深海の土砂から大昔の地震と津波を解き明かす!
台湾の大地震をきっかけに海洋研究の世界に
- ションさんは熊という字なんですね。
- はい。私が生まれた台湾の名字です。クマさんと呼んでもいいですよ。
- 小学生のころはどんな子どもでしたか?
- 私は大学院を出るまで台湾で育ちました。子どものころは本やマンガを読むのが好きで、静かな性格だったと思います。大学1年生のとき大きな地震が真夜中に起きました。台湾921地震と呼ばれる大地震で、震源地に近かった集集という場所は震度7。台湾の歴史上もっとも大きな地震でした。この災害を経験したことで「自然災害に関係した仕事をしたい」と思って、地球科学の勉強を始めました。
- 大学生になってから将来の夢を決めたんですね。
- はい。もともと勉強はあまり得意じゃなくて成績はずっと普通でした。「研究者になりたい」と決めたのも遅かったけれど、本当になりたかったから、毎日コツコツ勉強をがんばって大学院を卒業して、日本に来たんです。
- 外国に出て仕事をすることは怖くなかったですか?
- ぜんぜん怖くなかったです。海はグローバルなものですから、いろんな国の研究者と協力することが大切です。だから早く外国に行きたいと思っていました。JAMSTECは世界の最先端の研究所で、すごい研究者が集まっています。私は天才ではありませんが、コツコツタイプの研究者も必要です。毎日勉強させてもらいながら、がんばっています。

深海のコアに刻まれた地震・津波の跡
- 今とりくんでいる研究について教えてください。
- 専門は堆積地質学(たいせきちしつがく)といって、海の底にある石や砂、泥をとってきて、それがどこから来て、どのように積もったのかを研究する学問です。海の底を掘って採った石や砂、泥のかたまりはコアと呼ばれ、たくさんのことがわかります。私が注目しているのは地震性タービダイトというもので、土砂災害が起こり、あまり固くない土砂が海底へと流れた(混濁流(こんだくりゅう))跡です。これは大昔の地震や津波を知る手がかりになるんです。
- どのくらい昔のことがわかるんですか?
- 地震計のような機械のない時代の記録は書物から調べられてきました。日本のいちばん古い地震の記録は日本書紀にのっている684年の白鳳地震です。でも私たちが日本近海の琉球海溝、南海トラフ、日本海溝、千島海溝といった超深海で採ってきたコアからは、もっと古い約4000〜5000年前の地震や津波のことがわかると考えられているんです。
- 海底の土や砂からそんなに古い地震がわかるんですか!
- そうなんですよ。コアは長さ20メートルから40メートルの筒の形をした地層になっているので、1メートルごとに切って調べます。タテ半分に切って中身を見るのですが、その前にX線をあててCTスキャン画像で観察するんです。このときはよく自分がドクターX大門未知子になったような気分になります(笑)
- カッコいい!
- 私はこのCTスキャン画像と中身の観察から地震や津波の跡(地震性タービダイト)を見つけて、そのときの土砂の流れ(混濁流)の方向を、調べています。もちろん、コアからわかる情報はこれだけではありません。地質学、地球化学、地球物理学などいろいろな分野の研究者が、それぞれの方法で調べています。そうした研究結果を組み合わせることで、やがて大昔の地震の大きさや位置が明らかになるのではと期待しています。

自然災害の被害を少しでも小さくするために
- 将来、この研究がどんなところに生かされて欲しいですか?
- 次に起きる地震や津波を予測することは残念ながらまだ不可能です。しかし過去の地震を約5000年前までさかのぼって詳しく調べることは、今後、地震や津波が発生しやすい場所や周期(何年おきに起きているか)を科学的に知る手がかりになると期待しています。台湾は日本と同じ地震国ですから、次の巨大地震に備え、被害を少しでも小さくすることに役立てばうれしいです。
- 最後に子どもたちへのメッセージをお願いします。
- 研究者には子どもの心、童心が大切です。研究は大変な仕事でもありますが、私もコアが大好きで、航海(とくに船内で出る料理 笑)や研究を楽しんでいます。だから、いつまでも子どものような心をもって勉強にも取り組んで欲しいです。それと、 もし海に関わる仕事をしたいのなら、海外に出ることをこわがらないでください。毎日の生活でもどんどん英語をつかって、勉強しておくときっと役に立ちますよ。
