パネル討論 テーマ 「何が分かった? そして減災への課題は?」

進行

金田 義行

プロジェクト代表研究者

金田 義行
 香川大学 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 副機構長、特任教授
 海洋研究開発機構 上席技術研究員

パネリスト

プロジェクト研究者

福和 伸夫

福和 伸夫 名古屋大学 減災連携研究センター センター長、教授
<防災分野 責任者>

小平 秀一

小平 秀一 海洋研究開発機構 海域地震火山部門 部門長
<調査観測分野 責任者>

古村 孝志

古村 孝志 東京大学 地震研究所 災害科学系研究部門 部門主任、教授
<シミュレーション分野 責任者>

有識者

土井 恵治

土井 恵治 気象庁 地震火山部長

佐谷 説子

佐谷 説子 海外建設協会 研究理事
      前内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(普及啓発・連携担当)

酒井 清崇

酒井 清崇 和歌山県 総務部 危機管理局長

その他のご発言

清水 洋

清水 洋  南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト運営委員会 委員長
      九州大学大学院 理学研究院 教授

中川 和之

中川 和之 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト運営委員会 委員
      時事通信社 解説委員

金井 則之

金井 則之 日鉄テクノロジー(株) 安全防災推進部、省エネ技術総括部 専門主幹

堀 高峰

堀 高峰  海洋研究開発機構 海域地震火山部門 センター長

※その他のご発言者のうち、清水様は成果報告会閉会のご挨拶、他の3人はパネル討論の会場からのご発言です。

※所属、役職は成果報告会2月17日当時のものです。

【1.「はじめに」 プロジェクト振り返り・出来事、南海トラフ地震研究の感想・コメント】

●防災分野

福和:

図2
図2

出来事を10項目まとめました(図2)。悩みの連続の7年間だった気がします。
1.内閣府の被害予測調査
東日本大震災の後、内閣府主導で大至急の対応見直しが行われました。「想定外を無くす」ため「最大クラスの南海トラフ地震」で、強い揺れと高い津波の対策・対応で世の中が動きました。そして「国土強靭化」の施策が推進されました。
2.その延長で「津波防災まちづくり」として、国交省を中心に津波災害警戒区域が指定されはじめました。
3.一方、当初から重要視されている耐震化率については、国が定める目標値95%を下回っています。
4.産業界は、この1~2年で産業防災の取り組みやサプライチェーンの問題に対する動きが活発になっています。
5.SIP防災が大きな成果を出しました。さらに、ISUT災害時情報集約支援チームやTEAM防災ジャパン、「防災推進国民大会」など、国民運動的な活動が増えています。
6.熊本地震が発生しました。それまで考えられていなかった長周期パルスが生じて、安全だと言われていた免震構造にも問題があることが分かりました。熊本地震や北海道胆振東部地震など火山性堆積物の土砂災害の問題もクローズアップされ、南海トラフ地震では富士山周辺のそれらの課題もあらためて浮き彫りになりました。
7.北海道胆振東部地震ではブラックアウトが発生しました。南海トラフ地震における社会インフラの課題があぶり出されました。
8.警戒宣言発令を前提にした東海地震対策が根本的に見直されました。確実な予測が現状ではできないことから、これまでとは違う形となる臨時情報が発表されることになりました。しかし、これはあいまいな情報であるため、難しい問題がたくさん生じました。
9.去年は風水害が多数発生したことにより、ライフライン途絶時の問題が浮き彫りとなりました。
10.先日、確率論的津波評価結果が地震本部から出されました。この評価とこれまでの対策の在り方のギャップについて新しい悩みが始まりました。

金田:

7年のいろいろな動きを概観していただき有難うございます。

●調査観測分野

小平:

図3
図3

とりまく状況を科学的な視点で紹介します。(図3
このプロジェクトが始まる時、内閣府から最大規模の震源域が発表されました。最大規模の震源域を決めているのは何かを科学的に評価することも、このプロジェクトの目的としました。
7年間の間に、科学的な新たな知見はかなり増えて、それらを踏まえ方向性を微修正しながらプロジェクトを進めてきました。
十数年前は、南海トラフでゆっくりとしたすべりがあるかもしれないことは科学的に指摘されつつある状況でした。主として陸上の観測点を中心に、ゆっくりすべりのモニタリングをいろいろな機関が行った結果、南海トラフ地震が起きる場所の周辺では、さまざまな形でゆっくりすべりが、しかも一面に均一ではなく、ぽつぽつと、あるいは不連続に存在していることが分かってきており、このプロジェクトの間にもそれらが明確になってきました。海域でも調査をして、それを決めているのは何か?という議論を行ってきました。
海上保安庁の海底GPSの結果は、非常にエポックメイキングな結果です。均一的にべったりくっついているわけではなく、強弱が疎らにあることが観測データに基づいて示されました。
従って、南海トラフ地震は空間的に一気にずれるのではなく、性質も起きている現象も、まばらな状態なことがわかりました。
周期も一定ではなく、90~200数十年にわたって揺らいでいることも明確に示されました。南海トラフ地震を考える上で、時間的・空間的な揺らぎや不均質性などを考慮したモデルづくりを念頭に研究に取り組んできたというのがこの7年間でした。

金田:

調査観測研究では地震像を明らかにすることが大きなテーマでした。

●シミュレーション分野

古村:

サイエンスの視点というより、感想を申し上げます。
南海トラフ地震は手ごわい。過去2000年間の南海トラフ地震の歴史はわかっていると思っていました。地質史をたどれば過去4000年まで遡れる。こんなに良くわかっているところは世界にも無いというのが持論でした。研究開始当初は、「南海トラフで次にどういう地震が起きやすいか。もっと絞り込めるのでは?」と、わかっていたような気になっていました。
しかし、調べれば調べるほどわからなくなりました。
過去の地震の起き方の多様性が詳しくわかってくると「これではとうてい絞り込むことができない」と気持ちが萎えてきました。
わかったような気になっていたけど、実はわかっていなかったということが、悔しい最初の成果です。「全然わかっていなかった、もっと研究しなければいけない」「次の道があるのか、どこだ」「わからないなりに防災対応にどうつなげられるか」と模索しながら研究を進めてきました。
防災対応に向けて、科学的におかしくないシナリオ1、2、3・・といった複数の地震シナリオを想定し、幅を持ったハザード予測を行う必要があります。予測される地震の揺れや津波の高さは、シナリオ毎の違いほどは大きく開かないのかもしれません。それを明らかにして、予測の幅を狭めることが必要です。
観測網は陸から海へと広がり、観測データ解析技術が進み、南海トラフ地震が想定されるプレート境界の固着状態が詳細に分かるようになるなど、ここ数年で確実に研究が進んできました。そうなると、現在のプレート境界の状態を把握して、「今の状態で南海トラフ地震が今日起きたら、あるいは10年後に起きるとすれば、どの様な巨大地震になりうるか?」と、現状に基づき未来を予測するという、新たな研究方向性も見えて来ました。
研究を進めては、途中で行き詰まり、別の道が開けたらまた行き詰まり、そんな繰り返しだったと思います。行き戻りしながら、そもそもゴールはあるのか?この登山を続けても頂上はあるのか?と悩みながらも、とにかく前に進まなければと歩み続けた7年間でした。

金田:

有難うございます。重要なコメントですね。
プロジェクトが始まる前はみんながおそらく、「東北地方太平洋沖地震の発生帯に比べれば南海トラフは分かりやすいかな」と思っていたのではないでしょうか。これは反省点です。
そして、やればやるほど複雑性、多様性がどんどん明らかになりました。この成果発表会はどの程度の難しさで何が分かって今後何をすべきか、というところをお伝えする機会です。
三人のコメント、あるいは、トピック紹介を踏まえ、有識者の皆さんからコメントをいただきます。

●有識者コメント

土井:

図4
図4

図5
図5

南海トラフ地震は調べれば調べるほど、理解が難しいと思います。
地震予知は難しいというのが、今の共通認識です。地震活動や地殻変動を24時間監視して、地震の起こり方や地殻変動の状況を評価している気象庁としては、どのように南海トラフ地震に備えるべきかを考えていかなければなりません。
中央防災会議での「南海トラフ地震の想定震源域の中で異常な現象があったら、M9クラスの最大規模の巨大地震の可能性は言えるのではないか」という議論を踏まえ情報の体系を整理してきました。(図4図5
あくまでも「異常な現象があったので巨大地震に備えて下さい」というメッセージで、これが地震予知情報ではないことは特に強調させて下さい。
異常現象の典型例は、普段起きていないところで地震が起きたときです。南海トラフ地震の想定震源域はもともと地震活動が低いところです。M7程度以上の地震は「いつもと違う」とすぐにわかります。M8程度以上の地震が起きれば、大津波警報や津波警報を発表しますが、それだけではなく「もっと大きな地震に備えてください」というメッセージを出します。
前のプロジェクトから12年間の研究を重ねてきても、南海トラフで発生する地震の態様を把握することは難しいということがわかってきました。
さらに、「現状がどれくらい固着しているのか、どれくらい地震発生の準備をしているのか、どのように南海トラフのプレート境界の状態が推移していくのか」について、より調査研究を深めリアルタイムで把握できる手法、分析の仕方をクリアーにしていっていただけるとありがたいし、気象庁としても努力しなければならないと思っています。日々、モニタリングしている立場として、この研究成果をうまく使って「今、こういう状態になっている」と現状をしっかり伝えていけるようにしたいと考えています。

金田:

気象庁の視点でコメント頂きました。

佐谷:

図6
図6

図7
図7

図8
図8

国や自治体の取り組みを紹介します。(図6
南海トラフ法(南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法)は平成25年に成立しました。南海トラフ法に基づき、国は基本計画を策定し、推進地域を指定します(図7)。自治体はそれに基づき推進計画を策定、特別強化地域に指定された場合は(図8)、津波避難対策の緊急事業計画も作成することとなっています。さらに、百貨店等の不特定多数の人が多数出入りする事業者や、石油などを扱う事業者は防災対策計画を策定しなければなりません。令和元年5月のフォローアップ調査によると、推進地域内の都府県の全て、81%の市町村が推進計画を策定、事業者の80%が対策計画を策定しています。
この体系に大きな影響を与えたのは、平成30年12月に示された「南海トラフの異常な現象が高まったと評価されたときの防災対策の取り方」の議論です。内閣府は、令和元年5月に臨時情報が出た際に自治体や企業がとるべき対策についてガイドラインを作成しました。
さらに、令和元年5月には、これを踏まえて基本計画を大きく修正して、臨時情報が出ることに基づいた国の計画を定めました。現在はこの計画に基づいて自治体の推進計画、事業者等が作成する対策計画を改定していただいています。
このような南海トラフに特化した計画以外にも防災対策基本計画に基づく地域防災計画があり、企業でのBCP(事業継続計画)も作成しなくてはなりません。地域の住民同士が作成する地区防災計画などの草の根の取り組みも大切です。このような法体系や計画体系は、最新の科学の知見をもとに構成され、それによって社会全体の取り組みが進んでいますので、本プロジェクトで得られた新たな知見は、今後の法体系や計画体系に生かせるよう、政府に教えていただきたいと思います。さらに、福和先生がおっしゃった国民運動として防災を深め、この中に南海トラフ地震対策があると思っています。

金田:

国の視点でお話いただきました。基本計画の変更でさらに地震対策を進化しなければなりません。
そうした計画を作る立場として、また、地震津波の被害が想定される和歌山県の酒井さんからコメントをお聞かせ下さい。

酒井:

県庁職員の立場で防災に関わってきました。10年前は宝永モデルと言われる三連動地震が既往最大想定でした。和歌山県に大きく関係する法律では東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法です。
東日本大震災で大きく流れが変わり、県や市町村は対策を見直しました。明治三陸/昭和三陸地震の経験があり、南海地震、東南海地震を繰り返し受けてきた和歌山と同様に感度が高い東北地方が震災で壊滅的な被害を受けました。消防・消防団や警察などプロの方も多く殉職しました。県民の生命身体財産を守る中で、プロの方の被災も大きな課題です。
そういったプロの方の活動において津波のリアルタイム監視は重要です。このプロジェクトでもそのデータを利活用しているDONET(地震・津波観測監視システム)が、地震予知ではないものの、津波の検知や津波浸水の即時予測を可能とする夢の様なプロジェクトであると印象を持ったことを覚えています。
次に耐震化について触れます。和歌山県は津波の想定が強烈ですが、当然、津波の前に地震があるという意識をしっかり持って取り組んでいます。個人の財産に対するコントロールは難しいところもありますが補助制度もいくつも構えてきました。国の計画等も踏まえ、県の地域防災計画をもとに目標を立て、発想の柔軟性も持って取り組んでいます。

※DONETは海洋研究開発機構が開発・設置したもので、2016年4月に防災科学技術研究所に移管され、運用されています。

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【2.「何が分かったか?」 成果のまとめ、利活用について】

金田:

次に「何が分かったか」ということで、研究者からお話いただきます。今度は古村さんからお願いします。

●シミュレーション分野

古村:

図9
図9

図10
図10

図11
図11

図12
図12

以前の南海トラフ沿いのプレートの固着のイメージは、不均質な日本海溝沿いに比べてずっと均一であるというものでした(図9)。もちろん多少ばらつきはあるけれど、プレート境界は一様にべったりくっついていて、その地震発生間隔はおおよそ一定と考えられていました。

しかし、史料や地質、地震地殻観測データが集まってくると、だんだん自然現象である地震の起き方に多様性が大きい様子が見えてきました。(図10
多様性が生まれる原因として、例えば、がっちりと固着した場所と弱い固着の場所が交互に並んでいることや、プレート境界の浅部や深部で起きるスロー地震による歪みの部分的な開放、さらに、周囲で起きたM7クラスの地震による誘発で巨大地震が早期に起きてしまうことなど、有益な仮説が出され、その一つ一つについてどの程度の多様性が生まれるのかがわかってきたのがこのプロジェクトの大きな成果です。

地震発生の予測に向け、シミュレーション技術、モニタリング技術、海陸観測データ解析、震源解析から、現状のプレート境界の固着状況を詳細に理解して、そして未来を予測する。固着状態を毎日モニタリングして、異常の有無を調べ、そして次の地震の予測の方向にもっていくことが必要でしょう。あらたな知見の積み重ねにより研究方向性の転換へとつながりました。(図11図12
昭和の東南海・南海地震のあとに、プレート境界に蓄積した歪を見積もることで、次の地震の発生ポテンシャルはある程度予測がつくと思います。でも、どこから地震が始まるのか、地震が起きるきっかけの違いにより、震源そして地震規模は大きく変わります。ですから地震シナリオは1つに絞れません。
幾つか可能性の高いシナリオを立て、そして科学の知見でシナリオを絞り込んでいき、起こりにくいものは除いた上で、それぞれに対して地震の揺れの強さや津波の高さを予測する。シナリオを絞り込むことができるようになったことも、このプロジェクトの成果です。
DONETなど海底ケーブル観測の整備と、地殻活動のモニタリングシステムの実現に向けた解析技術の進歩により、南海トラフ地震の震源域で起きた地震のメカニズムをしっかり理解して、その余震分布の広がりや地殻変動の推移を調べて、大地震への推移予測が可能になろうとしています。また、現在の緊急地震速報をいっそう強化して、「こういう揺れが、こういう津波が何分後に来る」という警告が、リアルタイムの観測データと高速計算に基づきできるようになると思っています。そのための基礎開発の道筋もつけられたと思います。

金田:

モニタリングと推移予測がキーワードですね。ベースとなる基盤情報を提供する調査観測研究を行っている小平さんのご意見をお聞かせ下さい。

●調査観測分野

小平:

図13
図13

古村さんの言われたように南海トラフの固着がべた一面ではなく、時間的にも空間的にも揺らいでいることがわかってきました。(図13
南海トラフだけではなく南西諸島までの震源域拡大の検証も一つのターゲットでした。南西諸島における地下の構造探査や、日向灘から南西諸島北部にかけてゆっくりとした地震のモニタリングを行いました。その結果、非常に周期の長いゆっくりとした地震が、南海トラフの南西側の日向灘の沖合で発生していることが見えてきました。この領域はプレートとプレートがガチっとくっついているのではなくて、時々ズリズリと滑る領域が日向灘に続いています。南海トラフと日向灘は固着状況が違うことを示唆する一つの情報です。南海トラフと南西諸島との連動、あるいは南西諸島への拡大を考える上で重要な物理情報、物性情報になることがわかってきました。
また、地質痕跡の調査からは地震の繰り返し周期は数百年規模ですが、100~200年といったものではなく地域によってばらついていることが見えてきました。津波痕跡の調査からは南西諸島までの大連動を示す明瞭な地質学的な情報は今のところ確認できていません。

この結果から、南海トラフ地震は一様に起きているわけではないので、比較的同じ周期で繰り返し地震が起きることを基にした将来予測は十分ではないと分かってきました。
気象庁の土井さんからも、南海トラフの固着状況の理解と推移の予測が重要であると発言がありました。過去の起き方だけではなく、モデルと観測データに基づいた現状評価と推移予測が必要です。

図14
図14

この先のやるべきことは、どうプレートがくっついているか、今どうなっているか、それがどう推移していくかを知ることです。(図14
そのために作る手法は3つです。
・海底の連続的なリアルタイム地殻変動観測と断層のゆっくりとした動きをモニタリングするシステムを作り上げる。
・それらのデータを使うための現実的なモデルを作り上げる。
・この2つを使ってプレート固着の現状評価・推移予測の手法を開発する。
モデルと観測データから今の南海トラフの現状を理解し、その後の推移を予測する研究が必要なことが明確になり、プロジェクトで議論して成果をまとめあげてきました。 例:前半のトピック紹介の仲西さんのモデル堀さんの推移予測の手法開発

この手法を使ってすることは、推移予測を行う一つのシステムを作り上げるということ、さらに重要なのは、海底地殻変動データをリアルタイムできちんと取得していくこと、それらを使って堀さんが紹介した三次元モデルを導入したシミュレーションを行うことです。
これらを行うことで今まで出来なかったプレート固着の現状評価、推移予測といった情報を提供していくことが可能となり、臨時情報に対する情報提供が即時的に可能になります。

ゆっくり滑りの場所と進行状況、半割れの時に残り半分がいつ割れるか、どこが割れるか、どの様な地震動が起きてどの様な津波が来るかなどの有益な情報がだせるようになることが期待されます。このプロジェクトではその一部を構築することが出来ました。

過去の発生の仕方に頼ってはいけないと言いましたが、過去の履歴にもとづき発生の仕方を定量評価することはモデルの拘束条件になるので非常に重要です。宍倉さんの紹介にもあったとおり時間の情報を広域的にきっちり入れていくことがこのプロジェクトによって出来るようになりました。
それは今後も続ける必要があります。このプロジェクトではありませんが、最近、東海沖で40mくらいの非常に長いサンプルが採取でき、過去4万年にわたる地震の履歴が地層の中に残っていたことがわかりました。シミュレーションの時間の拘束条件としてインプットすることで臨時情報に資する推移予測に対する新しい方向性が今後出せると思います。このサンプル採取により履歴の重要性が示されたと言えます。

金田:

今後の課題までお話いただきました。理学のお二人の話について、「活用したい」とか「ここが課題」といったコメントを気象庁の土井さんからお願いします。

●有識者コメント

土井:

南海トラフの想定震源域の普段の状態を把握するうえで、お二人がおっしゃるとおり、しっかりとしたモニタリングによる現状把握とその現象の推移を予測することが基本中の基本です。それらの高度化精緻化をひき続きやっていっていただきたいと思います。
とらえた現象が持つ意味の見極めがとても大事になります。一過性で取るに足らないものなのか、次の大きな現象の前触れ、あるいはきっかけとなる現象をとらえたのか、という見極めが、今はあいまいで不確実なので、監視して評価している立場としても非常に緊張感を持っている状況にあります。
例えば三重県南東沖で2016年4月に起きたM6.5の地震が与えるプレート境界への影響を、発生後の短い間にしっかり評価できていなかったので、それらが徐々にできるようになると期待しています。

金田:

臨時情報の運用は今後も続くのですから、進化していくことは極めて大事ですね。
次は福和さんから、防災・工学的な成果とコメントをお願いします。

●防災分野

福和:

図15
図15

耐震工学の始祖のような方である佐野利器先生のお言葉です(図15)。「建築技術は地震現象の説明学ではない。現象理法が明でも不明でも之に対抗するの実技」
私が感じているこのプロジェクトの立ち位置です。臨時情報の話が出てきたときに私達が感じたことだと思います。やればやるほど、わからないことが出てくるという一方で、少しでもその成果を災害被害の軽減につなげなくてはならないということです。それができないと国が主導する防災プロジェクトとしてはまずいので、理学系のアウトプットを受けてから動くのでは南海トラフ地震対策としては間に合わないのであれば、ある程度割り切って進めるしかないと思い始めています。

図16
図16

防災分野の研究は、従来と違うこととして、
・地震の多様性を踏まえながら、多面的なシナリオを用意し、
・将来予測の中で研究のアウトプットを見せ、
・起きてからでは間に合わない、やるのは今だと社会に伝えること
を心がけてきました。特に広域被害評価の取り組みのところです。(図16
東日本大震災のあの被害を見て、同じことを南海トラフで繰り返さない、人口も多いし震源との距離も近く揺れも大きい、経済も含めて国家を維持するために出すべきアウトプットを工夫することを念頭に取り組んできました。
藤原さんの紹介にあった広域リスク評価は将来人口や将来の家屋の耐震化状況を踏まえて行っています。ただ、耐震化率については本来なら95%になっていなければならないのに、実際は85%程度ではまだ十分でないと思っています。当初は建物寿命が40年と見積られていたのが不景気と重なり60年となり、その差の20年に対する耐震改修の不足などが原因だと思います。そうした肝心なところを知っていただくためにも将来予測が必要でした。

二つ目は自治体が防災対策に資することができるアウトプットを出すことです。今までの被害予測はマクロの統計量に基づいていたため、どこをどう対策したらどう被害が減るかという効果を見せられなかったと思っています。これでは具体的な対策が進むはずはありません。
統計的な手法ではなく個々のモデルを組み立てて具体的なデータをインプットして、自治体の全ての部局と当事者意識をもって実践したのが先ほど野田さんが紹介されたミクロなことの積み重ねで全体を繋げて被害予測するという手法です。自治体が丸ごと対応してくれない限り出来ないのですが、そういうことが愛知県碧南市できたのは一つの成果です。
その結果を踏まえながら事前復興計画の話を持ち込みます。土地利用の見直しまで議論が及んだということで、研究成果を施策に展開し、具体的なアクションに繋げる道筋をこの7年間で出来たのではないかと思っています。

この様な取り組みを地域のステークホルダーの人達にきちんとわかってもらうために地域研究会を非常に丁寧に実施し、併せてそれらを広く伝えるために情報提供を行ってきたというのが防災分野の主たる流れになります。

図17
図17

こうしたことを重ねることにより徐々に仲間が増え、同時にマクロで見ていたらわかっていなかったことがミクロで見てくると我々がやっていた被害予測はまちがいだらけであったということがわかってきました。
工場は電気、ガス、水道がないと動きません。たくさんの部品が正常に稼働している多くの関連会社から、維持された物流で届かないと生産が出来ません。海外とつながりがあれば港や海路も健全でなければなりません。これまでの被害予測は揺れに対する被害の割合だけで評価していたことが多いと思います。問題個所を考えて複数のシナリオで細かく(ミクロに)分析することで対策が見えてくることがわかりました。
あらゆる基礎をなす社会インフラとして製油、ガス製造、発電、鉄鋼が同じ臨海地域にあるとします(図17)。ここに工業用水が届かなくなるとすべて止まります。このようなシナリオも残念ながら従来の被害予測では考えられていませんでした。その水も、工業、農業、飲料用はそれぞれ別の河川から取水して、様々な管轄で様々な省庁が関わっていることを当該自治体の担当も理解していませんでした。いろいろなしがらみが潜在化しているのに、それらが明確に理解されていない状況もわかりました。社会の構造を理解せずに被害予測をしていたことを反省しなくてはなりません。こうした間違いに気づいたことがこの7年間の最大の成果だと思います。
さらに、その様なコミュニケーションのベースとなる成果をアウトプットすることができるようになったからこそ、具体的な対策に繋げられるようになったと思っています。

金田:

厳しいコメントも激励と受け取っていただければよいと思います。和歌山県の酒井さん、行政の立場でコメントはございますか。

●有識者コメント

酒井:

耐震化が大事なのはわかっています。和歌山県では議論を重ねた末、対策の進め方は、まずは人間の体のまわりから始めようとしました。例えば、寝ている時間が一番長いので寝室の対策を進めましょう、家具を固定しましょう、といったところからです。いろいろ指標がある中で、耐震化とともに家具の固定やブロック塀の安全対策の方も大きな指標としています。耐震化よりそれらの方が大事と言っているわけでは決してありません。防災対策で安全レベルを上げるためには総合的に取り組むということです。

福和:

建物が壊れることで避難や救助を妨げてしまいます。ここ最近、耐震化が一気に進んだ県もあります。このことはとても大切なことなので、先ほど発言させていただきました。

金田:

愛知県の西三河地方の碧南市でのケーススタディは、総合的に防災分野の様々な成果を組み込み、南海トラフ地震が起きた時に何が起きるのかを示し、具体的な対策の仕方や課題をあぶり出したことは非常に重要なポイントだと思います。次のポイントは水平展開で、いろいろな自治体と連携していくのが大事だと思います。
次は佐谷さんから、国の視点で理学、工学の研究についてコメントはありますか。国としてどのような活用があると感じていらっしゃいますか。

●有識者コメント

佐谷:

一般論になってしまいますが、科学の進歩によって国の政策も変化しています。最初は東海・東南海・南海地震だったのが南海トラフ地震になりました。大震法も確度の高い予測・予知はできないということで体系が変わりました。政策は常に変わっています。
関係している自治体や企業の方々はそれで動いています。いかに南海トラフが多様であるか、どのような体系にすると多様な南海トラフに対する対策としてよいかということを考え変えていかなければなりません。研究側から常に警鐘を鳴らし続けていただきたいと思います。
計画の体系は、国・都道府県・市町村、あるいは事業・企業という個々の組織が中心になっています。体系によっては自治体間連携や企業間連携など主体の変更があった方がよいかもしれません。科学の進歩の中で、その様なご提言をいただけると、様々な場面で効いてくると思いました。
もう一つ付け加えさせていただきます。日本学術会議のなかの防災減災に関する国際連携の在り方を検討する委員会で、防災に関する学問の知識を集約して実践に移すために、学者がどうあるべきかを議論しています。そこでは、政策立案者や産業界と学術界の間を走り回り、懸け橋となるような学者が一つの理想像とされました。地域研究会は走り回る学者の非常によい例だと感じています。地域に必要とされている行政や企業に対して、常に先生方から情報提供し続け、それが実践に結びついています。今後は地方の大学、地方の研究機関とのかかわりも大切になるのではないでしょうか。

金田:

サイエンスの成果は国の方針に影響し、自治体や企業の現実的な取り組みにもかかわってくることをお話いただけました。国際的にも、防災教育や防災研究成果の実装に関する議論は、これからさらに重要なポイントになるでしょう。
また、地域研究会が走り回る研究者のよい事例と評価いただけたことは非常にありがたく、うれしく思います。このプロジェクトが終了しても、走り回る取り組みは継続しなければなりません。

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【3.「今後の減災への課題と期待される研究成果」】

金田:

今後の課題と期待についてお願いします。今度は有識者の皆さんからご発言下さい。

●有識者コメント

酒井:

図18
図18

当県は気象業務法上の許可をいただき、DONET1とDONET2を利用して、津波の予報業務を独自に行っています(図18)。具体的には、基礎自治体や消防、警察には浸水予測情報の提供、県民や県内に来ている住民には県として緊急速報メール・エリアメールを出すようにしています。津波を観測すると観測情報として発信されます。全国初であることはもちろん、世界にもこの様なシステムは無いでしょう。南海トラフ地震研究の成果として画期的なものだと思います。

金田:

気象業務法のお話も出ました。気象庁の東海沖のシステム、DONET、文科省が防災科学技術研究所に委託して構築を進めているN-netで南海トラフのモニタリングができるようになります。四国の西側や九州でも、いずれこれらの情報が利用できるようになります。土井さんからコメントはございますか。

●有識者コメント

土井:

このプロジェクトの観測調査、シミュレーション分野の成果からどう被害想定をするのか、被害想定から減災対策をどうするのか、プロジェクト内では形になっていると思います。気象庁としても関係を深めていきたいと思います。
現状を理解してそれを噛み砕いて世の中に伝えていくことが気象庁の仕事だとすると、やはり理科的な部分がさらにレベルアップすることが必要であり、それを目指していただくことを期待します。
シミュレーション分野ですと、天気予報ですでに導入されている何通りか計算して妥当なところを見極めて精度を上げていく方法(アンサンブルカルマン)が、地震のシミュレーションにもどれくらいの能力を発揮できるのか、そこを高めていただきたいと思います。同様に気象の世界では導入されているデータ同化が地震活動あるいは地殻変動の世界にしっかりと導入できるようなシステムになれば、予測の見通しの精度があがると思っています。
計画の体系は物事の理解がもっと進むと変わっていくと思います。変えていけるような研究成果を期待したいと思っています。

金田:

予測研究手法としてアンサンブルカルマンは試行実験としてできるだけ早めに行っては如何でしょうか。会場の堀さん、コメントはありますか。

堀:

試行実験はやっていきたいと思います。誤差などを定量的にきちんと評価しながらやっていかなければなりません。確からしさがどれくらいかわからないのは、試行であっても望ましい姿ではないので、きちんと並行して進めていきたいと思います。

金田:

気象庁は推移予測とか臨時情報の高度化に関する成果を期待していますが、国の視点では如何でしょうか。

●有識者コメント

佐谷:

直接被害のみならず、経済的な被害など間接的被害がどのようなものになるのかは、プロジェクトのなかでも議論されていましたが、把握が特に難しいかと思います。被害の範囲や被害の内容が分からなければ、対策が出来ないという声が聞こえてきます。
福和先生ご指摘の「これまでの被害予測はマクロであり、ざっくりした数字だけでは対策に結びつかない」というお話はまさにおっしゃるとおりと感じています。
碧南市で実施されている取り組みはこれからも行っていくべきで、手法として定石のようなものになるととてもよいと思います。一週間の避難による間接被害など、一般住民のみなさんもモヤモヤしています。碧南市で取り組んでいるような事例があれば、自治体や住民の皆さんのブレーンストーミングが出来、それはとても重要なことだと思います。
国が行うことは、全体として理解できる合理的な結果や全体としての配慮になってしまいます。自治体の足元で何が起こっているのか、やはり地元の方がよくわかっていると思います。

金田:

やり方が重要ですね。他地域への展開は楽になります。でも、福和さんとも話していますが、その様な‟レシピ“を作るのはそれぞれの地域特性があり難しいのです。

●防災分野

福和:

図19
図19

臨時情報は受け手の問題も極めて大きいでしょう。ここでは課題を3つ示します(図19)。
・海抜ゼロメートル地帯をどうするか。
地震動で破堤すればあっと言う間に浸水します。そして長期湛水となります。避難の対象地域にするための議論がまだです。
・浸水する場所に何があるのか。
長期湛水するような場所はいったん湛水したら非常にやっかいです。例えば、そこにある病院がどうなるかなど個別具体に考えていかなければなりません。
・耐震化について
事前にやっておくべきことはほぼ完璧にやっておかないと臨時情報が出たときに国が破綻していくような気がしています。例えば、怖くてエレベーターすら乗れなくなるかもしれません。覚悟を持って臨時情報とつきあっていけるのか問われるのだと思います。

図20
図20

臨時情報の対応を考えるにあたって、その時に社会がうろたえないために事前対策をするという方向に持っていくしかないと思います(図20)。対策や対応について、過度な責任を取らされたり非難される怖さが大きくなると、それを実施する側は動けなくなるので、折り合いのつけ方を一緒に考えておかないと、科学的成果を活用できない形になってしまいます。科学を受け止められるような社会にするためにどうすればよいのかしっかり考えないといけません。社会もいっしょに考えないといけません。経済界では当事者意識をもってすでに動き始めているところもあります。そういった連携は極めて重要でしょう。
相手のことだけでなく、自分の事も知っておかないと対策は進みません。でも暗くならず「災い転じて福となす」「為せば成る」の考え方です。このプロジェクトの運営委員会の中川委員がよくおっしゃる言葉で「一人の百人力から百人の一人力」があります。一人の百人力は東京一極集中の例えです。そうではなく、先ほど佐谷さんがおっしゃったように日本中が一緒に頑張るというスタイルで地方の力を上げていかないと、南海トラフ地震の減災は進まないと思います。このように考えを変えていくきっかけが今回の成果だと思います。

●調査観測分野

小平:

実際に南海トラフで科学的な観測をしている者にとっては、先ほど申し上げたとおり現状評価、推移予測をきっちり行うシステムづくりとデータの創出がこれからやらなければならないことであると思っています。土井さんからの期待も寄せられました。
ただ、福和さんが言われたように情報を作る側、伝える側、使う側がしっかり連携していかないと、臨時情報が出ても混乱するだけだと強く感じています。走り回る研究者として、作る側が使う側の求めを理解して議論をしていく必要があるでしょう。
このプロジェクトの前のプロジェクトから進めてきた地域の連携は非常に重要です。今後の事業や様々な計画においても同様です。例えば企業が何を求めているか理解した上で情報を作っていかないと、情報の一人歩きになってしまうかもしれません。
また、マスメディアの皆さんを始め、情報を伝える側の役割も非常に重要だと思います。伝え方によっては混乱を招いてしまうかもしれません。繰り返しですが、三者がきちんと連携することがポイントです。

●シミュレーション分野

古村:

二つあります。
一つは南海トラフ地震臨時情報について。いわゆる一部割れと呼ばれるM7クラスの地震が南海トラフで起きて臨時情報が出た時、初めて出された情報で社会が混乱することを心配しています。この情報が出てもおそらく数十回に一回しかM8クラスの南海トラフ地震は起きないと思います。でも、いつもとは状況が変わった。平常時より危険度が高まったので注意しろと出される防災情報です。これをどう適切に扱ったらよいのか。小平さんがおっしゃるように、防災情報を作る側と伝える側と使う側が、情報が持つ意味と影響を理解し合うための話し合いが必要です。私たち研究者はその努力をしなくてはなりません。M7クラスの地震は、最近を振り返っても、2004年に紀伊半島南東沖で3つ連続して起きた地震、駿河湾で2009年に起きた地震、三重県南東沖で2016年4月に起きた地震など、臨時情報の対象となる可能性の高い地震がけっこうな割合で起きています。地震の発生頻度からすれば、それほど遠くない時期に最初の臨時情報が出る可能性があります。対応は、遠い先のことではなく急がないといけません。
二つ目は、福和さんのお話にもあった、住宅の耐震化が進んでいないことです。その原因の一つとしてM9の東北地方太平洋沖地震の際の揺れが、過去のM8級と較べてそれほど大きくなかったことが影響しているかもしれません。M9地震でもあんなものかという誤解です。東日本大震災から学ぶべきことがたくさんありますが、揺れに関してはそのまま受け止めてはいけません。あのときの揺れは、南海トラフ地震には当てはまらない。昭和東南海・南海地震を思い出し、強い揺れが起きることを認識しなければいけません。津波対策だけに意識が行きがちですが、最初に強い揺れが来て長く続きます。津波避難の前に建物の下敷きになったら津波避難どころではなくなります。そこはしっかり強く発信していかなければなりません。

金田:

重要なお話です。津波が来る前に地震で揺れます。耐震化だけでなく、液状化の課題も避難において忘れてはいけません。
さて、企業の視点から地域研究会にずっとご参加いただいていた会場の金井さん、このプロジェクトの成果やこの場の議論について、ご感想をいただけますか。

●企業からのコメント

金井:

地域研究会には当初から参画させていただき、有益な情報をたくさんいただきました。その情報も参考にしながら耐震補強と津波対策は、目途がついたと言えます。
さて、現在悩んでいることは、最大級のM9でBCPを考えると1000年に一度来るレベルに対して難しい経営判断が必要になることです。可能なら次の地震の規模が知りたい…ということは無理だとわかっています。そのような状況でも、例えば既往最大の地震である宝永地震を基準に位置付けるのか、最大級でBCPを用意するのかといった経営判断ができる情報を提供いただけるとありがたいです。複数のシナリオから選べるような研究を期待します。

金田:

こちらも重要なコメントです。東日本大震災の直後は最大級のレベル2の地震に意識が行っていました。しかし、レベル1かレベル2かという単純なものではなく、その間のレベルを想定しなくてはならないのかもしれません。そうした議論が無いと備えを進めることは難しいと思います。
情報リテラシー、リスクコミュニケーションの観点で、本プロジェクト運営委員の中川さんからもコメントをいただけますか。

●運営委員からのコメント

中川:

このプロジェクトの地域研究会は、前のプロジェクトと合わせると12年続けてきました。福和さんが紹介されたように、東京でまとめて発信する大きな研究成果だけでなくて、ローカルで地域特性を持った課題に地域の自治体や企業と向き合ってきたと思います。それらによってシナリオの提供が可能になってきたことも知っています。地域や企業と向き合ってきたことが、さまざまなことを想定したガイドライン策定にも資されてきました。研究成果がそうしたところに反映させられる可能性が出てきたことが凄く大きな成果だと思います。
ただ、マスメディアの一員として感じることは、成果の伝え方において、成果や研究者の発言がマスメディア側の演出次第で、成果や研究者の発言として伝えるべきことが伝わりにくくなってしまうことです。一方で、それぞれの地域や関係業界では、ニュースにはならないけれど地道に関係者と対話しながらきちんと進めて、一つ一つ実現していることがあります。想定などの確率の話は、自治体にとっては扱いが難しい部分かもしれません。でも、みんなで一緒になって対話していけば、立場上白黒はっきりつけたがる傾向にあるマスメディアも、一般社会にも理解が進むのではないでしょうか。みなさんで実績を積み上げいくことで、社会全体が向上していくと思います。

●プロジェクト代表のまとめ

金田:

このプロジェクトでは、多様性や複雑性、あるいはリアルタイムの重要性に向き合い、社会実装のための具体的なケーススタディを行ってきました。南海トラフ地震が起こったら何が起こるのか?対策はどうするのか?という課題に対して、地域の皆さんと一緒に取り組んできました。
サイエンスの進展と社会への具体的な実装は、サイエンスの進展を待っていられないと福和さんはおっしゃいました。その通りだと思います。同時並行的に行うしかありません。リアルタイムのモニタリングなどから臨時情報の考え方、扱い方、対応の仕方を進化させて行きます。総合科学として南海トラフ地震の被害軽減や地震津波研究が進み、これまで以上に科学が国の方針を動かすようになっていければよいと思います。
委託研究の機会を提供いただいた文部科学省含め全ての関係者の皆様に、この7年間のお礼を申し上げます。

●運営委員長のコメント・挨拶

清水:

南海トラフの理学的な多様性は近年指摘されており、調べれば調べるほど分からなくなるという声も聞かれます。でも、その多様性を生む原因や実態はかなり詳しく分かってきたと私は思っています。シミュレーションも非常に進歩しています。ただ、多様性が分かってきたために、そうした様々なシミュレーションの連携によるアウトプットは、これからになっていると感じています。それらの土台は出来上がってきました。あらためてスタート位置に立ったと私は思っています。
地域連携の減災研究についても、7年間悩みの連続だったそうですが、精力的に取り組まれました。モデル地域では具体的に細かく調査研究をされ、新たな課題があぶり出される度に驚きの連続でした。そのような多くの課題を分かりやすく指摘されたことは大きな成果だと思います。
たくさんの成果をあげた本プロジェクトは今年度で終わります。何等かの形でこの様な取り組みを継続する必要があります。研究者の努力はもちろん必要ですが、国の支援、自治体等の協力も不可欠です。みなさんにそのことをお願いして、取り組みが今後も続くということを期待しています。

おわり

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