平成30年度公開シンポジウム「変わりゆく気候と自然災害」

スピーカー紹介・要旨

講演1 「地球温暖化と雲・エアロゾル」

鈴木 健太郎
(すずき けんたろう)

東京大学 大気海洋研究所
准教授

要旨

地球温暖化による気温の上昇を予測することは依然として不確実性の大きい問題です。地球の平均気温は太陽から受け取るエネルギーと地球自身が宇宙空間へ放出するエネルギーとの釣り合いで決まるので、地球温暖化予測の信頼性を高めるためにはこれらのエネルギーのバランス状態とその変調を正確にとらえる必要がありますが、これを難しくしている要因のひとつがこれらのエネルギーの流れに大きく影響する雲とエアロゾル(大気微粒子)です。大気に浮かぶ水である雲の水分量は地球全体の水の総量からすればごくわずかですが、それゆえにその予測には精密さが求められ、さらに異物質であるエアロゾルも雲の形成に関与することが問題をさらに複雑にしています。しかし近年これらの課題に対して、人工衛星からの地球観測が大きく発展し、その知見を取り入れて数値気候モデルの改良や高度化が進むなど、研究は新たな局面を迎えています。本講演ではそのような研究の最新事情と統合プログラムでの取り組みについて紹介します。

プロフィール

2004年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了、博士(理学)。 コロラド州立大学大気科学科博士研究員、NASAジェット推進研究所研究員などを経て、2015年より東京大学大気海洋研究所准教授。数値モデリングと衛星観測を組み合わせて雲・エアロゾルの気候影響に関する研究に従事し、統合的気候モデル高度化研究プログラムでは数値気候モデルにおける雲・降水の改良に取り組んでいる。

 

講演2 「COVID-19による環境影響評価の取り組み」

大垣内 るみ
(おおがいと るみ)

海洋研究開発機構 地球環境部門 環境変動予測研究センター
地球システムモデル開発応用グループ 研究員

要旨

人類は新型コロナウイルスCOVID-19のパンデミックを受け、様々な制限がついた新しい生活を余儀なくされています。特に春頃、多くの国がロックダウンに踏み切り、温室効果ガスや人為エアロゾルの排出の一部が急激に減少しました。今後、パンデミック収束まである程度の排出減少が続くでしょう。これらの減少は地球環境、そして地球温暖化に影響があるのでしょうか。この疑問に答える為、統合プログラムを含む世界の気候モデルグループが、シミュレーションを行って影響評価を行うプロジェクトが急ピッチで進行しています。このプロジェクトでは、ポストコロナの世界で、パリ協定における1.5℃、2℃目標を達成するにはどのように温室効果ガスを制限していけばよいのかといった提言に資するシミュレーションも行うことになっています。まさに進行中のプロジェクトですが、これまでの観測やシミュレーション結果からわかっている事、予想される事についてお話します。

プロフィール

2001年3月  神戸大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了 構造科学専攻 博士(理学)
2001年4月 地球フロンティア研究システム 研究推進スタッフ
2008年4月 地球環境フロンティア研究センター/海洋研究開発機構  技術研究副主任
現在、(国)海洋研究開発機構 環境変動予測研究センター 特任研究員
気候モデルを用いた、過去の気候変動研究と、将来予測改善に貢献する研究に従事

 

講演3 「地球温暖化が台風に及ぼす影響 ~これまでとこれから~」

山口 宗彦
(やまぐち むねひこ)
気象業務支援センター/気象庁気象研究所 応用気象研究部 第三研究室 主任研究官

要旨

台風は地球上で発生する最も激しい自然現象の一つで、大雨、強風、高潮などによりさまざまな災害を引き起こします。台風は毎年のように日本に接近・上陸し、日本に暮らす上では避けることのできない自然現象です。だからこそ、地球温暖化が台風に及ぼす影響を科学的に評価し、その結果を将来の防災計画の設計等に活用し、気候変動に適応した社会作りを進めていくことが重要となります。発表では、台風の強さや日本への接近数、また移動速度など、台風の特徴が近年どのように変化しているのか、また変化があるとした場合、地球温暖化の影響はどの程度あるのか、最新の研究成果を紹介します。また、今後さらに地球温暖化が進行した場合の台風の振る舞いに関するシミュレーションの結果なども合わせて紹介します。

プロフィール

1978年群馬県生まれ。気象大学校卒業後、6年間気象庁予報部数値予報課に在籍。その後、米国マイアミ大学気象・海洋学部への留学を経て2010年に気象庁気象研究所へ異動。現在気象研究所応用気象研究部に在籍。理学博士。2013年1月より1年間ヨーロッパ中期予報センター客員研究員。専門は台風の予測、アンサンブル予測、温暖化にともなう台風の将来変化など。

 

講演4 「気候変動が沿岸災害に及ぼす影響と適応策への展望」

森 信人
(もり のぶひと)
京都大学防災研究所 気象・水象災害研究部門 沿岸災害研究分野 教授

要旨

地球温暖化の進行によって、台風といった極端な気象現象の激化、これに伴う極端な風水害の甚大化が懸念されています。気候変動の影響の中で、我が国の沿岸部における自然災害への影響として重要なのは、海面上昇、高潮および高波というハザードの変化予測であり、これと関連して沿岸部の脆弱性の将来変化や適応策が重要となります。国民の80%が標高100m以下の低地に、約400万人が海抜0m地帯に住んでする我が国では、地球温暖化による海面上昇、高潮、高波による沿岸ハザードの将来変化は深刻な課題となる恐れがあります。全球気候モデルの予測結果にもとづいた気候変動に伴う沿岸ハザードの将来変化についてのモデル開発の最先端、最新の予測結果、さらに細心の気候変動予測結果を用いたリスク評価について、統合プログラムの成果について話題提供します。最後に、現在に我が国で実際進んでいる温暖化適応策についても紹介します。

プロフィール

1969年岐阜県生まれ。1996年に岐阜大学工学研究科にて博士号を取得後、8年間電力中央研究所で主任研究員として勤務。2008年に京都大学防災研究所准教授として赴任、2018年より現職。2020年4月より文部科学省・技術参与、2020年9月より英国Swansea大学Honorary Professorを務める。文部科学大臣表彰:科学技術分野、土木学会海岸工学論文賞等の賞を得ている。専門は沿岸災害学。