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プレスリリース

2017年 5月 19日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人横浜国立大学

「海洋都市横浜」を海風利用で涼しくさせるまちづくりへ
―みなとみらい21地区をフィールドとした数値シミュレーションと観測から解析―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)及び国立大学法人横浜国立大学(学長 長谷部 勇一、以下「YNU」)は、平成22年より海洋科学技術に係る研究活動及び人材育成等を推進することを目的とした包括連携協定を結び(平成22年1月25日既報)、その一環として、横浜市を対象とした都市のエリアマネジメントに資する情報創生、特に都市の暑熱環境把握の視点から共同研究を推進しています(※1)。

今回、横浜市の「みなとみらい21」地区内(以下「MM21」)の都市公園「グランモール公園(美術の広場前)」の改修工事に伴う気温変化について、JAMSTECで開発を進めているシミュレーションモデルMSSG(※2)を用いて解析した結果、改修による樹木本数の増加や保水性舗装の設置によって気温を下げる効果を発揮させるためには、公園の上空を吹いている横浜港からの比較的涼しい海風が降りて来る必要があることが分かりました。また、改修後の公園内の平均気温が改修前より約0.6~0.7°C下がったことも分かりました。 

これまで一般的に行われている手法(気象観測による比較検証を行うのみ)では、気象条件が異なる日時における観測値との比較とならざるを得ないため、比較した結果が街区形状変化による影響であるか、気象条件による影響であるかを明瞭に区別し定量的に比較することが困難です。一方、数値シミュレーションによる解析では、同じ気象条件下で、それぞれの熱環境をコンピュータの中に定量的に再現することができ、街区形状変化による影響を切り出すことができます。今回の数値シミュレーションによる解析結果は、改修が地表付近の気温低下と関連していることが確認できたとともに、改修後に行った現地気象観測結果ともよく一致していることも確認できました。

暑熱環境の緩和・適応策がさまざま唱えられていますが、効率よく機能させるためには、土地利用状況の変更のみならず風の道など他の面も同時に考慮が必要です。本成果を踏まえて、MM21地区の未利用地区の開発時における熱環境からのエリアマネジメントへの提言など、横浜市の専門委員会を通じて協働していく予定です。また、今回対象とした地区のみならず、他都市における適応策の標準化に向けた取り組みを行っています。

なお、本研究は、横浜市からのオープンデータ政策に基づく都市街区データ(地理情報システム:GIS,建物形状:CAD)の提供、「(一社)横浜みなとみらい21」からの観測協力と都市街区データの提供、及びYNU研究拠点によるコンソーシアム「地球環境未来都市研究会」(※3)の協力を得て、産官学の協働により実施しています。

本成果は、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されるJpGU-AGU Joint Meeting 2017において、5月20日に発表予定です。

2.背景

地球温暖化の影響も加わり、多くの建物に蓄熱性の高い素材が多く使われている都市部においては、夏季における昼間の熱環境は厳しい状況にあります。気温のみならず、太陽や建物の壁面からの放射による体感温度及び暑さ指数(WBGT、※4)の上昇により、熱中症をはじめとする健康への影響が懸念されています。その対策として、緑の増加や日陰の増加が効果的と提唱されています。また、海に面した都市においては、比較的冷涼な海風の利用も提唱されています。しかし、海風を内陸にもたらす風の道の形成や対策に関する議論の多くは定性的な解析、もしくは、定常的な風の流れに対する解析でした。一方で、川を遡上する海風に比べ舗装道路など高温地面上の海風では、すぐに温められ効果が低くなってしまいます。そのため、より効率的な対策を立案するためには、都市内の建物を解像出来る高解像度の数値シミュレーションを、地面・壁面温度や木陰の効果を取り込める3次元の放射計算や樹木の蒸散効果を考慮した計算モデルを用いて実行することが求められています。

また、数値シミュレーションには計算誤差などから生じる不確実性を伴うためその検証も必要です。本研究では、JAMSTECとYNUの観測機器を用いて改修後の公園の気象観測を行い、数値シミュレーションによる解析結果と気象観測の結果を比較することで、計算結果が適切であったことの検証を行いました。

3.成果

JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用し、JAMSTECで開発を進めてきた3次元の放射計算や樹木の蒸散効果を取り込めるLES計算モデル(MSSG)により、MM21を中心とした領域(図1の赤線内)に対し、鉛直・水平ともに5mの解像度での約5km四方規模のシミュレーションを行いました。本シミュレーションでは放射、蒸散に影響を与える土地利用状況・建物形状や樹木の形状と配置を地上境界条件としています。これらの条件を「地球シミュレータ」上に再現し、2016年7月30日の12:00~14:00の気象条件の下で計算を行いました(12:00~13:00は計算の助走期間のため参考値)。さらに同日、グランモール公園(美術の広場前)の3か所において、気温・湿度などの観測を行いました。

図2に各観測点位置、図3に各地点における暑さ指数の観測値と計算値を示します。木陰(A点)の値が、日向(B,C点)より低いことが、観測からも計算からも示されており、また両結果が良く一致しています。さらに、シミュレーション結果からは、領域の全体像も分かり、図4に示すように木陰の下、建物の日陰の領域で暑さ指数の値が低く、日向や日の当たる壁の横では、値が高いことが分かります。

この結果を応用し、改修前のグランモール公園(美術の広場前)の気温と比較を行いました。気象条件を2016年7月30日と全く同じにすることで、街区形状変化の影響だけを抽出することが可能です。図5 が改修前後の土地利用状況の変化です(横浜市環境創造局 ホームページ図を利用)。横浜美術館前に緑地が広がり、水面を挟んで樹木が植えられています。この樹木の本数が増え、その下は保水性舗装が設置されています。これらの変化を取り入れた計算を行いました。図6に改修前後の地上高さ2.5mの気温分布を示します。気象条件は全く同じですが、改修後は気温が低い領域が広くなっていることが分かります。暑さ指数と異なり、気温の低下は日陰に限定されていないところが興味深いところです。具体的には、土地利用状態が変わったことで地表面の温度(図7)が変わり、空気の温まり方を変えた効果です。つまり、改修後の公園では、横浜港を起源とする上空の比較的涼しい風が降りてきた後も地表面から強く温められずに公園全体に涼しい風が広がっていくためです。図8に空気の流れ(番号順)を気温とともに示します。比較的冷涼な海風が上空から吹き降りて来ることで公園内にもたらされ、もし、地表面で温められることを少なくすれば、冷涼さを保つことにつながります。MM21内の特徴的な風は、街区の熱環境にとって益をもたらしているようです。また、海風の益は、まさに「海洋都市横浜」らしさの表れです。

さらに、時々刻々と変化する公園内の気温について、13:00~14:00の間に10秒ごとに何度の気温が何回現れたのか(出現頻度分布)をみると(図9)、改修後は全体的に気温が低い値に分布しており、最大頻度の気温の値が約0.6~0.7°C下がっていることが分かります。このように、同じ気象条件下での計算を行うことで、現実には測定できない工事前後の気温の変化を「地球シミュレータ」の中に再現し、定量的に改修の効果を知ることが可能となりました。

4.今後の展望

地球温暖化やヒートアイランド現象による都市の高温化が人々の暮らしにどのような影響を及ぼすかは、我が国の多くの地域で問題となっています。オリンピック・パラリンピック後も持続可能な都市の実現のためには、暑さ対策は喫緊に解決すべき課題の一つとも言えます。本研究では、このような都市の暑熱問題の解決にあたり、地面素材、建物壁面の素材と蓄熱、樹木や水面からの蒸散など、都市に存在する各要素が熱環境に与える影響を計算に取り込むことができ、かつ、仮想街区における熱環境を知ることが出来る数値シミュレーション技術(MSSG)が強力なツールとして活用可能であることを明確に示しました。

横浜市においても「みなとみらい2050プロジェクトアクションプラン」が策定されています。JAMSTEC及びYNUと、横浜市及び関連機関との協働を通じ、本研究成果を活用したMM21地区の未利用地区の開発時における熱環境からのエリアマネジメントへの提言を、横浜市の専門委員会を通じて展開していく予定です。また、今回対象とした地区のみならず、国内の大都市の多くが海に面していることから、まずは、それらの都市における適応策の標準化に向けた取り組みを始めました。

※1 都市の熱環境解析とその実践的な活用に関する研究
地球温暖化とヒートアイランド現象による都市高温化現象が顕著となり、健康被害等の様々な問題を引き起こしている。この問題への対応・適応策を作成し、行政(横浜市)に提案することを目的としたJAMSTEC 地球情報基盤センター(代表者:高橋桂子センター長)とYNU 大学院都市イノベーション研究院(代表者:佐土原聡教授)による共同研究。

※2 MSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)
全球スケール(地球全体)、メソスケール(特定の地域)、都市スケールなど、様々なスケールにおける大気現象と海洋現象を一体的に計算することのできるマルチスケール大気海洋結合数値モデル。一般的な気象・海洋モデルでは、スケールに応じてそれぞれに異なるモデルを使用しなければならないが、MSSGはこれらのスケールを単一の数値モデルで取り扱うことにより、異なるスケールの間の相互作用を再現することが可能なモデルである。3 次元放射過程および樹木の物理的作用を考慮することができ、建物や植物の表面での加熱・冷却を考慮して、時々刻々と変化する空気の移動(風)を3次元的に計算することができる。

※3 地球環境未来都市研究会
地球規模のシミュレーションから地域データベースまでを包含したITプラットフォームを構築し、科学的な知見に基づいて地球環境に対応した未来都市をデザインするため2012年に立ち上げた。産学官民を合わせて、現在、約30機関が参画している。

※4 暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)
人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標である。暑さ指数が28°C以上の場合には日常生活におけるすべての生活活動において熱中症の危険性が高まる。(日本生気象学会、「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3 確定版、2013)

図1

図1:横浜みなとみらい21地区(MM21)を中心とした計算領域(赤線枠内)。一辺の長さが約5.5kmである。MM21地区の大通りに沿った向きに計算領域を傾けている。

図2

図2:グランモール公園(美術の広場前)の3ヶ所(A,B,C点:高さ約1.5m)で、詳細な気象観測を行った。図は観測を行った7月30日の13時20分頃の太陽位置に合わせて、影を描いている。A点は終日木陰であったが、B点とC点は図の時刻(13:20頃)では日向であった。公園の主要通りは、真北から30度ほど傾いている。

図3

図3: グランモール公園内の各観測点(A,B,C点)における暑さ指数の時間変化。気象観測値(黒線)と数値計算値(赤点)を重ねて表示している。木陰のA点では、日向のB,C点より2度ほど低く、これは熱中症危険度が1ランク下がることを意味する。

図4

図4:数値シミュレーションから求めたグランモール公園(美術の広場前)付近の暑さ指数(13:20~13:30の平均値。以下も同様)。図の左側から日光が差しているため、建物の右側に日陰が出来、建物の左側に日光が当たっている。日陰の領域で暑さ指数の値が低くなる(例えば横浜美術館の左は高層ビルの大きな影である)と同時に、木陰や保水性舗装の上(A点を含む木立群の下)でも低い値となっている。注意:建物に移る影は、建物撮影時の時刻によるものであり、表示時刻(13:20~13:30)頃の影ではありません。以下の図も同様。

図5

図5:グランモール公園改修工事に伴う土地利用状況の変更図(横浜市環境創造局ホームページ図を利用)。上部図が改修前、下部図が改修後の土地利用状況である。本報告では、この土地利用状況の変更による気温の変化を解析した結果である。

図6

図6:改修後(左)と改修前(右)の高さ2.5m の気温分布。土地利用の違いにより気温が違ってくる。特に、気温が下がっている領域が横浜美術館前で広くなっていることが分かる。

図7

図7:改修後(左)と改修前(右)の地面温度の分布。公園中央の通路面など45°Cに達するところが見られる一方で、木陰では30°C程度であり、土地利用状況の違いにより地面温度が大きく変わる。その結果、地面が空気を温める様子が大きく変わり、図6の結果を生む。

図8

図8:空気の流れ(番号順)と気温の変化を、MARK ISの上を超えてきた海風がグランモール公園(美術の広場前)に吹き降ろす場合の例で示す(約3分30秒間の空気の動き)。涼しい海風の恩恵が見られる一方で、図7で示されている気温より高い温度の地面によって温められる様子が分かる。

図9

図9:グランモール公園(美術の広場前)において、計算時間中(13:00~14:00の間)の気温の出現頻度分布を示す。改修前(赤線)のピークは、31.5度付近であるが、改修後(青線)は、30.8度付近まで低下し、 0.6~0.7°C程低くなることが確認できた。

※図4,6,7,8の温度の可視化には、JAMSTECにて開発した可視化ソフトウェアVDVGEを使用しました。VDVGE: http://www.jamstec.go.jp/ceist/aeird/avcrg/vdvge.ja.html

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球情報基盤センター
情報展開技術研究開発グループ 技術研究員 杉山 徹
国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球情報基盤センター
地球シミュレーション総合研究開発グループ 研究員 松田 景吾
国立大学法人横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院
都市環境管理計画研究室/佐土原 聡
(地球環境未来都市研究会 事務局)
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 広報部 報道課長 野口 剛
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