2. 研究成果の概要


1.総括

平成14年度の報告書にも記したように、地球環境システムの統合モデルは、まさにこの2、3年開発に向けての動きが世界的に始まった所である。その背景の下で2003年9月にハンブルクのマックスプランク研究所で地球システムモデルに関する最初の本格的シンポジウムが開かれたが、そこに本プロジェクトの計画と現況とを報告できたのは大へんタイムリーであった。10月にはやはり地球システム・モデリングをテーマにケンブリッジ大学で日英のワークショップが開かれたが、そこでも本プロジェクトは日本側を代表するものとして発表を行った。これらにおいて本プロジェクトは未だ具体的成果は出していないものの、地球環境システムの物理・化学・生態にわたる全側面の専門研究者をバランスよく揃え、まさに統合モデルを開発するにふさわしいチームであることが示され、自分達としても自信が持てるようになった。

地球温暖化予測のまとめである「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第4次報告書(2007年完成予定)の枠組み(章立て)が2003年9月〜11月に決定されたが、そこでの統合モデルによる温暖化予測の扱いは試行的なものととれる位置付けで、「温暖化・気候変化予測」の中心は依然従来型(炭素循環・化学組成変化のフィードバックは考えない)の気候システム・モデルによるものである。これは世界全体での統合モデルの成熟度を反映したもので客観的に見て妥当な所ではあるが、それだけに信頼度の高い統合モデルの開発に益々努力せねばならぬことを知らされた思いである。

本プロジェクトの具体的進捗状況を見ると、2002年度後半から始めた海洋炭素循環モデルが一通り出来上がり、それを既存の陸域炭素循環モデルSimCYCLEと結合して、全球炭素循環モデルとする事も一応出来た。まだプログラム的、物理的チェックをして間違いを無いものにして行かねばならないが、2005年春までに炭素循環と結合した温暖化実験を行うための第一関門は通過したと言えよう。これは大きな成果である。もう一つの重要な成果は、気候変化に伴う陸域植生の変化をシミュレートする全球植生動態モデルの基本デザインを決定したことである。それは、これまで世界の幾つかの研究者(研究グループ)により開発されている同種のモデルと異なり、異なる植生間の競争を個体ベースでシミュレートしようというもので、地球シミュレータの計算機資源を活用するにふさわしい斬新な発想にもとづいている。これによって環境変化に対する植生の変化の「遅れ」が(仮定でなく)直接的に計算され、より信頼度の高いものになると期待される。

その他、大気化学モデルで成層圏化学を取り入れ、同時に計算効率を上げる努力、物理気候コアモデルで成層圏で重要となる内部重力波の扱いに関して数値実験にもとづきパラメター推定を行うという地球シミュレータならではの世界初の試み、雲・エアロゾル効果の精密評価のため雲微物理過程を超高解像度全球非静力学大気モデルNICAMに導入するための準備、氷床力学モデルでの予備的実験など全体に順調な進展が見られた。

2. サブテーマごと、個別項目ごとの概要

(1)炭素循環モデル、炭素循環・気候変化結合モデル

1 陸域炭素循環モデル

人為的温室効果ガス排出による地球環境変動予測モデルを構築する上で、陸域生態系による炭素循環をシミュレートするモデルを構築し、当課題で構築する地球システム統合モデルに組み込み、温暖化予測を行うことが当サブグループの目標である。平成15年度は、(1)Sim-CYCLEのオフライン評価、(2)陸域モデルのAGCMへの組み込み、(3)統合モデル相互比較プロジェクト参加のためのモデル拡張の検討、の3点を行った。

2 陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築

動的全球植生モデル(DGVM, Dynamic Global Vegetation Model)の設計、およびコード作成を進めた。このモデルの基本的なデザインは、陸域炭素循環モデルSim-CYCLEに、LPJ-DGVMの植生動態コンポーネントを組み合わせたものであるが、さらに林分の空間構造を明示的に組み込み、木本を個体ベースで扱うという拡張を行った。これらの拡張によって、森林ギャップの再生過程や樹木個体間の競争過程が的確に表現され、植生動態に伴う炭素収支や、気候変動に伴った植生分布変動の速度などを、これまで構築されてきたどのDGVMよりも正確に予測できることが期待される。現時点までに、一林分における計算を行うプログラムコードの開発がほぼ完了し、コードの最終チェックを行っている。今後、ベクトル化、並列化、パラメータ推定、調整等の過程を経て、平成16年度中までには全球グリッドでのシミュレーション結果を得る予定である。

3 海洋生物地球化学モデル

大気海洋結合モデルへの炭素循環過程組み込みの前段階として、海洋単体モデルへ組み込んだ炭素循環モデルを用い、予備的な温暖化実験を行った。すなわち、大気海洋結合モデルを用い過去に行われた二酸化炭素漸増実験の結果得られた風応力、海表面温度を海洋モデルの駆動力として用い、温暖化によって海洋環境が変化した場合とそうでない場合とについて大気中二酸化炭素濃度が漸増したときの海洋二酸化炭素吸収量が両ケースの間でどのように異なるのか調べた。その結果、温暖化による海洋循環変化が二酸化炭素吸収量に与える影響は小さいという結果が得られた。本プロジェクトで採用しているモデルはIPCC第3次報告書で採用されているものよりも海洋表層生態系の記述が詳細になっているが、ここでの温暖化実験では過去の実験結果を追認するに終わった。このこと自体は華やかな結果ではないが、陸域炭素循環と結合させる前段階として、我々のモデルがもっともらしい振る舞いを見せることは確認できたと言える。このことを受け、大気海洋結合モデルへの炭素循環モデル移植にも着手し、現在その原型が完成した段階にある。今後、モデルパラメータのチューニングやコードの整備、充分なスピンアップを行い、炭素循環−気候結合モデル相互比較プロジェクト(C4MIP)への参加、ひいてはIPCC第4次報告書への貢献に備える。

(2)温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発

1 温暖化・大気組成変化相互作用

温暖化・大気組成変化相互作用サブモデルでは大気化学過程(オゾン分布など)やエアロゾルの温暖化および海洋・陸域植生変化との相互作用を表現・予測することを主な目的としており、CCSR/NIES AGCM を土台とした全球化学モデルCHASERやエアロゾルモデルSPRINTARSを用いてエアロゾル・化学のオンライン計算を可能にすることが当面の課題である。今年度は本サブモデルを統合モデルに組み込んだ場合の長期実験を念頭に置いてCHASERモデルの高速化を行い実行性能について地球シミュレーター上で評価を行った。本高速化作業により化学過程に関して大幅な計算コスト削減が実現された。さらに温暖化・大気化学相互作用予測のための前段階的な研究として温暖化を考慮した対流圏化学場の将来予測実験を行った。本年度はこの予測実験について特に温暖化時の成層圏/対流圏間物質交換の変動を重点的に解析し、温暖化による大気循環場の変化により成層圏から対流圏へのオゾン流入量が増加するなどの予測結果を得た。また本年度後半では、CHASERとSPRINTARS両モデルの結合作業を開始した。昨年度から行っている輸送過程の検証について、本年度は特に成層圏への輸送および成層圏中の輸送の評価として空気の年令分布を計算し、下部成層圏における観測値と比較を行った。今回の計算では赤道域では観測推定値に近い値が得られたが、中・高緯度では空気の平均年令を過小評価する傾向にあることが分かった。

2 温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価

このグループの課題は大気大循環モデル(GCM)でエアロゾルが雲の光学特性に及ぼす影響、すなわち対流圏エアロゾルの間接放射強制力を評価するためのパラメタリゼーションを開発することである。地球フロンティア研究システムでは雲粒の凝結核(Cloud Condensation Nuclei:CCN)が雲の微細構造に及ぼす影響を評価するパラメタリゼーションを開発している。このパラメタリゼーションおよびAbdul-Razzak et al. (1998)のパラメタリゼーションなどをエアロゾル気候モデルであるSPRINTARSとともにCCSR/NIES AGCM に取り込み、雲の光学的厚さや雲粒有効半径の全球分布を計算して衛星観測データとの比較を行い検討した。さらにGCMのためのパラメタリゼーションとして有効なものにするためにNICAM(New Icosahediral Atmospheric Model, Satoh,2003, Tomita, 2002)を用い、雲微物理モデル搭載超高解像度全球モデルの開発を行っている。さらに雲解像領域モデルCReSS (Tsuboki and Sakakibara,2002)を用い、ビン法雲微物理モデルを搭載した雲解像領域モデルの開発も行う。

(3)寒冷圏モデル開発

温暖化に対する氷床の応答特性や海水準への影響を調べるため、現実をよく表現するよう氷床モデルを開発し、グリーンランドと南極への適応性を調べた(Saito and Abe-Ouchi, 2004)。さらにグリーンランド地域の気候が3〜4度温暖化すると海水準3メートル程度に相当する氷床の融解が起こり、南極地域は気候が7〜8度以上温暖化してようやく氷床の融解による海水準上昇をもたらすことを示した。一方、温暖化の予測の程度について調べるため、地球シミュレータを用いて人工的なフラックス調節のない大気海洋海氷結合モデル(解像度は中程度、大気200km、海洋100km程度)の調整や感度実験を行なった。全球と比較してとくに温暖化感度が高い高緯度の気候や海氷の再現性や温暖化に対する応答特性を調べた結果、グリーンランド氷床周辺の温暖化の程度は、21世紀末頃に温室効果ガスが安定化したとしても、海水準に有意に影響を及ぼす程度に達する。大気中二酸化炭素増加量が年率1%と仮定して、4倍に達する140年間後までの予測を行った。全球に比べて気温増加が極域とくに北半球で大きく、グリーンランド氷床が海水準に有意に影響する程度となる。南極氷床においては降水量増加の方が気温増加の効果よりやや上回る結果となった。今後、モデルの不確定パラメタや感度の異なるバージョンで同様の実験を行なう。数十年変動や不確定性の幅など極域のより詳しい解析が必要である。さらに、同期した大気—氷床結合(部分統合モデル)の計算を可能にするためのプログラム改変をすすめており、現在調整を続けている

(4)気候物理コアモデル改良

大気・海洋・陸地面の主として物理過程から成る気候モデル(CCSR/NIESモデル、既存)で成層圏の諸プロセスを改良もしくは新しく取り入れたモデルを開発する。

大気モデルの改良に関しては、現モデルで不十分な中層大気(成層圏・中間圏)の諸プロセスの改良を図る。即ち、中層大気中への人為起源物質の侵入により、中層大気特有のオゾン層の物理・化学過程と太陽からの放射の変動が相互に影響し合って中層大気の変動を引き起こすと共に、それが下層対流圏の変動と結合して気候変動を生じる機構をモデル実験によって明らかにする。また、内部重力動波の挙動とそれが大気循環に及ぼす影響を超高解像度大気モデルによって明らかにする。

本年度は、対流圏と成層圏の物質交換に重要な対流圏界面付近の再現性の向上のために、他の機関のモデルの計算結果と我々のモデルの結果を比較するとともに、CCSRで新しく開発された放射コードの導入とテストを行った。その結果、CCSR/NIESの大気大循環モデルの対流圏界面付近に見られた顕著な低温バイアスが画期的に改善された。また、中層大気大循環において重要な役割を果たす大気内部重力波の直接解像シミュレーションを行い、下部成層圏における重力波の振幅や伝播方位の全球分布を世界で初めて得ることに成功した。本年度のシミュレーションで達成した解像度は、水平T213(0.55度格子)、鉛直層厚300mである。また、より高解像度の実験を行うに当たって、地球シミュレーターのノード内自動並列機能を用いるように大気大循環モデルの計算コードを改良した。

3. 波及効果、発展方向、改善点等

(1)本プロジェクトは地球環境全体を一つのシステムとしてモデル化するものであるが、いきなり全システムのモデルを作るのではなく、これまでに作られて来たサブシステムのモデル、すなわち物理的気候システムのモデルをはじめ大気化学モデル、陸域炭素循環モデル等々を結合して全地球環境システムを作ろうとするものである。その際各サブシステムモデルは出来るだけ既存のものを活用する方針であるが、既存のものが必ずしも充分で無い場合には必要な改善を行って、また、場合によっては既存のものは用いず新たに作ることもある。前者の例として物理気候モデルで成層圏・中間圏を詳しく扱うようにし、その為に内部重力波のパラメタリゼーションについての数値実験を行って改良を図ったことや、対流圏化学を中心としていた大気化学モデルを成層圏にまで拡張し、そこで必要な諸プロセスを導入すること(未了)がある。全球植生導体モデルは後者で、種間の競争を個体ベースで直接扱うこれまでにない新しいモデルを開発しつつある。これらのサブ・システムモデルは、何も統合モデルに組み込まなくても、それ自体として新しいモデルであったり、より良い(より応用範囲の広い)モデルであったりするので、それ自体として価値があり、それぞれの分野の研究に貢献する。

(2)本プロジェクトは、共生プロジェクト・日本モデルミッションの中で“総合性”の点で全体をリードする立場にあり、かつ開発担当機関である海洋科学技術センターは地球環境科学関係の最大規模研究開発機関である。そこで、当プロジェクトの発展方向として、日本モデルミッションの任務である「IPCC第4次報告書への貢献」を実現するため、本プロジェクト関係者が中心となって、今後本格化するIPCC報告書作成のためのWGIの諸活動に日本の研究者が少しでも多く参画できるようにしたり、あるいは温暖化予測実験の実施に当たって国内各グループ(課題1〜4)の研究会・連絡会を行うなどの活動も行って行きたい。

4. 研究成果の発表状況

<口頭発表>
陸域炭素循環モデル
Ichii, K., A. Ito, K. Tanaka, T. Oikawa, Development of an terrestrial biosphere model for fully coupled earth system modelling International Conference on Earth System Modelling, Hamburg, German, Sep. 2003.

陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測モデルの構築
発表者名:佐藤永、甲山隆司
発表題名:Development of an integrated terrestrial ecosystem model for global changing prediction
発表場所等:種生物学会国際シンポジウム2003(2003年10月札幌)

海洋生物地球化学モデル
Aita, M. N., Y. Yamanaka and M. J. Kishi: On ontogenetic vertical migration of zooplankton in GCM. 3rd International Zooplankton Production Symposium: "The Role of Zooplankton in Global Ecosystem Dynamics: Comparative Studies from the World Oceans", Gijon, Spain, May 20-23, 2003.

M. Kawamiya and T. Matsuno,“Development of an integrated earth system model on the Earth Simulator”, IUGG2003, Sapporo, July 2003.

M. Kawamiya, C. Yoshikawa, M. Aita and T. Matsuno,“Development of an integrated earth system model on the Earth Simulator -- Preliminary results from the ocean carbon cycle component –“, International Workshop on Earth System Modelliing, Hamburg, September 2003.

M. Kawamiya,“Overview of Earth System Modelling in Japan” UK-Japan Workshop on Earth System Modelling, Cambridge, October 2003

M. Kawamiya, C. Yoshikawa, M. Aita, and T. Matsuno,“Projection of ocean uptake of anthropogenic CO2 using an ocean carbon cycle model: Preliminary results from the oceanic component of the integrated earth system model at FRSGC”, UK-Japan Workshop on Earth System Modelling, Cambridge, October 2003.

Sasai, Y., A. Ishida, Y. Yamanaka, M. N. Aita and M. J. Kishi: Marine ecosystem and chemical tracer studies using two OGCMs. Final JGOFS Open Science Conference: "A Sea of Change: JGOFS accomplishments and the Future of Ocean Biogeochemistry", Washington DC, U.S.A, May 5-8, 2003.

Yamanaka, Y., M. N. Aita and M. J. Kishi: Effects of ontogenetic vertical migration of zooplankton on simulations using NEMURO embedded in a General Circulation Model. EGS - AGU - EUG Joint Assembly, Nice, France, April 6-11, 2003.

温暖化・大気組成変化相互作用
Nagashima, T., M. Takahashi, H. Akiyoshi, and M. Takigawa, The effects of non-orographic GWD scheme and radiation from large SZA on the Antarctic ozone hole, Process-oriented validation of coupled chemistry-climate models, 2003.

Sudo, K., Takahashi, M., and Akimoto, H., “Future changes in stratosphere-troposphere exchange and their impacts on future tropospheric ozone”, American Geophysical Union (AGU) Fall meeting, San Francisco, U.S., 8-12 December, 2003.

Sudo, K., Akimoto, H., Nozawa, T., Kanzawa, H., and Takahashi, M., “Simulation of future distributions of tropospheric ozone and sulfate aerosol: impacts of emission change and climate change”, International Conference on Earth System Modelling, Hamburg, Germany, 15-19 September, 2003.

Sudo, K., Takahashi, M., Nozawa, T., Kanzawa, H., and Akimoto, H., “Simulation of future distributions of tropospheric ozone and sulfate aerosol: impacts of emission change and climate change”, International Union of Geodesy and Geophysics (IUGG), Sapporo, Japan, 30 June - 11 July, 2003.

須藤健悟,高橋正明,秋元肇,「対流圏オゾン化学における成層圏オゾンの役割とその変動過程」,第14回大気化学シンポジウム,豊川市民プラザ,2004年1月7-9日。

須藤健悟,秋元肇,野沢徹,神沢博,高橋正明,「対流圏オゾン・硫酸エアロゾル全球分布の将来予測実験」,日本気象学会2003年秋季大会,宮城県民会館,2003年10月15-17日。

須藤健悟,秋元肇,高橋正明,野沢徹,神沢博,「全球化学気候モデルCHASERを用いた対流圏光化学場の将来予測シミュレーション」,第9回大気化学討論会,伊香保温泉ホテル木暮,2003年5月28-30日。

滝川雅之,「CCSR/NIES大気大循環モデルを用いた成層圏Age Spectralの計算」第14回大気化学シンポジウム,2004.

温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
Kuba, N,雲物理パラメタリゼーションの構築.第5回非静力学モデルに関するワークショップ.11月24〜25日.横浜2003.

Satoh, M. et al., Development of the nonhydrostatic icosahedral atmospheric model in Frontier Research System for Global Change, Second Workshop on the Future of Cloud Parameterization, May 7-9, 2003, Hawaii

Tomita, H. et al., A Comparison Study of Computational Performance between a Spectral Transform Method and a Gridpoint Method, Parallel Computer Fluid Dynamics 2003, May 13-15, 2003, Moscow

Satoh, M, Development of a non-hydrostatic model for climate study and radiative-convective equilibrium calculations, IUGG2003, Jun.30-Jul.5, 2003, Sapporo

Tomita, H et al., A nonhydrostatic global model on the icosahedral grid system, IUGG2003, Jun.30-Jul.5, 2003, Sapporo

Satoh, M. and Nasuno, T., Radiavive-convective equilibrium calculations with cloud resolving models: a standard experiment and parameter study, Fifth international SRNWP-Workshop on Non-Hydrostatic Modeling, Oct 27-29, 2003, Frankfurt

Tomita, H. et al., Development of the global cloud resolving model on the icosahedral grid, Fifth international SRNWP-Workshop on Non-Hydrostatic Modeling, Oct 27-29, 2003, Frankfurt

Satoh, M., Development of a non-hydrostatic model for climate study and radiative-convective equilibrium calculations, IUGG, Jun.30-Jul.5, 2003, Sapporo

Tomita, H. et al., Development of the Global Cloud Resolving Model Using the Icosahedral Grid, The first international workshop on the Kyosei project, Feb. 25-27, 2004, Honolulu

Nasuno, T., Satoh, M., Tomita, H and Goto, K, Development of the nonhydrostatic global model in FRSGC., The 2nd Workshop on regional climate modeling for monsoon systems, 3/4-6, FRSGC, 2003

Nasuno, T. and Kato, T, Estimation of subgrid scale processes using a cloud-resolving model. The second Workshop on the Future of Cloud Parameterization, Kauai, Hawaii, U.S.A., 5/7-9, 2003

気候物理コアモデル改良
S. Watanabe and T. Nagashima, Seasonally and geographically varying gravity wave source for a Doppler-spread parameterization derived from a high-resolution GCM experiment; (I) Propagation direction, Amplitude distribution and saturation of gravity wave spectrum, Chapman Conference on Gravity wave processes and parameterization , Jan 13 2004, Hawaii, USA.

S. Watanabe and T. Nagashima, Seasonally and geographically varying gravity wave source for a Doppler-spread parameterization derived from a high-resolution GCM experiment; (II) Impacts on large-scale circulations, Chapman Conference on Gravity wave processes and parameterization, Jan 13 2004, Hawaii, USA.

<論文発表>
陸域炭素循環モデル
伊藤昭彦、市井和仁、田中克典、佐藤 永、江守正多、及川武久、地球システムモデルで用いられる陸域モデル:研究の現状と課題、天気、印刷中.

海洋生物地球化学モデル
Kawamiya, M. and A. Oschlies, “Impact of intraseasonal variations in surface heat and momentum fluxes on the pelagic ecosystem of the Arabian Sea”, J. Geophys. Res., 109, doi:10.1029/2003JC002107, 2004.

河宮未知生,「数値生態系モデルによる北太平洋の低次生産機構に関する研究」,海の研究,13, 135-150, 2004.

Aita, M. N., Y. Yamanaka and M. J. Kishi (2003): Effect of ontogenetic vertical migration of zooplankton on annual primary production –Using NEMURO embedded in General Circulation Model-. Fish. Oceanogr., 12, 284-290.

温暖化・大気組成変化相互作用
Sudo, K., Takahashi, M., and Akimoto, H., “Future changes in stratosphere-troposphere exchange and their impacts on future tropospheric ozone simulations”, Geophysical Research Letters., 30, 24,2256, doi:10.1029/2003GL018526, 2003.

温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
Kuba, N., H. Iwabuchi, K. Maruyama, T. Hayasaka, T. Takeda and Y. Fujiyoshi, Parameterization of the effect of cloud condensation nuclei on optical properties of a non-precipitating water layer cloud, J. Meteorol. Soc. Japan, 81, 2,393-414, 2003.

Kuba, N. and H. Iwabuchi, The revised parameterization to predict cloud droplet number concentration and the retrieval method to predict CCN number concentration, J. Meteorol. Soc. Japan, 81, 6, 2003.

Satoh, M., Conservative scheme for a compressible non-hydrostatic model with moist processes, Mon. Wea. Rev., 131, 1033−1050, 2003.

Tomita, H. and Satoh, M., A new dynamical framework of nonhydrostatic Global model using the icosahedral grid, Fluid Dyn. Res., (in press), 2004.

Tomita, H., Goto, K. and Satoh, M., A comparison study of computational performace between a spectral transform model and a gridpoint model. In: Parallel Computational Fluid Dynamics 2003. Elsevier, pp. 333−340, 2004.

寒冷圏モデル開発
Ogura, T., A. Abe-Ouchi and H. Hasumi (2004) Effects of sea ice dynamics on the Antarctic sea ice distribution in a coupled ocean atmosphere model. Journal of Geophysical Res. in press.

Saito, F., A. Abe-Ouchi and H. Blatter (2003) Effects of first order stress gradients in an ice sheet evaluated by a three-dimensional thermomechanical coupled model. Annals of Glaciology, 37, 166-172

Saito, F. and A. Abe-Ouchi (2004) Thermal Structure of Dome Fuji and East Queen Maud Land, Antarctica, simulated by a three-dimensional ice sheet model. Annals of Glaciology, 38, in press.

Schneeberger, C., H. Blatter, A. Abe-Ouchi and M. Wild (2003) Modelling Changes in the Mass Balance of Glaciers of the Northern Hemisphere for a transient 2xCO2 scenario. Journal of Hydrology, 282, (1-4) 145-163.

新聞報道
朝日新聞2004年2月8日朝刊第18面に掲載

5. 国際共同(協力)研究の状況

(1)本課題に関連の深い国際協力の枠組み

A.第4次評価報告書(AR4)にむけた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の動向

平成15年11月にウイーンで開かれた、IPCC第21回総会の及び、第一作業部会(WGT)第9回会合により、WGTの表題が、第3次評価報告書(TAR)の”The Scientific Basis”から、”The Physical Science Basis”となり、他の作業部会の社会科学(Social Science)などとの違いを明文化した形とした。その上で、AR4の章立てが、討論の末部分的修正を経て一応決まった(TARと違い、まだ執筆者体制が確定していないので、今後に柔軟性を持たせることになっている)。その中身は、TARにおける、今後の課題として指摘された点を反映して考慮されてきた。

本課題に直接関係ある章としては、全体で11章あるうちの、第7章全体であり、その内容は、以下のようなもの(仮訳)である:

第7章 気候システムと生物化学における変化の結合(Coupling Between Changes in the Climate System and Biogeochemistry)

主要論点(Executive Summary)
* 生物化学循環序論(Introduction to Biogeochemical Cycles)
* 炭素循環と気候システム(The Carbon Cycle and the Climate System)
* 全球大気化学と気候変化(Air Quality and Climate Change)
* エアロゾルと気候変化(Aerosols and Climate Change)
* 陸面と気候の変動(The Changing Land Surface and Climate)
* 統合論点(Synthesis):循環と過程の間の相互作用(Interactions Among Cycles and Processes)

WGTのS. Solomon(米)の提案説明では、この章の中心課題は炭素循環であるとしているが、これらの内容が、時間スケールの広い範囲を対象にすること、二酸化炭素の循環は、第6章(古気候)にも大きく関わることなどから、1章だけで扱いきれるかどうかという疑問も出されたが、結局上記のような章立てで承認された。

B.地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)の状況

1986年に設立されたIGBPは、地球規模の生物圏が大気・海洋の物理的環境と相互作用を持ちながら地球環境を形成する過程を明らかにして行こうというプロジェクトである。IGBPは単独のプロジェクトというよりはいくつかのコアプロジェクトから構成されるプロジェクト群であり、コアプロジェクトの例としては「地球大気化学国際共同研究計画(IGAC)」、「海洋生物地球化学・海洋生態系の統合研究(IMBER)」、「地球陸域統合研究計画(GLP)」などがある。IGBPが共生第2課題と関連の深い国際研究計画であることが、コアプロジェクトの名称からもよく分かる。

IGBPの発足から15年以上を経て、当初から存在したコアプロジェクトの多くが現在終結しつつある。それらが取り扱ってきた研究内容は新しいコアプロジェクトによってより発展的な形で引き継がれることになる。現在のIGBPは、その発展の第1期を終え第2期への移行期にあると言えるだろう。第2期に入るIGBPが特に重要視しているのが「社会への貢献」と「統合」である。前者については、IGBPが第2期に入り各コアプロジェクトの研究行動計画が出揃ってきている中、いずれにおいても、環境と調和した社会の構築に資する形で研究成果を利用することの重要性がうたわれている。後者の「統合」に関して特徴的なのは、大気、海洋、陸面という「サブシステム」間の境界そのものを扱うコアプロジェクトが新たに加わったことである。すなわち、海洋と大気との境界を扱う「海面−低層大気研究(SOLAS)」、陸面と大気との境界を扱う「陸域生態系−大気統合研究(iLEAPS)」の2つである。なお陸面と海洋との境界を扱う「沿岸域における陸域海洋相互作用研究計画(LOICZ)」は第1期からの活動を継承しながら第2期へ移行する。現在はそのための研究活動計画をまとめ終わった段階にある。サブシステム間の境界を扱うこれらのコアプロジェクトは、既存の学問分野いくつかを横断し統合するような形の研究を促進するであろう。そして、IGBPのコアプロジェクト全体を統合する役割を持つのが、「古環境の変遷研究計画(PAGES)」と「地球システムの解析・統合・モデリング(AIMES)」(GAIM<地球変動の解析・解釈・モデリング>より名称変更)である。

AIMESのタスクフォースには議長のC. Prentice(英国)をはじめ各国から24名の研究者がメンバーとして名を連ねており、日本からは2003年から3年の任期で阿部彩子(地球フロンティア/東大)、河宮未知生(地球フロンティア)が参加している。二名ともに本課題のメンバーであり、これは本課題の成果を世界に発信していく上で大きな利点となろう。実際、IGBPが第1期の成果をまとめて刊行したシリーズのうち一冊(“Global Change and the Earth System – A Planet Under Pressure”, Springer Verlag刊,2004年)では、共生第2課題と地球シミュレータが「野心的」なプロジェクトとして比較的大きく紹介されている(280-281項)。またAIMESのタスクフォースと「世界気候研究計画(WCRP)」の「気候モデリングに関するワーキンググループ(WGCM)」との合同会議およびワークショップが、JAMSTEC横浜研究所を会場とし、地球フロンティアの主催で2004年10月に開催される予定である。

さらに、IGBPにWCRP、「生物多様性科学国際共同プログラム(DIVERSITAS)」、「地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画(IHDP)」を加えた地球環境に関する4つの国際プロジェクトが協力しながら共通の課題に取り組む枠組として、「地球システム科学パートナーシップ(ESSP)」がある。現在のところESSPは概念的な枠組であって事務局などが置かれる見通しが立っていないが、ESSPの概念のもと炭素、水資源、食料、健康をそれぞれテーマとした4つの共同プロジェクトが形成されつつある。特に、炭素をテーマとし共生第2課題と最も関連が深いと思われる「グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)」については、詳細な研究行動計画が既にまとめられ研究体制の整備が進んでいる。その国際プロジェクトオフィスが国立環境研究所に置かれるなど、共生第2課題からの研究成果も含め日本からの多大な貢献が期待されている。

(2) 米国及び/あるいはEUとの間の研究協力状況

第一回国際「共生」ワークショップ(The First International “KYOSEI” Workshop)は、平成16年2月25-27日に、米国ハワイ州ホノルルで、住明正(東大CCSR)、丸山康樹(電力中央研究所)、松野太郎(地球フロンティア)、及び青木孝(気象研究所)のコンビーナーの下で、「第6回先端高性能計算機能に対する次世代気候モデルに関するワークショップ(The 6-th International WS on the Next Generation Climate model for Advanced High Performance Computing Facilities)」と併設して開催された。

主な内容は:
  • 高解像度の、大気大循環モデル、
    海洋大循環モデル、気候モデル

  • スーパー・パラメタリゼーションと
    マルチ・モデル・テクニック

  • 雲、エアロゾル、炭素循環など、
    気候システムにおける過程のモデル化

  • モデルと自然における変動性の解析

本課題に関しては、河宮(地球フロンティア)から報告がなされた。本会議は米国、ヨーロッパの先端研究機関の研究者と地球温暖化予測を巡る、気候モデルの様々な問題に関して、互いの成果を交換し合う機会となった。

また本年度中は他にも、IUGG総会(2003年6月30日−7月11日、札幌)、地球システムモデリングに関する国際会議(同年9月15日−19日、ハンブルグ)、地球システムモデリングに関する日英ワークショップ(同年10月1日−3日、ケンブリッジ)といった国際的な会合において、本課題の成果が紹介された。

本年度は、当初企画した、日米気候変動研究ワークショップが行なわれなかったことや、日本―EU間の研究協力に関する会合が平成16年度に予定されていることなどから、共同で研究成果を交流しあい研究協力体制を討論するという機会はやや少なかったが、本格的な成果が出てくることが期待される平成16年度には、10月に上記のIGBP/AIMESとWCRP/WGCMの各会合および合同会合に続いて、本課題の成果など、共生プロジェクトの成果や、その他IPCCに貢献する日本の成果報告も含む国際的研究会合が企画されている。


ページのトップへ戻る