調査期間(調査頻度)2018/04/01 - 2019/03/31
月1回
調査地域・海域
名取川河口域および仙台湾、石巻湾
調査種別フィールド調査
調査概要①河口域の物理環境特性の解明と漁場環境シミュレーション(モニタリングの継続)
*データロガーを設置、水深・水温・塩分の長期連続観測を実施する。
*水温塩分の変化過程と潮汐・気象条件・地形との関係を解析する。
*流況のデータと漁場の底質環境(粒度組成,含泥率など)の関係を解析する。
*航空写真による地形の変化過程を解析する。
②アサリ、ヤマトシジミ、イソシジミ、など二枚貝の分布実態の調査とアサリ成長に関する実証試験
*これまでと同様の手法で分布調査を行い,生息密度を求める。
*名取川においてアサリの生育に関する実証試験を実施する。
③河口域の基礎生産構造の解明
*潮汐に対応して基礎生産者の動態は大きく変化、これらを利用する資源生物の生態と密接に関わっている実態を明らかにする。二枚貝の食物摂取水深(川底直上1cm)の水について、潮汐に対応した採水を行い、微細藻類の組成、安定同位体比、栄養塩類の濃度を分析する。
④ホッキガイの広域的資源調査と噴流式貝桁網漁業の技術移転
*組合と宮城県と共同でホッキガイ漁場全域の資源調査を行い、また、操業技術に関する研修を実施する。
⑤アカガイの資源調査、生物特性の解析
*漁業者それぞれに操業日誌を記載してもらい、漁区毎のCPUEの解析により資源量を推定する。
⑥天然アユの個体群維持機構の解明
*昨年までと同様の遡上モニタリングに加えて、アユ漁場環境の特性と生態的特性の関係の解析を行う。
調査結果(1)名取川河口域の物理環境モニタリング
データロガーによる水温塩分の連続観測の結果、今年度は潮汐に対応した海水の流動が安定的に維持されていることがわかった。底質については泥含有率が低下して、二枚には好適な環境が形成されつつある。しかし、井土浦(河口入江)は閉塞状態であり、さらには貞山運河の水門も閉鎖状態が続いていることから、河口域における海水の滞留能力は震災前と比べて大きく低下したままである。
(2)名取川河口の二枚貝資源の分布実態
ヤマトシジミは分布拡大の傾向が顕著になり、震災前よりも資源量が増加している。水深が小さい場所が多くなり、泥の含有率の低下、食物供給が安定しているなどの要因によると考えられる。イソシジミについても広範囲に高密度分布が確認され、名取川河口汽水域では高い二枚貝生産力が維持されていることが分かった。
一方、アサリに関しては、母貝・稚貝ともにほとんど確認できない状況が続いている。現場成長実験を実施した結果、アサリの生残率は70%以上であり、成長が認められたので、今後は稚貝移植などによる資源回復に向けた対応策を検討する。
(3)河口域二枚貝の生産を支えている基礎生産構造の解析
潮汐に対応した採水調査の結果、微細藻類の組成、懸濁物の安定同位体比、栄養塩類の濃度、いずれの項目も著しい経時的変化が認められた。ヤマトシジミ、イソシジミ、アサリそれぞれの食物供給源の推定に適用し、当水域の二枚貝生産構造の特性を明らかにした。
(4)名取川水系における天然アユ資源の遡上状況
天然アユの遡上状況がよいものの、体サイズの変異が大きいという事象が確認されており、その要因の解析を要請されていた。アユ筋肉の安定同位体比分析結果より、藻類食への切り替え時期と河川の物理環境(流況)と強く結びついていることが明らかになった。これらの知見をベースにアユ個体群の維持に必要な河川環境の保全のあり方を提案した。
(5)仙台湾南部海域におけるホッキガイ資源
2018年度、山元町の補助により7機の噴流式貝桁網が購入されたことを受け、技術移転を加速、本格的操業を支援してきた。ホッキガイ資源の調査結果では、2014年級が著しい卓越年級群であり、この資源量は現時点でも維持されていることが分かった。しかし、漁場による偏りが確認されたこと、全体的に成長速度が低下している傾向が認められ、この要因の特定を進めるとともに、今後の資源管理方策について検討を始めている。
(6)石巻湾におけるアカガイ資源
組合・宮城県・東北大学は月1回、操業記録に基づく資源検討会を開催してきた。漁獲量の制限、再放流などが功を奏して、顕著な資源回復が確認された。また、資源変動予測のシミュレーション結果に基づき、今後の資源管理方策について提言を行った。