突撃!
隣の研究室

第6回 長島佳菜(ながしま かな)さん
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
地球環境部門 地球表層システム研究センター
海洋生態系研究グループ 副主任研究員

小さな砂のつぶから大空に吹く“風”の過去と未来を明らかに!

理科は好きではなかったけれど、いつの間にか研究者に

長島さんは小学生のころ、どんな子どもでしたか?
部屋の片づけができなくてお母さんにしかられたり、お姉ちゃんとケンカをしたり、ちびまる子ちゃんみたいな子どもでした。小説やマンガを読むのが好きで、理科はあんまり好きじゃなかったんです(笑)。だから将来JAMSTECの研究者になるなんて想像もしていませんでした。
そうなんですか!とても意外な気がします。
研究者にもいろんなタイプの人がいるんですよ。ただ算数は好きでした。解けない問題があると気になってずっと考え続けてしまうところがあったので、そこは研究者向きだったかもしれません。あとは大学で航空部というちょっと珍しい部活動をしていたことも少しは影響しているかな、と思います。
航空部って、空を飛ぶんですか?
はい。グライダーを操縦するんです。空を飛ぶのってすごく自由で爽快で、すぐに気に入って入部しました。この活動がすごく楽しくて、そのうち「アウトドアで興味のあることを自由にやりたいな」と思うようになったんです。それで気がついたら自然科学の道に進んでいたという感じですね。

湖底や海底の砂粒から、風の歴史がわかる

今とりくんでいる研究について教えてください。
毎年春になると、中国やモンゴルの砂漠の砂が強い風にのって日本に飛んでくるのを知っている人も多いでしょう。これを黄砂(こうさ)といい、私はこの黄砂に関する研究をしています。黄砂を運ぶのは偏西風(へんせいふう)と呼ばれる西風で、日本はもちろん北太平洋、遠くアメリカまで黄砂を運びます。私の研究は日本の湖や日本海、北太平洋に積もっている黄砂を調べて、それを運んできた過去1万年間の風の経路とその変化を知ることです。また将来、風がどう変わっていくのかも知りたいなと思っています。
提供:金沢大学 佐川拓也
偏西風って天気予報で聞くことのある言葉ですね。
はい。偏西風は常に西から東に向かって吹いている風です。特に高度が上がるにつれ、偏西風は強くなります。日本列島にやってくる台風や雲が西から東に動くことが多いのは、この風があるからです。アメリカ旅行に行ったことのある人は、日本からアメリカに行くよりも、アメリカから日本に来る飛行機の方が長い時間がかかることを知っているかもしれません。これは行きは偏西風が後ろからの追い風、帰りは前からの向かい風になるからです。そのくらい強い偏西風なんですが、強く吹く位置が、季節によって北に寄ったり、南に寄ったりします。最近、こうした季節性とは別の要因で、どうやら偏西風の経路が変わるらしい、ということがわかってきました。ただ、その原因や、いつ、どのように変わるのか、まだよくわかっていないんです。
どうして黄砂から偏西風の風向きがわかるんですか?
砂漠の砂にはそれぞれ特徴があって、黄砂を詳しく調べるとそれがタクラマカン砂漠から来た砂か、ゴビ砂漠から来た砂かを区別することができるんです。日本海や太平洋の海底には、過去に降り積もった黄砂やプランクトンの死がいなどが堆積しています。これらの堆積物に含まれる黄砂を分析してみたところ、時期によってどちらの砂漠の砂が多いかの割合が違っていることがわかりました。これは偏西風の経路が変わったからだと考えられます。この割合を詳しく調べれば、大まかな風の経路を知ることができるんです。
海底の砂から風の向きがわかるなんてすごい!他にもすごいところはありますか?
ありますよ。氷河、氷床、そして海水中にも黄砂は入っているんですが、ものすごく少なくてこれまではあまり研究できなかったんです。そこで、ほんの数十粒の石英という物質に電子線をあてて、それがどの砂漠から来たものかを特定できる方法を私たちで開発しました。
数十粒!何グラムぐらいですか?
数ナノグラムですから、10億(1000000000)分の数グラムですね。それでタクラマカン砂漠とゴビ砂漠の区別をつけられるようになったんです。ここはちょっと自慢したいところですね。

黄砂から未来の地球を推理する

偏西風の過去を知ると、何がわかるんですか?
偏西風は日本列島に上陸する台風や梅雨のタイミングや長さに深く関係しています。偏西風が早めに北に行けば梅雨が短くなって水不足になり、ずっとその場にいれば梅雨が続いて洪水が起こりやすくなる。過去の偏西風を詳しく調べ、その複雑な動き方の仕組みを知ることができれば、今後の日本の気候をより正しく予測できるようになるはずです。さらに今後、温暖化がさらに進んだ未来に起こるかもしれない地球の異常気象についても推理する手かがりになると思っています。
偏西風の経路と黄砂の供給源(タクラマカン砂漠, ゴビ砂漠)との関係(Nagashima et al., 2011を改変)
黄砂は、未来の地球を知る大切な手がかりなんですね。
はい。ロマンのある研究だと自分では思っています。そのために、過去200年分の偏西風をもっと細かく10年単位、いずれは数年単位で分析できるようにしたい。
どうしてですか?
わたしたち人間の活動と地球温暖化、気候変動がどう関わっているかを知りたいからです。それには産業革命が起こってからの偏西風の変化を詳しく知ることが大切だと考えています。数十年単位、数年単位の変化がわかれば、これから先、地球の気候がどう変わるかをより正確に予測したり、対応策を考える手がかりになるはずです。今後は、黄砂に含まれる鉄が海に棲む植物プランクトンにどのように影響しているのか、偏西風が海の生き物たちにどう関わっているのかも調べてみたいと思っています。

「変わってる」のはとてもいいこと

最後に子どもたちへのメッセージをお願いします。
大人になると「人と違っている」ことは強みになります。仕事でも研究でも、ちょっと変わったアイデアを持つなど、独自の発想をする人が、みんなが困っている問題を解決することがよくあります。もしかしたら「まわりから浮きたくない」「目立ちたくない」と思うこともあるかもしれないけど、最初は恥ずかしくても、一歩ずつ、自分のやりたいことをやってください。そして、もし、まわりに「あの子変わってるね」といわれる子がいたら応援してあげてほしいなと思います。
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