1.炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル3 研究結果の詳細報告へ戻る | HOMEへ戻る |
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1—3 陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築担当機関:地球フロンティア研究システム
a.要約陸域統合モデルの構築に向けて、その構成要素とする植生動態モデルを開発する。限られた人的資源と期間のもとで一定の成果を得る為に、これは温暖化の影響が最も顕著に生じると考えられている北方域の植生変化に特化した植生動態モデルとする。高等植物にとっての極限環境である高緯度地域では、既存のDGVMで仮定されているギャップ動態よりも、微少な気候変化や山火事による攪乱が植生動態を最も強く規定している。そこで、そのような高緯度地域に特異的な動態を扱った極域生態系移行モデルALFRESCOをベースとして用いる。ALFRESCOは、経験的データに基づいて極域生態系の移行を予測するものの、統合モデルの構築に際して必須の情報である木本現存量やサイズ構造を扱わない。そこで、これらを扱えるように、ALFRESCOに植物の成長・拡散モデルを組み込むという拡張を試みる。また、より信頼の置ける予測を得るため、次の拡張を試みる。(1)種子拡散を明示的に扱う、(2)極域のヘテロ的景観を適切に扱う。 b.研究目的植生の分布は気候環境によって大きく規定されるが、気候環境も植生分布の影響を受け、この両者の間にはフィードバック的な相互作用が働く(Foley et al. 2003)。したがって、未来の地球環境を正確に予測するためには、気候変動と植生分布変動との関係を明らかにすることが欠かせない。特に高緯度地域は、短期間に大規模な気候変化が生じると考えられており(Katteberg et al. 1996)、この地域の植生分布予測は優先度の高い課題である。 共生第2プロジェクトでは、陸域統合モデルの構築が進められている。これは、「植生物理過程モデル MATSIRO」と「植生物質循環モデル Sim-CYCLE」(Ito and Oikawa 2002)、そして「植生動態モデル」とを結合することにより、日本独自の統合的陸域炭素循環モデルを構築する試みである。本研究の目標は、これら構成要素のうち唯一未構築である「植生動態モデル」を完成させることである。最終的には、全球スケールでの植生分布変化や動態変化を予測することのできるモデルが必要となるが、さしあたっては、高緯度地域に特化したモデルを構築し、結合することを目指す。 c.研究計画、方法、スケジュール本プロジェクトで構築を目指している陸域生態系の物質循環を扱う統合的モデルとしては、すでに幾つかのモデルが動的全球植生モデル(Dynamic Global Vegetation Models これらの理由から、本研究では「種子散布」と「高緯度地域に特有な植生動態」とを明示的に組み込み込んだ植生帯変動モデルを開発する。このうち「種子散布」については、物理過程に着目したモデルがすでに存在し、それは実測データをよく説明できることが示されている(Tanaka, Shibata, and Nakashizuka 1998)。しかし、ではどのくらい沢山の種子が散布された時に、どの位の数の稚樹が定着できるのか、そしてそこに気象条件がどの様に関与するのか等について直接的な測定を行ったデータは限られている。そこで間接的な推定方法として、森林帯に隣接した山火事跡地や大規模な伐採跡地における森林の回復が生じつつある地域において、森林からの距離と稚樹数・齢構成との関係を計測し、その地域における過去の気象データと組み合わせることで、このような関係を推定する手法も併せて開発する。用いる野外調査データは、文献のみからでは十分な質と量が得られないため、IARCの協力の下、アラスカにおいてフィールド調査を行う。 本研究では、高緯度地域における植生移動予測モデルALFRESCO(Starfield and Chapin 1996)をベースの一つとして用いる。このALFRESCOは、生態系タイプ間の移り変わりを記述するフレームベースの生態系移行モデルであり、個々の生態系タイプを「フレーム」と呼ばれるサブモデルによって表現され、このフレーム毎に成長や攪乱など、ある植生タイプから別の植生タイプへ切り替わる条件を決めている。ALFRESCOは、高緯度地域における4種類の生態系タイプ間の移り変わりを、気候、攪乱(山火事、食植昆虫の大発生、森林伐採)、そして種子供給量の関数として、10年ステップで計算する(図1)。例えば、高地ツンドラにおいては、木本被覆度が50%以上に成長するとトウヒ林となり、山火事が生じた後や暖かく乾燥した気候が一定期間続いた後には寒帯草原となる。また極相であるトウヒ林においては、山火事や伐採といった攪乱が生じない限り安定であるが、そのような攪乱が生じた後には落葉樹林へと移行し、攪乱と木本の生育に適さない気候条件とが重なった場合には寒帯草原かツンドラへと移行する。 このようにALFRESCOは、経験則に基づいた生態系タイプ間の移り変わりパターンを記述している。しかしALFRESCOは、統合モデルの構築に際して必須の情報である木本現存量やサイズ構造を扱わない。そこで、これらを扱えるように、ALFRESCOに植物の成長・拡散モデルを組み込むという拡張を試みる。また、ALFRESCOを含め殆どの植生動態モデルでは、各グリッドを単一の景観で代表させているが、極域地域は、湖水面、氾濫原、永久凍土地帯、高台地形が混じり合った極めてヘテロ性の強い景観を有しており、グリッド内の炭素循環や植生動態をより適切にシミュレートするためには、このような手法は適切ではない(Kittel, Steffen and Chapin 2000)。そのようなグリッド内ヘテロ性は、パラメタライゼーションや統計的方法によって扱うことが可能であるが、実測された植物個体群動態データを利用したり、また結果の解釈を容易にするためには、地形タイプ毎の計算を行う必要がある。そこで本研究では、グリッド内に高解像度のサンプリング計算区間を複数取り、景観毎の計算を行わせ、後にグリッド全体の景観変化や植物バイオマス変化を推定する手法を開発する。
各生態系タイプは「フレーム」で表現され、このフレームが、それぞれの条件にて切り替わる。Starfield and Chapin (1996)より改変。 ・4月−5月、植生動態研究についての日本語レビュー完成、投稿 ・6月〜7月中の約2週間、アラスカにおいて野外調査 ・6月−翌3月、Sim-CYCLEとの結合を念頭においた高緯度地域の植生変動予測モデルの構築。また、このモデルが、現在の植生分布を説明できるかどうかについて、上記モデルを、気候記録と植生被覆パターンを元に検証する。 d.平成14年度研究計画・陸域統合モデルの実現に向け、既存の植生動態モデルについて、それらの持つ構造と限界について調査する。・国内では殆ど経験の無い研究領域であるので、この分野の紹介と現状を述べた日本語レビューの執筆を進める。 e.平成14年度研究成果・本プロジェクトで陸域炭素循環を扱う研究者と数度の会合を行い、今後三年間の研究方針について討議を行った。その結果、限られた人的資源と期間のもとで一定の成果を得る為に、温暖化の影響が最も顕著に生じることが予測される北方域の植生変化に特化した植生変動モデルの構築を進める方針を決定した。・植生帯変動の予測という研究領域は、国内では殆ど経験がないため、この分野の紹介と現状を述べた日本語レビューの執筆を進めた。 ・モデルのベースとするALFRESCOを、論文等の公開情報を元にプログラムを作成した。 f.考察考察するべき研究成果は、まだ得ていない。g.引用文献Cramer W., Bondeau A. and Woodward F. I., et al. Global response of terrestrial ecosystem structure and function to CO2 and climate change: results from six dynamic global vegetation models, Global Change Biology, 7, 357-373, 2001.Foley J. A., Costa M. H., Delire C., Ramankutty N. and Snyder P. Green surprise? How terrestrial ecosystems could affect earth's climate, Frontier Ecological Environment, 1, 38-44, 2003. Ito A. and Oikawa T. A simulation model of the carbon cycle in land ecosystems (Sim-CYCLE): a description based on dry matter production theory and plot-scale validation, Ecological Modeling, 151, 143-176, 2002. Katteberg A, Giorgi F, Grassl H, et al. Climate models - Projection of future climate. In: Climate Change 1995. The Science of Climate Change. Contribution of Working Group I to the Secound Assesment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (eds Houghton JT et al.), pp. 285-357, Cambridge University Press, New York, 1996. Kittel T. G. F., Steffen W. L. and Chapin F. S. Global and regional modelling of Arctic-boreal vegetation distribution and its sensitivity to altered forcing, Global Change Biology, 6, 1-18, 2000. Prentice I.C. and Leemans R. Pattern and process and the dynamics of forest structure: A simulation approach, Journal of Ecology, 78, 340-355, 1990. Starfield A. M. and Chapin F. S. III. Model of transient changes in arctic and boreal vegetation in response to climate and land use change, Ecological Applications, 6, 842-864, 1996. Tanaka H., Shibata M. and Nakashizuka T. A mechanistic approach for evaluating the role of wind dispersal in tree population dynamics. Journal of sustainable forestry, 6, 155-174, 1998. h.成果の発表<口頭発表> 発表者名: 佐藤永発表題名: 次世代の気候モデルにおける植生帯移動予測の役割 発表場所等: 21世紀地球科学技術を考える会(2003年2月19日東海大学校友会館) 次のページ(2.1 温暖化・大気組成変化相互作用) |