地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX
For the Future:海底下掘削の難関を乗り越えて さらに大きな科学成果につなげたい

「ちきゅう」は、沖縄トラフ熱水活動域や南海トラフの研究航海で大きな結果を残した。2010 年度の運用成果について、CDEX センター長の 東 垣(あずま わたる)が語る。
(2011年2月 掲載)

地球科学の夢の実現に向けて

 完成から5 年を迎えた2010 年、「ちきゅう」にはいろいろな出来事がありました。夏にはケーシングパイプ等の脱落事故が起きましたが、最終的にはミッションを無事に完了させるとともに、これを教訓とし、再発を防止するための安全対策強化につなげることができました。続く沖縄トラフの熱水活動域における掘削(IODP 第331 次研究航海)では、海底下生命圏の解明に貢献する多くの成果を挙げることができました。さらに、この研究航海で得られた熱水鉱床についての新たな発見は、今後の日本の資源探査・開発にもかかわる重要かつ希望に満ちた成果といえるでしょう。
 そして、10 ~ 12 月に実施した、紀伊半島沖の熊野灘における掘削孔への長期孔内観測装置の設置(IODP 第332 次研究航海)は、今年度、私たちが最も緊張した航海でした。もちろん、全ての研究航海が新たなチャレンジであり、常に緊張を強いられることばかりですが、今号の特集記事をお読みいただければお分かりのように、この航海は当初からたいへんな困難が予測されていました。黒潮の速い潮流のなか、繊細なセンサー類を水深約2,000mの海底にある小さな孔内に無事に設置することができるのか、最後の最後まで緊張の連続でした。それだけに、設置の成功は何よりも大きな喜びでした。成功の要因はいくつもありますが、何よりも大きいのは、研究者、技術者、そして乗組員らが一致団結して困難な課題に取り組み、見事なチームワークによってこれを成し遂げたことであると実感しています。
 2011 年3 月には、今回設置されたセンサー類が正しく機能しているかどうかをROV を使用して確認し、計画では2011 年度中にも熊野灘に展開している海底ケーブル地震・津波観測監視システム(DONET)に接続される ことになっています。これにより、東南海地震震源域において、海底だけでなく、海底下のリアルタイム観測・監視が実現し、地震・津波発生時の防災・減災に効果を発揮します。また、近年注目されているスローイベント(ゆっくり滑り。地震による滑りよりはるかに速度が遅く継続時間が長い滑り現象のこと)の発生メカニズムの解明にも役立つなど、海底下から送られてくる詳細なデータの解析から、海溝型巨大地震に関するこれまでの常識を覆すような新たな発見も出てくるのではないかと、長期孔内観測装置の活躍に大いに期待しています。