「人•自然•地球共生プロジェクト」課題2第39回研究連絡会議議事録

1.日時:平成18年12月5日(火) 14:00‐16:30
2.場所:海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町 3173-25)
交流棟 2F 小会議室

議事次第:

1. 開会挨拶

2. 各グループ/サブグループからの進捗状況報告等

(1)寒冷圏モデル (齊藤 冬樹)

PDF File (saitoh_061205.pdf 1,440KB)

氷床モデルの端付近の再現の誤差を軽減するスキームを開発し、理想的および現実的な氷床実験でその効果を調べた。



NICAM-SPRINTARS結合作業の現状 (東大CCSR 鈴木 健太郎)

PPT File (suzuki_061205.ppt 4.338KB)

全球雲解像モデルNICAMにエアロゾル化学輸送モデルSPRINTARSを結合する作業を行っている。エアロゾルが雲の特性を変化させることで気候に影響を与える効果(エアロゾル間接効果)は、現存のGCMでは雲を解像できないために理解が非常に不十分であるが、全球雲解像モデルを用いることで理解が大きく進むことが期待される。
実装作業では、まず、SPRINTARSで扱われる代表的なエアロゾル(土壌粒子・炭素性・硫酸塩・海塩粒子)を新たなトレーサーとしてNICAMに導入し、地表面から発生したエアロゾルが移流・拡散によって大気中を輸送されながら、重力落下・乾性沈着・湿性沈着・化学反応によって変化する様子を計算する。
また、エアロゾルの雲特性への影響を取り入れるために、エアロゾルと雲の粒子数の関係を仮定し、モデルで計算されるエアロゾル分布から雲粒子数を求める。こうして求まる雲粒子数は、雲からの降水生成の計算に用いられ、エアロゾル第二種間接効果(寿命効果)が表現される。
また、残存雲水量と雲粒数から平均的な雲粒有効半径を求める。この有効半径はそれ自身が衛星観測と比較可能な重要なパラメータであるが、これを放射過程に渡すことで第一種間接効果も考慮される。さらに、エアロゾル濃度を放射過程に渡すことによってエアロゾルの直接効果も導入した。
そのために、現在のNICAMに実装されている放射コードMSTRNXおよびそれに付随する放射パラメータファイルに変更を施した。衛星観測や雲レーダ・ライダーとの直接比較を可能にするために、これらの観測から得られるエアロゾル・雲の光学パラメータを出力できるように出力変数の整備も行った。エアロゾルに関しては消散係数・光学的厚さ・オングストローム指数・単一散乱アルベド、雲に関しては水雲・氷雲の消散係数と光学的厚さ、水雲有効半径、鉛直積算雲水量・雲氷量などが出力可能である。これらの物理量は、衛星や雲レーダ・ライダーのデータとの直接的な比較のほか、アクティブセンサーで得られる観測シグナルをフォワード計算する際の入力データとしても利用できる。

開発の進捗状況としては、これまでにコーディング作業と水平格子間隔240km程度の低解像度での完熟運転が終了している。この計算は4-5年程度まで実行し、時間積分は安定に動作することが確認されている。エアロゾル光学的厚さ・オングストローム指数・単一散乱アルベド・雲粒有効半径などについての計算結果をCCSR/NIES/FRCGC AGCMに結合されたオリジナル版SPRINTARSと比較すると細かいところで定量的な違いは見られるが、過去の衛星観測から知られているエアロゾル・雲の全球分布の基本的な特徴は概ね再現されている。低解像度においてオリジナル版と細かい部分で異なるのは、NICAM本体において現段階では240km程度の低解像度でのチューニングがほとんど行われていないことにも関係していると考えられる。

現在は、地球シミュレータ上で全球雲解像実験を行っている。まず、水平解像度14kmでの実験を行っているが、年末年始を利用して7kmの実験を行う予定である。これらの実験は、戦略的基礎研究APEXプロジェクト(PI:中島映至, 1999-2004年)の中で行われた東シナ海上での集中観測の時期に合わせて2001年4月をターゲットとして行う。初期値は、CCSR/NIES/FRCGC AGCMに結合されたオリジナルSPRINTARSの計算値から作成し、積分期間は10-15日程度である。現段階で解像度14kmでの計算結果が得られており、エアロゾル光学パラメータ(光学的厚さ・オングストローム指数)や水雲有効半径の分布の衛星観測との比較を行っている。水雲有効半径は、MODIS衛星観測で見られる赤道域での帯状の極大などの細かい構造が従来のGCMに比べてより詳細に再現されている印象を与える。エアロゾルの分布は、衛星に比べると、アジア起源の炭素性・土壌性粒子の太平洋上への広がりが狭い傾向になっている。これはオリジナル版SPRINTARSでも同様に見られる傾向であるが、現在、チューニング作業を行いながら問題点を調査中である。

また、エアロゾルと雲の粒子数の関係は、まず第一段階として、K-1モデルやKISSMEでも用いられている単一の関係を仮定したが、エアロゾルの化学組成や上昇流速度に依存して両者の関係が変化するパラメータ化の導入も現在行っている。NICAMは上昇流速度を解像できるので、この種のパラメータ化の導入は重要であると考えられる。

今後は14kmでの若干のチュ−ニング作業と完熟運転を経て、7kmでの実験を行う予定である。



3.その他サブグループの進捗状況

(1)大気-陸域結合炭素循環モデルの開発進捗状況 (加藤 知道)

・・20世紀における気候―炭素循環相互作用における陸域生態系の役割について、論文をClimate Dynamics誌に投稿した。

・KISSME向けに、Sim-CYCLEバイオマスとパラメータのスピンナップを行った。

SEIB-DGVM導入の作業を本格的に開始した。



(2)動的全球植生モデルSEIB-DGVMの開発状況(佐藤 永)

○諸事情により全球温暖化実験の論文執筆を暫く中断していた。現在、再開した。年内の完成を目指している。

○その間、SEIB-DGVMの熱帯林向けローカライズを行っていた。具体的には、マレーシアの森林動態をシミュレートするモデルFORMINDの植生動態コンポネントを、SEIBの対応部分に移植している。FORMINDはドイツの研究グループによって開発されたシミュレーターで、15年ほどの研究の歴史があり、検証や応用問題への適応を多く経てきた信頼性の高いモデルである。今回変更した箇所は、熱帯常緑林のみに適用されるようにコードを君であるため、SEIBの全球モデルとしての枠組みは保ったままである。



(3)海洋生物地球化学モデル (河宮 未知生)

大気海洋結合炭素循環モデルランに、海面高度が下がり続ける問題を発見し、コードを修正した。これまでの結果に致命的な影響はないことを確認し、再実験を開始した。これまでの結果にもとづいて、論文執筆を始めた。



(4)気候物理コアモデル改良サブグループ(渡辺 真吾)

大気化学の初期値にあった問題を解決し、化学計算のタイムステップを短くとることにより、成層圏化学版のCHASERが問題なく動作するようになり、地球システム統合モデルが完成した。(成層圏化学等、今後改良予定の箇所は残る。)統合モデル完成後の第一ステップとして、数十年規模の二酸化炭素排出量漸増実験と標準実験を開始した。



4.連絡事項

  • 1月16日に地球シミュレータ利用報告会
  • 1月30,31日に合同運営委員会(CCSR)。
  • 3月1−3日にハワイで共生ワークショップ。(出席要請が河宮からいくかも。)
  • 3月22日に文科省の共生成果報告会。

5.閉会


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