2014年9月3日 帰路

  • 長らく更新が途絶えてしまいました。万が一にも更新を期待していた方がいらっしゃったらすみませんでした。
    全ての実験が終わり,片付けが忙しかったから,というのも少しありますが,陸が近づいてきて,降りたら何しよう♪と,浮かれて記事を書くのを怠ったことが一番の原因ですっ!

  • さて,既に帰国しているのですが,みらい観測航海日誌が尻切れトンボみたいで気持ちが悪い,と言われてしまったので,締めの記事の筆を執った次第です。おつきあいして頂ければ幸甚です。

  • 「みらい」MR14-04次航海は好天に恵まれ,全ての観測点で調査を行うことが出来ました。海況は"何ちゃらと秋の空"と同じくらいすぐ豹変するにもかかわらず,約2ヶ月にも及ぶ調査を完遂出来たことは奇跡的です。当然,天候以外にも,船内に生活する全ての人が,それぞれの仕事に尽力し,支え合ったからこそ為しえることが出来た偉業です。船員さんを始め,すぐ次の航海に乗船された方々もいらっしゃいますが,ひとまず皆様お疲れ様でした。

  • 観測が終わったのが北緯47度 西経125度あたり。そこから今航海の寄港地ダッチハーバー(北緯54度,西経166.5度)まで5~6日かけて回航しました。途中,甲板でバーベキューをして航海の終わりを祝ったりしながらいよいよ陸です。40日以上陸を見ていなかったものだから,アラスカの果てだろうが,陸が見えたら皆さん浮き足立ちました。島影が遠くに見えてきたら,みんなでシャッター切り放題(写真,左上)。GPS情報などのお陰で有ると分かっている陸を見たのにこの有り様ですから,大航海時代に新大陸を発見しちゃった乗組員たちは筆舌に尽くしがたいほどに興奮したんだろうなぁ。と,感慨にふけることなく,船上ではいよいよ,さぁ,降りたら何しよう♪の雰囲気。

  • いよいよ,ダッチハーバーに入港。朝焼けとともに雲が晴れてゆく中,ここでもやたらと写真を撮りました。陸に囲まれた海は穏やかで凪いでいました。朝焼けに映る空と雲と陸と海とがとても幻想的な入港でした(写真,左中,左下,中上,中央)。

  • 下船し,久々に陸を踏みしめたら,ダッチハーバーでは比較的よく見かけるハクトウワシなんかを鑑賞しながら,欲望の赴くままにドデカいピザや分厚いステーキを食べました(写真,中下,右上)。こんなん食べてるから太るんだよ,と言いながら。久々の陸の生活が楽しいんだよね。しょうがない。

  • 帰りは空路。ダッチハーバーからアンカレッジまでの道中(空路中?),アラスカの山岳氷河が溶けているところなんかも見えました(写真,右中)。ナショナルジオグラフィックでもこのあたりの氷河の融解が取り上げられていましたね(参考:http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2014081401)。アンカレッジで夕焼けを見ながらビールを飲み,一泊(写真,右下)。その後,アンカレッジ → シアトル → ロサンジェルス → 羽田というルートで帰国。飛行時間は21時間。44日かけて移動した道のりがあっという間!さすが飛行機。しかし,総移動時間は56時間!!やっぱ遠いわ,ダッチハーバー。もう行きたくない。しかしきっとまた行くんだ。あはは。しょうがない。またね。

  • これにて「みらい」MR14-04次観測航海日誌を終わりです。
    冗長な文章を最後まで読んで頂き,ありがとうございました。

2014年8月21日 疲労からくるもの

  • MR14-04航海のLeg.2は35日目を迎えました。北緯47度,西経131度。航海はじめのころは11度前後だった外気は19度を超え,甲板上で作業をすると汗ばむほどに。ようやく夏到来。。。日本の気温の半分ほどしかありませんね。作業さえしなければ快適な 洋上です。

  • 北アメリカ大陸が近づき,今夜にもカナダの排他的経済水域に入ります。調査もいよいよ終盤。じわりじわりと重なった疲労が,知らないうちにミスを生みます。作業着の中にUSBメモリを入れたまま洗濯をしてしまった方もいらっしゃいますが,調査は 最後まで慎重に。慎重に。

  • 例えば,さまざまな深度から海水を採る「ニスキン採水器」に漏れがあれば,採りたい深度の水とその他の深度の水が混ざってサンプルがダメになるかもしれません。そのため,採水器が上がってきたら,まず漏れ(リーク)のチェックを行います。また,海水に“溶けている”気体のための試料を採取したときに,気泡が瓶の中に入っていると,その空気でサンプルが汚染される危険があるので,サンプルによっては気泡の有無を確認します。確認する度に,採水班長に声で知らせ,班長は復唱して再確認します。

  • Aさん:「ニスキン10番,リークなし」
    班長:「はい,リークなし。」

    Bさん:「全炭酸10番,気泡あり」
    班長:「Uさん,採水し直してください。」

    など。

    しかし,疲れてくると,

    Sさん:「ニスキン10番,気泡なし!」
    班長:「そうですか,リークはどうですか?」

    とか,

    Eさん:「アルカリ度,気泡のみ!」(取り忘れ)
    班長:「Uさん,採り直してください。」

    とか。

    また,誰かが,
    「ニスキン10番,リークなしなっしー!」(ふな○しー調)
    とおどけて見せても,班長も疲れているので,
    「はい,リークなし。」

  • と。最近の現場は混とんとしております。
    さて,残る観測点は11点(日本時間2014年8月21日2時現在)となりました。
    今一度,気を引き締めていきましょう!

    と皆さんに呼びかけてみても,ここにいる人は誰もwebをみられない洋上からでした。


2014年8月9日 みらいで過去へ

  • 先週のことになりますが,本船は北緯47度にて日付変更線を通過しました。現在地は東経から西経へ。主席の遊び心で写真のような立派な日付変更線通過証明書が発行されました。どうやら,世界標準時の8月4日14時59分から同日15時00分の間に通過した模様。この日の夜0時,船内生活の基準となる時計は24時間巻き戻り,8月4日23時59分59秒の1秒後は8月4日0時00分00秒に。海洋地球研究船「みらい」船内は過去に戻り ました。

  • 時速約1000 kmの飛行機で高度10,000 m上空からだと,あっという間でよく分からない日付変更線も,船舶での通過であれば,せいぜい時速25 kmなので,けっこうゆっくり体験できます。

  • では,地球を高速で,例えばロケットに掴まって,西から東に10日間かけて100周回れば都合90日逆戻りするのだろうか。あらま,タイムマシーンの完成が見えてきちゃった。そんなことしなくても,北極点かもしくは南極点の周りをぐるぐる走り回れば,10日間で1000週して990日も逆戻りも夢じゃない!おぉ!100日かけて10,000周まわれば約27年若返り。少年に戻っちゃう!

  • ということはなく,実際は10日なら10日,使った時間だけ世界標準時はチクタク*時を刻んでいる。愚行を監視されている気分ですね。(*:実際にはチクタク鳴るようなシステムではないと思います)ちなみに,世界地図をよく見れば,日付変更線は北極点と南極点の手前で途切れています。

  • ・・・そういえば,赤道を越えるときは赤い線が見えるとか,見えないとか。日付変更線を越えるときは青い線が見えるとか見えないとか。

  • 当時この時間帯は船内の実験室で仕事をしていましたが,何か線のような物に脚が引っかかったような,引っかからないような。何かにつまずいたとすれば,それはもう間違いありません。きっと疲労で脚が上がっていないのでしょう。青いものが見えた!これは眼精疲労か何かしらの目の病気を疑った方がいいでしょう。

  • どこまでも続く水平線。7月17日の出航から陸を見ていません。あぁ,海は広いな大きいな。もっと小さければ,こんなに長く調査しなくて済むのに。。。


2014年8月4日 日付変更線の向こう側

  • ++++++++++++++++++++++++++++
    「水採れ,採水班」

    毎日毎日ぼくらは甲板の
    上で水採り,嫌になっちゃうよ
    ある朝ぼくは船のおじさんと
    ケンカして部屋に逃げ込んだのさ

    初めて味わう酒の味
    とっても気持ちがいいもんだ
    おなかの脂肪が重いけど
    ツマミがうまいぜ心が弾む

    採水班長白い目で
    ぼくの愚行をながめていたよ
    ++++++++++++++++++++++++++++

    本航海主席の部屋が酒席部屋となったときの談話より一部抜粋。
    もちろん内容はフィクションです。

  • さて,日付変更線を越え,船内時間は昨日も今日も8月4日。
    航海も残すところ………まだまだたくさん。折り返してもいません。箱根マラソン的には往路の鶴見中継所あたりか。とすれば,これからのドラマが面白くなるところですね。しかし,船内ではただひたすら水を採るだけ。来る日も,また来る日も。だいぶ先のあの日まで。

  • 土日,祝日なんか関係なく,毎日毎日ひたすら水を採る。黙々と働き続ける。休みがないというのは,裏を返せば調査が順調ということなので,とてもいいことです。今航海は海が穏やかで,ここまで至極順調に調査が進んでおります。このまま海が穏やかだといいのですが。しかし,もうすぐ時化が来そうな予報。日本に被害をもたらした台風11号が太平洋に抜け,温帯低気圧に変わり,その台風の残骸が再び発達しな がらこちらに向かってくるのです。ほぼ直撃なんでは!?

  • ざわつく船内。
    「揺れるのかぁ」
    「観測は中止か!?」
    「酔うのはやだなぁ」
    「ご飯食べられないよねぇ」
    「やれることないから飲もうか」
    「酔う前に酔うしかないよね」
    「日付変更線こえるしね!」
    「じゃぁまた酒席部屋で」
    「じゃ,そうゆうことで」

  • 時化,それもまた一興。


2014年8月1日 海に天皇!?

  • 北緯47度,東経169度付近をじわりじわりと東に向かいながら,来る日も来る日も水深5~6000 mから表面まで,いろんな水深の海水を採る。

  • しかし,この東経169度付近では一気に浅くなって,水深が2500 mほどに。実に3500 ~4000 mも海底が盛り上がっているのだ。浅くなると,採水器を海に投入してから,海底近くまで行って折り返して戻ってくる時間が短くなる。水深5000 mなら約4時間だけど,水深2500 mだと2時間。さらに,海底地形の変化というのは,海水の動きに大きな影響を与えるもんだから,その周辺を細かく調べたくなるのが研究者の性というもの。1つの観測点が終われば,すぐ次の観測点に到着してしまう。採水器は投入したと思ったらすぐ上がってくる。

  • 漂う疲労感。出てくる愚痴。そして突飛な打開策。

  • 「深く掘ってしまえ」
    「爆破だ!」

  • 浅くなったと言っても水深2500 m。3000 mを優に越える盛り上がりは富士山よりもは るかに裾野が広い。すんごい爆弾があったとしても,そんなことしたら自分たちも木っ端みじんに。いやだ。当然,掘れるわけもなく,淡々と採水は続く。

  • 実はこの海底の盛り上がりはハワイ列島からずっと続く海底山脈。世界地図で見れば下に凸の"く"の字型をしている。ハワイのあたりでわき上がり続けるマグマが島を作り,東から西に向かうプレートの動きによって島が西に動く。またマグマが上がってきて島を作る。脈々と続く地球の営みの一端が垣間見れる。 ”く”の字に折れ曲がっているのは,途中でプレートの動きが変わったから。昔は南から北にプレートが動いていたんだろう。今,「みらい」はそんな地球の息吹を感じるところの上にいる。

  • そんな悠久の時を感じさせる海底の盛り上がりの名前は,天皇海山(列)。英語ではEmperor Sea Mountains。北端の海山を先頭に,初代天皇から続く名前がついている。なんだか,軍国主義時代の日本人が発見したのだろう,と邪推をしていたら,どうも外国の人が命名らしい。たぶん。よくわかんないけど。と言う人あり。

  • あぁ,ググりたい,Wikipediaでいいから情報をしりたい。
    何か小さな不足がある度にもだえる洋上の人々。
    しかしこんな状況で思索することも,陸では味わえない。
    こんな状況もまた一興なのだ。

2014年7月24日 あした下船したらごっこ

  • 出航して約1週間。「みらい」は北緯42度13分,東経151度54分あたりを北上中。北方四島の南東あたりです。アメリカ大陸はまだか。

  • とにかく採水をし続ける航海。寝ても覚めても各種の項目を分析するための容器に海水を丁寧かつ迅速に入れていく作業。じわりと迫る,「もうね,飽きたよね」の気持ち。

  • 「まだ1週間しか経ってないのかぁ」
    「いや,もう全日程の6分の1近く終わってる」
    「えぇ~,まだまだじゃん」
    「でももう観測点が3桁から2桁になったんだよ」
    「3桁ある時点で何かがおかしい。残りも90測点ありますよ!」
    「そのうち終わるよ」

    誰かのネガティブな気持ちを誰かが支える,船内の美しい光景。これぞ絆だよね。

  • 長い航海に限らず,短い,1週間程度の航海でもこんな話題は必ずある。
    「下船したら,何食べよう。」
    「あの店のあれ,美味しそうだったよね。」
    「帰ってゆっくり寝たいわぁ」

    あした下船したら何しようごっこのはじまり。

  • しかし,今航海は下船したらごっこがまだ開幕していない。まだ1週間しか経ってないからだろうか。いや,恐らく理由は別にある。

  • 寄港地は,最果ての島の港,ダッチハーバー。でかいスーパーが1店舗,酒屋が1店舗,ステーキハウスが2店舗(同じ系列店なので実質1店舗!),小さな飲み屋が数店舗。以上。降りても何も楽しいことが待っていないのだ。そして帰りの飛行機は,欠航しやすいことで有名な,鉛筆のような細さの機体から,ペンエアーという名前の航空会社の飛行物体に乗り,アラスカはアンカレッジで乗り換え,アメリカ本土で乗り換えて,ようやく日本行きの飛行機にたどり着ける。

  • 先は長い。あと2,3日は北緯47度の観測定線に向けて北上を続けます。もちろん採水をしながら。残りの日数を勘定しながら。みんなで支え合いながら。

  • 船内は17時。となりのトトロのオルゴールが船内に響き渡る。
    さぁ,食事だ。

出航3日目~4日目

2014年7月19日
  • 16時30分
    陸は土曜日で3連休ということで,主席部屋が酒席部屋へと名前が変更され,3時~15時で働いているワッチ組がじわじわと吸い寄せられるように集まってくる。

  • 21時
    17時の夕食(天ぷらと牛しぐれ煮)をはさみ,酒席部屋での熱い談義が終わり解散。

2014年7月20日
  • 3時前。測点41,水深3146m。起床直後に採水器が上がってきたので,本日最初の採水。昨日の酒談義が熱かったせいか,血中に残るアルコールのせいか,強い疲労感。

  • 4時半ごろ 測点42,水深4160m。採水器の投入。表面採水の後,小1時間の睡眠も疲労感,回復せず。

  • 7時過ぎ 早めの朝食を終わらせ,測点42の採水器が上がってきたので採水。

  • 8時半頃 採水が終わると同時に測点43,水深5033mに到着。採水器の投入と表面のバケツ採水。終了と同時に部屋に駆け込み寝る。疲労感,まだ回復せず。

  • 13時前 昼食(海鮮丼)を済ませ,測点43,採水器が上がってくる。採水に慣れてきたことが採水班長に見抜かれ,担当する採水器の本数が増える。

  • 14時45分 次のワッチ班の人が早めに出てきてくれたおかげで採水から解放される。

  • 15時過ぎ 本日誌を書きながら,GLからの差し入れ,板角総本舗のえびせんべいに舌鼓。愛知県出身の私には何よりうれしい故郷の味。1日の仕事終わり,一筋の涙が流れた気がした。

  • あとは,夕飯を食べ,デスクワークを少々して,21時頃を目処に睡眠。昼寝もしてしまっているし,まだ船内生活に順応しきっていないので,そんなに早くは寝られないのですが。。。

  • このような生活があと35日ほど続く。。。