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アウターライズ地震に備える

活動状況

令和元年度(2019年度)

これまでに作成した震源断層マップを用いて津波評価を進めた。この際、断層マッピングで同定した33本のアウターライズ断層から発生する津波の予測実験を以下の条件で実施した。33本のアウターライズ断層は、海底地形の凹凸から確認される断層端点を結んで、それぞれ1枚の矩形断層で近似し、断層長と走向は定義した。断層の上端深さは全て海底下0.1km、傾斜は60°、すべり角は270°とした。アウターライズ地震のスケーリング則を使って、全断層長(L)からMwを求めた。断層幅(W)は地震発生層の下端に達するまでは L=W で与えることとしたが、地震発生層(厚さ40km)の下端に達した場合はそこまでとした。すべり量は断層面積とMwから求めた。実際のアウターライズ地震はこれら想定断層の断層パラメータと完全に一致するわけではないので、各種パラメータを変化させた計算を実施し、最大津波高の予測のばらつきを評価した。この結果からDARTブイ観測点やS-net観測点での計算津波波形評価し、分散性の効果でアウターライズ地震の津波波形は大きく変形する可能性があることを確認した。さらに、海岸周辺の津波挙動の予測精度向上を目的として、既存の検潮所、GPS波浪計、S-net水圧計位置での津波時系列波形を出力した。断層モデルから計算される初期水位分布、最大津波高分布データも出力した。
更に、これまでの成果を取りまとめた論文発表を行うとともに、本研究で得られた断層パラメータを含む断層情報、津波計算結果をデータベース化し公開した。



平成30年度(2018年度)

【地下構造探査】

宮城沖から茨城沖にかけての日本海溝域で、アウターライズ潜在断層マッピングのための稠密反射法探査(KM18-06)を実施した。10本の測線でデータを取得し、本研究に必要な反射法探査データの取得を完了した。福島沖アウターライズ域では、40台の海底地震計を用いた速度構造探査も実施した。これまでに取得したデータの解析から、日本海溝アウターライズでの断層分布、断層傾斜等の断層マッピングの為の基本情報を取得した



【地震観測】

前年度に宮城県沖のアウターライズ海域に設置した海底地震計10台を7月に回収した。2017年9月から宮城沖で実施した観測も含め、複数のM6クラスの正断層型地震とその余震活動が観測され、アウターライズの複数の正断層が連動して活動している様子が捉えられた。また、2011年以降に日本海溝アウターライズで行われた海底地震計観測で得られたデータを統合解析し、海洋性マントル内の速度構造不均質が大規模なプレート内正断層の分布と対応する可能性を示した。



【断層マッピング】

上記、構造探査、地震観測の結果、および海底地形データを用いて、アウターライズ地震の潜在震源断層のマッピングを進め、津波解析に用いる作業用断層マップを作成した。



【津波解析】

作業用震源断層マップを基に対象海域におけるアウターライズ地震の断層モデルを構築した。構築した断層モデルの数は9本である。それらの断層モデルを用いて津波を計算するとともに、断層パラメタや津波計算手法の最大津波高に対する感度解析を行った。



平成29年度(2017年度)

【解析の進捗】

日本海溝域でこれまでに取得した構造探査データの解析を進めるとともに、千島海溝域の結果と比較検討を行った。その結果、両海溝域でアウターライズ断層の分布パターンは非常に似通っているが、発達度合いには顕著な違いがあることが明らかになってきた。千島海溝域では過去に海嶺軸周辺で形成された地震断層がアウターライズ断層として再活動している一方、日本海溝域では新たにアウターライズ断層が形成されている。この断層種別の違いがアウターライズにおける断層の発達度合いを支配している可能性がある。
また、地殻構造探査や自然地震観測の結果を参考にして、断層長60~240kmの9つのアウターライズ断層の海底トレースを作成し、その情報を基に津波波形データベースの構築に向けて津波の試計算を実施した。



【地震観測】宮城沖

2011年東北地震後、繰り返しOBSを用いた地震観測を実施することでアウターライズ地震活動の時間変化も追っている宮城沖の海域に35台のOBSを設置し(9月、YK17-19航海)、約半年後の2018年2月~3月に回収した(YK18-02航海、傭船航海)。解析は次年度、4月以降に開始する予定である。



【地震観測】福島~茨城沖

前年度に福島~茨城沖アウターライズ海域に設置した34台のOBSを7月に回収した(KR17-10航海)。観測期間は約4か月である。解析は順調に進んでおり、暫定的な震源分布はこれまでの観測と整合的な様相を示している。



【構造探査】宮城沖〜福島沖

5月から6月にかけて、2011年東北地方太平洋沖地震でもっとも地震時滑量が大きかった日本海溝域中部・宮城県沖の海域において、稠密反射法構造探査を実施した(KM17-05航海)。海況に恵まれ、6本の調査測線にてアウターライズ潜在断層マッピングに資する反射法データが取得できた。さらに、そのうちの1本の調査測線では、2㎞間隔で40台の海底地震計(OBS)を設置して屈折法探査も実施した。このOBS探査測線は前年度までの調査で単成火山群の影響で構造変質が生じている可能性が明らかになってきた海域に位置しており、アウターライズ断層活動による影響と火成活動による影響の違いを明確に把握することを念頭に、波形解析も適用可能な稠密さでOBSを設置観測した。


平成28年度(2016年度)

【解析の進捗】

宮城沖の日本海溝域で2015年度に実施した地下構造探査データの解析を進めた。その結果、アウターライズ域に多数の単成火山(プチスポット火山)が位置している海域では、最浅部の堆積層が薄くなっている一方でその直下の地震波速度が低いことが分かってきた。岩手県沖などにおける反射法探査や掘削研究の過去の成果を合わせて考えると、最近の火成活動により古くからある遠洋性の堆積層が損なわれた、または変質した可能性も考えられる。このような変質した構造の存在は、アウターライズ断層の発達域を海洋プレートの構造変化から推定する上で、十分注意すべきものである。
 三陸沖の観測で得られたデータの詳細な解析の結果、深さ40km付近まで正断層型の地震が発生しているのに対し、深さ50km付近では逆断層型の地震が発生していることがわかった。震源分布も合わせて考えると、深さ40km付近まで達するやや高角な正断層がアウターライズ地震の震源モデルとして示唆される。



【地震観測】福島~茨城沖

 3月に日本海溝南部の福島~茨城沖アウターライズ海域に35台のOBSを設置した(KR17-04航海Leg2)。OBSの回収は次年度(2017年7月、KR17-10航海)である。



【ワークショップ】平成28年度 日本海溝研究ワークショップ

日程:2017年3月21日(月)〜22日(火)
場所:東大地震研1号館2階セミナー室
主催:科研費 32課題(代表者:小平秀一、日野亮太)
趣旨:2011年東北地方太平洋沖地震は日本海溝の海溝軸まで大きな地震性滑りが生じたことが大きな特徴の一つであった。この地震の発生を受けて、日本海溝の海溝軸周辺とアウターライズ海域を研究ターゲットとした2つの科研費研究が平行して進行している。本ワークショップでは、二つの科研費研究で得られた最前線の成果を共有することを目指す。



【構造探査】福島沖

 年度末の2月~3月、福島沖アウターライズ海域において、正断層発達域同定のための大規模地震波速度構造探査を実施した(KR17-04航海Leg1/Leg2)。本調査は日本海溝南部アウターライズ海域における初めての大規模地震波速度構造探査である。日本海溝北部と違って、日本海溝南部の太平洋プレート上には巨大な海山が多数存在する。本調査測線は、海山の存在がアウターライズ地震の活動に与える影響を評価することも目的の一つとして、比高3000mにも達する巨大な海山を横切って設定した。海況に恵まれず調査データは計画の半分程度しか取得できていないが、海山近傍でも正断層がよく発達していることを示唆する結果が得られている。



平成27年度(2015年度)

【シンポジウム】

Symposium on Subduction zone earthquakes in Nankai Trough & Japan Trench
日程: 2016 年 2 月 12 日(金)〜14 日(日)
場所: 東大地震研1号館2階セミナー室
主催: 科研費 3 課題(代表者:木村学、小平秀一、日野亮太)・東大地震研(世話人:木下)
趣旨 南海トラフ・日本海溝における地震発生帯掘削や海底地震・測地・コア試料観測結果など基礎に、人類の生存や社会生活に多大なる影響を及ぼす、海溝型巨大地震発生メカニズムについて、国内外の地震学・地質学・測地学・熱水理学・地球化学等研究者による 最新の成果発表や今後の展望に関する議論を行う。このため、現在平行して進行している 科研費 3 課題との共同開催とし、研究の最前線の情報共有を行う。 研究者・学生の参加を広く歓迎する。



【地震探査】宮城沖

2011年東北地方太平洋沖地震でもっとも地震時滑量が大きかった日本海溝域中部・宮城県沖の海域において、正断層発達域同定のための大規模地震波速度構造探査を実施した(KR15-07航海)。本調査測線は、海溝軸付近で実施した既存の構造探査(H26年度にドイツの研究機関GEOMARと共同で実施)測線をアウターライズ域に延伸したものであり、既存データとあわせてアウターライズから日本海溝にかけての大局的な構造変化をイメージングすることを目指して解析を進めている。暫定的な結果として、海溝軸から150 – 200km付近から地殻のVp/Vsが上昇し、地殻・マントルのP波速度構造が低下する傾向が見えてきた。これは、アウターライズ域でのプレートの折れ曲がりに伴う正断層の発達により、その正断層に沿って地殻・マントル内に流体が入り込んだことを示唆している。



【地震観測】三陸沖

1896年明治三陸地震(津波地震)ならびに1933年昭和三陸地震(アウターライズ地震)の震源域である日本海溝北部三陸沖において、超深海型地震計8台を含む35 台のOBSを使用し、地震観測を実施した(OBS設置6~7月、NT15-10航海、OBS回収9月、KY15-14航海)。得られたデータの初期的解析から、多くの震源は折れ曲がり断層の発達による海底の崖地形に沿うように起きている傾向が見えてきた。