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平成15年度海洋科学技術センター委託
海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する影響調査報告書
―海中音響の海産哺乳動物への影響に関する研究動向―

6.欧州鯨類学会の声明

アメリカにおける議論の進展に対して、ヨーロッパの動向については必ずしも十分な情報収集ができていないが、学会レベルで本件に関して声明を発表していることが分かったので、以下にその概要を記す。


欧州鯨類学会(European Cetacean Society)は、低周波ソナーと海産哺乳類の集団座礁問題の件に関して、まだ分からない点が多くあるとし、低周波ソナーの使用については慎重になるべきとの立場をとっている。そして、以下のような「海産哺乳動物と水中音に関する声明」(Statement on Marine Mammals and Sound)を発表しているので、いかにその全文を訳出する。なお、見出しは訳出時に便宜的に付したものである。

<海産哺乳動物を取り巻く音>

海産哺乳動物は日常生活においてきわめて大きく音に依存している。この100年、海産哺乳動物の生息環境において、人類が発する音が急速にもたらされるようになった。これは、鯨類が1,000年単位という歴史の中で経験したことのない規模のものである。したがって、かれらの最近の歴史において、大きな音に対する聴覚の適応能力が発達していないとしてもなんら不思議ではない。

工業活動、地震探査、そして船舶の航行など、大きな音がもたらす負の影響として、回避行動やその他の挙動の変化が見られるてはきているが、人工音によって本当に海産哺乳動物に死をもたらすかどうか見極めるのはきわめて困難である。(Richardson et al. 1995, Andre et al. 1997)。

<アクティブソナーの出現>

このような状況は最近になって変った。それは、アクティブソナーの使用によって、多くの鯨類、特にアカボウクジラ科(beaked whale family Ziphiidae)の集団座礁との関連が問題視されたからである(Evans and England 2001, Jepson et al., 2003; Evans & Miller, 2003)。解剖学的な観察によると、このソナーによって発せられる強い音圧は、十分死に至らしめるほど、聴覚器官に損害をもたらす事が示された(Evans & England, 2001; Evans & Miller, 2003)。同じような音源は、生理的もしくは行動的に座礁とその結果引き起こされる死をもたらすほどの激しい損傷をもたらすことも予見された (Houser et al., 2001; Jepson et al., 2003; Evans & Miller, 2003)。これが立証された場合、どのような音が海産哺乳動物にとっての危険であると考えられるかを決める際に、新たな予測不能な要素を加えなければならなくなる。

<影響を少なくするために>

いずれにしても、どのような状況において、大きな音に曝されることによって障害をもたらすのかは、我々は完全には理解できていない。かなり多くの潜在的要素が含まれていることが考えられる。すなわち、音源レベル、水中での伝播、周波数、音の発振時間と振幅、水中での個体の位置、行動的・生理的に置かれている状態、そして、慢性的な生理的損害を含む相互作用の効果である。これらすべてが部分として効いてくるであろうし、もっと多くの調査がなされるまで、我々が採用できるであろう影響緩和措置をとらざるを得ない。


こうした不確定性に直面ながらも、欧州鯨類学会は次のように考える。

  1. 人工音の海産哺乳動物への影響調査が急務であり、この調査は、利害関係者の摩擦を避けたうえで、科学的社会的に信頼しうる最高水準で行われるべきである。
  2. 攻撃的でない影響緩和措置をできる限り早く開発し、実行すべきである。
  3. 水面下での高い音圧の使用は、海産哺乳動物に対する短期的長期的な影響が一層解明されるまでは、制限されるべきである。そして、鯨類にとっての重要海域においては、使用をやめるべきである。
  4. 4. 各国そしてヨーロッパとしての両面からの水中音汚染に関する政策の実行を手助けするための法制上の仕組み(legislative instruments)が策定されるべきである。

(この部分の内容は、European Cetacean Society Statement on Marine Mammals and Soundによる。)