活動レポート >MR19-02「西太平洋スーパーサイト網の構築と拡充に向けた観測研究」みらい観測航海日誌
MR19-02「西太平洋スーパーサイト網の構築と拡充に向けた観測研究」みらい観測航海日誌
2019年6月14日 入港しました
6月14日,本船はむつ研究所の港に入港しました。天候は晴れ。午後の作業は暑くなりそうです。今航海は天候にとても恵まれ,すべての観測をおおよそ予定通り終えることができました。
去る6月12日には襟裳岬沖に到着しており,航海の参加者(白いヘルメット)と船員さん(黄色いヘルメット)で人文字の集合写真。なんて書いてあるかおわかりいただけるであろうか。。。その後,某H田さんの熱い希望で甲板で慰労会が行われました。
13日は津軽海峡の流行流速,地形の調査で船の音響システムでの観測。ほとんどの研究者は手を動かすことはないので,片付けの一日でした。荷ほどきの半分以下の時間で片付けられるのは毎回不思議です。ただ詰め込むだけだからですが,下船後の荷物の整理の際,毎度この適当な詰め込みをした己を呪うのですが。
さて,14日本日。あとは荷物を降ろして一同帰路へ。細心の注意を払いながらケガの無いよう,作業を進めます。
これにて本航海の航海日誌を終わります。お付き合いいただいた方々,読んでくださりありがとうございました!
2019年6月10日 外洋での観測終了
6月10日。9日から本日にかけて低気圧とすれ違いったため,うねりが大きくなったものの,北緯44度,東経155度の観測点での観測を無事終了いたしました。これで外洋域での観測はすべて終了です。おおむね予定されていた観測を予定通り遂行することができました。ひとまずお疲れさまといったところでしょうか。
船から測器を上げ下げするような観測は終わりましたが,私は採った海水にいる植物プランクトンを培養する実験があるので,まだまだやることが。。。
そこへまた有孔虫愛が止まらない木元さんが。
「壁紙用の写真撮ってほしいんだ!持ってくるね!」
ということで,拾い上げた有孔虫を正立顕微鏡の低倍率(40倍)で暗視野撮影。なんとなく和柄のようにも見えませんか?梅花に似ている気がするので,お着物の柄にできそうですね。(←正気か?)
この写真や前回の記事の写真をインスタグラムに挙げるとすると,
#壁紙 #有孔虫
#木元さんと有孔虫なうに使っていいよ
といったところでしょうか。誰がいいねとするのだろう。
さて,この記事を書いている今(6/11)は船内は片付け作業が始まっております。私はまだ実験。。。
2019年6月9日 温度差
観測点K2での各種観測を終え,本船は南西に航走しております。6月9日未明,北緯45度30分,東経157度30分の観測点に到着しました。
ここでは植物プランクトンが周辺の海域の約10倍の大発生をしておりました!外洋なのに,増えていたのは北海道沿岸で見られるような種類。
きっと,沿岸から水が運ばれてきたんでしょう。あとは,水温が,観測点K2(4~5度)よりも7度と温かかったのことも大発生に貢献しているような気がします。
-
さて,美しい珪藻の写真でも,と思ったら木元さんから愛してやまない有孔虫の撮影依頼。
よ…よろこんで!(←筆者は有孔虫に対する愛はまったくありません)
亜寒帯北太平洋には主に3種類の有孔虫が出現するそうです。その中でも,植食性,動物食性のものがいるそうで,蛍光顕微鏡で細胞内を見られれば何かが分かるかもしれないとのこと。
-
有孔虫の観察は主に実体顕微鏡が使われます。大きなプランクトンを観察するための顕微鏡ですから,今航海に持ち込んだものの倍率は5~10倍程度。
一方,私が持ち込んだ正立顕微鏡は40~600倍に拡大できるということと,レンズの解像度が高いことが特徴です。
正立顕微鏡を通してディスプレイに映し出された有孔虫を見て,その解像度の高さに木元さん大喜び!(筆者は冷静)
-
植物プランクトンを食べているであろう,Neogloboquadrina pachydermaにクロロフィルが光る波長で励起光を当てると,細胞内に1~5 μmの赤いつぶつぶが見えます。まだ消化されていない植物プランクトンの痕跡と思われます。
クララが立った時のハイジのように喜ぶ木元さん。
「パキデルマが光った!パキデルマが光った!」(筆者は冷静)
-
そして,動物質のものしか食べていないと予想されていた有孔虫Globigerina bulloidesにクロロフィルが光る励起波長を当ててみると…光った!
これには驚く木元さん。
飼育環境では再現できないことが自然界では起こっているのかもしれません。
さてこの有孔虫たちをなぜ調べるのか。
「そこに有孔虫がいるから(`・ω・´)キリッ」
ではなく,この殻(炭酸カルシウム)が環境変化を記録しているレコーダーの役割があるからです。我々のグループでは,この殻をマイクロX線によるCTスキャンで殻の密度を精査しております。
大気中に増え続けている二酸化炭素が海水に溶け込むことで,弱アルカリ性の海は少しづつ酸性側に近づいてきております。炭酸カルシウムは酸で溶けるので,有孔虫の殻に海洋酸性化の記録が残るかもしれない,という狙いです。
陸上の実験室に持ち帰ってからの分析が楽しみですね。
Asteromphalus flavellatus
Neogloboquadrina pachydermaの暗視野画像
N. pachydermaの蛍光画像
Turborotalita quinquelobaの暗視野画像
T. quinquelobaの蛍光画像。光っているのはクロロフィル
Globigerina bulloidesの暗視野画像
G. bulloidesに励起光を当てながらわずかに透過光を当てて撮影
2019年6月6日 係留系の設置作業
2019年6月3日 曇天の海の中で上がる花火
まずは写真をどうぞ。
北緯47度,東経160度の観測点K2で採取した海水を顕微鏡で観察したところ比較的多く見られたのがこのCorethron cryophilumという珪藻類です。植物プランクトンとしては大きく,横たわっていれば筒状の細胞の両端に棘が放射状に生えているので,すぐに判別がつきます。cryo-は「冷たい」philumは「~を好む」ということで,観測点K2のように冷たい,北緯40度以北の海域でよくみられます。
本船は6月4日に北緯50度の観測点まで北上し,その後南下。公開日程はようやく折り返しといったところです。ここ数日ずーっと外気は4~5度。寒いなぁ。
Corethronの花火ー1
Corethronの花火ー2
Corethronの明視野画像
2019年6月1日後編 観測点K2での係留系の回収
昼前に少し霧が薄くなり,そこで係留系の回収を決断することになりました!
海底の重りから切り離された係留系は無事発見され,回収作業の始まりです。順々に上に取り付けられていた測器から回収していきます。5,000 m以上あるロープを着実に巻き取っていきます。甲板では30名以上が作業に取り掛かっていました。
途中休憩をはさみながら,水深4800 mに設置されていた最後のセディメントトラップを引き上げ,5時間強に及ぶ無事作業は終了。皆さま,とてもとてもお疲れさまでした!
作業終了時,気づけば船尾にある青いAフレームがかすむほどの濃霧になっていました。ここしかないタイミングで係留系の回収ができたようです。
さ,成功の余韻はそこそこに,明日の観測に向けて準備しなければ。
係留系回収作業開始
係留系回収作業の様子。
甲板で30人以上が作業をしています
最後のセディメントトラップを回収したころにはまた濃霧に。
2019年6月1日前編 6月1日の朝
係留系回収日の朝を迎えました。
外は,見渡すかぎり,船首がかすむほどの…
濃霧 (›’A`‹)b
この天気では上がってきた係留系を見つけるのが至極困難です。
霧が晴れるまでできそうな観測をしようと,主席研究員が船内を駆け回り,予定を組み替えております。予定通りに観測が進まなくても,予定していた観測はすべて終わらせなければ!このままの天気が午後も続くとなると,明日行う予定だった筆者の実験用の採水がっ!準備がっ!あ,絶賛実験中のサンプルの処理がっ!
ということで実験&準備してまいります。
濃霧
2019年5月31日 亜熱帯から亜寒帯の海へ
亜熱帯KEOの観測点から北東に航路を取り,緯度2.5度毎に北緯40度まで観測を行った後に一気に北上し,5月31日の夕方北緯47度,東経160度のK2という観測点に到着しました。北緯40度の海の表面水温は15度あったのですが,ここの水温は4度です。気温は5度。さむい。でらさみぃぎゃー。(←三河弁)
外は朝から安定の濃霧。このあたりの海域,春~初夏は必ずと言っていいほど霧がかっています。まぁ,なんと視界が悪いことでしょう。鉛色の空と海。どよーん。夕方,船橋に上っていくらかマシになった霧の海況を撮影。
作業は明日6月1日の朝から。まずは昨年ここに設置した係留系の回収です。この係留系の回収時の天候はとても大切です。水深5200 m弱の海底から切り離された機材は係留策に付けられた浮きの浮力で水面に浮上してきますが,これを目視で見つけないといけないのです!
この濃霧が少しでも改善されることを願いながら本日は眠りにつこうと思います。
航路図。5月31日のみらいはここ
K2観測点付近の海上は安定の曇天
2019年5月30日 亜熱帯の植物プランクトン
5月26日から27日,北緯32.2度,東経144.3度の観測点と,その一つ北の観測点,北緯35度,東経147.2度付近で採取した海水の中にいる植物プランクトンの画像を撮りました。
1枚目は明視野観察画像。円石藻といわれる植物プランクトンが2種類写っています。直径10~15 μmくらい。0.010~0.015 mm。この藻類は円石と呼ばれる石灰質のまるい石を細胞の周りにまとっています。しかし,この画像にはその他の植物プランクトンもたくさんいます。
2枚目,クロロフィルのみが赤い蛍光を発する光を当てて観察した画像です。円石藻がいたところにクロロフィルの点が見えますが,それ以上にたくさんのぽつぽつと赤い点が見えると思います。その多くがシアノバクテリア(ラン藻類)です。直径1 μmくらい。円石藻とシアノバクテリアの体積は約2,000倍違うという計算になります。
続いて3,4枚目は大型の珪藻類。珪はガラス質の意味で,ガラスの殻の中に細胞が入っています。円柱型で,直径は200μmくらい。おおよそシアノバクテリアの体積の6,000,000倍大きい植物プランクトンです。
最後,5枚目はさらに巨大な珪藻類。世界最大級の種類です。横に2本並んでいるのが珪藻で,直径140 μm,長さは750~1000 μm。上に黒っぽく映っている二枚貝の幼生よりはるかに大きい珪藻。シアノバクテリアの体積の30,000,000倍!。
3千万倍の体積の違い。身近な生き物だと,2~3ミリのアリとアフリカゾウくらい違います。一口に植物プランクトンといっても,大きさだけでものすごいバラエティーがあることが分かっていただけたでしょうか。
では今回はこの辺で。
明視野観察。丸いのは2細胞の円石藻類
明視野観察と同じ視野で,蛍光を使った観察。クロロフィルが赤く光っている。
大きな珪藻類。明視野観察
大きな珪藻類。暗視野観察
巨大な珪藻(筒状)と二枚貝の幼生(上)
2019年5月27日 観測開始はKEOから
清水港を出て南東に航走すること約1日,5月25日には最初の観測点KEOに到着しました。黒潮続流域の観測点(Kuroshio Extension Observatory)です。場所は北緯32.2度,東経144.3度。海も空も青くとてもきれいです。
陸上は5月にしては異常に暑いようですが,洋上は水温・気温ともに21度と,とてもすがすがしい感じ。ただ,日差しは非常に強く,日向での作業は相当暑い。日に照らされた機械が熱くなり過ぎて自動停止してしまうほどに。。。(←こまってる)
ここの水深は約5900 m。約6 km。採水器を投入して深海での採水を終え,甲板に帰ってくるまで約4時間。徒歩で往復(12 km)すると約3時間なので,採水器を上げ下げするワイヤーの動きは歩く人よりは遅いようだ。いずれにせよ,海底というのはとても遠いところだと再認識。
KEOでの観測は多岐にわたり,採取した海水の物性,化学組成,微生物相などなどの調査や,プランクトンネットや音響による動物プランクトンの調査,植物プランクトンの生産力の測定やそれを食べる微小動物プランクトンの活性調査など。あとは,各種センサーを搭載し,自動で海の中を調査するBGC Argoと呼ばれる測器も投入しました。
KEOでは約30時間ほど滞在・調査を行って,26日の午後,船の周りにたくさん見えた流れ藻にサヨナラをして離脱。次の測点へと航走を開始しました。一つ目の観測点が終わっただけなのに,まぁまぁ疲れましたよ。ええ。
つづく。
ニスキン採水器36本掛けCTDシステム投入
投入待ちのBioArgo
KEO付近は流れ藻がたくさんあった
2019年5月21日 MR19-02航海はじまりました
5月21日,大雨の中,横須賀から荷物を搬出し,「さすが荒天を呼び込む主席研究員…(←以前の航海中に何個もの台風を発生させた猛者)」とぼやきながらの作業。続く22,23日の空は見事に晴れ,機材の搬入,機材のセットアップと船内生活に関する船内教育レクチャーを受けました。
清水港では同じ岸壁に「ちきゅう」が停泊中でした。うっすらと見える富士山を背景に「みらい」は「ちきゅう」の横を抜け,24日9時に清水港を出港しました。MR19-02「みらい」航海の始まりです。
今航海は,「西太平洋スーパーサイト網の構築と拡充に向けた観測研究」という研究題目です。気候変動により刻々と変化する西側の太平洋の物理・化学・生物の状況を観測してまいります。時折,航海の情報をアップしようと思いますので,お時間の許す方は本航海日誌にお付き合いいただければと存じます。ぺこり。
「みらい」から見た「ちきゅう」の右側に富士山。