはタヒチからの乗船となります。

乗船時には、インフルエンザ・ウイルスを船内に持ち込まないための対策がなされました(写真は検温の様子)。


Leg1の40日間を共に過ごした仲間たちに見送られ、「みらい」は5月25日にタヒチを後にしました。

仲間との別れの感傷にふけるまもなく、明日からの観測に備えて準備が始まります。海水に含まれる塩分や溶存酸素など多くの分析項目のためのサンプルが、採水ボトルからビンに小分けされます。

航海開始時には各分析項目(10種類以上)の専門家から採水の技術が伝授されます。採水は高品質なデータを得るための第一歩です。教わる側も教える側もみな真剣に取り組んでいます。

SORAレポート

2009年5月19日

MR09-01 Leg1の終わり タヒチ

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

まもなく、本航海のLeg1が終了となります。



写真は最後から2番目のステーションでの観測の様子です。背景には、入港予定のパペーテがあるタヒチ島が写っています。


入港前日の船から撮影したタヒチ島です。Leg1ではペルー沖からタヒチ島の東側までに設定したステーション(観測場所)で観測を行いました。Leg2はタヒチ島の西からスタートして、オーストラリアのブリスベーン沖まで観測を行います。ブリスベーンの入港は6月19日の予定です。

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2009年5月13日

MR09-01 海水のCO2を追跡する

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

今日は、海の中に溶け込んでいるCO2の観測について紹介します。ご存じのように、地球温暖化は私たちの身近な環境問題になっています。海は人がその活動によって排出してしまったCO2(これを人為起源CO2といいます)の30%から50%を吸収するといわれています。つまり、大気中に残るCO2を減らすことで、温暖化を遅らせる働きをしています。ほんとうはどの程度吸収しているのか、また、温暖化してしまった海でも同じように吸収してくれるのか等、実際の海に出て調べてみるしかありません。今回の航海の目的の一つは、人為起源CO2が実際にどれだけ海に蓄積しているかを調べることです。

海の中でCO2は、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンとして分かれて存在します。この3つを合わせて全炭酸と呼びます。海の中で、どれだけCO2が溶け込んでいるかを調べるときは、この全炭酸の濃度を測定します。写真は、海水サンプルを採取している様子です。採水する瓶は300ml 程の容積があるもので、写真では見えませんが内ふたが付いています。サンプルしている海水から大気中にCO2が逃げないように、チューブを瓶の底に入れ、静かに海水を満たしていきます。

瓶の中に海水を十分に満たします。内ふたをした後、裏返します。これは瓶の中に泡が入っていないかどうかをみるためで、泡が見つかれば採り直しとなります。

全炭酸濃度を測定するための装置です。一つのサンプル測定に15分ほどかかりますので、測定の効率を上げるため、同じ装置がもう一台あります。


装置に瓶を取り付けている様子です。

炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンの3つの形で存在しているCO2ですが、一個一個を測定する方法は現在のところ確立していません。そのため、通常はリン酸等を加えて海水を酸性の溶液とします。pHでいうと2程度です。この酸性の状態ですと、3つの形で存在していたものが気体としてのCO2にかわります。この装置ではそのCO2を測定しています。写真は、CO2を窒素の泡で海水から追い出している様子です。

SORAレポート

2009年5月8日

MR09-01 太平洋の虹

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

海の真ん中で観測をしていると、いろんな自然現象が見られます。今回は虹です。



虹自体はさして珍しくはないですが、水平線をバックに見る虹は格別です。

SORAレポート

2009年5月7日

MR09-01 自動で海水を調べる「アルゴフロート

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

今日は、アルゴフロートを紹介します。アルゴフロートは、船から投入された後、自動で海面から2000mまで上がり下がりを繰り返し、その間の水温と塩分を測定し、そのデータを送信してくるという優れものです。写真は投入前に船尾に置かれている様子です。

アルゴフロートの表面にはラベルが張ってあります。海の流れに沿って漂流するので、どこにたどり着くか正確には分かりません。どこで誰に拾われても、怪しいものではないことを証明するためのものです。

さて、いよいよ投入です。船尾から吊り下げられている様子です。そしてロープを放して、着水した瞬間です。

船から離れていく様子です。もう二度とお目にかかることはないでしょう。このアルゴフロートの投入は、国際的なプロジェクトで展開されています。詳しくは、アルゴのホームページをご覧ください。

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2009年5月6日

MR09-01 海水に溶けている酸素を調べる

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

今日は、海水中に溶け込んでいる酸素濃度の測定について紹介します。下の写真は、ニスキンボトルからチューブを使ってガラス瓶に海水を移している様子です。

海水に溶け込んでいる酸素濃度を測るためのものですから、採水中に周囲の酸素が溶け込まないように、慎重に採水しています。採水時の温度が後の計算で必要となりますので、水温を同時に測定しています。黒いコードに繋がっているのが温度センサーです。

海水中に溶け込んでいる酸素を「固定」するために、採水した海水に二種類の溶液を加えています。溶液が海水とよく混ざるように、振っています。

溶け込んでいる酸素の量によって、色に違いが出てきます。振った後の瓶をしばらく置いておくと、その違いがよく判ります。茶褐色の方にたくさんの酸素が溶け込んでいます。白い方は、海の中で「酸素極小層」と呼ばれている深さのところで採水したものです。サンプルは船上で分析して、酸素濃度の値を出します。

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2009年4月24日

MR09-01 採水観測のはじまり

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

今日は採水について紹介します。前にも紹介しましたが、ニスキンボトルという12 Lサイズの筒型の容器で採水します。写真はアセトンで容器の周囲をきれいにしている様子です。これは、油汚れなどを取るためで、油汚れが付いていると化学成分の測定に影響します。


ニスキンボトルは、CTDセンサーとともにウィンチで吊り下げて海に投入されます。デッキから吊りあげられている様子です。


ニスキンボトルが海に入る直前の様子です。ニスキンボトルは、いったん海面直上(海底から10m上)まで下ろされます。深いところですと6500mに達します。上げて戻すときに、任意の深さで約30秒停止させて採水をします。この上げ下げで4時間かかる場合もあります。 ニスキンボトルが海中で上げ下げされている間、デッキ上ではニスキンボトルから海水サンプルを回収する瓶の準備です。かごが用意されていますが、最大でニスキンボトルの本数の36個あります。一個一個のかごの中には測定する項目の瓶があり、番号が振られています。写真は、瓶の番号とニスキンボトルの番号があっているかを確認しています。

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2009年4月15日

MR09-01 観測の始まり

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

いよいよ観測が始まります。写真は、Conductivity-Temperature-Depth(略してCTD)センサーとニスキンボトルがセットになったもので、私たちの観測の主役となるものです。写真の下部にセンサー類がセットされています。このセンサーで塩分と水深、温度が測定できます。別に取り付けられているセンサーでは、海水中に溶けている酸素濃度を知ることができます。ニスキンボトルは、写真のように上下の蓋が開いたまま海中に投入され、任意の深さで閉めて海水を採ります。1本12リットルで全部で36本あります。

最初の地点での観測が始まります。最初ですので、みなさん気になるのでしょう、大勢が見にきています。この地点を含めて全部で260地点あり、観測が終了して港に入るのは6月19日の予定です。

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2009年4月11日

MR09-01 観測点へ向かう途中

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

バルパライソを出港してからほぼ一日が経過しています。ペルー沖の最初の観測地点に向けて航行中です。海は非常に穏やかで、スピードも出ています。観測地点付近も同じように波静かであればいいのですが。その地点まではまだ1日程度かかります。


観測地点に向かっている間、船内では観測の準備が始まります。この写真は、研究者と船員さんとの打ち合わせ風景です。よい観測には、双方の理解が欠かせません。

この航海では、海の表面から6500mに達する海底付近まで海水のサンプルを取ります。海の深いところからくみ上げた水ですから、貴重です。その水をいくつかの容器に小分けして、船上で分析または陸に持ち帰ります。小分けするには少しコツが要ります。ベテラン観測員の指導のもと、新人さんがそのコツを習得するための練習を行っています。

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2009年4月10日

MR09-01 Leg1の開始

Leg1首席研究者:海洋研究開発機構 村田 昌彦

チリのバルパライソに停泊中の「みらい」です。出港前日の夕方に撮ったもので、「みらい」には明かりがともり始めています。この時には燃料と食料の積み込みも終わり、明日の出港を待つのみとなっています。

いよいよ出港です。見送りの人が手を振ってくれています。真ん中の女性が前の航海(MR08-06 Leg3)の首席研究員だった原田さんです。この港は商業港で、写っていませんが周囲にはコンテナが山積みとなっていて、フォークリフトが忙しく動き回っています。そのせいか、出港にしては少し寂しい気がします。が、船からは研究員と観測技術員が総出で元気よく手を振っていました。

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2009年4月8日

「みらい」への来訪者

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

今航二回目の寄港となるバルパライソにて、MR08-06のLeg1Leg2にチリ国側オブザーバーとして乗船されたハイドログラファー(水路学者)のルシア女史が、同じ職場の仲間とオーシャノグラファー養成大学の教授と学生8名を伴って、「みらい」見学に訪れました。

「みらい」には、船上セミナーを開催することができる大きな会議室があり、その会議室で、船長による「みらい」についての講話が行われ、その後、「みらい」紹介ビデオが上映されました。ビデオ上映の後、Leg2とLeg3の首席研究者を務めた原田尚美博士から今回のミッションの研究成果を交えて、「みらい」の研究活動についてお話がありました。

大会議室でのお話等が済んだ後、船内見学が開始されました。見学は、船長が英語で説明し、それを教授とルシア女史が学生にスペイン語に訳して伝える方法が取られました。教授そして学生の皆さんは、たいへん熱心で、見学の予定の時間を30分もオーバーするほどでした。

オーシャノグラファー(海洋学者)を目指す学生さん達は特にCTDや採水の方法に興味をもたれ、英語に堪能なMWJ片山健一観測技術員により特別講義が開かれました。

最後には、観測甲板で記念撮影が行われました。

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2009年4月5日

海底堆積物のサブサンプリング

東京大学大学院  城谷 和代

我々MR08-06_Leg2&3 一行は、チリ沖の採泥観測を終え、現在サブサンプリング中です。サブサンプリングとは、写真手前に映っている1m長の堆積物を約2cm毎にカットし、4分割して各研究者が陸上で分析するための容器(ガラス瓶、プラスチックキューブ、ビニールパックなど)に配分する作業で、大変時間がかかります。

サブサンプリング担当の他に、堆積物の構造や色彩、構成物の特徴をスケッチする記載担当に分かれ順調に作業を進めています。フィヨルドの絶景を窓越しに眺めつつ、頑張っています。日本に帰ったら各々化学分析開始です。堆積物を切りつつワクワクしています。

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2009年4月2日【2】

Leg3のはじまり

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

2009年4月2日、プンタアレナスを出港し、Leg3が開始しました。水先案内をしてくださるのは、船長の左側に位置するキャプテン・マイケル(長身のキャプテン、居室の出入口の鴨居に何度も頭をぶっつけるとのこと。本人の申告では、身長は2mをちょっと切るそうです。

日本食が大好きで、特に麺類が最高と話してくれました)と、キャプテン・トーマス(優しい日本のお父さんという感じです。昔、航海士として何度か日本を訪れたことがあるそうです。乗船時自ら用意したチョコレートやビスケットを船橋の当直者に振る舞います。コーヒーにも大さじ一杯の砂糖を入れる甘いもの大好きの水先案内人)です。

パタゴニアン水道で一番狭いイングリシュ・チャンネルを北から南へ抜けたのは、先日の2009年3月22日でした(3月22日のレポート参照)。そして今回4月3日、同チャンネルを南から北へ抜けました。この12日間で水道は大きく変わっていました。山々はすっかり冬景色です。

そして、この水道には、奥まったところに、多数の氷河があります。風向きが西から東に変わり、その東寄りの強い風によって氷河が切り取られ、流氷となって水道へ流れ出ていました。

本船に搭載する氷海レーダーでもその多数の流氷を捕らえることができました。レーダー画面上、円内の中心が「みらい」です。右側に点々と白く映っているのが流氷です。

イングリシュ・チャンネルは、原則夜間航行は禁止となっており、浅瀬を示す立標はありますが、灯火は設置されていません。今回、日没を過ぎていましたが、薄明かりで、かつ潮の流れが弱い時間帯であり、このチャンスを逃すと約一日チャンネル付近で錨泊しなければなりません。そして、天候の悪化も心配です。そこで、パイロットは、このチャンネルの航行管制を担当している近くの灯台(海軍が運用している)に連絡し、特別の許可をいただいて、通過を決行しました。

パイロットはこうした状態の通過を何度も経験しており、俺達に任せろと胸を叩きました。写真では暗くてよく見せませんが、船首には、いつでも錨を投入できるよう井上治彦一等航海士、桑原洋輔甲板長、船匠の相坂丈晴甲板手、大久保英之甲板員が立ち、船橋も見張りや操舵の要員を配置し、緊急に備えました。約30分間のスタンバイでしたが、緊張の連続でした。チャンネル通過を無事終え、パイロットから「スタンバイ解除」のオーダーが出た時には、胸を撫で下ろしたのは船長だけではなかったようです。

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2009年4月2日

マゼラン海峡の思い出

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

バルパライソからプンタアレナスまでのMR08-06 Leg2が無事終了しました。この航海では、マゼラン海峡の中で世界で初めてという漂流型セジメント観測、ドレイク海峡の空白域での観測、これまで観測を行っていないフィヨルド内での観測等が実施され、その研究成果は、海洋観測史上に残る貴重なものになるでしょうと乗船研究者のお話です。
じつは、この「みらい」の偉業達成の素晴らしいお話と、もうひとつ想い出に残るお話があります。それは、太平洋と大西洋を結ぶ313マイル(約580km)のマゼラン海峡の航海です。このマゼラン海峡を通過するのが、私達航海者の憧れです。今回は完全に大西洋に抜けることができませんでしたが、「みらい」に乗船したチリ国公式マゼランパイロットのキャプテン・レネとキャプテン・ジョージの特別な計らいでマゼラン海峡通行証明書が研究者、観測技術員そして乗組員全員に発行されました。

写真はそれぞれの通行証明書を手にした、両キャプテンと航海当直で一緒する機会が多かった航海士の面々です。左から中村文彦次席三等航海士、浅沼充信首席三等航海士、深浦信雄二等航海士、磯飛武次席一等航海士です。中村航海士が0時〜4時と12時〜16時、深浦航海士が4時〜8時と16時〜20時、浅沼航海士が8時〜12時と20時〜24時を受け持ち、それぞれ1日8時間の航海当直を行います。磯飛航海士は、船長の補佐として、観測の内容に応じて他の航海士と一緒に航海当直に入ります。

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2009年3月31日〜4月1日

国際交流の記念に

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

3月31日、プンタアレナス港長がご来船され、大会議室にて記念品交換を行いました。


4月1日、当港の港湾局ポートマネジャーがご来船され、盾の交換を行いました。

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2009年3月31日

MR08-06 Leg2を終えて

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

今ミッションは、チリのコンセプシオン大学と海洋研究開発機構との共同で研究が行われています。チリは南アメリカの南西部に位置し、ノルウェーやアラスカ等とともに大規模のフィヨルドを持つ国として有名です。
チリのフィヨルドは、昔から船乗りたちに荒れる海として恐れられている南緯40度以南の太平洋に面しています。比較的穏やかな夏場でもこの海域を航行する船舶は、この荒れる海に難渋をきわめます。フィヨルドは、防波堤の役をしますから、これら船舶の常用航路となっています。チリのフィヨルドは、チロエ水道(Chiloe channel)、パタゴニアン水道(Patagonian channel)、マゼラン海峡(Magallanes strait)、そして、フェグイノス水道(Fueguinos channel)の大きく4つで構成されています。

今回、「みらい」は、フィヨルド内、そして、その外海での観測が計画されていましたので、これらの全ての水道、海峡を航行しました。フィヨルド内の観光を目的とする客船を除いて、一般には、これはたいへん珍しいことです。ここでは、それぞれの水道、海峡の中でのひとコマを紹介しましょう。

■チロエ水道

南極海からの長い周期のウネリを受けて大きく揺れる「みらい」もチロエ水道に入れば、揺れは収まり湖を走っているようです。


外海でウネリをうける「みらい」

チロエ水道の虹

この時は、美しい七色の虹がかかりました。また、「みらい」がこの海域を訪れた時、チャイテンという町で火山が噴火し、噴煙を高く上げていました。写真では視界が悪くなっていますが、これは降雨のせいだけでなく、そのタイテンの沖合いを走っていましたので、噴火の影響もあると乗船のパイロットは言っています。

■パタゴニアン水道

フィヨルドは、両岸が切り立った絶壁をなし、両岸ぎりぎりまで深さがあるのが一般的ですが、パタゴニアン水道の中で、水路幅が最も狭いイングリッシュチャンネルの近くに「ボ コトパックス」(Bo Cotopax)という浅瀬があります。水深は水道の中央部で300m程あり、両岸近くでも200m近くありますが、その中間に水深5mという浅所があり、過去にその上に乗り上げた船の残骸があります。


パタゴニアン水道の「みらい」

浅瀬に乗り上げた船

フィヨルド内は深いという観念は危険です。海図に水深の記載がなければ、その周囲が何百メートルの水深があってもその海域は絶対航行してはならない、というのがパイロットの鉄則であると言います。したがって、水道を航行する船は、たとえ両岸間の距離が十分あっても、水道の中央部の水深が明記された場所を紀律正しく航行します。前をゆく船を追い越さずに、船間距離1〜3マイル保って進んでいます。

■マゼラン海峡

かつてのポルトガル航海者マゼランは、この海峡を大西洋岸から入り、太平洋に抜ける際、穏やかな海を見て、その海をパシフィックオーシャンと名付けたと言われますが、「みらい」が訪れた2003年10月と今回(3月23日)の2回とも大時化でした。


マゼラン海峡

結局、マゼラン海峡を出て太平洋の外海での観測は行えず、2回ともマゼラン海峡の中で観測を行いました。

■フェグイノス水道

フェグイノス水道には、よく知られているキャナルが2つあります。ひとつは、進化論で有名なダーウィンが乗船し、世界一周を行ったビーグル号の艦長、フィツ ロイ大佐によって発見されたビーグルキャナルです。このキャナルには、アルゼンチンの最南端の港ウシュアイアと、チリの最南端の港ウイリアムズがキャナルを挟んであります。


ウシュアイア港の夜景

ウイリアムズ港

特にウシュアイアはキャナル内にある世界的な氷河や南アメリカ最南端のホーン岬、さらには南極の観光に訪れる客船の寄港地として、あるいは南極観測船の補給基地として有名です。「みらい」は、この港の近くで3隻の客船とロシアの観測船に会いました。 もうひとつは、キャプテンクックが発見したクックバーンキャナルです。これは、マゼラン海峡の途中から枝分かれし、ドレイク海峡へ抜ける水路です。


クックバーンキャナルの入江

今回、この水路の外海で観測が計画されていましたが、水深が浅く、未精測の海域であったこと、さらには、南極海からの長い周期のウネリと強風の影響があり、結局、クックバーンキャナルの入江に最適な場所を確保して実施されました。

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2009年3月28日

働くお父さんシリーズ 甲板部の精鋭たち

海洋地球研究船「みらい」観測士:井上治彦

3月28日、最終観測点STN45での観測作業及び手仕舞い作業終えて、甲板部甲板作業班全員でクックバーン海峡を背に記念撮影を行いました。3月14日のバルパライソ港出港以来、ほぼ毎日連続した観測作業を続け、誰一人、怪我をすることもなく、無事に観測作業をやり遂げた喜びと、観測作業の緊張感から解放された瞬間であったせいか、全員に笑顔の表情があり、数名の者は、それらの意味を込めてOKマークを標しています。

前列左から:磯飛次席一等航海士、尾垣銀太甲板員 後列左から:工藤和義甲板手、佐藤剛甲板手、桑原洋輔甲板長、井上治彦観測士官、 門澤剛甲板手、谷川将也甲板員、相坂丈晴甲板手、岡田雅重甲板手

甲板部のそのほとんどは20代前半から30代半の若者であり、その若きバイタリティが「SORA2009」の大観測作業を成功させました。

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2009年3月26日

「作業艇」の活躍

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

「みらい」では、当船搭載の『作業艇』(高波高の中、高速で走れるゴムボート。定員13名)を使った観測作業も多く実施されています。今回は、ドレイク海峡に面したクックバーンキャナルの入江において、Leg2 最後の観測となる、「漂流型セジメントトラップ観測装置」を回収する際に作業艇が用いられました。漂流型セジメントトラップ観測とは、海中の沈降粒子(マリンスノー)を採取する容器を、海面に浮いたブイから海中へと伸びるロープに吊るし、約半日間、漂流させるものです。当然、海面ブイは風や流れによって思わぬところに漂流して行きます。今回この海面ブイが、「みらい」が接近できない浅瀬に近づいたので、海面ブイの回収にむけて、作業艇で海面ブイを「みらい」が接近できる海域まで曳航しました。


漂流型セジメントトラップ観測装置を曳航して、「みらい」の後を追う作業艇

作業艇上で指揮する井上観測士官(右)、 作業艇を操縦する工藤甲板次長(中央)、 見張りをする門澤甲板手(左奥)

当時、平均風速10m/sを超える風と1ノット(1時間に1,852m進む)の流れがありました。その厳しい自然条件下で、海中に吊るしたセジメントトラップを落下させないように慎重に、そして、ゆっくりと曳航する作業は、作業艇で作業する者にとっても、「みらい」でその作業を見守る者にとっても緊張の連続でした。


曳航している漂流型セジメントトラップ観測装置を監視する岡田甲板手

このセジメントトラップ装置全てが「みらい」船上に無事回収された時には、大きな拍手が沸きました。作業艇に乗り込んだ勇者は、井上治彦観測士官(一等航海士)、工藤和義甲板次長、門澤剛甲板手、岡田雅重甲板手、坊下伸夫操機手、そしてJAMSTECとの共同研究先であり、この装置の保有者であるチリ国コンセプシオン大学のジョワーニ教授の6名です。


任務を終えた作業艇を「みらい」に揚収する瞬間


作業艇から見た「みらい」

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2009年3月25日【2】

SORA2009最南端

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

2009年3月25日の夜、今ミッション最南端の観測点であるドレイク海峡(南アメリカ最南端のホーン岬と南極大陸の南極半島の間にある海峡)のホーン岬沖に到着し、海底地形調査を開始しました。今回、この観測点へ至るには外洋もしくはフィヨルド内を航海する2通りのルートがありました。外洋は南極海から伝搬する大きなウネリと頻繁に東進する低気圧からの強風で、世界最大級の観測船である「みらい」でも、航海が難儀するほどです。一方、フィヨルド内では強風は吹きますが、外洋ほどではありません。また、ウネリはフィヨルドの独特の地形が防波堤の役をして殆ど進入しません。これらの点から、「みらい」は後者のフィヨルド内のルートを採用しました。
このフィヨルドは、フェグイノス水道のビーグルキャナルで、多くの氷河があるので有名です。世界の観光船がこの氷河を見るために訪れます。「みらい」は幸運にも、この氷河のある海域を日中航行することができ、またこの海域では珍しいほどの好天に恵まれ、素晴らしい氷河の数々(代表的な氷河には国名が付いています)を見ることができました。写真は、氷河が融け滝となって海面に落ちるフランス氷河と、その隣で氷河ごと海面に達するイタリア氷河です。当時の気温は6度程度でそれ程寒くありませんでした。


フランス氷河


船橋右舷からのぞくイタリア氷河

ホーン岬沖の観測海域は外洋です。西ないし南西から来る大きなウネリを避けるため、ホーン岬のある島の東方に観測海域が選ばれましたが、波は高く(船橋の波高計では、有義波高5.2mを示しています)、風は瞬間的には30m/sに達し、平均風速は25m/s(船長室の風速計は26.6m/sを示しています)、とまさに大時化の状態です。


船橋の波高計

船長室の風速計

当然、波に向かって走る時には、大波が船首を襲います。この大時化では、甲板上での観測作業はできませんが、これまで観測船が調査を行っていない空白の海域の海底地形調査(2月24日のレポート参照)を「みらい」は行っています。


船首の様子

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2009年3月25日【1】

フエゴ島の氷河

MWJ観測技術員:渡井智則

毎日のように続く強い風と荒れる海に翻弄されながらもなんとか観測を行いつつ、「みらい」はSORA2009航海、最南端の観測点を目指してフィヨルドの間を縫うように走ります。 折しも次の観測点への移動日となったこの日、青空に映える白い山々を見ることができました。ここは南緯55度、南米大陸最南端、フエゴ島の南。雲の切れ間から時折射す陽光に、山々の頂から海に流れ落ちる氷河が輝きます。


海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

3月25日正午を過ぎたところです。フェグイノス水道のビーグル海峡を通過しています。数十年の航海経歴を有するパイロットの弁では、今まで経験したことがないほど珍しい好天とのこと。この水道は、氷河で有名です。


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2009年3月24日

「みらい」の周りは自然の動物園

【ペンギン】

バルパライソでペンギンが泳いでいるのを目撃しました。

【アシカ】

バルパライソ出港時、「みらい」の後ろに係留していた冷凍船の船首(バルパスバウ)にオタリア(アシカの仲間)が乗っているのを発見しました。2頭いましたが、互いに日光浴の場所取り争いをして、勝ったアシカが「雄叫び」をあげているところです。

港外に出ると、アシカの群れにも遭遇します。

【イルカ】

イルカの飛翔シーンです。(斉藤甲板手撮影)

【クジラ】

クジラが多いのに驚きます。観測中・航海中問わず、「みらい」の近くに寄ってきます。避航動作を何度か取りました。

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2009年3月23日

Leg2観測打合せ

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

船橋では船側と研究者側の打合せが行われます。Leg1では船側が船長と観測士官(一等航海士)、研究者側からは首席研究員と次席研究員が出席していました。一方、Leg2ではチリ国のコンセプシオン大学との共同研究がありますので、同大学の教授と技術スタッフも乗船し、打合せに参加しています。そして、フィヨルド内での観測ですから、パイロット(フィヨルドパイロット)も参加しています。この席でも、「みらい」の高いパフォーマンスに期待する声を多く聞きます。

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2009年3月22日

5年5ヵ月後のパタゴニア水道

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

現地時間の3月22日正午頃、パタゴニア水道のイングリシュチャンネルを通過しました。前回通過したのは、2003年10月23日の13時頃でした。ここは可航幅が約100mで、潮の流れが速く、直角変針を複数するという航海者にとっては難所です。そのため、潮の流れが弱い時に通過しますので、前回と時間帯はほぼ同じですが、風景が全く違っています。2003年は冬を終えて春になった頃で山々には残雪が見られます。今年は夏を終え秋になった頃で、山々には雪はなく、降る雨で霞んでいます。2003年と同様、船首にスタンバイ要員を配置、船尾の操舵機室にも二等航海士を配置、もちろん船橋は入出港と同じスタンバイの体制で通過しました。

2009年3月25日 正午


2003年10月23日 午後1時

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2009年3月19日

バルパライソ出港

名古屋大学:堀川恵司

このレポートを書いている3月19日時点で、「みらい」は、チリ南部のフィヨルド湾内を観測・コアリングしています。この観測はなかなか興味深いので、後日詳細をお伝えしたいと思います。楽しみにしていてください。
今回はLeg2の最初のレポートということで、我々Leg2乗船者が「みらい」に乗りこんだバルパライソ港の写真をご紹介したいと思います。

写真でご覧頂けるように多くの人で賑わうポートの一角に「みらい」が停泊しています。この港でLeg1の乗船者が下船し、Leg2の乗船者が乗船し、燃料等の補給を終え、即日足早にバルパライソを出港し、最初の観測点に向かいました。

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2009年3月18日

寄せ書き

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

Leg1が終了し、乗船した研究者と観測技術員から乗組員へ寄せ書きが送られました。 約2ヶ月におよぶ「みらい」での研究や船内生活で感じたことなど、船内の様子が窺えます。特に「みらい」のパフォーマンスの高さを評価する言葉は、私たち乗組員への大きな励みになります。「SORA2009」の第一段階を終えた段階ですが、これからの「みらい」の航海にさらなる希望が湧いてきました。



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2009年3月17日

働くお父さんシリーズ事務部

海洋地球研究船「みらい」観測士:中林 秋司

船内で一番楽しみなのが、食事です。「みらい」には、世界中から研究者が乗船します。日本料理だけでなく、乗船研究者の出身国を考慮した料理もテーブルに並び、メニューは豊富です。観測作業の内容によって、その日の献立も変わります。寒い、暑いだけでなく、力仕事が続く場合には、スタミナのつく料理が出されます。「SORA2009」のように長い航海で寄る港が少ないと、新鮮な野菜や果物の補給が難しくなります。新鮮さを長持ちさせる工夫と多様な料理の組合せで、長期の航海が行われていることを感じさせません。こうした船内の食事を担当するのが、船内組織の中の事務部です。
「みらい」の事務部は、事務長を兼務する観測士の下に、司厨長(チーフスチワード:船内ではチューシチョウと呼びます)、次席司厨長(セコンドスチワード:船内ではセコンドあるいはサロンと呼びます)、料理長(チーフコック:船内ではおやじさんと呼びます)、副料理長(セコンドコック:船内ではセケンと呼びます)、そして、司厨部員(コック)の5名です。研究者が多く乗船し、乗組員を含め乗船者が60名を超えると司厨部員(コック)が1名増員されます。「SORA2009」では、「みらい」最大搭載人員である80名いっぱいの乗船者がいますので、事務部員は計6名となります。事務部員は、料理を作るだけでなく、船内の居室・公室や風呂、トイレ等の清掃、食料金の管理、入出港手続きのアテンド等、船内の庶務も担当しています。

写真:大田仁志司厨長 石川県出身、二男一女の厳しい父、日本船員厚生協会の会館支配人の経験を有し、「みらい」の母港むつ市で開催された「みらい料理教室」の主任講師を務めました。

写真(左):浜邊竜弥次席司厨長 長崎県出身、二男の優しいお父さん、長い海外勤務の経験があり、外国の研究者からの料理に関する質問に答える役を担っています。大田司厨長と一緒に「みらい料理教室」の講師を務めました。
写真(右):細矢政雄司厨部員 群馬県出身、一男一女の頼もしいお父さん、海上自衛隊航空基地隊で約2,000食を提供する調理任務に就いた経験で、「みらい」乗船者80食を難なくこなします。

写真(左):杉本喜敏料理長 長崎県出身、一男二女の寡黙で温厚な父、前の会社日本郵船では、船員の代表として海上労働の改善を担う職場に勤務した経験があります。大田司厨長が休暇中は、彼に代わり司厨長の職を執ります。
写真(右):佐々木渡司厨部員 一男一女の実直なおやじ、多くの調査船での調理経験が豊富です。

写真:上村功三副料理長 鹿児島県出身、二男二女の優しいパパ、都内老舗ホテルでの経験と大型外洋客船のシェフを長く務め、杉本料理長と交代で料理長の職を執ります。

今日の献立は、外国の研究者に人気のある「みらい」オリジナルドライカレーです。スプーンを用意していますが、外国の研究者は箸で召し上がっています。ドライカレーの料理方法を「みらい」の母港むつ市で開催した料理教室で、多くのむつ市民の皆さんに紹介しました。料理方法はむつ研究所ホームページで知ることが出来ます。

航海日誌

2009年3月2日

安全第一

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

「みらい」は安全第一をモットーとしています。安全が損なわれれば、「みらい」の使命である観測もできなくなってしまいます。毎日早朝、船長と首席研究者が船橋に祀っている「金毘羅」様へその日の安全を祈願していることは、前のWebページでご紹介しました。
今回は、甲板での安全確認の様子をお伝えします。今ミッションは、深海に地震計を設置すること、深海の海底の泥や岩石を採取すること、そして、海底の堆積物や岩盤の形状を探査する機器や地球の磁力を測定する磁力計を曳航することなど、全員参加の甲板作業が多いのが特徴です。そのため、安全には特に気を遣わねばなりません。
作業が開始される前、作業甲板に関係者全員が集合します。そして、甲板作業の全般の指揮を執る観測士官(一等航海士)が、その日の作業手順や特に注意すべきこと、例えば、雨が降っているので甲板が滑りやすくなっていること、ウネリによる船体の揺れが大きいので吊り上げた観測機器の振れをしっかり止めることなどを説明して、全員でその内容を確認します。その確認方法は、陸上の建設現場などでよく見かける光景ですが、円陣を組み、代表者の「ゼロ災(災害)でいこう よし!」の声を合図に全員が指差動作を行いながら大きな声で唱和します。全員の気持ちがひとつになる瞬間です。その後、それぞれの持ち場に移動します。移動は整然と行われます。

黄色のヘルメットが乗組員、白色が研究者、観測技術員


観測機器などを吊るためにロープやチェーンを掛けたり、クレーンやウインチなどの操作は乗組員が行い、精巧な観測機器などの調整や取り付けには、高度な専門的な技術や知識を持った研究者や観測技術員も参加します。こうした直接甲板作業に携わる人たちとは別に、採取された泥や岩石などを分析する人たちは、安全ロープが張られた外で甲板での作業を温かく見守ります。

SORAレポート

2009年2月25日

日本から見ると1日過去の「みらい」から

乗船研究者:川村喜一郎(財団法人深田地質研究所)

今日は、ラジオ体操に参加した。ラジオ体操はいつも朝8:30に始まる。日本との時差は現在16時間だろうから、そのころ日本は、もうおやすみの時間だ。ラジオ体操は、天気の良い日には、船の後ろにある甲板とその格納庫の第一ブイ庫で、悪天候の日には、甲板の一階下にある第二ブイ庫で行われる。今日は、第二ブイ庫で体操をした。ラジオ体操第一では、後ろに反り返って空を見上げるときがある。いつでもそうだが、窮屈なときにのびをするのは気持ちが良い。今日は、のびをするときに、船の天井の梁が目に付いた。天井の梁は、群青色で、それは今通過している南緯40度の海の色に恐ろしく似ていた。
南緯40度は、うなる40度、Roaring40と呼ばれるように、常に荒れた天候ということで有名である。朝、船橋にあがってみると、高さ5mを超えるうねりが次々と船に押し寄せていることがよくわかった。うねりは、船のうしろ、すなわち西から次々とやってきては、船を追い越すようにどんどん前に向かって遠ざかっている。風速は20m/s近く、船橋の扉の少しの隙間から風音が聞こえた。それはあたかも海のうなり声のように聞こえた。我々の船は8,000トンもある大型船なのだが、これが小型船だとしたのならば、このうなり声は恐怖そのものなのだろう。


そして、船橋ではアホウドリを見た。こんな険しい海域にも生命の息吹が感じられることが信じられない。ここは火星よりは厳しい環境ではないのかもしれないが、およそ動物が住むのに適した環境のようには思えない。詳しい人に聞いたらワタリアホウドリという翼開長3.8mにもなる大きな鳥で、繁殖地は、南太平洋とはほど遠い、インド洋のケルゲレンだそうだ。彼らは浮かんでいる魚の死骸をエサにしているらしい。魚の死骸と死骸とを結んでいくとケルゲレンにつながるのかもしれない。そうだとすると、私たちには見えないけれども、ワタリアホウドリのための「魚の死骸ロード」がそこにはあるのだろうか。そうして魚の死骸を探している内にここまで来てしまったのだろうか。だとしたら、人間から見ると、およそ彼らはあまり効率の良い生活をしていないように見える。人間の観点での効率を気にしすぎると生活の自由度が失われるのかもしれない。彼らは私から見ると、果てしなく自由に映った。

アホウドリとは、彼らにとって、とても不名誉な名前だ。私がかりにアホ太郎と呼ばれたら、頭にくる。しかし幸いなことに彼らは日本語がわからないので、我々は幸運なことに名誉毀損で訴えられることはない。そして、現在、この海域ではピストンコアリングと呼ばれる手法を用いて、海底の泥を採取している。これはいわば、海底に金属製パイプを突き刺して、海底堆積物を採ってくる手法である。採取される泥は、白く、そしてやや茶色いものも見られる。洋服に付くとなかなかとれない。その正体は、石灰質ナノ軟泥と呼ばれるものである。我々は海底の泥を採り、そして、それに名前を付けてやる。10年前、スピッツという音楽バンドがそのような名前のタイトルのアルバムを出したことを想い出した。そう、海底に眠っている間は、彼らは無名なのだが、船上に回収されたとたんに、名前を勝手に付けられてしまう。ナノ軟泥からすると、およそ迷惑な話かもしれないが、幸いなことに彼らは日本語はわからないし、ましてや生きていないので、訴えられることもない。

海底の泥の名前の付け方はさまざまあるだろうが、今回はODPの方式を採っている。スミアスライドで観察して、堆積物粒子の組成を検討し、名前を付ける。大半が遠洋性の粒子が入っていると、遠洋性堆積物になる。ナノ軟泥はそれに該当する。さらに25%以上の粒子組成に対して名前が付けられる。このナノ軟泥は、石灰質ナノ化石がほとんどを占め、他の主要組成が25%以下であるので、この名前になる。他の組成が25%以上だとしたら、また別の名前が付くことになる。
こうして、我々は、海底堆積物といういわばケオティックな積み重なりを人間の読み取れるような言語で表そうとしている。我々の読み取るその積み重なりは、数百万年の地球の記録である。その数百万年の積み重なりは、なにを記憶しているのだろうか。今回は20mの金属製パイプを海底に突き刺すので、採れる堆積物は、長さが20m近くになる。つまり、我々は、船上で、海底面よりも20mも深いところから、現在の海底面までの連続した堆積物の積み重なりを見ることができる。深いところは当然とても古く、数百万年前に積もった堆積物である。そして、その昔は、そこも海底面だった。長い年月をかけて、埋め立てられ、いまは、20mも地下にある。深く深く埋没した堆積物は、より古い古い堆積物ということになる。我々は船上で、数百万年も前の過去を想像することができる。そして、その地球の記憶を読み取るために、我々は、我々のわかる言語で、白い堆積物を記述し、表現しようとしている。それこそが、船上での基礎的な堆積物の観察であり、もっとも重要なプロセスである。 こうして、日が過ぎ、そして、「みらい」はますますチリ沖に近づいた。


ピストンコアリングで採取された石灰質ナノ軟泥

航海日誌

2009年2月24日

みらいの観測機器 2

この大時化の中、「みらい」では航走しながら様々な観測が行われています。 マルチナロービーム音響測深装置、地層探査装置(サブボトムプロファイラ)により海底地形調査が行われています。


「みらい」最上甲板であるコンパスデッキで大気観測が行われています。

航海日誌

2009年2月23日

吼える海と海上安全の神様

海洋地球研究船「みらい」は、現在、昔から船乗り達に恐れられていた「吼える海」、 南緯40度以南の海域で観測を行っています。正に「吼える海」です。連日、大時化で、 船長室にある風向風速計では330度、20.9m/sを示しています。(船内時2月23日14:00時)


同時刻、船橋の波高計では、有義波高5.7m、周期14.3秒を示しています。(有義波高とは、連続して観測した波の内、大きい方から1/3を抽出し、その平均値の波高をいい、一般に私たち航海者等が観測する波の多くが、これであると言われています)

「みらい」で一番低い甲板は、海面から3.6mです。有義波高が5.7mですから、この甲板より高い波が押し寄せて来ます。

「みらい」の船橋には、海上安全の神様「金毘羅」が祀られています。毎朝、研究者の代表と船長が安全祈願をしています。

観測を安全に、そして、効率よく行うため、毎日、船橋において、研究者代表と本船側代表の船長、観測士官との間で、打合せが行われています。

航海日誌

2009年2月18日

働くお父さん

海洋地球研究船「みらい」船長:赤嶺 正治

「みらい」は、総トン数8,687トンの世界最大級の海洋地球研究船です。船が大きいと荒天下でも観測が可能になりますし、広大な海洋の様々な海域において長期間にわたる観測が可能になります。今回のミッションは、正にこの「みらい」の特徴を最大限生かすことのできる航海です。

「みらい」は、母港のむつ市関根浜を平成21年1月15日に出港し、途中、八戸港、タヒチ島のパペーテ港に寄って、研究者や乗組員の交代、食糧、水の積み込み、燃料の補給などを行い、そして、船内時間の2月18日2時42分、古くから船乗り達に吼える海として恐れられている南緯46度50分、西経123度40分の海域に到着しました。
南極海から伝搬する大きなウネリと低気圧からの13m/sを超える強風が「みらい」を絶え間なく揺らします。しかし、ご心配なく、「みらい」には、世界に1台しかないという陸上の高層ビルの揺れ対策で開発されたハイブリッド型減揺装置が搭載されています。通常の揺れを約50%減らすことのできる優れものです。この減揺装置がフルに活動しています。

いよいよ採泥作業が「みらい」の広大な甲板で始まりました。採泥作業は、直径17mmのワイヤーケーブルの先にピストンコアラー(写真1)という長さ20mの採泥装置を取り付け、水深約4,000mの海底まで下ろし、このピストンコアラーを海底に突き刺して泥を採取します。ピストンコアラーを海中に投入してから、船上に回収するまで、約4時間を要します。この間、排水量で1万トンある「みらい」を、採泥地点の真上に位置させ、ピストンコアラーを研究者が希望する海底のピンポイントへ突き刺さるように操船します。「みらい」には、こうした精度の高い操船ができる装置も備付けられています。
平成21年2月18日13時52分、水深4,000mの神秘の ベールに包まれた海底の泥を採取することに成功しました。今回の「みらい」での吼える海という厳しい海域での採泥は、海洋観測史上に残る偉業となるでしょう。


写真1:採泥作業の様子

写真2は、甲板で採泥作業を指揮監督する甲板部幹部乗組員です。
黒の三本線が引かれているヘルメットを被り、腕に「指揮」と明記した腕章を着けているのが、観測作業全般を指揮する観測士官の井上治彦一等航海士(新潟県出身)です。日本郵船株式会社から出向して「みらい」の改造工事に携わり、就航後も「みらい」に勤務するベテラン航海士です。黒の二本線のヘルメットを被るのは、現場監督を務める小国久夫甲板長(岩手県出身)です。腕には「合図」の腕章を着けています。「みらい」就航時から勤務するベテラン甲板長で、前勤務の日本郵船株式会社では、特別待遇船技長として、若い船員の指導教育に携わっていました。船では厳しい鬼軍曹ですが、家庭では一男一女の優しいお父さんです。黒線一本のヘルメットを被るのは、小国甲板長を補佐する桑原洋輔甲板次長(東京都出身)です。小国甲板長が休暇で「みらい」を下船している間、甲板長の職を務めます。家庭では、看護師の愛妻と一男一女の可愛い子供に囲まれて、趣味のフットサルに興じるスポーツパパです。


写真2:甲板で採泥作業を指揮監督する甲板部幹部乗組員

航海日誌

2009年2月10日

「みらい」はツアモツ諸島南方数10kmの海域にいます。青々とした空と海の中を「みらい」が順調に進んでいます。今はまだ、来週から始まる南太平洋の海底調査や、来月以降のチリ沖合の海底調査が始まるまでの序盤戦です。海水域や深海底から新たな地球の姿をとらえるため、研究者や観測技術者、「みらい」乗組員は日々奮闘しています。


フレンチポリネシアの大海原に沈む夕日

航海日誌

2009年2月7日

みらいの観測機器 1

「みらい」で一番揺れの少ない場所に設置された重力計で重力を測定しています。


新鮮な空気と表層海水を取り入れるため、「みらい」の最前部にある研究室において表層海水連続分析装置を用い、PCO2、溶存酸素、栄養塩、蛍光光度、水温、塩分等を測定しています。

航海日誌

2009年2月6日 【2】

パペーテ出港

平成21年2月6日、研究者、乗組員の交代、そして、補油、補水を終えて、海洋地球研究船「みらい」は、観測点向けタヒチ島のパペーテを出港しました。


パペーテ港客船岸壁に係留する「みらい」


左:きょう導を終えたパイロットを乗せて「みらい」へ別れを告げるボート
右:パイロットが安全に下船する様子を監視する船長と観測士官(一航)


パペーテ出港後、直ちに法律に定められている操練が実施されました。

SORAレポート

2009年2月6日 【1】

乗船研究者:平野直人(東北大学東北アジア研究センター)

盛夏のタヒチ(パペーテ港)を後に「みらい」は、南米チリへ向けて出航しました。これから1ヶ月半の日程をかけて、タヒチ周辺のフレンチポリネシア下のマントル構造の調査、南太平洋の中央海嶺の海底調査、チリ南部に沈み込む中央海嶺の調査など行います。また、表層海水や海域の大気の観測も常時行っています。


青い線が2月10日までのみらいの航跡
赤い線は今後予定されている航跡

フレンチポリネシアの調査ではこの海域の下のマントルに広がる南太平洋スーパープルームの実態を探ります。7カ所の海底に海底地震計と海底電位差磁力計をそれぞれ設置し、マントル内の地震波速度や電気伝導度を測定します。地震波は震源からマントルをはじめとした地下の岩石圏を通過して到達します。その地震波を解析することによって、周辺のマントルの構造(固い・柔らかい・冷たい・暖かいなど)を調べることができます。一方、電位差磁力計は、その場所の地下の磁場の変化を測定し、マントルの電気伝導度を見積もります。これらの観測によって、長い地球の歴史の中で流れるように振る舞うマントルの流動性や温度、物質の違いを見ることが出来ます。特にフレンチポリネシア下のマントルは、深部からの上昇流(スーパープルーム)が存在していて、世界的にも全地球の活発な動きと火山の関係を見る上でとても重要な場所です。

海底地震計を海底に設置する船上作業を行っている様子

海洋地球研究船「みらい」大航海

SORAレポート

「SORA2009」に参加したメンバーの写真

【MR08-06 Leg1a】
【MR08-06 Leg1b】
【MR08-06 Leg2】
【09-01 Leg1】
【09-01 Leg2】
【09-01 Leg3】

海洋地球研究船「みらい」大航海

質問コーナー

質問と回答

  • 「みらい」では、余暇はどのように過ごしているのでしょうか。
    「みらい」は大きな船なので、娯楽施設もあるのでしょうか。
    それとも、食事が最大の楽しみでしょうか。
  • 食事も確かに大きな楽しみの一つですが、他にも「みらい」には、 雑誌や文庫が置いてある部屋やビデオルームがあり、閲覧することができます。 また、トレーニングジムとサウナがあります。実際にジムでは、ボクササイズなどのDVDプログラムに沿ってみんなで汗を流していますし、サウナも含めて、今航海でも大活躍です。観測など肉体作業が続く中で、それでも汗を流すのは最高のリフレッシュです。

    食事については3月17日のレポートにも掲載しておりますので、ご覧ください。
  • どうしたら「みらい」に乗って働けますか?
  • 「みらい」に乗船して働くには、
    1.研究者として、2.船長他乗組員として、そして、3.観測技術員として乗船する方法があります。

    1.研究者として乗船する
    「みらい」だけでなくJAMSTECの調査船は、日本の研究所・大学の研究員はすべて乗船する資格があります。ただし、年に一度開催される研究課題の公募に応募いただき、厳正なる審査により、採択されることが必要です。

    2.船長他乗組員として乗船する
    乗組員の仕事には、いろいろな仕事があります。
    船長、機関長、電子長、航海士、機関士、甲板手、操機手ほか、船内の食事等を担当する事務部で働く人たちなど、それぞれの分野で、乗組員として働く事ができます。なお、「みらい」は外部の会社に運航をお願いしていますが、他にJAMSTEC職員で運航している船もあります。

    3.観測技術員として乗船する
    観測技術員は、JAMSTECならではの職種で、採取した試料(海水、大気、採泥、岩石等)の分析や船に搭載された観測機器のデータ(測深器、重力計、磁力計等)の取得と取りまとめを専門に行います。「みらい」に搭載された観測機器の扱いに関してまさにプロで、彼らに任せておけば、高精度での観測ができます。

海洋地球研究船「みらい」大航海 South Ocean Research Activity 2009

海洋地球研究船「みらい」・観測機器について

海洋地球研究船「みらい」

さまざまな観測機器を搭載した世界最大の研究船です。優れた耐水性・航行性を持ち、世界中の海域で中期館の調査研究を行うことができます。

マルチナロービーム音響測定器

海底の地形図を作るため、音波で地形・地層を調べる装置

ピストンコアラー

海底の地層をそのまま柱状に採取するための装置

ドレッジ

海底の堆積物や岩などを採取する装置

CTD

海水の塩分、水温、圧力を計測する装置

採水器

海洋の様々な深さの海水を採取するたの機器

XBT・XCTD

船上からセンサーが入ったプローブを投下し、塩分、水温を計測する装置

ADCP(音響ドップラー流向流速計)

音波で海水の流れる方向と速さを計る装置

プランクトンネットシステム

船に取り付けて生物を採集するための、数メートルもの長さのネット

海底地震計

耐圧容器に収納された地震計

海底電位磁力計(OBEM)

海底で磁場・電場を測定する装置

沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17

沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17

乗船研究員・船長のご紹介

首席研究者

阿部 なつ江

阿部 なつ江(あべ なつえ)
理学博士
独立行政法人海洋研究開発機構
地球内部ダイナミクス領域 地球内部ダイナミクス基盤研究プログラム 海洋底ダイナミクス研究チーム
研究員


目的
南東太平洋における海洋底観測により、地球内部のコア(外核)の変動を解析し、マントル深部からの上昇流(プルーム)のイメージングを行う。さらにチリ沖において、海洋プレート形成現場である中央海嶺とその中央海嶺が大陸下へ沈み込む現場を観測することにより、海洋プレートおよび大陸地殻形成プロセスの解明をめざす。またチリ沖では、近年日本近海で発見された新しいタイプの火山「プチスポット」の調査も兼ねている。






原田 尚美

原田 尚美(はらだ なおみ)
理学博士
独立行政法人海洋研究開発機構
地球環境変動領域 物質循環研究プログラム 古海洋環境研究チーム
研究代表者


目的
過去において北半球では、数十年から数百年スケールで変動するダンスガード - オシュガーサイクル(D-O サイクル)と呼ばれる急激な気候変動が確認されている。この温暖―寒冷変動の実態を明らかにすることは、将来の温暖化後の環境変化を推測する上で重要な研究テーマである。氷床コアによると、北半球と南半球では、D-O サイクルがシーソーのように北が寒冷化しているとき、南では温暖化していたと推測されているが、D-O サイクルに連動して南半球の海洋環境がどう応答して来たのかわかっていない。そこで、チリ沖において海底堆積物を採取し、南半球ではD-Oサイクルに伴ってどのように気候変動が生じていたのか調査することを目的とする。






原田 尚美

村田 昌彦(むらた あきひこ)
理学博士
独立行政法人海洋研究開発機構
地球環境変動領域 海洋環境変動研究プログラム 海洋循環研究チーム
主任研究員


目的
人間活動により、大気中にCO2が放出されている。この放出されたCO2を人為起源CO2と呼ぶが、産業革命(1750年頃)以来、この影響で大気中のCO2濃度は増加している。海は人為起源CO2の30%から50%を吸収しているという報告があるが、実際の海は温暖化をはじめとする気候変動の影響で、いつも一定の割合で人為起源CO2を吸収しているわけではない。本航海では、過去10年間程度の期間で、海がどの程度の人為起源CO2を吸収したのか、海洋内部のどこに輸送され蓄積されているのか等、を明らかにするために、1994年に観測が実施されたラインを再観測する。これらのシグナルは微弱であるため、高精度観測を実施する。






内田 裕

内田 裕(うちだ ひろし)
理学博士
独立行政法人海洋研究開発機構
地球環境変動領域 海洋環境変動研究プログラム 海洋循環研究チーム
技術研究主任


目的
太平洋の南緯17度線に沿った観測ラインで大陸間横断観測を実施し、水温、塩分、溶存酸素、流速等を高精度で測定する。これらの高精度データを基に、海洋内部での熱や物質の輸送量を把握するとともに、それらの10年スケールの変動について明らかにすることを目的とする。






佐々木 建一

佐々木 建一(ささき けんいち)
博士(地球環境科学)
独立行政法人海洋研究開発機構
むつ研究所北太平洋時系列観測研究グループ
技術研究主任


目的
海洋大循環は、地球表面の熱・物質を再分配する主要な機構の一つであり、将来の地球の気候変化を予測する上で、この海洋循環についての理解は欠かせない。この航海では、主に熱塩循環と呼ばれる鉛直方向の海洋循環を調べるため、溶存フロン類の分布を観測する。
フロン類は、1930年代に生み出された人工化合物で、通常は気体として大気圏に存在するが、海洋表面の気体交換によってわずかながら表面水にも溶け込み、循環によって海洋内部に広がる。1994年に米国のグループが行った南緯17度線沿いの観測では、深層西岸境界流と呼ばれる流れが速い部分で、南極海起源の深層水に微量のフロン類が検出されている。今回は、主にこの水塊に着目して、フロン濃度の時間変化から、深層循環の時間スケールに関する情報を与えることを目的とする。





海洋地球研究船「みらい」船長

赤嶺 正治

赤嶺 正治(あかみね まさはる)
工学博士



「本航海に臨んで」

「SORA2009」大航海を終えて


職歴

昭和42年 日本郵船株式会社入社 被命三等航海士
昭和48年 被命二等航海士
昭和55年 被命一等航海士
昭和56〜60年 人事院が研究機関として指定する運輸省(現在国交省)認可中央法人日本海難防止協会に日本郵船(株)から出向し、主任研究員として、海上交通、操船、水先制度などの調査研究に従事。この間、東京商船大学(現東京海洋大学)で研究員として船の操縦性を学ぶ。
昭和61〜62年 SECOJを通じ、日本政府が技術供与したモロッコ冷凍船に乗船し、モロッコ船員教育に従事。
昭62〜平成6年 日本郵船(株)技術部門の水路担当として、海洋、港湾、気象・海象などを調査(世界の海、港湾に出張)。並びに船舶の安全効率運航を目的とした最適航路選定業務(航空会社のディパッチャーのような業務)に従事。海上保安庁水路部(現在海洋情報部)、日本水路協会主催の委員会などの委員を歴任。
平成元〜5年 日本・ロシア海運協議に基づく日ロフェリー開設のための港湾調査(沿海州、サハリン、オフォーツク海など)に専門家として参画。
平成2年 被命船長
平成2〜3年 日本船主協会などが主催する北極海航路開設検討会に専門家として参画。
平成5年 日本郵船(株)より当時の運輸省外航課に出向し、国連の専門機関である、IMO(国際海事機関)のマラッカ海峡航行安全専門家委員会に日本政府代表として参画。
平成6〜7年 欧州域のコスト管理、代理店指導のため、長期出張(イタリアミラノ駐在)。
平成7年 日本郵船(株)より(株)グローバルオーシャンディベロップメントに出向し、大型海洋観測研究船運用技術要員長(艤装船長)としてJAMSTEC本部に赴任。
平成9年 海洋地球研究船「みらい」初代船長に就任。現在に至る。

海洋地球研究船「みらい」大航海

乗船研究員・船長のご紹介

本航海に臨んで

海洋地球研究船「みらい」船長 赤嶺 正治


昨年の夏、海洋地球研究船「みらい」は、北緯78度54分の北極海で海洋観測を行いました。砕氷船でない船が極地(南極、北極)においてこれまで高い緯度で観測を行うことはたいへん珍しく、日本船では初めてですし、単に氷の海を航行したのではなく、多岐にわたる高精度の海洋観測を実施し多くの貴重なデータを収集したことは、世界的な偉業達成であり、海洋観測史上に残る航海だったと言えます。
その「みらい」も半年後の今、昔から船乗り達に荒れる海として恐れられている、南緯40度から60度の吼える、狂う、叫ぶ海での観測を行っています。この荒れる海のすぐ先には南極大陸(南極半島の北端南緯63度)があります。最近、世界の調査船がこの海での観測に挑戦しましたが、荒れる海で観測を断念しています。今回、「みらい」は、この荒れる海の3地点で水深4,000mの海底の泥を採取することに成功しました。この偉業が世界初になるのかは、大昔の記録がないために確認できませんが、堆積物コアの解析による近代的手法にて高精度の古地磁気データの空白域での試料採取に成功したと言えそうです。
今回の「SORA2009」と名付けられた航海は、今始まったばかりです。今年の7月初旬、日本に帰港するまでの大航海です。この長い航海、さらに海洋観測史上に残るような素晴らしい観測が行われるでしょう。乞うご期待です。

「みらい」には国境はなく、世界の研究者が乗船します。「みらい」で得られた研究成果は日本も含め世界からの乗船研究者により、全世界に発表されます。 2003年8月から2004年2月までの約6ヶ月間、「みらい」が南半球の周航観測を行った際、途中寄港したブラジルのサントス港では、70年前に日本からブラジルに渡ったとおっしゃる多くの日系人の方々が「みらい」の見学に訪れました。地球を救うという立派な仕事をブラジルの研究者と一緒に研究する「みらい」は私たちの誇りであると、拍手で賞賛してくださったことを想い出します。今回も、このブラジルから3名の研究者が乗船しています。
世界に名を馳せる「みらい」の船長を務めることに、誇りと喜びを感じています。そして、「SORA2009」の大航海を無事に完遂させ、観測研究を成功させるという重責も感じています。7月初旬、世界が注目する貴重な観測データを満載して帰国できるよう、安全運航と研究支援に全力を注いで参りたいと思います。



今回のミッションは、チリ国のご協力の下、実施されています。チリ経済水域および領海での観測のため、途中、チリ沿岸のレイテック(LAITEC)沖にてチリオブザーバー1名、パイロット2名(チリ海軍OB)が乗船しました。そして、付近の船舶への注意喚起、チリ海軍運用の灯台への通報、最新気象予報の入手、船長および首席研究者への航海・観測に関する必要なアドバイス提供などを積極的に行っています。船橋にて左から船長、オブザーバー、首席パイロット(元海軍大将)




乗組員の交代、補油などのため、寄港したタヒチ島パペーテにて



チリ・バルパライソ港にて

海洋地球研究船「みらい」大航海

乗船研究員・船長のご紹介

「SORA2009」大航海を終えて

海洋地球研究船「みらい」船長 赤嶺 正治



2009年7月3日、海洋地球研究船「みらい」は、梅雨晴れの夏の日差しが強く感じられる日本に、海洋観測史上に残る多くの貴重な研究成果を満載して無事に帰港しました。 「みらい」が母港むつ市関根浜を出港したのは、岸壁一面が降雪で真っ白に覆われた真冬の1月15日でした。それから、実に169日という長い航海が行われました。この間に航海した距離は、30,192マイル(55,915キロメートル、地球1周半相当)にも及び、「みらい」が6年前に世界記録を作った単一船での南半球一周観測航海を上回るものでした。 この大航海は、「SORA2009」と名付けられ、水系、地質、大気、生物、物理と、あらゆる分野の各国の研究者が乗船し、総合的な観測が行われました。
昔から荒れる海として船乗りに恐れられている南緯40度以南での観測、世界三大フィヨルドのひとつである南米チリのフィヨルド内観測、そして、「みらい」がこれまで行ったことのないドレッジ(海底岩石採取)観測等、「みらい」にとって、その高いパフォーマンスが問われる航海でもありました。


先ず、この「SORA2009」の大航海を事故なしに無事に終えることができた今、「みらい」の安全運航を預かる船長として、此の上も無い喜びと安堵を感じています。 各国の乗船研究者からは、これまで得られなかった試料が「みらい」によって初めて採取できたと、その喜びとともに「みらい」の高いパフォーマンスを称賛する声を多く聞くことができました。 今回得られた貴重な観測データは、分析などが行われ、乗船研究者によって研究成果として発表されるでしょう。それは、新しい地球の1ページを飾るかも知れません。楽しみです。

今回の「SORA2009」大航海の様子は、JAMSTECホームページで紹介されました。長い間、このホームページを通じ「みらい」を応援してくださった読者の皆様に心から感謝申し上げます。
「みらい」は、地球温暖化で代表される地球環境変動のメカニズム解明、予測という大きな使命を持っています。最近、北極海氷の激減や氷河の減少、海水温の上昇、ゲリラ豪雨などの異常気象、等など、地球の温暖化の影響ではないかと思われる事象が起きており、「みらい」の役割は、一層高まっています。
「みらい」が大きな、そして、重要な使命を持って、世界の海の何処かで、活動していることを知っていただき、引き続き応援をお願いしたいと思います。